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外伝・少年少女の戦極時代

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デューク&ナックル編
  報告会inダンススクール

 ダンススクールのレッスンが休憩時間に入ったところで、教室の隅っこで、咲は、ナッツ、モン太、チューやんと4人で車座になった。

 ひさしぶりに野外劇場で勢揃い、と考えなくもなかったが、赤点で補習のトモとそれに付き合ってヘキサが来られないと連絡があったので、ここにした。

(正直、今ヘキサと顔合わせて平気でいられるか怪しいし。これはこれでアリか)


「そんじゃ、ひさびさのリトスタ作戦会議、ハジメマース。――ナッツ」
「はいよ。――チームネオ・バロン。結成は今年。テンプレなギャングや格闘家くずれがおもな構成員で、正式なチームバロンのメンバーは一人も入ってない。ダンスのダの字もなしで、格闘賭博に明け暮れてる連中ばっか。活動はこの短期間なのに、アングラじゃ割とネームバリューがあるっぽい。おかげさまで調べんの楽だったわ」

 インターネットやソーシャルネットワークを駆使させてナッツの右に出る者を、咲は知らない。
 そして時は情報戦国時代。こういったネタはネットの海にはごろごろ転がっていて、ナッツはそのサルベージが上手い。

「チューやん、現場どうだった?」
「……テンプレなレスリング会場」

 チューやんは年齢に合わない老け顔と長身のため、私服であればそういう場所に出入りしても違和感がない。よって彼に、ネオ・バロン拠点が発覚した時点で下見を頼んだ。

「……ただ」
「ただ?」
「……ペコさん、いた。ネオ・バロンのコスチューム、着てた」
「……まじ? 無理やりじゃなくて?」

 チューやんはこくん、と頷いた。

 先に戒斗に電話が通じなくて幸いだった。これで帰国した戒斗がペコを見た日には血を見ることになったに違いない。

「試合そのもののレベルは? ぶっちゃけ、勝てそうだった?」
「……竹刀があれば、ギリギリ。トモは……無理」

 チューやんは剣道の、トモは薙刀の、それぞれ初段持ちだ。加えてチューやんは体育で剣道を選択競技としているから、日々の研鑽は怠っていない。だが、トモの選択競技はダンスで、実家の道場での稽古からも遠ざかって久しいため、ネオ・バロンの闘技場には出せない。チューやんはそう言ったのだ。

「バカ正直に正面から乗り込むのはやめたほうがいいってこと」
「トモとチューやん以外は特別バトル強い人間じゃないし、人質にされる可能性大だよなあ」

 モン太の言うようにチームメイトを人質に取られたら、咲は自分を抑える自信がない。アーマードライダーに変身してありったけのDFボムでその闘技場を瓦礫と化すまで爆破すると断言できる。

「あ、そだ。忘れるとこだった。ネオ・バロンのリーダーの、シュラって奴。古株の人がバロン繋がりで知らないかと思って聞いてみたんだけど」
「どんな奴?」
「びっくりしたぜ~。元々バロンのダンサーだったんだってさ」
「「うそぉ!?」」

 意図せずナッツと重なった。

「ほんとほんと。バロンっていうか、カイトがチーム入りする前の別名義のチームだった頃な。シュラと入れ替わりにカイトが入って、チーム名もバロンに変えて、カイト無双の始まりだぜっ」
「あー、はいはい。じゃあ、シュラの逆恨み?」
「カイトも割と理不尽にそのチーム接収したっぽい」

 入れ揚げている対象にも公平に評価を下すのがモン太の長所である。

「他人様の都合も考えずにゴーマイウェイだから要らない火種まき散らすのよ。後始末させられるこっちの身にもなれっちゅーの」

 ショルダーバッグのファスナーを開け、本当にひさしぶりに、戦極ドライバーとゲネシスコア、ドラゴンフルーツ、パッションフルーツ、ヒマワリ、ダイズ、ピーチエナジーの錠前を出して、並べた。

「使うべきだと思う?」
「「思わない」」
「……ない」
「うわ全員に即答された!」
「トモとヘキサがいても同じこと言ったろーなー」
「……咲がそこまでするほどのレベルじゃ、ない」
「あ、それよ。ロックシード」
「なに?」
「試合で勝ったほうはネオ・バロンからロックシードを貰えるんですって。……で、よかったわよね、チューやん?」

 チューやんはこっくり、と頷いた。

「おかしいでしょ、それ。市内のロックシードは貴虎お兄さんが回収して、もういっこも残ってないじゃん」
「あたしも思ったのよ。その景品のロックシード、ネオ・バロンはどっから調達してんのかなって。錠前ディーラーと繋がりのあった売人はのきなみ貴虎さんがお縄にしてる。ミッチさんが裏取ってくれたから間違いない。新しいのを調達したくても、まずクラックを開く装置だってない。これに関してはガチで情報皆無なのよ」

 うーん、と咲はモン太とチューやんと揃って腕組みをして眉根を寄せた。
 ナッツがお手上げとなると、これ以上深く探るのは無理だ。

「あたし的に気になることがないわけじゃないけど」

 ナッツは手にしていたクリアファイルから2枚のA4コピー用紙を出して、床に並べた。

「片っぽはネオ・バロンのマークで分かるとして、こっちのは何?」

 一番に気づいたのはモン太だ。

「ネオ・バロンのと同じじゃん」
「え、どこが?」
「盾の後ろの黒い部分。ここ、ここ。葉っぱっぽい」

 注意深く検めれば、なるほど、確かにモン太の言う通り、ネオ・バロンの盾のマークは何かの植物を下敷きにしたデザインだ。その植物は、もう一枚の紙の、コブラのように茂る葉と同じものだった。

「“黒の菩提樹”。あたしらが小学校だった頃に流行ってたカルト宗教のマーク。関連画像で出てきたんだけどね。あたしも最初はスルーした。5回くらい観て、言われてみれば何となくって程度だったけど、モン太が言うならマジ()ね。今日帰ったら洗ってみるわ」
「うん、お願い」
「あたしからの報告は以上よ。で、リーダー。どう動く?」

 3人分の視線が咲一人に集まった。

 どう動くか? 決まっている。ビートライダーズの問題はビートライダーズで片を付ける。

「ナッツ、手持ちの情報全部、ペコくんのこと含めて、ビートライダーズ全体のSNSに上げといて。それでヘキサとトモにも伝わるでしょ。ザックくんがいれば一番よかったんだけど、ニューヨークでがんばってるとこ邪魔するのも悪いし。ネオ・バロンにせよ“黒の菩提樹”にせよ、ガチでヤバげなら貴虎お兄さんからストップかかるだろうから、それがない限りは、あたしたちでなんとかする方針で」
「……景品の、ロックシード……実物」
「チューやんが無理して取って来なくてもいいよ。剣道強くても、チューやん基本、ふつうの男子中学生なんだから――ってヘキサなら言うだろうからね」

 仲間たちの全員が咲に肯き返した。
 こういう時、理解あるチームメイトを持てて幸せだと、心から思う。……その“理解”が、室井咲の身の上のために、いつか薄れてしまったとしても。 
 

 
後書き
 ナッツ=ネットサーフィン
 モン太=聞き込み調査
 チューやん、トモ=実動部隊

 リトスタの役割を無理やり分担するとこんなふうになります。ヘキサ? みんなの癒し担当ですが何か?

 ヘキサにどう見られるかと同じくらい、他のチームメイトにもエターナルロリ化をどう見られるかが、咲にとっては恐ろしかったのです。

 中学生にもなってそろそろお子様域を脱したリトスタの報告会、ちょっと全員の口調をオトナっぽくしてみました。具体的に言うと漢字増やしました。 
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