声をかけられない理由
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第二章
「ちょっとね」
「回虫苦手ですか?」
「別にそうじゃないけれど」
記者は回虫にはあまり抵抗がない、だがそれでもだった。
麺類を食べているのだ、それで言ったのだ。
「ちょっと話題を変えようか」
「じゃあどんな話題にしますか?」
「好きな食べものとか」
「じゃあお刺身にボルシチとか」
「その組み合わせ好きなんだ」
「大好きですが」
「それは凄いね」
記者はその組み合わせにも戸惑うことになった。
「お刺身とボルシチとか」
「面白いですよ」
「そ、そうだね」
「はい、あと最近映画にはまってるんですよ」
「ど、どんな映画かな」
「悪霊のはらわたとか十四日の金曜日とか」
どれもスプラッターなホラー映画だ。
「あとゾンビ映画大好きです」
「ゾンビ好きなんだ」
「あの腐った感じが。お腹から内臓とかはみ出ていたら」
記者は内心想像してラーメンへの食欲がなくなったことを実感した、だがそれを隠してラーメンを何とか食べつつ述べた。
「最高ですよね」
「そうなんだ」
「そういう映画観ながらホルモンとかレバーとか食べます」
「そうしているんだ」
「美味しいですよ」
瑠衣はにこにことして話した。
「本当に」
「それは何よりだね」
「あと最近お部屋の模様も変えて」
「ど、どんなのかな」
「こんなのです」
瑠衣はスマホを出してきた、その中の画像にある彼女の部屋は得体の知れないラグクラフトの世界を思わせる様なおぞましい模様に彩られていた。そしてだった。
その部屋を見て記者は絶句した、後は完全に瑠衣のペースだった。
インタビューは無事終わった、瑠衣は終わる時も礼儀正しくにこにことして気さくだった。しかし。
記者は職場に戻ってそのうえで先輩に言った。
「よくわかりました」
「どうして瑠衣ちゃんに浮いた話がないかな」
「はい、とても」
「そうだろ、ああした娘だからな」
「皆ドン引きしてですね」
「そうしたことには誘わなくてな」
「スキャンダルになる様なことにはですね」
「それでだよ」
「浮いた話がないんですね」
「ああ、どんな女好きも一瞬で引いて声かけなくてな」
瑠衣と話してだ。
「麻薬とかもな」
「誘わないんですね」
「そうだよ、ああした趣味だとな」
「そうですよね、凄い趣味ですからね」
「友達ならともかくな」
「そうしたことについては」
恋愛だの不倫だの麻薬だの芸能界によくある話はだ。
「縁がないんですね」
「向こうから逃げていくんだよ」
「そのことがわかりました、あれだけの美人なのに」
長身美人だ、その背は日本人女性とは思えない位だ。
「残念ですね」
「だからよく言われてるさ」
「残念な美人だってですか」
「芸能界一のな、世の中ああした娘もいるんだよ」
「美人でもですね」
「残念な娘がな、これでわかったな」
「はい、よく」
記者は先輩に答えた。
「そういうことですね、じゃあインタビューは」
「差し障りのないものにしろよ」
「やばいものは抜きますね」
瑠衣が言ったそうした引く様なことはだ、実際にそうして編集すると紙面に載せられるものは僅かだった。記者はこのことにも驚きつつ何とか仕事を終えた。彼にとっては何かと印象的な仕事であった。
声をかけられない理由 完
2018・6・22
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