普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
238 決着
SIDE OTHER
「……ナギニ、まだかっ」
年は1997年。月日は11月1日。時刻にすると昨日──10月31日から日付を跨ぎ、11月1日となってから十数分が経過した頃で、場所は、敢えて云うのならイギリス某所の薄暗い室内。
そんな年・月日・時刻・場所で、トム・マールヴォロ・リドル──俗に〝ヴォルデモート卿〟と呼ばれ、暴虐を振り撒いている72回目の誕生日をおよそ2ヶ月先に控えている71歳の男は独り、苛立たし気に室内を右往左往しながら悪態を吐いていた。
……おかしい。昨日まであった愛蛇であるナギニからの連絡がないのだ。
一週間ほど前から、両親の墓参りとして【ゴドリック谷】へやって来るであろう小娘(アニー・ポッター)をへの対処として、アニー・ポッターの匂いを覚えさせたナギニを【ゴドリック谷】へ配置し、かつ、アニー・ポッターに接触させるに適した人物であるバチルダ・バグショットに成り代わらせておいたのだが、今日は未だにその定時的な連絡がない。
ナギニは、ダンブルドアが語るには〝〝あの〟ヴォルデモート卿が唯一〝愛と呼べるもの〟を注いだ対象〟である故、たった数分の遅延であれど、ヴォルデモート卿はそんな現状に言い知れぬ不安を募らせていた。
「……ちっ!」
最早何度目か解らない舌打ちが閉まりきった室内を反響する。……そもそも、なぜヴォルデモート自身が【ゴドリック谷】へ赴かなかったのか──なぜナギニではなく、〝手足〟とも呼べる≪死喰い人≫を【ゴドリック谷】へ配置しなかったのか。
実を云うと、それらの疑問の答えは明らかだったりする。
〝前者〟の──〝なぜヴォルデモート自身が【ゴドリック谷】へ赴かなかったのか〟と云う問いの答えは、〝ヴォルデモートが〝とある杖〟を探しているから〟であり。
そして後者の──〝なぜ≪死喰い人≫を【ゴドリック谷】へ配置しなかったのか〟とな問いには、〝ヴォルデモート卿はもう≪死喰い人≫を信用するのを諦めたから〟と答えられる。
……そう、数時間前ロナルド・ランスロー・ウィーズリーが【ゴドリック谷】に着くなり仙術で〝ナギニの気配のみ〟を察知した時に予想した様に…。
閑話休題。
「ちっ──仕方ない、俺様が直々に赴くか」
それから数分、ヴォルデモート卿はまたもや舌打ちをして自らが【ゴドリック谷】へ動き出す事を決意する。
……しかし、〝あの三人〟──もしくは〝あの二人〟の狙いを十分に理解していないヴォルデモートは、〝それ〟が〝彼と彼女〟の謀りである事を知らなかった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
11月1日になってから数十分。俺とアニーの姿は未だ──と云うより、〝また〟【ゴドリック谷】のジェームズ・ポッターとリリー・ポッター、そしてアニー・ポッターの銅像の前にあった。
……そう、この場に居るのは俺とアニーだけだ。ハーマイオニーはこの場に居ない。今頃は近くに張ってあるテントのベッドですぅすぅ、とおしとやかに寝息を発てているで事あろう。
何故ハーマイオニーが一緒に居ないのか──当然、ハーマイオニーを意地悪で除け者にしたいとかではなく、〝これから起こる事〟をハーマイオニーに見せるわけにはいかなかったからだ。
「なぁ、アニー」
「ん? どうしたの、ロン?」
「……本当に良かったのか?」
「うん。ボク、ロンの事を──真人君の事を信じてるから」
主部の無い問い掛けであったが、アニーはあっけらかんと答える。……実は〝このタイミング〟でハーマイオニーを行動不能にするのはまだ六年生であった約5ヶ月前からアニーと示し会わせていた事だった。
その理由は、上述した様に〝茶番〟だとは云え──アニーが〝死の呪文〟で死なない事が十中八九確定しているとは云え、ハーマイオニーに〝その場面〟を見せるわけにはいかなかったからだ。
【ゴドリック谷】にてアニーの両親の墓参りの後、アニーとハーマイオニーから距離をとりバチルダ・バグショット氏に扮したナギニを急襲して、特に問題なくナギニ──6個目の〝分霊箱〟は無事に破壊出来た。
……どうナギニを破壊したかと云うと、その方法は至極簡単で、ナギニの頭上へ〝姿あらわし〟しそのまま重力落下に任せ“バジリスクの牙”をぶっ刺したと云う塩梅だ。……その時〝防御〟に弾かれた場合についても対処法は有るにはあったのだが、その一手で終わってしまった。魔法への防御だったら多大に有効であったのだが、アニーを捕縛しておく必要があったのか物理的な防御策は成されていなかった。
閑話休題。
(……っ──来たかっ!)
そこで、ふと探知範囲に〝待っていた気配〟──〝お辞儀さん〟の気配が引っ掛かったのを察知する。……アニーからダンブルドア校長の言葉の又聞きだが、〝お辞儀さん〟が唯一と云って良い〝愛と呼べるモノ〟を注いでいるナギニを殺せば遅かれ早かれ〝お辞儀さん〟がやって来ると思っていた。
(……もう少しか)
かなりのスピードで、【ゴドリック谷】に到着した当初、ナギニの気配があった場所──バチルダ・バグショットの家へ〝お辞儀さん〟の気配が向かっていく。これもまた予想通りだ。
「アニー」
「はいよ」
アニーは俺が名前を呼ぶだけで俺の意図を察してくれて、前以てアニーから借りておいた“透明マント”をいそいそ、と被る俺から視線を切り、自身と両親の銅像に目を遣る。
バチルダ・バグショットの家からのナギニ──が扮したバチルダ・バグショットの足跡は残してあるので、恐らく3分もしない内に〝お辞儀さん〟はこの広場へやって来るだろう。
……そして二分強、俺の見立て通り、〝お辞儀さん〟は、この広場に姿を現す。ジェームズ・ポッターとリリー・ポッター、それからアニー・ポッター──奇しくも自身が建てたとも云えなくもない三名の銅像の前へ…。
SIDE END
SIDE アニー・リリー・ポッター
(ここ十年弱、いろんなことがあったなぁ…)
――「アニー・ポッターだな?」
「そうだよ」
去年もホグワーツで〝別荘〟を利用していたので──ボクの主観では約二年前に魔法省のエントランスで聞いた、どこか嗄れた声音で背後から声が掛けられる。
ロンが“透明マント”を被ってから二分ちょいのことだろうか。両親──ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの銅像を前に、ここ十年弱にあった出来事を回顧している時の事だった。
言葉尻に疑問符が付いているのが判るが、それは〝敢えて〟の形式的なモノでだと云う事を疼く額の傷が教えてくれる。ボクはロン──真人君みたいに人の一所作や、声音からその人の感情を読み取る事は出来ない。
……ではなぜ容易く自身がアニー・ポッターであると認めたのかと云うと、それは〝直感〟だという外無い。直感的に〝そう〟だと覚ったため声の主──ヴォルデモートの問いに馬鹿正直に答えたのだ。
出来るだけ緩慢な動作で後ろ──声の方向を向けば、ヴォルデモート卿が杖先をこちらへ向けて立っている。
「自らの死に場所を両親が死んだ場所と同じく【ゴドリック谷】と定めたか」
「そうだね」
「17年。……言葉にすれば短いが長かった」
「お前みたいなテロリストに遭遇しなければ──平穏無事に生きてこられた魔法使いや魔女は成人する年月だね」
「その17年は誰のお陰で生きてこられたっ! ……否、貴様が答える必要は無い。俺様は既に悟っているぞ」
ヴォルデモートはボクからしたら既知の内容だが──誇らしげな顔で、杖を細長い指でボクに見せ付ける様に撫でながら持論を述べていくが、ボクからしたらヴォルデモートのそんなドヤ顔より気になった事がある。
(……っ、〝あれ〟は…)
その指に嵌めてあるものを見て、舌打ちをしたくなる。ヴォルデモートの杖腕じゃない方の人差し指に見覚えのある指輪が──恐らくは、“護りの指輪S”が嵌められいたのだ。
「貴様の母親は17年前のあの夜、その身を犠牲に〝愛の守護魔法〟を貴様に施したのだ。……旧くから在る自己犠牲の魔法──判ってしまえばどうという事はない」
「けど、その〝自己犠牲の魔法のチカラ〟で十年以上もの間、辛酸を嘗めさせられたんだろう?」
「確かにそれは認めよう。……しかし貴様も理解しているだろう? 貴様が成人して以来その〝守護魔法〟とやらの効力が切れていることを」
ボクは短く首肯する。そんな事今更ヴォルデモートに言われるまでの事でもないことだ。
……ヴォルデモートは頷くだけで──未だ杖すら抜かず抵抗を見せないボクを見て、命を捨てたのかと思ったのか「潔いことだ」と既に勝ったかの様な科白の述べ、改めてボクに杖を向ける。
そしてヴォルデモートは〝その呪文〟を唱える。
「“息絶えよ(アバダ・ケダブラ)”!」
SIDE END
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「“息絶えよ(アバダ・ケダブラ)”!」
「……おっと」
――“立て(エレクト)”
〝お辞儀さん〟の放った〝死の呪文〟はアニーに当たり、アニーと〝お辞儀さん〟の両者はその場に崩れ落ちそうになるのを〝直立魔法〟で補助してやる。……もちろんアニーだけを。
「……やっぱ、死亡判定にならなかったか」
アニーが死んでなく、アニーに残っていた〝寄生虫〟の気配が消えているのを確認する。
「それにしても──〝保険〟は無駄になったか…」
アニーの17歳の誕生日プレゼントとして渡したネックレス──〝“リレイズ”が付与してある“蘇りの石”〟を思い出しながら重ねて呟く。
そして次はアニーと一緒に倒れ伏した〝お辞儀さん〟に近づき──杖と“護りの指輪S”をひったくり、更には追い打ちとばかりに…
――“石になれ(ペトリフィカス・トタルス)”
〝全身金縛り術〟の効果により〝お辞儀さん〟は地面の上で[I]の字となる。しかも〝ドライグの杖〟で掛けてあるので、まず解呪は不可能だろう。
……するとそこで、アニーが目を覚ます。
「うっ…」
「起きたか。……具合は?」
「……そこそこかな。……なんか〝分かるってばよ空間〟みたいなところでダンブルドア校長先生に会った」
「ふっ──ジョークが言えるなら余裕そうだな」
手をグーパーさせながらアニーは諧謔する。
軈て感覚を思い出したのか──「よしっ」と声をあげると、杖を抜き、今もなお地に伏している〝お辞儀さん〟へ向け、〝最後の行程〟に取り掛かる。
「“息絶えよ(アバダ・ケダブラ)”」
アニーの杖から、緑の閃光が迸り、〝お辞儀さん〟に当たる。
こうして、あっけなくイギリス魔法界を恐怖のどん底に陥れていた〝お辞儀さん〟──トム・マールヴォロ・リドルは死んだのであった。
SIDE END
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