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外伝・少年少女の戦極時代

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斬月編・バロン編リメイク
  ドラッグアンドドロップ

 ――時は戻って、現在。

 咲は“施設”を出た。光実に連絡すべきか、救急車を呼ぶべきか。迷いながら正門へ行き――最悪の敵に遭遇してしまった。

 顔を合わせたのは咲にとって二度。それでも、目の前で紘汰と戒斗をボロボロに打ち負かした憎らしい敵を、咲が見間違えるわけがなかった。

「戦極凌馬……!」
「おや。今日はやけに好戦的だね、碧沙君。まるで人が変わったようだよ」
「ここに、何の用?」
「実験結果を見に来たんだよ。朱月藤果君のね」
「じっ、けん? あんた今、実験って言った? 藤果おねーさんに何したのよ!」
「私が初めて作ったロックシードを施設(いえ)から掘り出した彼女に、戦極ドライバーを一台譲っただけだよ」

 咲はとっさにポケットの上からリンゴのロックシードを押さえた。

「あのロックシードでクラックを操れたなら、私の理論は正しいということになる。研究者として自身が提唱する説の正しさはきちんと把握しておくべきだろう?」
「くぉンの……マッドサイエンティスト!」

 悔しい。もっとこう、この男の心を抉るような罵倒を叩きつけたいのに、小学生の咲のボキャブラリーではこれが限界だ。

「怒ったキミというのは笑った貴虎と同じくらい珍しいから、もうちょっと付き合ってあげたかったんだが、私も忙しくてね。そこを通してくれるかい?」

 咲は凌馬を睨んだ。
 通すものか。通せば、凌馬は絶対に藤果に引導を渡す。そしてこの男はそれを何とも感じないに決まっている!

「やれやれ。これだからコドモは」

 凌馬はゲネシスドライバーとレモンのエナジーロックシードを取り出した。

「変身」
《 ソーダ  レモンエナジーアームズ  ファイト・パワー  ファイト・パワー  ファイ・ファイ・ファイ・ファイ  ファ・ファ・ファ・ファ・ファイト 》

 レモンの意匠の青い鎧が凌馬に落ち、凌馬を装甲した。
 アーマードライダーデューク。性能だけなら貴虎の斬月・真をも超える戦士。

 デュークは創世弓のストリングを引き絞る。

『貴重なサンプルにあまり傷をつけたくないんだ。どいてくれるね?』
「だ、れが……どくもんかぁ!」

 斜め上が小爆発した。デュークが放ったソニックアローが柵に着弾したのだ。
 勝手に腰が抜けて、咲はその場にぺたんと座り込んでしまった。

 だが、咲の体たらくなどお構いなしに、デュークは次のソニックアローを放とうとしている。
 おそらく今度は直撃コース。「ヘキサ」に防ぐすべはない。ヘキサの体を傷つけてしまう。


「咲ぃーーーーっ!!」


 はっとする。呼ぶ声は、自分自身のそれだ。駆け寄って来るのは、咲の外見をしたヘキサだ。ヘキサだけでなく、リトルスターマインのみんながいる。

 ヘキサは、大の男の手にも余るサイズの戦極ドライバーを、両手で抱き締めてこちらに走って来ている。

 咲もまたチームメイトたちに向けて走り出した。
 咲を追ってソニックアローがいくつも放たれる中、こけつまろびつ、走った。

(あの体はあたしの体。あのベルトはあたしのベルト)

 ヘキサからバトンパスのように戦極ドライバーを受け取った瞬間。
 室井咲の視界は反転した。





 視界が反転した直後、呉島碧沙は親友の力強いかけ声を聞いた。

「――変身ッ!!」

 どうにか立て直した視界で、咲の体を白いライドウェアが覆い、炎の形をした果実の鎧が装甲した。
 果たしてそこに立ったのは、チームリトルスターマインが誇る小さなアーマードライダー、月花。

「咲――っ」

 自分自身の体を取り戻したことより、咲にちゃんと体を返せたことに安心して、碧沙は涙ぐんだ。

「あ、ヘキサじゃん!」
「……戻ってる」
「やっぱこーじゃないとね」
「おかえりー、ヘキサ!」

 碧沙はナッツとトモに抱きつかれてもみくちゃにされた。

 月花がDFバトンを繋げたロッドの石附をデュークへと突きつけた。

『そういうわけよ、マッドレモン。ここから先に進むのは、あたしが絶対、ゆるしてなんかあげない』
『キミといいキミのチームメイトといい――コドモの寄せ集めで何ができるのだか』

 デュークが創世弓のストリングを引き、直角に絞った。すると弦がハープのように連なり、ソニックアローのレモン色に白の威力が上乗せされたのが見て取れた。
 月花では回避も相殺も叶わない威力だと、見て分かってしまった。後ろにはヘキサたちがいるのに。

『ヘキサ! ポケットのロックシード貸して!』

 ヘキサは反駁せずブレザーのポケットを探り、取り出したリンゴのロックシードを月花に渡した。
 月花はベルトからドラゴンフルーツのロックシードを外し、ヘキサから受け取ったリンゴのロックシードをバックルにセットした。

《 カモン  リンゴアームズ  Desire Forbidden Fruits 》

 紅玉の甲冑に換装した月花は、イドゥンを真似てクラックを開いた。
 ソニックアローはクラックの先のヘルヘイムの森へ消えた。
 クラックを閉じてふり返れば、傷を負った仲間は一人もいなかった。月花は震える息を大きく吐き出した。

『いいものを見せてもらった。“黄金の果実”は存在する』
『何のこと?』
『ただの独り言さ』

 凌馬が変身を解いて踵を返した。待て、と月花たちが口々に叫んでも聞く耳持たず、悪びれず。凌馬はけぶる霧に消えるように去った。




 月花もまた変身を解こうとしたが、その前にロックシードに異変が起きた。ロックシードからヘルヘイムの蔓が茂り、月花を呑み込まんと四肢を這い上がった。

「咲ッ!?」
『だい……じょうぶ!』

 月花は片手剣を盾から抜き、刀身を逆さに握って自らの腹に――リンゴの錠前に突き刺した。

 真っ二つに割れてバックルから落ちた錠前。
 変身が強制解除された咲は、その場にしゃがみ込んだ。
 危なかった。少しでもタイミングと力加減を誤れば取り返しがつかなかった。

「咲、咲っ。なんてこと!」
「あたしらの前で割腹自殺案件にする気だったのあんた!?」
「……自決、ダメ、絶対」
「ごめん。すぐ壊さないと死ぬよりもっとヤバイことになる気がして」
「まあ確かに、はたから見てたらインベス化っぽかったけどさあ」

 言いながらトモがリンゴのロックシードの破片を拾った。

「ところでこれどこにあったんだ? ヘキサと入れ替わってる間だよな?」
「そう、それ! ヘキサ、さっそくでごめんだけど、お兄さんのどっちかに連絡して。あそこの中にケガ人いるの。電話で話した人、朱月藤果っていう――」

 夕暮れは近く、一日の終わりに差し掛かる頃、わいのわいのと騒ぐコドモたち。




 運命を入れ替えたふたりの少女と、それにより命運を大きく違えた数人の物語が終わったとは、誰も知らない。 
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