歌集「冬寂月」
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四十六
打ちにける
篠突く雨の
宵闇の
思ふや人に
声も届かじ
雨が降ってきたと思えば、直に土砂降りになり…辺りの音が全く聞こえなくなってしまった。
竹さえその身を地へつけん様な雨…この闇の向こうまでも鳴り響いている様な気がした…。
こんな時は誰にも声は届くまい…そう思ったら…不意にあの人の顔が脳裏を過った…。
そうだな…もう、声は届くまい…。
呼ぶ声も
御簾のさみだれ
分かちける
雲間に見ゆるは
片割れの月
未だ…会いたいと思ってしまう…。
未だ…愛しいと思ってしまう…。
あの人の名を口にして…ため息を洩らした…。
小雨そぼ降る露空を見上げれば、微かな隙間から片割れの月が覗いていた…。
忘れ得ぬ想いは…未だ…胸を突く…。
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