提督はBarにいる。
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春はパスタの旬の季節です。その5
春らしいパスタね。……そういやアサリは春と秋の年2回の産卵シーズンが一番身が肥えて美味い時期だ。ここは1つ、アサリのパスタ……ボンゴレで行くか。
《春を楽しむ菜の花のボンゴレパスタ!》※分量2人前
・アサリ(殻付き):350g
・菜の花:1/2束
・白ワイン:70cc
・オリーブオイル:大さじ4
・赤唐辛子:1/2本
・ニンニク:1片
・バター:10g
・パセリ:適量
・大葉:3枚
・パスタ:180g
まずはアサリの下処理からやっていこう。アサリは貝殻同士を擦り付けるようにしながら流水で洗い、砂抜きをする。海水と同程度の濃度の塩水を作り、アサリを重ならないようにザルに敷き詰めてから塩水に浸ける。アルミホイルで日陰を作りつつ、密封しないようにするとなおいい。重ねない理由としては、重ねてしまうと上になったアサリが吐き出した砂を下のアサリが吸ってしまう為だ。後は、アサリが少しだけ顔を出すくらいの水かさにすること。そうしないとアサリが呼吸困難で死んでしまうからな。
※砂抜きの時間の目安は、スーパーで買った砂抜き済みのアサリなら2~3時間、潮干狩りで取ってきた物なら1晩は浸けておこう。
砂抜きをしている間に野菜の下拵えをしておこう。赤唐辛子は輪切り、大葉は半分にして千切り。ニンニクも芽を取り除いてスライスする。菜の花は葉と茎の部分で分けて切り、茎が太い場合は太い茎を縦半分に割る。
砂抜きが終わったら今度は塩抜きをする。アサリの身の中に塩気が溜まっているからな。抜いておかないとアサリを食べた時に妙に塩辛いアサリを食べるハメになるぞ。砂抜きしたアサリを再び流水で洗い、砂抜きで使ったザルに敷き詰めたら上から濡らしたペーパータオルを被せて、アルミホイルで日陰を作って更に1時間放置。……まぁ、今回はその処理をして冷凍しといた奴を使うがな。
※砂抜き・塩抜きをした際に口が開いている物は既に死んでいる可能性がある。食中毒の元になる可能性が高いので注意!
具材の準備が出来たら、フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れて、弱火にかける。ニンニクを焦がさないようにきつね色になるまで炒めていく。同時進行で、パスタを茹でる為の湯を沸かし始める。
ニンニクがきつね色になったら火を止め、輪切りにした赤唐辛子を加える。火は付けずにフライパンを数回回して赤唐辛子の香りをオイルに移す。
白ワインとアサリを入れて、蓋をして強火にかけて蒸し焼きに。パチパチと弾けるような音がし始めたら中火に落とす。パチパチという音が激しくなってきたら弱火にして、アサリの口が開くまで放置。
アサリの口が開いたら、アサリを取り出してラップ等をかけて保温。アサリが冷めると身が縮んだり固くなってしまうのでそれを防ぐ為だ。アサリを取り出した後のフライパンにパセリを加えておく。
お湯が沸いたらパスタを茹でていく。パスタの1/10の塩を加え、袋の表示より1分短く茹でるのは一緒だな。
茹で上がりの1分前に菜の花の茎を加え、その30秒後に葉の部分を加えて一緒に茹でる。茹で上がったら一緒にザルに空けて水気を切っておく。
取っておいたフライパンのソースにバターを加え、弱火で温めながらかき混ぜて溶かす。バターが溶けたら菜の花とパスタを加えてソースとよく絡める。
パスタを皿に盛り、取り分けておいたアサリを盛り付ける。仕上げに刻んだ大葉を散らせば完成だ。
「ホラよ、『菜の花入りボンゴレ』だ」
「おぉ~!美味しそう♪」
アサリの出汁がたっぷりと出たソースに、パスタをしっかりと絡めて巻き取り、菜の花を一緒に頬張る。そこにアサリの身を歯で剥がしながら口に含めば、アサリのコリコリとした貝独特な食感と、菜の花の風味、アサリの旨味が渾然一体となって襲ってくる。
「んん~っ、毎度の事ながらいい仕事してますねぇ~♪」
「そりゃどうも。美味しく食べてもらえりゃ、料理人冥利に尽きるってモンだぜ」
暫くフンフンと機嫌よく鼻唄混じりにパスタを食べ進めていた村雨だったが、はたと手を止めてこちらを見つめてきた。
「そういえば提督」
「なんだ?」
「今年も……そろそろ人事異動の時期だよね?」
「……あぁ、その話か」
人事異動。それも今年は全ての泊地の提督を対象に、希望する泊地への異動が叶う……かもしれない、と専らの噂だった。
「提督も……どこか異動しちゃうの?」
村雨のそう尋ねる眼差しは真剣そのもの。気付けば、店内は水を打ったようにシン……と静まり返っていた。どうやら、村雨と俺の会話を聞き付けて聞き耳を立てていたらしい。
「そうだなーー……」
「そうだなーー……村雨はそんな事言って、俺に出ていって欲しいのか?」
俺はそう言って、ニヤリと悪戯っぽく笑ってみせる。
「ち、違う違う!出ていって欲しい訳じゃないよ!だって村雨、提督の事が……」
「知ってるよ、んな事ぁ」
村雨が俺に好意を持っているのは知っていた。というか、あそこまであからさまにアピールされて気付かないとかバカじゃなかろうか。俺はそんなに鈍感になった覚えはない。
「大体、何でいきなり俺が異動するかも……なんて話になったんだ?」
「だって提督、前に言ってたでしょ?『退官するなら地元が近い大湊警備府がいいなぁ』って」
「………………あぁ、そんな事言ってた時期もあったっけか?」
村雨に指摘される今の今まで忘れてたぜ。確かにそんな事を言ってた時期もあったが、今はそんな気は更々無い。
「大体な?村雨。俺が異動願い出したとして、マトモにその異動願いが受理されると思うか?」
俺は以前からここからの異動を打診されていた。それも何度も。やれ横須賀で作戦本部長をやれだの、江田島で校長をやってくれだの、永田町でバッジをつけませんか?だの。そのどれもが内地でぬくぬくとやりませんか?という誘い。元々堅苦しいのが嫌いで、その悉くを突っぱねて来てるんだ。そのテコでも動かん気構えだった俺が、突然の異動願い。受理はされても望んだ場所に行ける可能性は限り無くゼロに近い。それに、異動を拒む理由はまだある。
「それにな、今更お前ら皆投げ出して異動なんぞ出来るか」
前々から打診されていた異動話を断っていた原因の主な理由がこれだ。『異動の際には艦娘は現状維持のまま』……戸籍上本当の妻となっている金剛は同道を認められたが、他のケッコン艦や手塩にかけて鍛えた艦娘はここに残して異動しろ、という命令ばかりだった。始めた当初は嫌々だったものの、四半世紀も提督業やってればそれなりに仕事に誇りも出てくるし、愛着も湧く。それに、大湊で退官というのは暫く前に諦めた……というより考えるのを止めた。ブルネイに骨を埋めてもいいか、と今は思っている。
「実はな、ここの敷地を買い上げて保養所ないしリゾートホテルでとやろうかと思ってんだよ、俺ぁ」
勿論、従業員はウチの連中さ。前線で戦っていたいって奴は他の鎮守府へ異動させる位の地位はあるし、ここの敷地と建物をまとめて買い上げる位の資金は溜め込んである。美女に囲まれて料理をしながら楽しく暮らす……提督としての業務が保養所の管理等にすり替わるだけで今の生活とあんまり変わらねぇ日常になるだろうが、中々悪くねぇ余生の過ごし方だろう?
「……そっか、提督の側でホテルの従業員も悪くないかも」
「だろ?」
「その時までに指輪、貰うからちゃんと構ってね?」
「そこはウチのルールだからな、俺も守るさ」
その場合、ケッコンした奴を正式に嫁として迎えたら嫁の人数でギネス記録になったりするんだろうか?そんな下らない事を考えつつ、余ったパスタを肴にワインを煽った。
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