ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
2章 生き様
17話 討伐
前書き
どうも、白泉です!
さて、前回のあとがきで秘密といわれた次から書くお話とは!それはズバリ、ラフコフ編です!フラグも立ててしまったので、今回は回収を含め。
では、早速どうぞ!
「はぁ…はぁ…っ!」
なぜこんなことになってしまったのだろう。アスナは、相手の剣をはじきあげながら、苦々しげに唇をかんだ。
いったいどこでどう間違えたのだろう。今までのことを頭の中で振り返るが、アスナはすぐにその思考を停止させた。
一番の要因は、自分たち攻略組のラフコフというレッドプレイヤーたちへの楽観視と、覚悟の甘さだ。それ以外の理由など、言い訳に過ぎない。だが、たとえ理由がわかっても、この状況ではどうすることもできない。すぐにすぐ、人を殺すなどという覚悟ができるはずもないのだから…。
アスナのこめかみから、一筋の汗が伝った
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このソードアート・オンラインの中にある、アインクラッド城では、プレイヤーの左上に表示されているHPバーが全損した瞬間、このゲームの中から退場するだけではなく、現実世界からもログアウトする。
なにせ、このSAOのパッケージは、初回限定のたったの一万本しかなかったのだ。それも、世界初のVRMMORPGなのに、だ。それ故に、その数少ないパッケージを獲得し、ここにログインしているほとんどのプレイヤーは、コアなネットゲーマーだろうと予想される。
現実世界にあまり関心がなかったであろう彼らには、例え通常のネットゲームのように悪事を働いたりすることはあっても、実際に人殺しをやろうという壁はなかなか超えられなかったのだろう。
だが。
その壁は、超えられてしまった。一人のカリスマ的プレイヤーによって。
黒いポンチョをフードまでかぶり、ラッパーじみた軽快なリズムで英語を交え、美声で紡ぎだすその言葉、そして
より、彼のカリスマ性が多くのプレイヤーを引き付けたのだ。
殺人を良しとする彼のたった一人の影響で、SAOで殺人が行われるようになった。その恐怖は計り知れないだろう。ただのモンスターでさえ十分な脅威なうえに、自分たちと同じように考えることができるプレイヤーが自分たちを殺しに来るのだから。
彼は、やがて一つのギルドを作った。一般的に殺人を犯すものの名称としてレッドプレイヤーと呼ばれていたプレイヤーを集め、まとめたギルドを。メンバーの左腕には、皆同じタトゥーが彫り込まれたという。そのギルド名こそ、アインクラッドを恐怖で震わせたのだった。
その名も、“ラフィン・コフィン(笑う棺桶)”。
その被害者は、とても無視できる数ではなくなり、いよいよ、攻略組たちは動いたのだった。…彼らの討伐に。
彼らは主に中層クラスのプレイヤーを狙うため、そこまでレベルは高くない。攻略組とのレベル差はかなりものものだと予想され、そのレベル差から“絶対大丈夫”と踏み切り、作戦を決行した。
その時、攻略組が決めたことは、「できる限り捕獲するが、やむを得ない場合は殺すのもあり」だと。
だが、彼らは甘く見ていたのだ。本物のレッドプレイヤーを。
その日、彼らの寝こみを襲うという目的から、早朝に作戦は決行された。だが、不安要素が一つあった。最も頼りになるであろうオールラウンダーの2人が見当たらなかったのだ。キリトがフレンドリストを開くと、そこにはグレーの色が表示される。死亡か圏外のどちらかだが、あの2人なので、恐らく現在圏外に出ているのだろう。なのになぜ来ないのか…いろいろな意見が飛び交う中、アスナは2人なしで踏み切った。
中に入ったが、物音ひとつしない。一生懸命見回しても誰もいない。
一瞬、すでに目標とする彼らがいないのではないかと思ったが、それは間違いだった。
攻略組の背後から襲ってきたのだ。
どうやら作戦の内容が漏れたらしい。連中は完全な対策をしていた。麻痺、毒、罠など、ありとあらゆるデバフを使われ、最初、攻略組は押された。だが、決定的なレベル差ゆえに、徐々に巻き返し、形勢は逆転する。
だが、ここで決定的な問題が生じた。
ラフコフのメンバーたちは、そのHPを赤く染めても、降伏しなかったのだ。これには攻略組たちも度肝を抜いただろう。あと一撃、その体に見舞えば、HPは吹き飛び、そのプレイヤーは現実世界でも死ぬ。…つまり、人を殺す。
覚悟はあると来た攻略組たちは、自分たちの覚悟の甘さを身をもって知ることとなった。
人を殺すなど、誰ができよう。
すでに防戦一方になりつつあり、次第に攻略組のほうが押されてくると、アスナのなかで焦りがこみ上げてくる。このままの状態で行けばこちらが負ける。
それだけは何とか避けたかった。半年もかかって見つけらアジトだ。ここでまた逃げられたら今度いつまた発見できるか知れたものではない。だが、それと同時に、相手のHPを全損させることもしたくなかった。前も後ろも無理な袋小路状態になり、アスナは唇をかむ。
ここに希望があるとするならば、それはあの2人だろう。なぜか今はこの場にいないが、逃げたわけではないとアスナは確信していた。少し何かに手間取っているだろうと。
彼らなら、きっと何とかしてくれる。その思いを胸に、アスナは相手の剣を弾きあげた。
そして、その時は唐突にやってきた。
わずかな集中力の乱れを敵に突かれ、アスナの手からランベントライトが離れていく。アスナにとって唯一の武器であり、頼りになる存在。それがなくなった今、アスナはただ無力の存在だった。敵が粘つく気味の悪い笑顔をその顔に張り付け、剣を思い切り振りかぶる。
アスナのHPはまだギリギリグリーンなので、クリーンヒットを貰っても恐らく全損することはないが、衝撃は苦し、何より、剣を振りかぶられたこの状況は恐怖以外の何物でもなかった。
アスナは硬直し、目をギュッとつぶる。だが、予想していた衝撃はなく、その代わりに響いたのはポリゴンが散る音だった。
その音は、洞窟全体に響き渡り、一瞬にして洞窟内を満たしていた騒々しい音は一切消える。いや、止めざるを得なかったのだ。
入り口からゆっくりとした足取りで入ってくる2人のプレイヤー。その周りは、明らかに違う空気が取り巻いている。この世界で最強と言われる2人。
「遅くなってごめんね。ちょっとダンジョンで抜けられなくなっちゃって」
まるでカフェで待っている友達のもとへ、待ち合わせ時間を過ぎてやってくるような、自然体。そこに異常性のあるなにかは一切感じ取れないが、今この場所ではそれが異常だった。
「それで?あんまりよくない状況そうだけど」
現状を報告しようとアスナは口を開くが、恐怖か驚きか、はたまた安堵のせいかはわからないが、のどが張り付いて声が出なかった。
だが、アスナの返事を待たずに、彼女は状況を把握したようだった。
「なるほどね…。ツカサ君、ちょっとここお願い。奥に行ってくる」
「ああ。俺もすぐに行くよ」
リアは軽い足取りで奥へと歩いていく。それは、今さっき人を殺したとは思えない冷静さだった。
「…大丈夫か、アスナ」
“あの事”があってから、ツカサはアスナへの接し方がよくわからなくなってしまった。こちらがこんな態度だから、アスナも気まずくなってしまうのだろう。ツカサは努めて平静を装う。
「うん…」
自分を抱きしめるようにアスナは体に手を回す。ツカサはただそれを見守ることしかできなかった。今の自分に、彼女に何ができるというのだろう。
この後、ツカサは激しく後悔した。もっと自分が周りを見ていれば、こんな惨事にはならなかっただろうから。
「…立てるか?もしあれなら外に出てもいいと思うけど…」
「ううん…私はこの作戦の責任者よ。ここで引くわけにはいかない」
「…そうか…」
あくまで気丈にふるまう彼女にかける言葉を探したが、結局出てこなかった。少しうつむきがちなツカサの耳に届いたのは、走る重い足音だった。それは確実にこちらに向かってくる。
「ッ!?」
「オラァ!このクソアマ、死にやがれぇ‼‼」
悪人面の大柄な男が、その顔にゆがんだ笑みを浮かべながら、大きな両手剣を構える。あの剣の光り方は、恐らく両手剣突進技のアバランシュ。
この時、ツカサの頭はフル回転していた。
配置的には、左側にアスナ、その2メートルほど右側の真横にツカサ、そしてアスナの背後から敵。
ツカサの武器は大身槍。その全長は2メートルを超える。このまま右側から槍を振るえばアスナに当たる。その長さゆえに下からも持ってこれない。左からという選択肢もあるが、一回転してから振るうため、その勢いでアスナに当たってしまう可能性がある。
ツカサのユニークスキル、無限槍は、その槍の長さを伸ばすことができるが、短くすることはできない。
結局、ツカサが出た行動は…
「っ…!」
アスナの前に出て、その剣を己の身に貫かせることだった。
後書き
はい、いかがでしたでしょうか。今回はかなり短めに切ってしまいました。全部詰め込もうと思ったら文字数があれだったのでww
さて、最後の終わり方、僕自身も「ツカサ―――――‼‼‼」みたいになっております。僕もツカサさんのようになりたい…!と心の底から思いますが、なれないことは目に見えているのが悲しいところですw
では、次回はリアが暴走しますとだけ言っておきます。それでもいいよという方はお楽しみに!
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