駄目親父としっかり娘の珍道中
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第85話 後始末は自分の手でつけるのが世の中の鉄則 その1
妖刀紅桜事件と言う長い長い、本当に長い事件が終わって一時の平穏が江戸の町にはあった。(作者的にめっちゃ長く感じてます)
事件終結以降江戸町内で以前から頻繁に起こっていた辻斬りはパタリと止んでしまい、更には今まで頻繁に騒ぎを起こしていた攘夷志士達の活動が突然大人しくなった事もそれに起因すると思われる。
そのお陰なのか、此処歌舞伎町内では夜道を歩き回る人の姿がまたちらほら見受けられるようになった。
無論、夜間に出歩くのだから当然小火騒ぎ程度は起こる。
しかし、そんな程度の騒ぎならば町内を巡回している警察の手でどうにでも出来るレベルでしかないので、やはり平穏に違いはなかった。
その間、人々はその日一日を楽しむ者も居れば、密かに隠れて次なる事件に向けて爪を研ぐ者も居るかも知れないし、はたまた我関せずとダラダラ過ごす者も居たりと千差万別な人で大いに賑わいだしていた。
そんな徐々に活気を取り戻しつつある町内の中にあるとある屋台で、今回のお話は幕を開ける。
そう、これは一組の男女の淡い恋の物語・・・になれば良いかなぁ? っ的な内容だと思われます。
***
「親父ぃぃ! 熱燗おかわり、後がんも追加ねぇ」
既に相当酔っているのか、顔が真っ赤になってベロベロになりかけてる銀時が空になった徳利を持ち上げて店主に言った。
店主はそれに少ない言葉で応じ、即座に温めていた熱燗を取り出し、皿の上にがんもを乗せた。
その隣には銀時と同じように相当呑んでいるにも関わらず少ししか頬が赤くなっていない盾の守護獣ことザフィーラの姿もあった。
何とも奇妙な組み合わせなのだが、この組み合わせには実は理由がある。
「いんやぁ、お宅らのご主人様良い人だよねぇ。この俺におごってやれって言うなんてよぉ。全くお前らは良い主を持ったもんだ! 大事にしてやれよぉ」
「言われるまでもない。って言うか、他人の居る前で軽々しく言うな! 何処に誰がいるか分からないんだぞ!」
「へ~いへ~い、気を付けま~す」
完全に出来上がってしまっていた。ザフィーラの心配などどこ吹く風かの如く銀時は出された熱燗を美味そうに飲み、がんもを齧る。
前回、ザフィーラは銀時の素性を探るべく潜入を試みた。
理由は依然勃発したからくりメイド事件に置いての膨大な魔力の保持者が万事屋内に居るのではと言う仮説を頼りに調査を試みようとしたのが発端となる。
同様に山崎もそれに同行しており、彼の場合は銀時が攘夷志士達と裏で繋がってるのではと言う憶測を元に調査を行っていたのだそうだ。
だが、結果は失敗に終わり、共に潜入した山崎諸とも散々な目に遭い逃げかえると言う情けない結末を迎えてしまった。
その後シグナムに大目玉を食らったのだが、その事がはやての耳に入ってしまったらしく、今度は二人揃ってはやてに大目玉を食らってしまった。
それで、罪滅ぼしと言う名目の下、銀時にせめて飯でもおごってやれと言う主のご命令をこうして実行に移している次第だったりする。
そんで、銀時に何が食いたいかと訪ねた所「食い物よりも酒奢れ」と言う事になりこうして屋台でおでんを突くと言う事になったそうな。
「おぅい、親父ぃ! 熱燗も一杯。後今度はつくねとちくわ。後大根と卵くれ」
「ったく、ほどほどにしておけよ」
言いながらザフィーラもまた諦めたかのように熱燗を煽る。ザフィーラ自身酒を飲まない訳ではない。一応古代ベルカ時代でも勝利酒を飲む位の事はあった。だが、この江戸で飲む日本酒や焼酎と言った類の酒はまた違った味わいがするので彼自身結構気に入ってはいる。
それに結構飲みやすいので気が付くとどんどん酒が進んでしまい気づいた時にはへべれけになっていると言う危険性もあったりする。
現に今彼が世話になっている真選組の局長もやけ酒とか言って一升瓶丸々一本飲み干した際にはぶっ倒れたと言う事例もある。
気をつけねばなと、心に誓うザフィーラではあった。
「あんれれぇ、随分と珍しい組み合わせだねぇ」
そんな二人の間に割って入るかの様に入って来たのはザフィーラに良く似た存在だった。
彼と同じように主を持ち、その主の為に時に盾となり、時に刃となる存在。
そんで、ザフィーラと同じイヌ科に属する使い魔でもあるアルフが突然二人の間に割って入って来たのだ。
「んだぁ、誰かと思ったらあの金髪娘の金魚の糞じゃねぇか! 今日はどうしたんだ? 本体は何処行ったんだぁ?」
「人を金魚の糞みたいに言うなっての! フェイトは今屯所で寝てるよ。んで、お腹が空いたんで屯所の冷蔵庫に手を付けるのも悪いと思ったんでこうして外に出たら良い匂いがしたんでこうして来たってとこなんだよ」
「あっそう、んじゃお前も食ってけよ。今回は其処に居るしかめっ面犬野郎が奢ってくれるからよ」
「だから犬じゃない! 守護獣だっての」
そうは言うザフィーラ自身も相当酔っているのか少しムスッとしている。
そんなザフィーラが面白かったのか、ニンマリとした表情でアルフがザフィーラに詰め寄る。何時もなら無関心で通せるのだろうが、今回は良い感じに酒が回ってしまっているせいか、ことのほか彼女に目線が行ってしまう。
盾の守護獣も結局は雄だと言う事だ。
「なんだいなんだい? 何不貞腐れてるんだい? お姉さんに言って御覧よぉ」
「い、いや何でもない。お、おいくっ付くなよ」
酔ってはいないのに酔っているザフィーラに絡んでいるアルフを横で面白そうに眺めながら酒を呑む。
第三者ってのは気楽で良いもんだとこの時の銀時はそう思っていたそうだ。
「おい嬢ちゃん。何か食っていくかい? それとも食わねぇんなら営業妨害になるから帰ってくれるかい?」
「あぁ、はいはい。んじゃさぁ・・・なんでも良いから肉ちょうだい。後こいつらが飲んでるのあたしにもちょうだい」
「あいよ」
結局、銀時だけでなくアルフの分もザフィーラが受け持つ羽目になってしまった。
まぁ、財布の中身的に問題はないので良いのだが。
***
気が付けば、空に浮かんでいる月が西側に傾きつつある時刻まで三人は飲んで食ってを続けていた。
嫌、正確には二人だけだった。
と、言うのもアルフは途中で撃沈し、机の上に突っ伏して静かに寝息を立てていた。
普段から余り酒は飲む方じゃないのだろう。コップ数杯飲んだ時点で顔が真っ赤になり、そのまま倒れ込んで眠ってしまった。
何とも初々しい酔い方だったとこの時の二人は思っていたそうだ。
んで、銀時も相当酔いが回ってきたのかフラフラしている。
悪酔いとまではいかないがギリギリのラインいっぱいいっぱいで踏ん張っていると言った現状だ。後少しで瓦解してしまう銀時ダムの明日は如何に―――
そして、ザフィーラもまたついつい飲み続けてしまったのか、やはり頭が多少ふらつく感じはする。
自分で気を付けようと言ったのにこのざまでは何とも情けない。幸いなのは他の騎士達が居なかった事だろう。
特にシグナムなんかに今の自分の有り様を見られようものなら得物片手に追い掛け回される事間違いない。
そう思うと暖かい屋台の中で何故か背筋が冷たくなるのをこの時のザフィーラは通関したと言う。
「お客さん、そろそろお帰りになった方が良いんじゃないんですかい? そちらのお嬢ちゃんはもう寝ちゃってるみたいだし」
「そ、そうだな・・・銀時。勘定は置いておく。釣りはお前にやる」
銀時の傍に勘定を置くと、静かに眠っているアルフをそっと抱え上げて背中に背負った。
この時、お姫様抱っこじゃないのは雰囲気的にカップルに見られないようにする為の配慮だと後に語る。
決して彼女の胸元にある二つのふくよかな膨らみを背中で感じたいと言う邪な考えがあった訳ではないと此処に書き記しておく。
真相は知らないけどね―――
「んだぁ? お前らそのまま二次会でも行くのかぁ? それともホテルにでも直行ってかぁ? 熱いねぇお前ら。ヒューヒュー」
「馬鹿を言うな。俺とこいつは同じ屯所で寝泊まりしているからついでに連れて帰るだけの事だ。それ以外にはない」
「けっ、つまんねぇの。ま、良いさ。ちゃんと釣りは頂いていくぜ」
「あぁ」
それだけ言い残し、ザフィーラはアルフを背負って夜の街へと歩いて行った。
二人とも相当酔っぱらっていたが、まぁ此処は夜の街だ。酔っ払いは星の数ほどいる。ましてや酔っぱらった天人など珍しくもない。
心配するだけ野暮と言えよう。
銀時はそんな二人を少し見ていた後、ザフィーラの残した勘定を持って支払いを済ませようと親父に渡す。
「さて、俺もそろそろ帰るか。帰りにどっかコンビニにでも寄ってイチゴ牛乳でも買って―――」
「おい兄ちゃん」
そっと席を立ち、屋台を後にしようとする銀時の裾を親父の手が捕まえて来た。
「あん?」
「勘定・・・全然足りねぇぞ」
「・・・へ?」
よく見ると、親父の手に握られていたのは千円札と書かれた居ちまい切りの札だった。
ザフィーラはてっきり1万円を置いて行ったつもりだったのだろうが、彼が置いて行ったのは、代金とは到底及ばない額しか置いて行ってなかった事になる。
しかも、今しがた二人は帰ってしまった為に実質残りの額を自分が払わなければならない事になる。
これじゃタダ酒どころか損酒だ。
「あ・・・あの駄犬がぁぁ!」
「どうでも良いけど、さっさと払ってくれや。代金9890円な」
結局、残り8880円は銀時の懐から支払われる羽目になってしまった。
その時、銀時はすっかりへこんでしまい肩を落としながらとぼとぼと帰路についたとその時の目撃者は語っていた。
***
時刻は既に日が空に昇り、晴天が人々を見下ろす中、前回すっかり懐が寒くなってしまった銀時は、万事屋内にある自分の指定席でもある椅子の上に座ってぐったりしていた。
まだ昨晩の酒が残っているのだろう。青い顔をした銀時が微動だにせず唸り続けている光景が其処にはあった。
「あ~~、頭いって~~、気持ち悪ぃ~~」
「大丈夫ですか? お父様」
青ざめた顔で項垂れた如何にも画面真っ赤っかなひん死状態な勇者みたいな現状の銀時にシュテルは心配そうな視線を向けていた。
実際銀時がこんな状態になるのは何時もの事なのだろうが、生憎シュテルはまだ万事屋での経験がない為に二日酔いを引きずっている銀時がとても心配なのだそうだ。
現在、万事屋内には銀時とシュテルの二人しかいない。新八はこないだの自動防衛装置の取り外し云々で忙しく今日は仕事を休んでいるようだし、神楽は定春の散歩で今頃江戸町民たちを震え上がらせているに違いない。
そんな訳なので今、こうしてこの中に居るのは銀時とシュテルの二人しかいないと言う事になっている。
「あ~~、シュテル~~。茶~~くれ~~。もしくは水~~~。あ、でもやっぱイチゴ牛乳くれ~~」
「分かりました。少々お待ちくださいね」
てっきり台所まで取りに行くと思っていた銀時の目の前で、シュテルは目の前にある横長のテーブル上の一角を数度指で叩き始めた。
すると、近代的な機械音と共にテーブルの上に小型の操作パネルが姿を現してきた。
少なくとも、こんな機能は過去になかった筈・・・って言うか、原作でもこんな設備はなかった筈だ。
・・・多分―――
「・・・え? 何これ―――」
これには銀時自身も目を点にしてシュテルに尋ねる。そんな銀時を前にシュテルは黙ったままパネルを操作する。
一通り操作し終わった後、銀時の目をじっと見つめて――――
「単なる暇つぶしです」
と、答えた。
いや、暇つぶしで作るレベルの代物じゃないぞこれ。小学生の工作でパソコン作るようなレベルの話じゃないのこれ?
等と言う銀時の脳内の疑念やツッコミを一切スルーしてしまうシュテル。
果たして、彼女はボケ派なのか、それともツッコミ派なのか?
その詳細は未だ調査中ですのでこうご期待ください。
「どうぞ、お水とお茶とイチゴ牛乳です」
色々と問題点を抱えて脳内パンク寸前になってた銀時の目の前にコップ一杯のそれをそっと置く。
頭の良い読者様であればこの時点で気づくだろう。そう、置かれたのはたった一杯のコップだけだった。
あれ、おかしいなぁ。確か、シュテルはさっき『お水とお茶とイチゴ牛乳』って言ってた筈。
もしそうだったら普通ならコップが三つ並ぶ筈。それが何で一つだけ?
「お父様の要望通り三つ全て混合しました」
その時のシュテルの顔は何処かやり切った感満々な笑みを浮かべており、まるで子供が良い事をした後に親に『褒めて褒めて』とせがんでるようなそんな顔をしていた。
だが、目の前に置かれたそれはとても褒められた代物じゃない。
イチゴ牛乳と水とお茶をよりにもよってごちゃまぜにしてしまったのだから始末に負えない。
まぁ、仮に二種類だとしても頂けないのだけれど、今回は三種類混合されてしまっている。
流石にそんなのを飲みたいとは思えない。
幾ら大好きな食べ物とは言えそれを全て混合されたら流石に食べる気が起きないのと同じ意味だと思って頂ければ幸いです。
「どうしましたか? お飲みにならないのですか?」
「えと・・・シュテル・・・やっぱイチゴ牛乳だけで良いや。イチゴ牛乳だけくれ」
下手に濁すと何をするか分かったもんじゃない。此処はイチゴ牛乳を強調してそれだけを持ってきてもらう方が利口な考えだし、万が一変なのを持ってこられてもその時は多分そのままのイチゴと牛乳を持ってくるのだろうからまだ安心できる。
「イチゴ牛乳ですね。分かりました」
シュテルは委細承知と言った風に軽くうなずき、再度パネルを操作し始める。
今度は、部屋の真ん中にある応対用のテーブルとイスのあるスペースが丸々床下へと引っ込んでいき、その代わりに姿を現したのは無数のフラスコとビーカー。更に他にも何処か学校の理科の授業で見たような化学器具がズラリと並んだデスクがせりあがって来た。
何だろう、嫌な予感がしてきたぞ。
銀時の額を冷汗が流れ落ちる。
「もう少し待っててくださいね。今イチゴの乳を採取しているところですので」
ん? 今こいつ何て言った。
『イチゴ』の『乳』を『採取』するだって!?
何を馬鹿な事を言ってるんだこいつは。と思った銀時の目の前に映ったのは、巨大な透明色のガラスケースに入れられたイチゴの山で、その下部には透明のホースが繋がれており、そのホースの辿った先には一杯の空のコップが置かれていた。
「ふむ、しかしこれは難題ですね。イチゴからどうやって乳を採取するのか? その方法が未だに解明出来ずにいるのです。ですがご安心下さいお父様。必ずこの難題を突破し、イチゴの出す乳をお父様にお届けして差し上げます」
自信満々に言ってたシュテルの顔には何時の間に装着したのか何処ぞのがり勉君が身に着けそうな丸眼鏡を掛けており、さもインテリ風に眼鏡の真ん中をくいっと押し上げて呟いていた。
そんなシュテルを見て、銀時は何て声を掛けてやれば良いのか心底困り果ててしまっていた。
多分、シュテルはイチゴ牛乳を根本的に誤解してしまっている。
そもそも、イチゴは乳など出さない。だって果物だもん!
だから、幾ら数を揃えて狭いガラスケースの中に押し込んだとしてもイチゴから乳など出る筈がない。精々痛んで腐ったイチゴ汁が溜まってグラスに注がれる位にしかならない。
無論、そんなの断じて飲みたくない。
「シュテル、ちょっと良いか?」
「はい、何でしょうか?」
「お前、イチゴ牛乳ってどうやって作るか知ってるか?」
「愚問ですね。その程度既にこの脳内に記憶済みです」
自慢気に眼鏡を抑えながら語るシュテル。だが、目の前で行われている光景を見る限り何処か間違った考えをしている感がどうしても否めない。
「因みに、どうやて作ると思ってるんだ?」
「まず、イチゴを丸々太らせてから乳を搾る。これで新鮮なイチゴ牛乳が出来上がると、私は推測しています」
「うん、とりあえずその推測は却下の方針で行こうな」
やっぱりだった。やっぱりシュテルはイチゴ牛乳の作り方を激しく誤解している。
何でだよ! 部屋の内装弄繰り回したり新八の家を何処かの製薬企業が雇ったいかれた建築家が設計した屋敷以上のトラップハウスにしたり出来るのに、なんでたかだかイチゴ牛乳を作るってとこでそんな派手に躓くんだよ。
心底理解出来ないとしか言いようがない。
こいつ、もしかしてなのは以上に頭が良いのは確実なのだろうが、やっぱり何処か別の方向に知識が向いて行ってしまっている気がする。
だって、なのはだったらこんな精密機械なんて弄れないだろうし、仮に弄ったとしても数回叩いた時点で癇癪起こして叩き壊す未来しか見えない。
ともあれ、まずはイチゴ牛乳の作り方をレクチャーせねばならない。でないと、今後のイチゴ牛乳人生が危ぶまれてしまいかねないからだ。それは銀時からして見れば死活問題に匹敵すると言える。
「良いかシュテル。イチゴ牛乳ってのはだなぁ。イチゴと牛乳をミックスする飲み物なんだよ。別にイチゴから出たお乳を呑む訳じゃねぇんだ」
「それは本当ですか!? 私はてっきりこの箱に乗っている摩訶不思議な生き物がイチゴ牛乳とやらを生成するのかと推測していたのですが」
シュテルがじっと眺めているのは空になったイチゴ牛乳のパックだった。
その側面には中身を連想させるであろう可愛くイラストアップされたイチゴの絵が描かれている。大きなイチゴをド真ん中に置き、その真ん中に目と口を付けた所謂可愛いキャラクターをイメージして作ったのだと思われる。
「それにしても、多くの店を見て回ったのですが、このような顔をしたイチゴは見当たりませんでした。一体どこに行けばこの顔を持つイチゴを手に入れられるのでしょうか?」
「おい、それは販売用に業者が書いた架空のキャラクターだぞ。現実には居ない奴をどうやって探せって言うんだよ」
「何ですって! 現実には存在しない生き物なのですか!?」
途端にシュテルが大きく目を見開き、カルチャーショックでも受けたかの様な驚愕の顔をし始めた。まるでどっかの推理系の漫画などで閃いた瞬間や驚愕の瞬間を目の当たりにした場面を思わせる。
「こうしてはいられません! すぐに対策を講じなければ!」
「は? 対策!? 一体何の話だよ」
「現実世界に居ないと言う事は恐らくこの生き物が生息しているのは多次元世界・・・嫌、もしかしたら異次元、それとも平行世界、嫌別世界と言う可能性も捨てきれない・・・それとも、まだ人類に発見されていない未知の知的生命体と言う仮説も・・・嫌、或いは遺伝子操作をした作り出された生物兵器と言う線もある。もしそうだとしたらこうしてはいられません! すぐにこのイチゴと言う生物についてのデータを取らねば!」
一人ブツブツ言っていたかと思ったら今度はまたしても操作パネルを弄り始める。今度出て来たのはひと昔前にあった蛙の解剖実験を行うようなデスクがせりあがって来た。
多数のメスやハサミ。他には注射器や医療器具。更には多種多様な薬品やホルマリン漬け用の瓶などが多数セッティングされている。
「おい、お前何やってんだよ?」
「お静かに願います。今から私はこのイチゴについて詳細なデータを取らねばならないのです。全てが手遅れになる前に対策を講じなければ間に合いません!」
「嫌、だから何でそれでイチゴのデータを取るって事になるんだよ。そもそも俺はイチゴ牛乳が欲しいって言ったのに何でそうなったんだよ?」
「お父様は悠長に構え過ぎです! 私達がまごまごしている間にも、何処かの犯罪組織が恐ろしい生物兵器を製造しているかも知れないのですよ! 手遅れになる前に対策を取るのは戦術の基本です! 古代の兵法にも記されている立派な事なのですよ」
「古代の人間がイチゴ牛乳飲む為に其処までの事するとは思えねぇよ。大体ただのイチゴがどうやって生物兵器になるってんだよ」
段々頭が痛くなってきた。もしかしたら今目の前に居るシュテルは下手するとなのは以上に面倒な子になるかも知れない。
頭を抱えている銀時を尻目にシュテルはと言えば黙々とイチゴに関するデータ採取を行い続けていた。注射器を使い果汁を取り、メスで慎重にイチゴを切って内部の繊維を顕微鏡で確認し、他にも小中学校で習ったような理科の実験道具を使いあれこれデータの採取を行いだす始末。
変に頭が良いだけに一度反れ出すと修正する事すら困難になってしまう。
後書き
その2へつづく
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