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奇妙な暗殺教室

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食卓の時間

 
前書き
お久しぶりです。神崎カナメです。社会人となって早2ヶ月…世の中の汚い物が克明に見えてしまい嫌悪感を抱いて毎日を過ごしています。
かなり難産で執筆にかなり時間がかかってしまいましたが読んでもらえたなら幸いです。 

 
「つ、疲れた…」


サービスタイムの喧噪を乗り越え、心なしか中村はボロボロになりながらも2人は丈一郎が住んでいるアパートの一室に向かっていた。


「やれやれ…アレはまだマシな部類だぞ?休日のタイムセールはもっとエグい。人酔いしやすい奴はほぼ確実に酔うぞ」


そう平然という丈一郎だが、既に片手にティッシュペーパーとトイレットペーパーを右手で、ぎっしりと袋に詰まった肉と野菜類は残った左手で抱えていた。


「まぁそれは良いんだけどさ…少し持とうか?」


一方中村は割れたら困る卵や柔らかい豆腐などといった軽い物が入っている袋を右手に持っていた。


「大丈夫だ問題ない。この程度ならたかが知れてる。本気の奴に比べたらお子様ランチだ」


それに今日は中村がいたというのもあったんだけどな。基本タイムセールは頭数を揃えると尚お得になるからな。


「この程度って…じゃあ本気の奴は料理に例えたらどうなるの?」


「……そうだな。満漢全席?」


「わかった。とりあえず今の私じゃあ余裕で死ねる。」


「だろうな。」


平日とは言え、お昼時のスーパーは歴戦の専業主婦がしのぎを削る戦場だった。俺は何度か経験があるが、今までタイムセールに目がなかったが、中村にとって出来うることなら参戦したくないだろうよ。


「でも、あのおばちゃん達の勢いは壮絶だったね…まさに飢えた獣って感じ」


「確かにタイムセールに命懸けとも言える様な執念を燃やすからそう思うのも無理はないな」


先程まで行われていた主婦同士の死闘に思わず苦笑いを浮かべる。


「ドロボーッ!!!」


突如聞こえた物騒は悲鳴に2人はハッ!と後ろを振り返るといかにも不審者らしい格好をしている男が綺麗なブランド物の鞄を片手に周囲の人を押しのけて走ってくる。



「ひったくりか…中村悪いが少し荷物を頼む」


「え!?ちょっとジョジョ!?」



 丈一郎はやれやれと言わんばかり中村にさっき買った野菜類を預け、ティッシュペーパーとトイレットペーパーはその場に置いた。


「どけどけーっ!」


 後ろから聞こえる怒号に、中村から目を離し振り返ると、ドロボーがすぐそこまで迫っていた。頭に血が上っているのか顔は赤く、息は荒い。


「邪魔だっ!」


ひったくりは丈一郎に殴りかかった。しかし殴りかかった瞬間、ひったくりの体は前につんのめりそれとほぼ同時に視界が白く光った


「~~~~ん゛ん!!」


気がついたら地面で顔を抑えて翻筋斗打っていた。翻筋斗打っているひったくりの顔と手の間から血が流れていることから鼻が折れたのだろう


「加減はした。これに懲りたらひったくりなんてくだらねーことすんなよ」


ひったくりから鞄を取り辺りを見渡すと騒ぎを聞きつけた野次馬がゴロゴロと集まってきた。


「やれやれ…行くぞ。中村」


「え?…あ…うん…」


取り返した鞄を近くにあった八百屋の店主に預け、目の前で起こった出来事に唖然とし、その場でぺたんと座り込む中村の手を、丈一郎は握って立ち上がらせ後ろから聞こえてくる被害者らしき女性の静止するよう求める声に目もくれず人混みのと歩き始める。中村は慌ててその背中を追った。





◆◇◆◇◆◇◆◇



「もー!何なのあいつ!!」


同時刻、渚は茅野、カルマ、杉野の3人で丈一郎が普段昼食をとる外で昼食をとっていた。茅野は教室にいる思考固定砲台に文句を言っていた。


「確かな。あんなのやられたら中村とジョジョも帰るわな」



杉野はそれに同意しながら唐揚げを頬張る。寺坂が皆は口には出して無いけど内心苛立ちが募っていた。それもその筈、自律思考固定砲台は撃つだけでその後の掃除は渚達がやらないといけない。しかも、あの固定砲台が万が一、殺せんせーを殺しても賞金は貴方の親の懐に加わるのでこちらにとってのメリットが皆無なのだ。


「皆大変だねー。俺達は後ろだからまだ被害は軽い方だからまだ安全だな」


「良いよなカルマは一番後ろ何だから」


杉野はジト目をしながらカルマに悪態をついていた。


「まぁ午後からはあの固定砲台は全く動けないけどね」


「え?どういう事?」


「いやーね…さっきジョジョからメールが来てさ…まぁこんな感じの内容なんだけどね」


そう言いカルマは3人に携帯の画面を見せた。


from 丈一郎


『あの固定砲台にやりたい放題されるもの癪だから午後の授業が始まる前に俺の机に入ってる物を寺坂に渡して壊さない程度に無効化しろ。あと、俺が指示したことは寺坂には伏せろ』



「へージョジョの奴寺坂にはあんな事言ってたけど結局同じ事思ってたのか」


「まぁジョジョもこの手のトラブルが1番嫌いだから無理もないけどね」


カルマはよこっこらせとその場に立つ。


「行くのか?」


「勿論。まぁ何もしないよりはマシでしょ。俺もあの固定砲台に殺せんせーを殺られるのは癪だし。」


「うーん…まぁ賞金もそうだけど授業受けられないのもキツイしね」


「だね」


やれやれといった様子で渚達も立ち上がり教室へと向かった。






◆◇◆◇◆◇◆◇



同時刻、とあるアパート一室の厨房には、芳ばしい匂いが充満していた。中華鍋の上にはいい焼き色がついた野菜とお肉が丈一郎特性のタレによって完成へと近づいていた。



「もーすぐ出来るぞ」


と、某炎の鉄人にも引けを取らないかの様に中華鍋を振るエプロン姿の丈一郎が声をかける。エプロンをしてキッチンに立つ丈一郎の背を中村はボーと眺めて出されたお茶を飲む。


「うん…まぁこんな気はしてたけどね」


リビングは男性の一人暮らしの部屋の割に綺麗で最低限の家具に、いつも丈一郎が使元々備え付けられていた本棚にはギッシリと最近話題の小説から植物図鑑に至るまで本が並べられており、なんとなく丈一郎らしいと思える部屋だった。普段なら一目散に健全な男子なら持っているであろうエロ本という名の宝探しをするのだろうが


『さて、分かっているとは思うが変なことすんなよ?』


と、部屋に入った時にマジな目で念を押されたぐらいだ。ここでそれをやるのは後が怖い。


「しっかし本だらけだけど、こんなの読んでたら頭痛くなりそう…ってなにこれ?」


手元にあったお茶を飲み干し、特にやる事も無いので改めて部屋の本棚を見渡すと本棚の隅の一角にだけ背表紙にタイトルがないものが数冊並べられていた。何の本なのか興味を抱き、タイトルのない本を取る。中を開くと凛とした1人の女性の写真がずらりと貼られていた。

 
「アルバム…?」

 
だとすれば、この写真の女性は一体誰なのだろう。1枚ページを捲るとその女性の隣に男性が写っていた。


「うわー…美男美女だ。」



写真の中の女性と男性はどれも笑顔で心の底から幸せそうにしている。海岸の砂浜、古びたお寺、絶景広がる山頂など場所は様々な場所だったが、笑顔が絶えている写真など1枚も無かった。更に1枚ページを捲るとそこには女性の姿がない代わりに男性と道着を着た何処かで見覚えのある金髪の小さな子供の稽古姿が写されていた。
 

「金髪だけど……これってジョジョ?」


だとすればさっきの女性と男性はジョジョの両親なのだろうか?確かに女性の方の面影が写真の男の子にはあることから血縁関係にあるのは間違いないと思われる。


「ふふ…今のジョジョからは想像出来ないけど、こんなに可愛い時期があったんだ。」



幼い日の丈一郎であろう子供の写真を見て微笑みながらページを捲っていくたびに少しづつ大人びていきジョジョの成長を感じ、自然と頬が緩む。最も全部道着を着て同年代の男の子を笑いながら投げたり殴ったりしている所ばかりなのはご愛嬌という事にしておこう。


「随分と楽しそうだな」


「まぁね。子供の頃のジョジョって可愛いんだろうなぁ…って思ってたけど写真見てみたら予想以上に可愛いんだからっていつからそこに!?」


「今の俺には想像出来ないと言ってた所からだな。しっかしこれまた随分と懐かしい物を…」


そう言い中村からアルバムをひょいっと受け取るとペラペラとページを捲っていく。


「懐かしいな…この時は修行をやり始めた時の奴だから俺の髪も染めてないし師匠も若いな。」


「あー…うん、そんな気はしてた。」


「察しが良くて助かる。因みにそれは師匠の奥さんが撮ったものだな。」


「じゃあまさかあの女の人がジョジョの師匠の奥さん?」


「いや、その人は師匠の妹さん。師匠の奥さんは写真映りが悪いからって滅多に写真は撮らなかったからジジイの家のアルバムにしか無いよ」


「じゃあその妹さんがジョジョのお母さんだよね?なんとなく似てるし」


そう言っていつもの様に笑みを浮かべながら笑う中村だが、丈一郎は冷静に告げた。


「あぁ……確かにその人は俺の母親らしいな。俺が生まれて直ぐに病気で死んだらしいから実際に見た事は無いけど綺麗な人だよな」


「…え?」


それを聞いた中村は絶句する。触れてはいけないであろう地雷に簡単に触れた事…何よりそれを本人に言わせてしまった事に決壊したダムの様に冷や汗と後悔が溢れ出ててくる。


「ジジイが言うには俺の母親は血統的には師匠の妹さんらしいく相当お転婆で手に負えなかったらしい……まぁ、そんな事言われたって俺にどうしろっていうんだろうな」


そう言いアルバムを元の場所に戻し、近くに置いてあった椅子に腰掛け、ふぅ…とため息を吐くと中村はバツの悪そうな表情をしていた。


「はぁ……中村ちょっとこい」


 手招きすると、びくびくとしながら立ち上がり、近づいてくる。ぬ、と両手を伸ばし、中村のほっぺを摘まむ。


「ふにゃあ!?」


「ふにゃあじゃねーよ!アホ!勝手に人のアルバム見ておいてデリカシーの無さにあからさまに自己嫌悪してんじゃねーよ!めんどくせぇ」


限界まで引っ張り、ぱちん、と離した。ほっぺを赤くし、あぅぅ、と痛そうにする中村の頭に手を置いて、言う。


「デリカシーが無い奴を普段の俺は許さないんだが今回は特別に許してやる。だからそう凹むな…悪いと思ったんなら次気をつけてくれよ」


「は、はい……。その……ごめん」


「良し…ならこの話はこれで終わりだ。さて、飯にしよう。俺も腹が減った」


ささっと作った品をテーブルの上に並べ、中村の前には、麻婆豆腐、回鍋肉、目の前には茶碗に盛られた白米と箸が一膳に春雨スープが並べられていた。


「うわー…ジョジョ本気だね。」


中村がジョジョの家に上がったのがほんの数十分前、その短期間でそれなりの量がある3品作を作りきった辺りジョジョが普段から料理を作り研鑽しているのが理解できた。


「まぁ趣味だからな。この程度なら練習すれば誰でも作れる。」


「いや、この短期間で作れる同年代の男の子ってそういないと思うよ?」


そんなもんかね…と呟きつつ急須でお茶をいれ中村の前に差し出す。


「まぁ腹が減ってはなんとやら…と昔の人は言ってたしさっさと食うぞ。味は保証する。」


「じゃ、じゃあ…いただきます。」


 中村は席に座り香辛料と生姜の香ばしい匂いが強烈に感じる真っ赤な麻婆豆腐を取り皿に盛る。


(うわ…食べる前から絶対に美味いじゃん…でもあからさまに辛そう…もう四川料理専門の中華専門店で出されるそれじゃん!)


ゴクリと唾を飲み…激辛であろう麻婆豆腐を恐る恐る口にした瞬間、中村の表情が驚愕のそれに変わった。


「これは……辛い……けど美味しい……!」


一口、また一口と箸が進む。確かに辛いが見た目ほどの辛さはなく、寧ろ辛さの後にくる旨みが身体中を打ち付けるような旨みを引き出していた。


「あぁ……程よい辛味で飯が進むな」


フッ…と笑みを浮かべ丈一郎の表情は当然だとばかりのドヤ顔だ。


「なにこの麻婆豆腐…下手な飲食店のよりも段違いに上手いんだけど」


最初に盛られていた分は皿の上からあっという間に消え去った。否、消え去ってしまった。そして食べ終わってしまった後の寂寥感に言うべき言葉がかき消される。頭の中はひたすら次を求めてしまっていた。


「中村……白米のおかわりはいるか?」


「おかわり!」


「……はいよ。」


先程と同じ量の白米を盛り、中村に渡すと先程と同じペースで麻婆豆腐、白米の順番に頬張る。


「美味い……マジで美味すぎなんですけど……でも、美味すぎてなんか悔しい…」


バクバクと麻婆豆腐を美味しそうに食べ進める。このペースだと5分もしないうちに全て平らげそうな勢いだ。


「やれやれだぜ…」


まぁ作った本人としては嬉しい限りってもんだから良いか


「ん?何か言った?」


「別に何も…それより今日の朝つけたキュウリの浅漬けがあるんだがそれも食べるか?」


「え!なにそれちょー食べたい!」


「はいはい…今取ってくる」


こうして普段は物静か食卓から騒がしくも少々心地よい時間が過ぎていった。






 
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