真田十勇士
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巻ノ百三十八 仇となった霧その六
「鉄砲騎馬隊を用いてじゃ」
「小松山を登ってですか」
「そうして攻めよ」
「その様にせよと」
「そうじゃ」
「数を頼みにしてもじゃ」
例えそうしてもとだ、政宗は激しい銃の音や雄叫びが聞こえるその山を見据えつつ命じていた。激しい戦が行われているのは間違いなかった。
「後藤殿を攻めるのは難しいからな」
「ここはですな」
「山を駆け登りつつですな」
「鉄砲騎馬隊に攻めさせる」
「そうしますか」
「我が伊達家の切り札を使わねば」
後藤にはというのだ。
「討ち取れぬやも知れぬ、だからな」
「ここはですか」
「山を登って攻めるのは不利にしても」
「それでもですな」
「若しもの場合は」
「切り札として」
「用意をさせよ」
鉄砲騎馬隊を用いるそれをというのだ。
「よいな」
「わかりました、ではです」
「片倉殿にその様にお伝えします」
「そしてそのうえで」
「まずは後藤殿をですな」
「討ち取るのじゃ」
政宗はこう己の家臣達に告げた、そうしつつ小松山に布陣する後藤の軍勢を激しく攻めさせていた。水野の軍勢と共に。
そうしつつだ、そのうえでだった。
鉄砲騎馬隊の用意までさせた、そうして大軍で攻め続けるとさしもの後藤の軍勢も数の差が出てだった。
次第に劣勢に追い込まれ遂にだった。
後藤自ら槍を持って敵を倒すまでになっていた、彼はその自慢の槍術で敵達を次々に倒していたが。
やがて受ける傷も増えてだった、彼も死を覚悟しだした。
「これではな」
「もうですか」
「敗れる」
「そう言われますか」
「わしもそろそろ動けなくなる」
今は気力で立っている、だがその気力もというのだ。
「そうなってしまう、そうなればじゃ」
「その時は」
「御首をですか」
「敵に取られるわ、それはされたくない」
これが後藤の考えだった。
「だからじゃ、ここはな」
「我等がですか」
「殿の御首をですか」
「埋めよ」
「何処かにですか」
「そろそろ腹を切る、それが出来ぬ時は」
まさにと言うのだった。
「頼めるか」
「首だけでも」
「その様に」
「その様にな、そしてお主はじゃ」
常に己を護っていた長沢佐太郎、木村と同じ位の若武者に顔を向けた。そのうえで長沢の若々しい顔を見つつ話した。
「若い、だからな」
「この場ではですか」
「死ぬのは惜しい、生き延びてじゃ」
「そのうえで」
「生きよ」
こう言うのだった。
「これからもな」
「いえ、それがしはまだ」
「去れと言っておるのだ、何としてもな」
「では」
「馬から離れるでないぞ」
下りるな、決してというのだ。
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