魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica15-D局員狩り~Fierce Demon~
†††Side????†††
「大手柄。教会騎士団、またも最後の大隊メンバーを逮捕・・・か」
今日も私のかつての上司や先輩方の所属する騎士団が、次元世界で暗躍している犯罪組織の一員を逮捕したという、活躍を報せるニュースがモニターから流れました。だから私は「さすがシャル隊長たちです!」と感動して、握り拳を作ります。私ミヤビ・キジョウは、シャル隊長たちに負けないように、管理局側で頑張るのだと。
――ミヤビ。わたし達は必ず、教会騎士団独立の件をどうにかして本局へ戻ってくる。だから、その・・・活動停止中の特騎隊を再開する事になったら、わたし達の隊に戻ってきてくれる・・・かな?――
――もちろんですとも! 待っています、シャル隊長。私、ミヤビ・キジョウ陸曹。いつまででもお待ちしています。再びシャル隊長の下、そして皆さんと一緒に働ける事、私・・・ずっと待ています!――
――ありがとう、ミヤビ! 必ず戻ってくる。待っていて――
特務零課――特殊機動戦闘騎隊は今、教会騎士団独立という大問題の影響で無期限の活動休止中なのです。何せシャル隊長を始めとした局に勤めていたベルカ騎士の大半が、教会騎士団からの命令で管理局員を強制的に無期限の休職扱いとされてしまったのだから。でも退職ではなくて休職なのが幸いですね。
(だからこそシャル隊長の、待っていて、を信じることが出来る)
モニターを消して、管理局の制服への着替えを終えて鏡台に映る私を見る。薄い桃色の長髪を三つ編みにして、「よし」と身嗜みの乱れのチェックも終える。私室からリビング、エントランスへと向かい、誰も居ない家の中へ「いってきます!」と挨拶した。天涯孤独の身である私を引き取ってくれた両親は、騎士団独立からほとんど家に帰れていない。共に本局の幹部的な地位にいるので、火の車状態の局の立て直しに時間を割かれているのです。
「・・・今はシャル隊長たちを信じましょう!」
渋滞を回避するための手段として選んで購入したバイク(ルシル副隊長のリバーストライクより一回り小さいですが、馬力はありますよ)に乗り、私の新しい配属先であるミッドチルダ鉄道警備隊の中央第3隊舎へ向かう。仕事内容は隊名のとおり、中央区画のレールウェイやリニアレール、そのホームで起こる犯罪を取り締まったり、重要な貨物を運搬する車両の護衛をしたり、各路線の整備班に同伴したり、いろいろあります。
(特騎隊の時ほど戦闘ばかりではないですが、お客様からありがとうとお礼を頂くと、とっても嬉しいのです)
特騎隊時代に比べて派手な戦闘の頻度はものすごく落ちましたが、充実した任務に就けています。今日はどのような仕事が待っているでしょう、と考えていたところに「通信?」を報せるコール音が鳴りました。モニターを展開せずに「はい。キジョウです」とサウンドオンリーで通信を繋げます。
『おはようございます。鉄警隊本部です。キジョウ陸曹、エマージェンシーです。東部メラン地区~中央区画・ファーストエリア間のリニアレールがトレインジャックされました』
地上本部内に在る鉄道警備隊本部から直接の連絡でした。貸切の貨物車両が数人のテロ犯にジャックされ、搭載されている貨物は数トンもある爆薬とのこと。要求が受け入れられない場合、人の多い場所で自爆テロを起こすと地上本部に宣言したようです。
(要求は数週間前に逮捕された、マフィア――アガルタファミリーのボスと幹部数名の釈放。地上本部はテロに屈することなく、これを解決するようにと鉄警隊に打診しました)
現場に近い場所に住んでいる隊員全員に通達しているそうで、私にも現場へ至急向かうように指令が下りました。オペレーターの方に「了解しました。キジョウ陸曹、現場に向かいます!」と応じ、隊舎ではなく問題の車両が走っている路線へハンドルを切る。
「あの車両ですね・・・!」
風切り音と共にトンネルから高速で飛び出してきた13両編成のリニアレール。路線、時間、編成数などから、ジャック(というよりは、元よりテロ用に用意されていたものだそうです)された車両であることをしっかり確認です。
「本部、こちらキジョウ。ターゲットを視認しました。指示を願います」
『了解。現在、各関係者の協力のおかげで、目標の車両が目的地であるファーストエリアに到達できないようレールの切り替えが操作され、人口密度の少ない郊外へと路線変更されていますが・・・』
「それ、気付かれていないのですが?」
『いえ、気付かれています。すぐに路線を元に戻さないと自爆する、と伝えてきましたが・・・。未だ行われる事なく走行中です』
「なかなか危ない選択をしますね・・・」
本当に自爆されたりでもすれば、その被害は恐ろしく甚大になるでしょうし。オペレーターさんは『上司の指示でしたので・・・』と不満そうな声で答えてくれました。ですよね、と私は小さく嘆息です。私は上司の方に恵まれていましたね。
『コホン。えー、万が一の自爆に備え沿線周囲の住民の避難を始めていますが、なにぶん出勤・通学ラッシュ時間が重なってしまい、ステーションや沿線周囲にはなおも人が多く居ります。郊外へはまだ時間が掛かりますし、この状況で自爆されてしまうとその被害は・・・』
「計り知れませんね。要求受諾の引き伸ばしが行われる中で、自爆テロを起こされないように速やかに実行犯の確保と車両の停止、ですか・・・」
実行犯は少なくとも4人という話です。状況が状況ですし私ひとりでは荷が重過ぎますので、「他の隊員は?」と尋ねます。せめてあと1人、腕のある魔導師がいてくれれば1対2に持ち込めてるのですが。爆薬関係がなければ4人程度の魔導師であれば私ひとりで撃滅できますが・・・。
『はい。第2隊より・マイヤ・フェロー准陸尉、第3隊よりアントワネット・コレフシ三等陸尉の2名が、もうじき現着します。3名が揃い次第、車両へ突入。制圧に動いてください』
私の上司にあたるコレフシ三尉は知っていますが、フェロー准尉はよく知りませんね。三尉はAA+ランクの陸戦魔導師で、私が配属された際はとても喜んでいらっしゃいました。三尉の戦い方は知っていますから、打ち合わせをせずとも合わせられる自信があります。
「了解です。ではターゲットに接近するため、レール内への進入の許可を願います」
『少し待ってください。・・・キジョウ陸曹との位置リンクを完了。ウォルターステーションの避難がじき終わります。そこからバイクのままレール内へ進入してください』
「了解です!」
通信を一旦切り、沿線をひたすら走ります。そして目的のウォルターステーションに到着し、陸士隊やステーションの職員さんの誘導で避難を終えているお客さんの姿を視認。バイクを職員さんの前で停車させ、「お疲れ様です! 鉄警隊のキジョウです!」と敬礼します。
「あ、お疲れ様です! 本部よりお話を伺っております。構内は無人となっていますので、いつでも進入可能です」
「判りました。では、行って参ります!」
普段は決して出来ないステーション構内をバイクで進入します。改札を抜けてホームからレールへ降り、フルスロットルで車両を追いかけます。その最中、『キジョウ陸曹!』と念話が入りました。相手は『コレフシ三尉!」でした。
『三尉! 今どちらでしょうか!』
『あなたの右隣よ!』
その返答に従い右へと視線を向けると、レールと沿線を隔てる半透明のフェンスの向こう側に1台のジープが併走しており、後部座席に三尉が立っており、運転席には陸士隊服を着用している見知らぬ女性が1人。
『そちらのタンデムシートに移りたいの。ちょっとフェンス側に寄ってくれる?』
『え、あ、はい』
三尉の手招きに従ってフェンス側へバイクを寄せると、「じゃあマイヤ。後続の隊と一緒に合流ね」と、運転席の女性――フェロー准尉にそう伝えました。フェロー准尉は頷いた後、私を見て「このじゃじゃ馬、宜しく」と言ってウィンクしました。
「じゃじゃ馬て・・・」
「りょ、了解です!」
三尉が大きく跳び上がってフェンスを越え、私のバイクのシートに上手く着席しました。フェロー准尉の敬礼に私も敬礼を返し、三尉の「じゃあ乗り込むわよ!」という指示に、「了解です!」と応じて、さらに速度を上げて車両の最後尾に再接近する。その最中に・・・
「フェーニクスフェーダー、セットアップ!」
髪飾りとして側頭部に付けている赤い羽根型のアームドデバイスを起動して、薄い紫色の小袖と紫色の袴という防護服へと変身します。三尉も「パイレイトアームズ、セットアップ!」と、錨の形をしたペンダント型デバイスを起動しました。
三角帽子、腹部丸出しのチューブトップ、アスコットスカーフ、ミニスカート、ジュストコール、サイハイブーツといった、物語に登場する女海賊のような防護服へと変身しました。三尉のご先祖様は、高町教導官や八神司令と同じ第97管理外世界の出身らしく、正真正銘の海賊だったそうです。
「(オートパイロットにしまして・・・っと)コレフシ三尉、いつでも飛び移れます」
「判った。それじゃ私から先に行かせてもらうわ!」
器用にシートの上に立ち上がった三尉が「あらよっと」と身軽な動きで車両の屋根の上に飛び移りました。私が離れたら自動で減速し、運行の邪魔にならない場所で停車するよう設定したバイクの上に私も立ち、「えいっ!」と屋根の上に飛び移る。
「行きましょ!」
三尉に続いて前の車両へと私も屋根の上に飛び移り、レールの端っこに移動して減速していくバイクを見届けました。そして私と三尉は、先頭車両を目指して屋根の上を駆け抜けます。13両編成という結構な数の車両の上、その速度もかなりあるので屋根を進むのは少々難しいですね。
「大丈夫? 車内を進む?」
「いえ、問題ありませ――あっ、三尉!」
車両と車両の合間から2人の男性が顔を出し、「くそっ、局員か!?」と怒声を上げ、ライフル型のデバイスの銃口を私たちに向けました。引き金が引かれると同時に発射される魔力弾。三尉は左太もものホルダーより40cmほどの柄を抜き放ち・・・
「スナッチウィッパー!」
柄の先端より水色の魔力で構築された鞭を展開し、迫り来る魔力弾を迎撃。魔力弾は弾かれるのではなく、魔力の鞭に吸収されました。男性たちは「自爆されたくなきゃ、とっとと失せな!」と、さらに魔力弾を連射してきましたが、三尉の鞭によって私たちには1発たりとも届きません。
「行きます・・・!」
私は屋根を蹴って男性たちの元へと接近を試みます。銃口が私ひとりだけに向けられますが、私の移動速度に合わせて振るわれる鞭のおかげで、私は防御も回避もせずに一直線で男性たちの元へと到達することが出来ました。
「没収です!」
男性たちからデバイスを引ったくり、純粋な膂力のみで潰して処理しますと、「うひっ!? 化け物!」なんて、かなりショックな言葉を投げかけられてしまいました。別にいいですもん。親しい人や仲間から理解してくれるだけで十分ですもん。
「キジョウ陸曹。連中は私が拘束しておく。先に行っていてちょうだい」
――バインディングウィップ――
「「ぅぐ・・・!」」
三尉は鞭をリングバインドとして切り離し、男性たちをしっかりと拘束しました。そして2人を拘束しているバインドを引っ掴み、男性たちが出て来た車両との合間へと向かいました。私も三尉の後に続き、車両の合間を覗き込みました。
「あのドアから入れるのね・・・。キジョウ陸尉、私は車内でこの2人からいろいろと聞くわ」
私は三尉と男性たちを一瞥した後、「了解です!」と応じて、屋根伝いに先頭車両へと再び向かい始めた中・・・
「それで? 積荷の爆薬の起動方法は何? リモコン? 時限?」
「うるせぇ! とっとと離しやが――ぐえっ!?」
「バインドの締め付けが強く・・・!?」
「あなた達、指名手配されている連続強姦犯と強盗犯よね? まさかアガルタファミリーにいたなんて。・・・ともかく、そんなどうしようもない屑なあなた達に、ちょっとでも手心を加えるとでも? 正直に包み隠さず答えなさい」
三尉が珍しく本気で怒っていますが、男性たちの正体を聞けば当然の話です。私も1発くらい拳を打ち込んであげればよかったです。何か判れば念話で報せてくれるでしょうし、私は私の仕事をしましょう。4両ほど駆け抜けた頃・・・
『キジョウ陸曹。爆薬はどの車両にも無いそうよ。完全な嘘っぱち、虚言、脅し文句だった。本部にもすでに連絡を終えたわ。だから、キジョウ陸尉!』
三尉からの嬉しい報告に「はい! 残り2名、全力で逮捕します!』と応じ、さらに速度を上げて一気に先頭車両へと到着します。2両目との合間に降り立ち、先頭車両のドアが開くのを待ちますが、「やはりロックが掛かっていますか・・・」と一息吐き、右手に魔力を付加します。手動で開閉するための凹みに指を掛け・・・
「ミッド地上本部・鉄道警備隊、ミヤビ・キジョウです! 大人しく武装を解除し、投降してください!」
無理やりドアを開くと、事前に聴いていたとおり残りの男性2名が居り、1人は「もうここまで来やがったのかよ!」と苛立ち、ライフル型デバイスの銃口を向けてきました。そしてもう1人は、そんな彼に「待て!」と声を掛け、私をジッと見つめました。
「まさか・・・おい、まさか・・・うそだろ! ミヤビ・キジョウ!? あの鬼神!? マジか!・・・ありえねぇ! 最悪すぎんだろ!」
文字通り頭を抱え、「もうダメだ・・・」と膝を屈しました。デバイスを構えていた男性も「なん・・・だと?」と力なくデバイスを降ろし、そのまま床にガシャッと落としました。
「そのまま武装を解除していてください。・・・コレフシ三尉、先頭車両の確保が完了しました。これより減速を開始します。ご注意を」
『了解。本部には連絡した?』
「あ、いえ、これからです」
『そう。減速を開始してから私も先頭車両へ向かうわ』
三尉との通信を終えたと同時、「はは! ははは! そうだ、俺たちにはコレがあるじゃないか!」と、私にデバイスを構えていた男性が笑い声を上げ、腰から拳銃型デバイス・・・ではなく、「質量兵器・・・!」としての拳銃を取り出し、その銃口を私に向けました。
「実弾では・・・私の素肌はもちろん、防護服ですら貫通できませんよ?」
「へへ。試してみるかい?」
「よせ! 反撃でもされたら碌な目に遭わないぞ・・・!」
「1発で殺せばいいんだろ!」
妙な自信ですけど・・・。ふと、管理局全体に通達された、ある質量兵器を思い出しました。ルシル副隊長の防護服――フィールドすらも貫通する、特殊な実弾と拳銃が世に出回っていると。その資料に添付されていた拳銃の画像と、男性が構えている拳銃は瓜二つです。ひょっとして、今まさに私に向けられている拳銃は件の危険兵器なのでは、と考えます。
「(念のために・・・!)鬼神形態顕現・魔鬼降臨」
額より無色の半透明な角を生やします。私は神話や伝説に語られる鬼という生物の遺伝子?を基に生み出されました。普通の人より体が頑丈で、自己治癒力もすさまじい。この怪物のような体質を恨みましたが、この力だからこそ多くの人を救え、助けられる事が出来るようになる、と教わりました。あぁ、その通りだな、と目からうろこでした。否定ばかりの私に与えてくれた光明。ルシル副隊長には感謝ばかりです。
――鋼強鉄化――
魔法ではない鬼の身体資質による全身の強化を行いました。魔力防御を貫通する弾丸が万が一に着弾しても、重傷や即死は免れるはずです。
「鬼神・・・!」
「くっっっそぉぉぉぉーーーーっ!」
銃声が連続で轟き、銃口よりドリル状の弾丸が放たれたのが見えました。紙一重で回避しつつ男性の元へ駆け出します。接近すればするほど避けづらくなり、着弾を許してしまいました。弾丸は確かに私の防護服を貫通しましたが、頑強にした鬼としての肉体には傷は付きませんでしたね。
「なにっ!?」
「せいっ!」
「ごふぅ・・・っ!?」
再接近すると同時に男性の左頬に鉄拳制裁です。殴り飛ばされた彼は壁にぶつかり、ぐったりと座り込みました。手加減はしたのですが、と考えた瞬間、両腕もガチガチに鉄化していることを思い出し、「やってしまいました・・・」と深く反省です。
「こ、降伏する! 列車も今すぐに停車させる! だから殴らないでくれ!」
顔を青褪めさせ、涙まで流して土下座する男性に「す、好きで殴っているわけではありません!」と反論します。鉄化を解除し、角も霧散させます。鬼の角は普段、魔力素として私の全身を駆け巡り、鬼としての特異体質を発揮してくれています。
「では至急、停止させてください」
「は、はい!」
男性がコンソールを操作し始めると、車両の速度も徐々に落ちていきました。ホッと一安心し、倒れている男性に手錠を掛けるために歩み寄ろうとしたとき・・・
――トランスファーゲート――
「悪を処断します」
「「っ!?」」
それはあまりに突然に起きた殺人でした。コンソールを操作していた男性がいきなり頭部を撃ち抜かれて絶命してしまいました。声と銃声のした方へ振り向き終えるより先に、さらに2度目の銃声。人体への着弾音がいやに耳に残りました。
「誰ですか!? このような非道な真似・・・!」
――鬼神形態顕現・魔鬼降臨――
再び角を生やし、ようやく振り向き終えて「仮面持ち・・・!」を視認しました。セーラー服と目出し帽とドクロの仮面。右手にはデバイスではなく質量兵器としての拳銃が1挺握られています。
「なぜ殺したのですか!」
「そこの男2人は、指名手配されている幾人もの民間人を殺害している極悪人だ。殺されたところで悲しむ者などおらず、拍手で喜ぶ者の方が遥かに多い」
「だからと言って法の裁きを受けさせずに私刑などと、そのようなこと許されるわけがないです!」
仮面持ち――最後の大隊が本格的に活動し始めてから、すでに300人近い犯罪者が殺害されています。局や騎士団がどれだけ構成員を逮捕しようとも、構成員の数が減ることはなくて、最後の大隊の活動範囲も徐々に広がっているのが現状です。
「法を守るだけで人は護れるか? 否。法を破る者は必ずいる。そのような者が、善なる者に被害をもたらすのだ。世界は広い。局と騎士団ではすでに対処し切れていない。ならば法を破ろうと考える者がいなくなれば、強制的だが平和はつくられる。後手の対処より先手の抑止。管理局や騎士団はそんな不完全な法を遵守するあまり、犯罪の抑止が出来ていない。ゆえに我われ最後の大隊が、次元世界に変革をもたらす」
「それは・・・!」
真っ向からすべてを否定できない、次元世界の現実。仮面持ちは拳銃を腰のホルスターに収め、右手を私に差し出してきました。
「お前も最後の大隊に入ってはどうだ?」
「はい?」
まさかのスカウトに、私は呆気にとられました。彼女は「今の管理局に未来はない。解かるだろう?」とそう語りかけてきました。
「ミヤビ・キジョウ。管理局員であるお前にも、局に対して不満はあるだろう? そう、例えば・・・子供を管理局へ勧誘している、とか」
「・・・!」
騎士の大半の離脱という影響で、管理局の魔導師や人材不足に拍車がかかりました。そこで白羽の矢が立ったのは、魔力資質の高い子供たちです。事件や事故で保護された子供たちに教育を施し、管理局へとスカウトしているのです。もちろん強制ではないですが、局員への道を目指す子供が多いのもまた事実。
「心当たりはあるだろう。子供たちを危険な戦場へ送ってもいいのか? 過酷な現場と環境に送ってもいいのか? たとえそれが、子供たちの意思だとしても。お前の心は、それを許すのか?」
私の不満を見事に当ててきた仮面持ちに、私は「・・・」無言となってしまいました。胸の内で渦巻く管理局への言葉に出来ない暗い感情。
――何かを、誰かを守れる力を持っているのなら、それの力で守ってあげたいって・・・。私とエリオ君は守られてきましたし、今も遠くからですけど守られてます。ですけど守られてるだけじゃダメだって思うんです――
――力を持つ者としての覚悟と意志。それを胸に秘めて、僕たちは局員を続けていきます――
エリオ君とキャロちゃんの言葉を思い出します。とても立派な志をお持ちのお2人ですが、お2人ほどに強い心を持つ子供がどれほどいるでしょうか。事件や事故に巻き込まれてしまったトラウマを抱えつつ、局員となってそのような似た現場に関わり続け、その所為で後ろ暗い感情に飲まれてしまい、そのまま曲がった心を持つに至り、最終的に粛清されてしまうような局員になってしまったりでもしたら・・・。
(管理局の抱える問題・・・)
「答えはすぐにでも欲しいわけではない。ただ考えてみろ。今現在の管理局を許せるかどうか、を」
――トランスファーゲート――
仮面持ちはそう言い捨てて、発生した空間の歪みの中へと消えていきました。それからすぐ「キジョウ陸曹!」と三尉がここ先頭車両へと来てくれました。仮面持ちに容疑者2名が殺害されたことなどは報告しましたが、最後の大隊へのスカウトについては・・・話せませんでした。
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