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外伝・少年少女の戦極時代

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デューク&ナックル編
  新しいバロン?

 室井咲は、黒いセーラー服をなびかせて下校の途にあった時、“それ”を見咎めた。

 盾をモチーフにした(とら)()のエンブレム。
 新しいビートライダーズのチームがデビューしたのかと顧みれば、そのエンブレムが冠しているのは何と「BARON」だった。

 エンブレムの貼られた柱の前に立ち、咲は虎斑のエンブレムを隈なく観察する。

(バロンの姉妹チーム……なんて戒斗くんが許すわけないよね。けどザックくんがニューヨーク行っちゃってからはペコくんが代表代理してるっていうし、ペコくんがOK出したのかな? それともまさか、チームバロンの丸パクリ? 便乗商法?)

 観察していた咲の目に着いた。「BARON」の上に刻まれた「NEO」のロゴタイトル。

「“ネオ・バロン”……」

 チーム名が、ちがう。

 咲は学校指定のショルダーバックからスマートホンを取り出し、アドレス帳の「戒斗くん」の項目の通話ボタンを押した。

 呼び出し音が鳴る。
 鳴り続ける。
 途切れることなく、鳴るばかり。
 ――電話が繋がらない。

 戒斗がネオ・バロンの存在を耳に入れていれば即帰国するのに、咲にその一報もなしということは、戒斗は電波の入らない後進国か人里離れた秘境にいるということだ。

(もー! さっさと出てよ、戒斗くん。世界を広げるための旅は大事だけど、バロンだって同じくらい大事でしょ!)

 咲はひとしきり地団駄を踏んでから、溜息を落とした。

 戒斗への連絡は後回しだ。
 そもこのネオ・バロンを騙る者たちはどのような素行で、何の目的でチームバロンの名を奪ったか、それらを調べることを優先しよう。

 黒いセーラー服と短く切り揃えた黒髪を再び翻し、咲はその場から立ち去った。





 碧沙とトモのクラスがHRを終えて、放課になった直後だった。

 チームリトルスターマインのSNSに久しぶりの新着メッセージが入った。しかもチームメンバー招集連絡だ。議題は、最近巷を騒がせている“ネオ・バロン”について。

(行きたい。行きたいけど、気まずい。わたし、最後に咲と連絡取ったのっていつだったっけ?)

 心は沈んだまま、手は慣性で教科書やノートを学生鞄に入れて、着々と下校準備を進めていく。

(どうしよう。わたし、咲と会ってちゃんと笑える?)

 隣の席を見やった。トモは教科書を鞄には仕舞わず、プリントの束を机に出して、シャーペンのペン先を紙面に、こつ、こつ、と当てている。

「また補習?」
「ええ、『また』よ。さすがに再追試で打ち止めたいわ。ったく、こうなるって分かってたのに、何で進学校なんか来ちゃったんだかなー、わたしも」

 今だから言うけど、シドさんってなーんか他人の気がしなかったのよねえ――とは小学校卒業前のトモの言である。なるほど、憎まれ口であっても律儀に相手に応酬したシドは、嫌いな相手であれ無視を決め込んでいられないトモと共通する部分がある。トモとはそういう人間だ。

 閑話休題。

「てわけで、わたしは遅くなるってゆーか、ぶっちゃけ出らんないから……」

 碧沙は椅子をトモの机の横に置いて、座った。

「分からないとこ、どこ?」
「……いいの?」

 碧沙は寂しさと安堵が入り混じった笑みで応えとした。
 トモは碧沙の表情で察してくれた。

「こっからここまで、全部」
「はいはい。じゃあ教科書出して。これなら15ページの練習問題とほぼ同じだから――」


 教室にまんべんなく射し込む陽光がオレンジに染まりゆく中。

 窓の向こうから届く、部活中の生徒のかけ声と、ホイッスル、バッドの殴打音、ボールのラリー音。
 ――碧沙はそれらをBGMに、トモが補習プリントを全て解けるまで、ずっとトモの机に貼りついていた。 
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