| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

没ストーリー倉庫

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

ダン梨・G

 
前書き
フレイヤのヒ・ミ・ツ♡(この小説オリジナル)

・実は兄のフレイに頭の上がらないお兄ちゃんっ子。
・豚はフレイヤにとっては聖獣なので本当はバベルで飼ったり乗って移動したい。
・でも世間が思いのほか豚に冷たいので出来ず、内心寂しい思いをしている。
・豚≧ベル>ファミリア>気に入った神とかバミューダとか>>>その辺の奴ら 

 
 
 それは、まさに死闘だった。

 ベルが一度の接敵でミノタウロスの斧を受け流せば、その隙に背後から俺が迫り、ミノタウロスはベルを強引に吹き飛ばして蹴りで牽制してくる。俺が側面から鞭で注意を引いた瞬間にベルが逆側面を突こうとすれば、深い傷が入り切る前に跳躍で逃げる。二人が固まれば突進し、斧を薙ぎ払い、多少の傷は魔石の治癒力であっという間に癒す。

 無尽蔵に見えても、魔石の力は少しずつ失われている。しかしそれ以上にこちらのスタミナと精神が削られる。数度危ない瞬間があっては魔法で庇ってもらったが、肝心のこちらは魔法をあまり使えていない。短縮されども魔法詠唱に4秒、投擲に1秒、起爆にさらなる時間ロスという厳しい制約のせいで仕切り直しの目くらましにしか使えないのだ。

 ミノタウロスの猛攻を紙一重で躱しながら槍で脇腹を突くが、途中の降り下ろしで武器を折られる。その隙にベルが地面すれすれを疾走してミノタウロスの足を狙うが、死角を狙いすぎたか察されて足をずらされて直前でベルは退いた。あの僅かなズレが、足による致命の攻撃に繋がりかねない。一瞬の判断を誤りかけたベルの顔からは既に激しい激闘で夥しいまでの汗が溢れていた。

「予備の槍は、あと一本………!」
「これが、レベル2の前に立ちはだかる壁………!でも、超えないと僕は……!!」
「くそ、こりゃ援軍到着前に俺たちが参っちまう!」

 戦いを前に予め戦闘範囲外に少しずつ設置した手作り希釈ポーションを呷る。ポーションに体力そのものを回復する力は余りないが、酷使して千切れた筋線維を修復する力ならばある。少しでも長く戦う為に俺が考えた策だ。
 蜂蜜、レモン汁、塩を混ぜた水8:ポーション2の割合。生理食塩水より微かに濃ゆくしてある。
 ベルからは「どういう発想?」とツッコまれたが、その発想が俺とベルの継戦能力を支えてくれていた。このドリンク、ミアハさんにでも相談して流行らそうか。そんな下らない発想は一瞬で思考の外に弾き飛ばし、目の前の敵に備える。

「真っ当にぶつかりあってたら、こっちが負けるね……!」
「しかし、隙を突くには動きが俊敏で立ち回りが堅実すぎるんだよな……」
「今まで聞かないでおいたけど、『フー・ダルティフィス』の二尺で足なり顔なり潰して一度にトドメってどうなの?」
「俺もそれは考えて今まで二尺使わずにいたんだが……二つ問題がある」

 ミノタウロスの突進。互いに分かれて反対方向で再度合流する。

「一つ、表皮でファイアボルト弾く強度のミノたんMk-Ⅱに俺の二尺玉が通用するかどうか分からん」
「レベル1相当の魔物はどれも問題なかったけど確かに……でも攻撃自体は当たるし、ものは試しで一回使えない?」

 ミノタウロスが反転してジャンプ斬りの要領でこちらに飛来。互いに身を翻して再度反対方向で合流する。

「成功すればいいが、失敗すると切り札が潰れるだけでなく魔法の特性がバレて警戒される。仮にそれで突破口が開けたとして、開いた隙間が更に小さくなる。一長一短だな」
「そこはそれ、バミューダが上手いこと考えればいいでしょ?」
「気軽に言ってくれやがって。んー………」

 原作を思い出す。確か最終的なトドメとしてはベルがヘスティア・ナイフを突き刺し、そこから直接中にファイアボルトを流し込むというエグイ殺害方法だった。威力だけなら同レベルある筈の二尺玉でも傷口に無理やり抉り込めば殺害は可能だろう。
 しかし、それが出来れば苦労はしないから今こうして苦戦している。

 考えろ、考えろ。

 二尺玉であれを確実に殺すには体内で爆発させるのがベストだが、傷口を作っている暇がない以上は口に捻じ込むしかない。魔物の本体は魔石なので一撃では倒せないかもしれないが、顔がなければまともに動けないのだから後はベルの仕事だ。

 口に捻じ込むのに最大の障害は?当然あの巨体の能力だ。特に斧のリーチと殺傷能力は最大の脅威だ。しかし待てよ、あの斧は原作だと途中でベルが使ったものの砕けた。つまり、案外と耐久力はそこまででもないのかもしれない。あれを壊す方法――原作ではベルが限界突破で腕を刺して奪ったが、今はそれが厳しい。出来ない可能性もある。ならば物理的に破壊するしかない。

 武器としての強度は特別強くないのなら、武器破壊を狙うしかない。見込みがあるのはヘスティアナイフと――イーラナーはもうないので、スリケンチャクラム。あれは例の忍者おじさんが研いでくれるので刀に限りなく違い切れ味を誇っている。その分だけ特定方向からの圧力であっさり折れるため今まで使えていなかったのだが、角度さえ合えば――。

「剣の突入角に対してぴったり90度………」

 パズルが噛み合う。
 俺はベルに何も言わずにウェポンホイールを回してチャクラムを両手に握った。
 武器のないミノタウロスなら、骨格は人体と同じ。あとは俺の敏速と器用値を当てにするしかあるまい。ベルのそれすら上回る、俺の数少ない武器を。
 パズルが組みあがる。
 囮が必要だ。ベルが囮になった後、俺も囮になる。
 あとは何だ。玉の強度、魔法――整いました、ってか。かなり馬鹿だな。

「ベル、いいか。まず俺が――、――」
「うん、うん」
「――、――そして最後に、お前が――だ」
「バミューダ史上最大のドッキリ大作戦だね。いいよ、乗った」
「勝ったら豊穣の女主人で祝杯だ」
「勝つさ、僕とバミューダなら!」

 準備は、整った。少々の準備を終えた俺たちは、すぐさま決戦へと挑んだ。


 まずは俺が全神経、全筋力を注ぎ込んでミノタウロスと相対する。

 ミノタウロス――またの名をアステリオス。神話では元を辿れば神の血を継いでいる筈の彼がこの世界でただのモンスターでしかないことは、もはや何も語るまい。

 真正面、死角なし。ミノタウロスが迷いなくジャンプ切りを選ぶのを見て、俺は奴から見て左に回り込むように回避する。瞬間、俺の行き先を見ていたミノタウロスが体を左に回転させて薙ぎ払いを見せた。右に回避すればもっと回避しやすかった以上、俺の回避は本来悪手。

 しかし、そうではない。「ミノタウロスが横薙ぎに斧を振るった」ことこそが重要。
 瞬間、俺は地面に深く、深く、尻餅をつきそうなほど深く足を踏ん張り、全身のばねを極限まで弾いて正面より迫る斧に突っ込んだ。

 両手に持ったチャクラムを、刹那の間に斧の刃と理想的な直角で接触するよう全力を込める。
 ミスれば武器は砕け散り、俺の五体は二つに分断される。だからこそ、必死を過ぎた絶対的な『今』という力をありったけ絞り出す。

「ッオぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 俺の刃と、ミノタウロスの刃。
 グガン、と鈍い音を立てて両断されたのは――ミノタウロスの斧だった。

 だが、まだだ。俺は全力で踏み抜いた速度のままチャクラムの刃を地面に突き立て、加速した体を独楽のように180度回転させる。そこに待っているのは、全身を使って斧を振り向いたが故に俺に背中を見せるミノタウロスだ。

 普通に戦えば斧を躱す関係上生まれ得ないタイミング、距離、隙。
 それが、斧を破壊した一瞬だけ息継ぎのように顔を覗かせる。

「背面ッ!!取ったぞッ!!」

 全力で再跳躍。両手に持ったチャクラムを振り上げ、跳躍の速度と持てる腕力の残りを全て注ぐようにミノタウロスの背中に突き立てる。チャクラムの切れ味と俺の火事場の馬鹿力が合わさり、30セルチの刃が全て埋まる程に深々と突き刺さった。

「ブギャアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」

 それは奴にとって余りにも不意の一撃だったからだろう。どんな生物も不意の痛みには動揺する。一瞬必ず動きが止まるし、本能的に叫んで痛みを和らげようとする。だからこそ――その一瞬の隙に、ベルも全てを注ぎ込む。

「うわぁぁぁぁああああああああああああああああッ!!!」

 俺を上回る筋力で強引に体を加速させたベルが、死闘の張り詰めた空気を切り裂いて真正面から接近する。その手に握られているのは――

 ――『フー・ダルティフィス』の二尺玉だ。

 俺の魔法で、俺が起爆させられる。だが作ってすぐなら他人が持つことも出来る。
 ベルはそれを躊躇いなくミノタウロスの大きく開いた口に叩きこんだ。ただ詰めただけでは吐きだされるから、シャツにくるんで外に出せないようにしたそれは見事にミノタウロスの口に押し込められた。

 瞬間、即座に目の前の存在に狙いを定めたミノタウロスの苦し紛れの振り払いがベルに直撃し、吹き飛ばされた。だが人間は殴られた瞬間ではなく地面に衝突したときダメージが真に肉体を破壊する。ベルは当たりが軽かった為に地面に衝突しながらもギリギリで体制を立て直した。

 その頭部はどこかで切ったのか血が溢れ、純白の頭髪が深紅に染まる。
 だが、気力だけで繋ぎ止めた意識でベルはナイフ片手に立ち上がった。

「バミューダァァァァァァーーーーーッ!!!」
「――『乱れ咲け』ぇぇぇッ!!!」
「ヴガ……ッ!?!?」

 瞬間、ミノタウロスの顔面が大きな火の玉となって爆発した。

 詠唱直前に退避したとはいえ時間に余裕がなかったため、自分の魔法の爆風に煽られ背中から振り出される。直後、地面に激突。あばらと腰からミシリと嫌な音がし、肺の空気が一気に吐き出される。ぐらつく頭をしかし、俺も気合で押さえつけて立ち上がる。

「まっ、だだッ……!」

 まだミノタウロスは死んでいない。爆発しただけだ。魔石を砕かない限り――。

「――――■■■■■■■■■■■――――!!」

 ほら、まだ生きてる。

 しかしもう無駄だ。俺の視界に映ったミノタウロスは、頭の上半分が消し飛んで下顎と喉しか残っていない。更に爆発の影響で上半身全てが火傷のように爛れている。今、この瞬間なら――確実に殺せる。俺は最後の一本となった槍をベルトから引き抜き、ミノタウロスの胴体めがけて疾走した。

「これでッ――」
「終わりだぁぁぁぁーーーーッ!!!」

 俺の槍がミノタウロスの体の中心――魔石に突き刺さった。
 だが、槍はそこで折れた。元々支給品の安物だったのが、吹き飛ばされてガタが来ていたのだろう。ただ、まぁ、俺が槍を刺したのは念のためのダメ押し程度のもので――本当の本当に止めを刺すのは、俺の反対側でヘスティア・ナイフを突き刺しているベルの魔法だ。

 勝ったぞ――そう思いながら俺はほくそ笑んでその場を離れ――。

「ファイアボルトォォォォーーーーーッ!!!」

 俺たちの最強の怨敵――牛の怪物ミノタウロスは、体の内側から迸る灼熱の雷に焼かれて爆散した。



 = =



 さて、死闘を繰り広げてた俺らなのだが、実は横からロキ・ファミリアの面々+リリにばっちり見られていた。闘ってる最中ってアドレナリンドバドバで前のことしか見えてない男という生き物は、周囲の目には鈍感である。ちなみに女性は怒ると視界が広がり観察力がアップするらしい。医学的にマジの話だ。ずるい。

 で、当然というかあんだけ死闘を繰り広げると歩く体力も失せてきて、今は運搬中され中だ。ベルはアイズ何某に、そして俺は何故か完熟トマトの人ことベート氏に背負われてる。ベルと甘酸っぱい空気を醸し出して会話するアイズ何某の方に苛々オーラ全開で。

 しかしあっちはキャピキャピしてんなぁ。好奇心なティオナと嫉妬のレフィーヤも加わってハーレム的な。対してこっちにいんの完熟トマトの人だぜ。何が楽しくて完熟トマトの男のツンデレ性格ひねくれ男と一緒にいなきゃならんのだ。
 ま、嫉妬してる訳じゃないが。今回のこれで俺もパワーアップしてる筈だし。
 と――不意に横から視線を感じてそっちを向くと、何故かリヴェリアさんがこっち見てた。うーん、アニメや小説ではイマイチ伝わらなかったが……成程これはすさまじい美人さんだ。

「お前、名前はバミューダと言ったか」
「どうも、ナインヘルさん。青臭いまま出荷されるトマト2号になにか?」
「いやなに、面白い魔法を使うものだと思ってな。どういう仕組みだ、あれは?」
「情報料金128万7700ヴァリスなり」
「何故半端な……というより払ったら教えるのか?」
「教えますよ?ギルド仲介で契約書書いてね」
「そうか、考えておこう」

 別にリヴェリアさんなら悪用しないだろうし売っぱらっても問題ないが、この人がその為だけに130万ヴァリス近い金をぶちこむとは俺には思えない。まぁ、つまり安売りする気はないから諦めろという話でしかない。その辺察してるんだろうなぁ、この人。

「まぁそれはそれとして、ミノタウロスの斧に自ら突っ込むこと然り、自分の魔法を自爆覚悟で発動させたこと然り、命知らずにも程がある。冒険者が命懸けなことなど百も承知だろうが、親に貰った体を大切にしろ」
「親なんているかなぁ、俺に」

 それは、本当に素朴な疑問だった。
 俺という存在は、この世界において前後関係も因果関係もなく、ただガキとしてぽんと出たのだ。人間なら確かに生んだ親はいるのだと思うだろうが、俺は――どこからともなく魂だけこの世界に来た俺には、そんな親さえいないんじゃないかと思える。
 俺の腹にはへそがある。へそはへその緒で親と繋がっていた名残だ。しかし、このへそが単に「人間は普通そうだから作った」ものならば――形だけの飾りでしかないならば――俺に肉親など、いない。それでも別に寂しさとかはないけど。

「………いるさ、どこかに。人はそうして生まれるものだから」

 俺の言葉に一瞬だけ悲しそうな顔をしたリヴェリアさんは、どこか慈愛を感じる口調でそう言った。
 しまった、これ変な気を遣わせてしまったパターンだ。そう思ったときには、いつの間にかロキ・ファミリアの他メンバーが俺の周囲に集まっていた。

「天涯孤独の身だからって自分の命が軽いなんて思っちゃいけないよ、バミューダくん」
「そうそう。それにファミリアのメンバーだって神の血で繋がった家族なんだから」
「あれだけ派手に暴れて二人がかりとはいえミノタウロスを倒したんだ。辛い過去は可愛いガールフレンドでも作って忘れちゃいなよ」
「いや、俺そのことはそんなに気にしてないんですケド……?」
「………人の後ろでベラベラ喋ってんじゃねェぞクルァッ!?ああクソ、何で俺がトマト野郎二号なんぞを……!!」

 これが噂のかわいそうハラスメントか。ただ迷惑なだけなんでやめてくれ。
 ちなみに最後の切り札として取っておいた梨は、戦闘の衝撃でグチャグチャに潰れていた。俺の身代わりになったのか……うわっ、今更ながら果汁でベタベタして気持ち悪っ。
  
 

 
後書き
G=ガチバトル(スプラトゥーン)って勝てな過ぎてゲロ吐きそう、のG。

本当は色々考えてたんですけど、気が付いたらガチバトルに走ってしまう心の弱さです。ベルとバミューダ二人いないと成立しない作戦とか考えるだけで疲れる。そしてロキ・ファミリアのバミューダ像が「天涯孤独でどこか自分の命を軽く見ている子」に。なんでや。

他の案その①
バミューダ「えいえいっ。怒った?」
 オッタル「怒ってないが」

他の案その②
バミューダ「コルヌーって女を意地でも泣かしたいんだけどいい案ある?」
 オッタル「……何故それを俺に訊く?」

他の案その③
バミューダ「御手合せ願います」
 オッタル「死ぬぞお前」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧