レーヴァティン
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第五十三話 水の都にてその四
「伝説の」
「そうだ、詩人であり歌手でな」
「音楽っていったらだよな」
「神様にもなってるな」
「あの英雄か」
「そのオルフェウスの竪琴をな」
親父は久志達にさらに話した。
「いつもな」
「持ってるってか」
「言われてるんだよ、しかもえらい別嬪さんでな」
「女でか」
「ああ、しかもこっちの島にない奇麗さだってな」
親父は吟遊詩人のその美貌も話もした、彼は気付いていなかったがその美貌もまた久志達には重要なことだった。
「黒髪に黒い目、彫が浅い顔で黄色い肌でな」
「彫が浅い顔立ち、だね」
源三がそこにすぐに注目した。
「僕達みたいな」
「そうそう、東の島の人みたいにね」
「成程ね、それでお肌もだね」
「まさにあんた達みたいにな」
親父は気付かないまま久志達を見つつ源三に答えた。
「黄色い肌だっていうぜ」
「僕達みたいにね」
「あんた達は見たところ東の島から来てるな」
親父の見立てではそうだった、久志達のことを知らない為だ。
「そうだよな」
「まあそう思ってくれていいさ」
久志は笑って親父にこう返した、話すと長いと思いこう返したのだ。
「それならな」
「そうだよな、それでな」
「その吟遊詩人もか」
「あっちの島から来たんだろうな」
「東の島からか」
「そんな風だっていうぜ」
こう久志達に話した。
「噂じゃな」
「わかった、よくな」
ここまで聞いてだ、久志は親父に確かな顔で頷いた。
「その吟遊詩人のことはな」
「ああ、わかったかい」
「悪いな、教えてくれて」
「俺は噂を聞いただけだぜ」
「その噂だけでも充分だよ」
久志は親父に笑って答えた。
「もうな」
「そうか、じゃあお礼にな」
「何か買っていけっていうんだな」
「そうしてくれるかい?」
こうも言うのだった。
「いいな」
「そうだな、じゃあ唐辛子頼むな」
「唐辛子か」
「ああ、いざって時の栄養補給にな」
「おっ、あんたわかってるな」
まさにとだ、親父は久志の今の言葉に目を瞠ってそうして彼に返した。
「唐辛子はな、味付けにもなってな。生で齧るとな」
「栄養があるだろ」
「辛いけれどな、ビタミンがあるんだよな」
「そうだよ、知ってるんだな」
「この前行きつけの医者に言われたんだよ」
それで知っているととだ、彼は言うのだった。
「ビタミンも大事でな、それで唐辛子にもな」
「そうだよ、生で齧るとな」
「ビタミンがあってな」
「いざって時の栄養補給になるか」
「だからな」
それでとだ、久志に言うのだった。
「あんたそれがわかってるからな」
「いいっていうんだな」
「そうさ、旅慣れしてるな」
「デルフォイで本読んで知ってるんだよ」
それでというのだ。
「俺もそれまで知らなかったさ」
「そうだったんだな」
「ああ、じゃあ唐辛子だな」
「それ買わせてもらうな、あと味付けでな」
それの為にというのだった。
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