空に星が輝く様に
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238部分:第十七話 姿の見えない嫉妬その十一
第十七話 姿の見えない嫉妬その十一
「つまり身体は動かしてるのね」
「運動は知ってる」
「そういうことね」
「そう。だから言える」
椎名の言葉は冷静なままだ。そして表情も変わらない。
「長距離と短距離は同時にはできない」
「まだ言うのね、こいつ」
「口の減らない」
「何だっていうのよ」
「しかも」
さらに言う椎名だった。
「五つは多い」
「今度は競技の数なのね」
星華が返した。
「それね」
「そう、五つは多い」
また言うのだった。
「だから減らすべき」
「だから大丈夫って言ってるでしょ」
「無理」
しかし椎名の駄目出しは変わらない。
「人間には限界があるから」
「じゃあその限界超えてやるわよ」
星華もムキになってそれが止まらなくなっていた。
「絶対にね」
「それは超えられる」
椎名は今の星華の言葉は認めた。
「人間は努力すれば限界は超えられる」
「言ったわね、だからよ」
「けれどそれでもすぐには無理」
椎名のその話の根幹は変わらなかった。
「すぐには」
「すぐにはですって!?」
「このことは言っておくから」
「ふん、見てなさいよ」
星華のその言葉が荒々しい。
「絶対にそれを見せてやるから」
「言ったから」
椎名の言葉は変わらない。
「そういうことだから」
「ふん、それじゃあね」
星華はもう苛立ちを隠せなくなっていた。そしてだ。
椎名と月美に背を向けた。そのうえで目の前に来た三人に話す。
「行きましょう」
「行くって」
「いいの、もう」
「ええ、いいわ」
荒くなった言葉で話す彼女だった。
「もうね。いいから」
「そう。じゃあ」
「丁度お昼だし」
「食堂に行く?」
「行きましょう」
また三人に言った。そしてであった。
その三人を引き連れるようにして慌しく席を立った。椎名はその後姿を冷静に見ていた。そのうえで月美に対しても言うのだった。
「あの娘だけれど」
「佐藤さん?」
「気をつけて」
こう話すのだった。
「危ういから」
「危ういって」
「バランスが崩れてる」
星華を評しての言葉であるのは間違いなかった。
「心のバランスが」
「それがなの」
「そう、崩れてる」
また言った。
「あのままだと大変なことになるから」
「運動会で。失敗するのね」
「それで済めばいい」
椎名の言葉はそこから先も見ているものだった。
「そこから先も。あのままだと」
「どうなるの?」
「大変なことになる」
また話すのだった。
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