イクナートン
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第三章
「まさかと思うが」
「いや、まさかとしか思えないぞ」
「ファラオは正気を失っておられる」
「間違いない」
「あの方はもう正気ではないぞ」
「どうかされておられる」
こう考える様になった、それでファラオから人心は離れていった。だがそれでもファラオは政を続けた。
それでだ、彼と親しい数少ない理解者である王妃ネフェルティティに言った。
「余の噂は知っている」
「左様ですか」
「狂気に陥っているとな」
その細長い顔でこれ以上はないまでに整った顔である妃に述べた。
「言っているな、これはだ」
「これは、ですか」
「そうだ、この国は多くの神がいるが」
しかしと言うのだ。
「その数だけ神官達がいて強い力を持ちファラオの力はその分弱い」
「だからですか」
「それを強める為にだ」
まさにというのだ。
「余はあえてだ」
「他の神々を否定して」
「そして新たな神を創り出してだ」
アトン=ラー、この神をというのだ。
「そしてだ」
「そのうえで、ですか」
「あの神を崇めさせて遷都もだ」
「あえてさせたのですか」
「そうだ」
こう妃に話した。
「全てはこの国の為だ」
「左様でしたか。ですが」
「余の為すことはか」
「誰もが戸惑っております」
ファラオの考えが一切わからないからだ、到底理解出来ずそれはファラオの奇行にしか思えていないのだ。
それでだ、妃も言うのだった。
「ですから」
「余のしていることはか」
「はい、これではです」
「果たせぬか」
「そうなるかも知れませんが」
「いや、余は行う」
断じてという口調でだ、ファラオは妃に告げた。
「そして何としてもだ」
「この国をですか」
「あらためる、余計な力を削ぎ強いファラオが治めればそれだけ国がまとまりよくなる筈だ」
即ち権限をファラオに集中させるというのだ、この強い決意と共にだ。
ファラオはあくまでアトン=ラーのみを神として絶対の政をしていった。だが相変わらずエジプトのほぼ全ての者達が戸惑うばかりで。
ファラオの考えがわからずだ、陰でこう言うばかりだった。
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