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声をかけられない理由

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第一章

               声をかけられない理由     
 芸能界は何かと色々あると言われている、それこそスキャンダルといえば芸能界である。だがトップアイドル熊内川瑠衣その芸能界でもとりわけ注目されている彼女にはそうした噂は希薄だ。
 このことについてだ、某スポーツ新聞の芸能担当の記者は先輩にこんなことを言った。
「瑠衣ちゃんですが」
「あの娘の新曲人気あるよな」
「はい、あの娘もう何年もトップアイドルですが」
「中学生の頃にデビューしてな」
「今もですが」
 それでもというのだ。
「浮いた噂全然ありませんね」
「そのことか」
「うちはゴシップ扱わないですが」
 この新聞の芸能欄は芸能人のいいことばかりを書く、ゴシップは対象外だ。
 しかしだ、記者はそれでも思うのだった。
「あの娘本当にです」
「変な話がないことはか」
「十年以上芸能界にいてですよ」
 そしてというのだ。
「しかもあれだけ注目されているのに」
「全然浮いた噂がないことはか」
「変って言えば変ですね」
「男の噂ないな」
「あれだけ美人でスタイルもよくて」 
「タレント性も抜群でな」
「何でそんな話がないのか」
 スキャンダルと人気は比例する、人気があるとそれだけ注目されて何かあると話題になる。それでスキャンダルも出るのだ。
 しかしだ、瑠衣はそうした話が一切なくてなのだ。記者も今デスクでどうしてかという顔で言うのだった。
「不思議ですね」
「それな、一度な」
「一度?」
「あの娘を取材すればわかるよ」
 先輩はこの記者にこう言った。
「それだけでな」
「そうですか」
「ああ、今度行って来い」
「瑠衣ちゃんの取材にですか」
「新曲がヒットしてるからそれのインタビューでな」
 それでというのだ。
「行って来い」
「じゃあそうさせてもらいます」
 記者も頷いた、そしてだった。
 彼は瑠衣のインタビューに行くことになった、瑠衣は最初から礼儀正しくハキハキとした応対をしてくれたが。
 プライベートの話題になるとだ、記者はいきなり閉口した。
「えっ、ペットは蛇なんだ」
「そうなんです」
 にこにことして言う彼だった。
「白い、アルビノのアオダイショウとカラスヘビです」
「カラスヘビっていうと」
「黒いシマヘビです」
「白と黒なんだ」
「二匹ともとても可愛いんですよ」
 瑠衣は記者ににこにことして話した。
「いつも一緒にいます」
「そ、そうなんだ」
 記者は内心引きながら瑠衣に応えた。
「それは何よりだね」
「お家にいても寂しくありません」
「それは何よりだね、じゃあ後は」
「後はといいますと」
「丁度お昼だし瑠衣ちゃんも忙しいし」
 それでというのだ。
「食べながらね」
「インタビューの続きをですね」
「しようと思うけれど」
「それでお願いします」
 瑠衣もそれでいいと言ってだ、そしてだった。
 今度は食事をしながらのインタビューとなった、二人共忙しいので出前のラーメンを取ってそれを食べながらとなったが。
 ここでだ、瑠衣はラーメンを食べつつ虫の話をした。しかもそれは。
「あの回虫って」
「あれ面白いですよね」
 明るくにこにことして言うのだった。
「本当に」
「面白いかな」
「お腹の中にいて蠢くんですよね」
「あの、そうだけれど」
「そうだけれどとは」
「いや、今ラーメン食べているから」
 麺類をというのだ。 
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