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=体育祭編= F.T.P
前書き
水落石's毛…サラサラの青髪
水落石's目…個性が発動すると微かに蒼く光る
水落石's全身…頑張って鍛えまくった細マッチョ
水落石's口…思ったことがよく漏れてる
水落石's足…無駄毛処理できてない
「警察が来た?」
「ただの警察だったら大騒ぎしないんだがな――思いがけないのが出てきた」
「本庁の特殊部隊でも来たのかい?」
「違う。公安だ」
「――へぇ。なんと言っている?」
「詳しい話はあってからだが、大まかには………」
そこは雄英の校長室。会話するのは教師の一人、スナイプと、部屋の主の根津。彼らが話しているのは、トーナメント開始前に起きた突然の『襲撃事件』だ。襲撃者は砥爪そっくりの容姿と個性を使う謎の少年で、被害者は砥爪本人と騒ぎを聞きつけた水落石。正当防衛のための迎撃によって謎の少年が失神した後に事態が発覚し、雄英は可能な限り目立たない形で警察に通報をしていた。
しかし、現場の情報を送るうちに警察側の対応が徐々に変化していき、現在は「公安」などという物騒な組織も出張ってきている。
「まず今回の加害者の身柄の引き渡し。これは妥当だ。次に現場保存、これも妥当。身柄は既にハウンドドッグが拘束している。現場はセメントスに簡単に塞いでもらっている」
「うんうん」
「被害者2名への任意事情聴取もだ。これは砥爪の方は同意してるが、水落石は大会が終わってからでいいという事だ。いや、いっそ砥爪が本命であるかのようだ。カンだが、単に被害者という以上の情報を求めている気がする」
「つまり、公安はもしかすれば砥爪君に前から目をつけていた――まぁ、加害者の顔を見れば重要視するのはむしろ当然だけどね。そこは邪推でしかない」
「最後がな。――事件に関する一切の情報に対する箝口令。雄英としては有難い話でもある。ヴィラン連合襲撃から間もないタイミングでまた警備の不手際と騒がれては面子も立たないからな。問題は、あちらがその条件を先に提示してきたことだ」
「最終的に警察の判断になるのは確かだが、その言葉が出るには対応が早すぎる。間違いなく、加害者の少年には『やんごとなき』何かがあるね」
ヴィラン連合のそれも稚拙な部分はあったが、単独で乗り込んで単独で撃破されて拘束されるという不自然――或いは無謀極まりない犯行。まして現場はどこを見てもプロヒーローだらけの会場に態々乗り込んできている。
関係者以外立ち入り禁止のエリアには砥爪の親族の振りをして入り込み、内部では堂々と本人の振りをして非ヒーロー職員の前を堂々と闊歩。最初は変身系個性も疑われたが、ふたを開ければ砥爪と同じ個性を使っていたというのだ。動機も不明、身元も不明。現状、手詰まりだった。
「――それで、砥爪くん。警察が来る前に、色々と話をしておこう。大丈夫、君はなにもやましい事はないのだろう?水落石くんともども、罪に問われることはないだろう。まぁ公欠を取る必要性もあるかもしれないけどね!」
「校長先生……」
「だから、何か迷いや悩みがあるなら先生に相談しなさい。相澤くんもオールマイトも、勿論僕も、君たち生徒の抱える問題を全て解決は出来なくとも協力を惜しむことはないさ!」
校長室の下座のソファで俯いていた砥爪は、その言葉にはっとしたような表情を浮かべ、僅かに逡巡し、やがて顔を上げた。
「校長先生。警察が来る前に――話しておきたいことが」
それは、その年の子供が浮かべるそれではない、覚悟の顔だった。
= =
ささやかな希望があれば、人は生きていける。
『個性』黎明期を経て生まれた闇の世界を一度通った私――佐栗灰一という医者は、そう思っている。
佐栗は金も名誉も興味はない。ただ、医者としてヴィランにもヒーローにも怪我人になるな増えるなとは思っている。尤もそれは自分たちの仕事を減らす事だとは承知の上だが、医者なんてものは暇なぐらいがちょうどいい仕事だ。何より、自分の担当する「彼女」と一緒にいられる時間が沢山欲しいから、急患に来てほしくないという自己中心的な欲求を持っていた。
「彼女」とは長い付き合いだが、彼女と共に過ごした時間は長くとも会話した時間は驚くほど少ない。
「彼女」は、眠り姫だ。植物状態とも寝たきりとも違う、きまぐれに目を覚ましてはまた眠り、一度眠るとずっと寝続けてしまう。食事は碌にとれずに点滴で過ごしているのに、彼女の魅力は佐栗にとって永遠と言えるほど衰える事がなかった。
彼女の目を覚ます為に、随分危ない橋も渡ったものだ。今でこそ立派な医者だが、今でも後ろ暗いつながりは細々と残っている。その社会的汚点と呼べるものも、「彼女」の為だったと思えば無駄とも不快とも思わない。
およそ10年ほど前から、彼女が目を覚ます頻度と時間は少しずつ増えつつある。原因は様々考えられる。裏社会時代に撒いた種がどこかで実を結んだのかもしれない。起きて話をする時間はほんの刹那のように過ぎていくが、それでも小さな幸せが積み重なっていくこの時間は、佐栗のささやかな希望となってくれる。
「――おや、今日はもう起きているのか」
彼女の病室からテレビの音声が流れているのを聞いて、微笑む。いつ起きても退屈しないようにと病室のテレビは常に見られるようにしてあるが、なかなか賑やかしいものを見ているようだ。そういえば今日は雄英体育祭か、と思いながら病室に入ると、思った通りのものを彼女は見ていた。
「失礼するよ。テーブルにお菓子を置いておいたんだけれど、食べたかい?」
「食べたよ。あまあま。おいしかったです」
普段ならこちらに顔を向けてほにゃんとした笑みを向ける彼女だが、今日は相当テレビにご執心のようでテレビを食い入るように見つめている。その視線の先には、二人の少年が闘いの場に赴くところだった。既に決勝トーナメントまで始まっているようだった。
実のところ、佐栗も今年の雄英体育祭には興味があったので録画などしているのだが、生中継で見られるならそれもいい。どうせ急患が来ない限りは暫く休憩だ。彼女の座るベッドの横の、特等席となっている椅子に座り、並んでテレビを見る。
「どっちを応援してるんだい?」
「青い方」
「青………ええと、水落石拓矢くんか」
微かに、どこかで聞いたことがある名前の気がしたが、思い出せなかった。件の水落石くんは、至って冷静にフィールドへ向っている。中肉中性、健康的な肉付き。顔が特別ハンサムという訳でもなく、むしろ対戦相手の方が顔立ちは整っている。相手は轟焦凍――あの顔の痕は、火傷か?いや、医者をやっていると変な所にばかり目が向かう。
『――対するはぁ!!驚異的な野生のカンと計算高さでなんのかんの此処まで生き残った水落石ィ!!でもぶっちゃけ勝ち目なくね?』
『個性でガチンコするんだ、そんなもん水落石に限らず生徒共は百も承知だろ。言い出したらキリがねぇし、ここは戦闘力で結果を出すための場所だ。文句ある奴は民事訴訟の勉強でもしてろ』
なかなかに酷い司会だ。彼女はそれも気にしていないようだ。
「彼はどんな個性を使うのか、教えてくれるかい?」
「分かんない。体からなんか出すような力じゃないっぽい」
「特殊なタイプだね……対戦相手の子は?」
「氷をズビューって出して、すごい凍らせる。一瞬火も使った?」
「なるほど」
個性の二重化。そう頻繁ではないが、起こるものだ。
それにしても氷と炎、本当に両方操れるならそれは相当の強さだろう。炎の個性によくあるデメリットは体が熱を持つこと、そして氷の個性のデメリットは体が冷えすぎる事だ。上手く使いこなせば個性で個性を相殺することさえ出来るだろう。
「轟くんは派手でかっこよさそうだけれども、君は水落石くんを応援するんだね」
「うん」
「それはどうしてだい?」
「応援、したいから」
敗者、不利な者を応援したい真理というのは誰にだって働くものだ。どっちにしろ、彼女がテレビの展開に一喜一憂する姿はほほえましかった。さて、僕も出来れば不利なほうに勝って欲しい性質だ。彼女と一緒に知らない少年を応援しよう――。
「がんばって」
ふと、彼女が祈るような声を出した。
「負けないで。貴方ならきっと出来る。私、ずっと応援してる………変えられない未来なんてないもの」
佐栗はその言葉に、違和感を感じた。その口調はまるで、「彼の事をよく知っているかのようで」――。
瞬間、彼女の全身から久しく見なかったそれが。
『青白い光』が、爆発的に放出された。
後書き
トーナメントは若干の対戦変動が起きてます。水落石対轟は一回戦。
瀬呂、ドンマイルート回避……かと思いきや、迷いを捨てたつくもと当たってます。つくもの戦いも次回か次々回書きたい。
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