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イクナートン

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第四章

「エジプトには多くの神々がおられるのだ」
「その神々を否定するなぞ間違っている」
「あの様なおかしな神を崇めるなぞ」
「どうして出来るのか」
「あの神は何だ」
「ファラオが勝手に言いだされたものではないのか」
 それでどうして崇められるのかというのだ、それでエジプトの殆どの者がアトン=ラーを信仰しないままで。
 誰もがアメンホテプ四世が世を去るのを待つことにした、ファラオは確かに強い力を持ったので誰も手出し出来なくなっていたからだ。
「待つのだ」
「どの様な人間も必ず死ぬ」
「では我等は待つのだ」
「ファラオがオシリスの御前に行かれるのを」
 冥界の神の前、即ち死の世界にというのだ。ファラオが否定している神の一柱のところに。
 それで彼等は時を待った、それはファラオもわかっていて己がもう長くは生きられぬと悟った時にまた妃に言った。
「余はやはりな」
「エジプトをあらためられることは」
「出来ぬか。余が死ねば」
 その時はどうなるかもわかっていた、彼にしても。
「もうな」
「それからはですか」
「皆余の政を否定する」
「そして神々もですか」
「復権するであろう」
 こう言うのだった、彼はそれをエジプトの為に何とか止めたいと思っていた。しかし死の声には勝てず。
 この世を去った、するとまさにエジプトのほぼ全ての者がだった。
 彼の政を否定し元に戻した、そうして口々に言うのだった。
「それぞれの神を信じるのだ」
「政も元に戻すのだ」
「アトン=ラーは信じなくていい」
「あの様なおかしな創られた神はな」
 こう言って彼のしたことは否定した、そうしてだった。
 アメンホテプ四世が為したことは歴史に残るだけで全て否定された、その存在さえ忌まれる程に。
 このファラオがエジプトのことを心から憂い考え政を行ったのは事実だ、だがそれが当時のエジプトの者達に受け入れられるものかどうかは別でありまたそれが果たして正しかったのかは今もはっきりとは言えない。どちらにしろ彼は当時のエジプトの現実を全く無視した政を行った、それでは治まる筈もない。急に創られた神も信仰されるものではない。そう考えると政治は現実を見てそのうえで変えていくものであるということになるだろうか、理想だけを見てそれを追い求めても後に残るものはないか悪いものだけということであろうか。


イクナートン   完


                   2018・5・9 
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