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ソードアート・オンライン  ~生きる少年~

作者:一騎
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第一章   護れなかった少年
  第三十三話 決着

ソラside

「うぁぁあああああああああああ!!」

 ここに来て何度目かわからない『閃』。目の前の二人を同時に切り裂く。

 あれから何人斬ったか覚えていない。一撃食らう毎に相手は下がっていたので一人も殺してはいないだろうが。多勢に無勢。そんな無謀で戦い続あけた代償はどんどん体に現れている。左目の視野は回復せず、左腕は一瞬の隙を突かれ持っていかれた。回復結晶はもう一つもない。そしてHPは既に赤くなっている。

 そしてついに、立てなくなり、刀を地面に突き立てて膝をつく。
 荒い呼吸は簡単には戻らず、数呼吸もの間、隙が出来てしまう。

 が、誰も攻め混んでこない。それどころか、周囲から完全に人の気配が消えた。

 隠密のスキルか、と一瞬疑ったがそれでもない。
 確かあいつらはPohの依頼だと言っていた。
 こんな状況でPohが頼むような仕事……つまりは時間稼ぎ。

 つまり、時間稼ぎは充分ということ--!?

「クソッ!!」

 地面を叩き、震える足で無理矢理立つ。メニューを開き、フレンド欄を見ると、そこからアンスの名前が消えていた。
 まだケイとメイの名前は残っていたが、いつ消えてもおかしくはない。
 急がなければ。あの二人だけは絶対に救いだす。絶対に。何があっても。例え、たとえ何を犠牲にしようとも。

 そう決意し、ポーションを自分に振りかけながら再度限界に近い体に鞭をうち、走り出す。

-☆-☆-☆-

 辿り着いたのはそれから十分ほど経ってからだった。
 すでに満身創痍。HPは回復しても、走り続けた体力は回復どころか疲労が重なり、まるで重りでも着込んでいるかのように重い。
 こんな状態でまともに戦えるわけもないが、既にそれを考える余裕はなかった。

「早く......早く......行かなきゃ......!!」

 ダンジョンの中へ入っていく。
 幸いにも、その場所はダンジョンに入って通路を少し進んだところにある大部屋だった。入口のところで隠れながら中の様子をうかがう。
 中にいたのは二人だけだった。簡素な十字架のようなものに磔になっている、メイとケイの二人のみ。二人とも意識はあるようだが、口には猿轡がされていて、小刻みにもがいているが、十字架はびくともしない。

「メイ!! ケイ!!」

 二人の名を呼びながら、中に駆け込む。速く二人を助けなければ。その心が焦りを生み、結果、悪手を生んでしまった。

「むぅ、むぅぅぅぅううう!!」
「むぅぅぅううう!!」 

 二人が猿轡を噛まされながら必死に叫ぶ。その意味を理解しようとするときには、すでに遅かった。

「Hello!!」

 真後ろからそんな声が聞こえた。それと同時に背中に異物が通って行く感触。HPがさっきまで満タンだったのにも関わらず一気に危険域まで持って行かれた。その切りつけられた衝撃で、前に倒れこむ。

「Come on......前だったらこんな一撃喰らわなかったろうに。お前、平和ボケでもしたか?」

そんな嘲る声を吐きながら、Pohはメイ達のところへ歩いていく。正確には、十字架の後ろに隠れていたほかのメンバー達のところへ。

「それじゃ、始めるかお前ら。It's show time!!」

 その言葉を合図に、ザザとジョニーブラックがそれぞれの獲物を磔になったケイとメイに突きさした。

「むぅぅぅうううううう!!」
「んんんんんん!!」

 猿轡を噛まされた二人の悲鳴が大部屋に響き渡る。

「てめえらぁぁあああああああああ!!」

 衝撃の残る体に鞭をうち、立ち上がり駆け出す、が、ヤコブが正面に立ちふさがった。

「そこを......退けぇぇえええええええええ!!」

 鯉口を切り、そのままヤコブに《閃》を発動する。瞬きよりも速く、刀が大気を切り裂いていく――が。その一撃は白いスキルエフェクトを纏ったヤコブの両手に挟まれた形で刃が静止した。真剣白刃取りと言われるそれは真っ向からの唐竹割りを受け止める技で、現実で使える技ではないと言われている。が、ヤコブは縦ではなく、横軌道でそれを成した。
 
 ヤコブの技はそこで止まらず、そのまま手首を捻る。

 周囲にパリィィィイン、という乾いた音が響き渡った。僕は刀――いや、今では刀とは到底言えない、それに目を向ける。手に残っていたのは光の粒子。刃の先端部分はヤコブの手に挟まっており、それも今光の粒子に変わった。

「......え?」

 あまりの出来事に思考が停止する。何が何だかわからないまま......ヤコブの膝が腹にめり込んだ。その衝撃に肺の中の空気が一瞬で押し出される。

「グハァッ!? ァ"ッ――」

 息が、吸えない。相当強い衝撃で横隔膜が麻痺を起しているのだろう。一時的なものですぐ直るとは言っても、その、すぐという時間は、戦いの中では絶望的に長い。

 ヤコブが倒れて悶絶している僕を組み伏せる。肩を決められ、動けなくなる。

「もう動かぬことを勧めよう。おとなしく主の洗礼を受けるといい」
「Nice!! よくやったヤコブ。さぁ話をしようじゃないか」

 Pohがそう言いながら僕を見て手を広げる。ここで戦う気は無い、とでも言うかのように。

「long time no see.久しぶりだな、ソラ」
「うるさい!! 話がしたいならメイとケイを離せ!! 話はそれからだ!!」

 そう叫んだ瞬間。決められた肩をさらにひねられる。余計なことを言うな。貴様は黙って話を聞いていろ。そんな意志を感じた。
 だがそんなもんくそ食らえだ!
 捻られる不快感と少しずつ削られていくHPゲージを視界に納めながら、それでもPohもにらみ続ける。

「ヤコブ、やめろ。話す前に死んじまうだろ」

 Pohがそう言うと、ヤコブはゆっくりと捻りを解除していく。
 HPゲージの減少は止まり、Pohは肩をやれやれ、と揺らしながら話す。

「ソラも少し落ち着けって。お前の選択次第ではあいつらも助かるかも知れないぞ?」

 そういいながらPohはチラッとケイとメイを見る。
 二人はHPゲージはどんどん減っていて、もうすぐ色が緑から黄色に変わる辺りになっていた。

「わかった!! 話を聞く、聞くから二人から剣を抜いてくれ!!」

 絶叫しながら、Pohに頼む。それを聞くと、Pohは満足げに一つ頷き、ザザとジョニーブラックに剣を抜くように知らせた。
 二人に刺さっていた剣は抜かれ、HPゲージは減少を止める。バラつきはあるが、それでも二人とも死ぬことはなく、まだHPは残っていた。

「good! 利口だな。さて、じゃあ話をしようじゃないか、ソラ」

 唯一見える口の端が釣り上がる。

「ソラ、あいつらを助けたいか?」

「......当たり前だろう?」

「そうかそうか。それじゃあ条件次第で助けてやろう」

 そう言いながらPohは僕の目前まで来てかがむ。

「......条件は何だ」

 頭を上げ、にらみつけるように問いかける。大体の予測は付いている。僕が笑う棺桶に入ることだろう。

(......いいだろう。あの二人を助けるためなら、悪魔に魂だって売ってやる......!!)

 そう決意を固め、Pohをにらみつける。その目を見て、Pohは更に悪魔のように口角を上げると、条件を呟いた。

「一人を殺せ。もう一人は助けてやる」

 そう、悪魔の条件を。



 
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