とある3年4組の卑怯者
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160 約束事(デート)
前書き
全国大会で銀賞という結果を修め、世界大会への出場権を手にした藤木は学校中の注目の的となっていた。藤木は銀賞の楯を持ち、笹山の見舞いに行くと笹山は藤木に自分に大会で行った演技を見せて欲しいと頼んだのだった!!
藤木は笹山の病室に銀賞の楯を置いて病院を後にした。笹山は「藤木君のものだから藤木君が持っていなよ」とは言ったが、それでも藤木は「笹山さんに見てもらいたい」と言い、持ち帰らなかった。藤木は花輪にフランス語の先生と会う約束をしていたため、花輪家に向かい、挨拶を交わすのだった。
「藤木クン、明日は英語の先生を紹介するよ」
「ありがとう、花輪クン」
藤木は家に帰った。
家に帰ると、藤木は手紙を書いた。
堀さん
盛岡から帰ってきました。金は東北の人が獲ったから結果は銀だったよ。それでも僕は世界大会に行く事ができるんだ。またスケートしに行けたらいいね。
藤木
藤木は堀宛てに手紙を書き、みどり宛てにも同じ内容の手紙を書いた。
翌日、学校にも藤木の功績が連絡されたようで朝礼の時に校長先生から目の前で表彰された。
「えー、藤木君は盛岡で行われましたアマチュアの小学生スケート全国大会で見事銀賞という非常に素晴らしい結果を修めました。そして今度は日本代表としてカナダのバンクーバーで行われる世界大会に出場します。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
全校生徒から拍手が送られた。地区大会の時も中部大会の時もそうだったが藤木はこんな卑怯者と呼ばれる自分がスケートリンクに立てば一味違う事を見せつける事ができて誇らしく思った。
笹山はみどりと堀が見舞いに来た時を思い出していた。その時、みどりが言っていた言葉を思い出した。
《私、恥ずかしいんですけど、藤木さんが好きなんです!!》
(あの吉川さんって子藤木君はどう思ってるのかな・・・?)
笹山は気になった。不幸の手紙で藤木を嫌っていた時はそれでも彼が気になり堀と仲良くなっていたのに嫉妬はしたが、あの時の堀は藤木を立ち直らせようと尽力していた。一方みどりは藤木が好きだと言っていた。藤木はみどりについてどう思っているのか。明日一緒にスケート場に行く時に聞いてみようと笹山は思った。
丸尾は学級委員隊で定例会議を催すことに決めた。しかし、本郷がサッカー部の練習で都合がつかないため明日となった。
翌日、約束の日が訪れた。藤木は病院で笹山を迎えに行った。病室には笹山と看護師がいた。
「笹山さん、お待たせ」
「うん、楽しみにしてたわ」
笹山は松葉杖で行こうとした。しかし、看護師が心配した。
「大丈夫なの?車椅子の方がいいんじゃない?」
「大丈夫です。松葉杖も慣れましたから・・・。それに歩く練習もしなきゃいけませんし・・・」
しかし、両足を引きずって歩く笹山を見て藤木は心配した。
「笹山さん、無理しなくていいよ。歩く練習はまたいつでもできるよ。今日は車椅子にしなよ。僕が押すから」
「藤木君・・・、うん、ありがとう」
笹山はやや照れた。笹山は車椅子に乗り、藤木がそれを押すことになった。
「それじゃ、行ってきます」
笹山は看護師に告げた。
(笹山さんと二人でスケート場なんて、まるでデートだな・・・)
藤木の心はもはや幸せの絶頂だった。その時、二人は野口とすれ違った。
「あ~ら、藤木に笹山さん・・・」
「野口さん」
「野口・・・」
「二人でデートかい・・・?いいねえ・・・。クックック・・・」
「う・・・」
藤木と笹山は顔を合わせるとお互い顔を赤くした。
「うん、一緒にスケート場に行って笹山さんに大会での演技を見せてあげようと思ってね」
「そうかい・・・。それじゃ、楽しんでおいで・・・」
「うん、あ、野口」
「何だい・・・?」
「野口は大会の応援に来てなかったけどどうしてたんだい?」
「あー・・・。ドリフの収録を観に行ってたんだ・・・。生で観たんだよ・・・。クックック・・・」
野口はそう言って去った。
「流石、お笑い好きの野口さんね」
「うん、ドリフを生で観るなんて凄いね」
二人はスケート場へと向かった。
スケート場に到着した。笹山は滑れないので観客席から見ることになった。
「それじゃあ、大会でやったのと同じ演技見せるよ。
「うん、楽しみだわ」
藤木は笹山の乗っている車椅子を受付に預けた。
「歩けるかい?連れて行くよ」
「藤木君、ありがとう・・・」
藤木は笹山の両手を取り、連れて行った。笹山は何とか藤木の手を借り階段を昇る事ができた。
「怪我の方は大丈夫かい?」
「うん、前よりは傷口も塞がった所があるわ。足も杖があれば歩けるわ」
「うん、早く治って欲しいよ」
藤木は笹山を観客席の一番見える所に座らせた。
「それじゃあ、見ていてくれよ」
「うん」
藤木はリンクへと向かった。
1組の本郷、2組の横須、3組の鹿沼、5組のひろ子は丸尾の家に集合していた。この五名を合わせて「学級委員隊」を組成している。
「皆様、本日はズバリ、お集まりしていただき、誠にありがとうございます!」
「で、会議って内容は何だい?」
横須は聞いた。校内テロの時、隣町の暴れん坊の子分から鋸で頭を切られた傷は塞がれ、しばらく巻いていた包帯も取れていた。
「実は、ワタクシのクラスの藤木君についてなのですが・・・」
「藤木君かい?彼はスケートの大会で銀賞だったってね。凄いよ」
鹿沼が藤木を褒めた。
「はい、今度藤木君が世界大会に出るためにカナダへ向かうのです!」
「それ昨日校長先生が言ってたし皆知ってるよ」
ひろ子はたまえからも聞いているため驚かなかった。いや、皆もよく知っていた。
「それで今日集まったのは藤木君に何かしてあげたいって事かい?」
「さすが、ズバリ、図星でしょう!」
丸尾は本郷に言いたい事を先に言われた。
「ただ『頑張れ』って言うだけじゃ確かに物足りない感じがするね」
「でもどうしようか・・・」
五人の間に一時沈黙の時が流れた。
藤木はリンクに入り、観客席の方へ目に向け、笹山に手を振った。笹山も手を振り返した。
(笹山さん、行くよ!)
(藤木君、どんな演技したのかしら?)
藤木は滑り出す。あの全国大会の時のように。リリィに始めてスケート姿を見せた時の喜びを表現するダブルトウループとトリプルサルコウ。そして不幸の手紙で嫌われ者となった哀しみを示すシングルアクセルとシングルルッツ。その先にみどりと堀に立ち直らされた恩を示すフライングコンビネーションスピン。そして怪我をした笹山や虐めを受けた堀を元気付けさせようと言う気持ちを込めたトリプルフリップ、トリプルルッツ、トリプルループ。そして自分の演技を見てくれた人達の謝意を見せるためのアップライトスピン。そして己の全てであるトリプルアクセルからのスパイラル姿勢での着地。上手く決まった。練習でも本番でもないが、何の失敗もなかった。
(どうだい、笹山さん?これが銀賞を獲った俺の演技だよ!)
(藤木君、凄いわ!私が今までみた時よりもずっと・・・)
笹山は思わず拍手した。
後書き
次回:「告白」
丸尾ら学級委員隊は世界大会に出場する藤木のための会議を続ける。一方笹山はある事を藤木に質問するが、藤木の答えについてどう反応するのか・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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