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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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これから

賊から村を奪還した俺達は村の人達に報告すべく、隣の村に移動した。
森の中を歩くことになったので、美奈は丁奉に肩車してもらう。
こうして見るとやっぱり親子なんだな、と思う。
顔は似てないけど。

「しかし、縁殿が傷を負っている所は初めて見ましたぞ。」

「そういえば、俺も初めてかな。」

「これって傷と言えるのか。」

服の埃を払いながら、俺は言う。
そんな姿を星と一刀が物珍しいそうな顔で見ている。
確かに所々に擦り傷くらいの軽い怪我ができている。
これくらいならすぐに治る。
太史慈は目の前に立っている丁奉に視線を向ける。

「関忠さんはかなりの腕前と見ていましたが、丁奉さんも中々の腕の持ち主みたいですね。」

「いや、それは違う。」

と、話を聞いていたのか丁奉は足を止めてこちらに振り返る。

「関忠は手加減をしていた。」

「手加減ですか?」

丁奉の言葉に太史慈は興味深そうに聞き返す。
その言葉に丁奉は頷く。

「最初の初撃以外、関忠は攻撃してこなかった。
 それに刃ではなく峰で攻撃してきた。
 関忠は氣を操る事ができる。
 もっと氣を上手く扱えば、儂など容易く倒せた筈だ。」

その言葉を聞いて、全員が俺の方に視線を向ける。
堪らず俺は口笛を吹きながら、明後日の方を見る。
視線から逃げるように前へ進んだ。




「何故、自分が殺されるかもしれない状況で、関忠さんは手加減なんてしたのでしょうか?」

太史慈は気になったのか独り言のように呟いた。
俺はその訳を知っている。
前を歩いている縁の後ろ姿を見つつ、俺は言う。

「縁は赤ん坊の頃に親が賊に殺されているんだ。」

俺の言葉に三人は驚いたような顔をする。
この事はまだ星と出会う前に教えてくれた。
転生して、意識を持っていたからそりゃあきつかった、とあの時の縁は本当に辛そうな顔をしていた。

「だから、美奈を助けてくれたのも。」

「縁は家族が亡くなる悲しみを知っている。
 赤ん坊の時には何となく分かっていたらしいよ。」

転生の事は言えないので、軽く濁した言い方をする。

「赤ん坊の時から、ですか。
 それは何とも辛い経験を。」

太史慈はそんな気配を微塵に感じさせない縁の後ろ姿に視線を向けていた。

「だから、あいつは王になるって決めたらしい。
 自分が国を制覇して、そういう事を出来るだけ無くしたいって言ってた。
 この国に覆う哀しみの連鎖を止める。
 俺もその信念に惹かれたのかな。
 この世界で天の御使いとしてあいつの傍で戦うって決めたんだ。」

「貴方があの噂の天の御使いだったのか。」

丁奉の顔を見る限り、あの村にも俺の噂が広まっているらしい。

「丁奉さんに手加減したのも、貴方が傷ついて悲しむ美奈ちゃんの顔を見たくなかったからだと思う。」

丁奉に肩車している美奈は上から丁奉の顔を覗き込む。

「あの人って優しい人なんだね。」

美奈の言葉に俺達は頷く。
後ろから誰もついて来ていない事を知った縁は、こちらに振り向いて首を傾げている。
俺はそれを見て止めていた足を動かす。
それに続いて、皆も歩き出す。
縁は俺の隣まで移動すると耳打ちするように話しかける。

「何を話ししてたんだ?」

俺が何か話をしている事を気がついたのだろう。
気になったのだろう俺に聞いてきた。
言おうと思ったけど、これを言うと縁が恥ずかしい思いをするかもしれない。
なので、黙っておくことにした。

「秘密だ。」

「何だそれ。
 気になるぞ。」

村に着くまで、縁は俺に何度も聞いてくるが俺は質問に答えなかった。




結局、一刀があの時何を話したのか教えてくれなかった。
気になったがそれは追々聞いて行けばいい。
ともかく村に着いた。
村の人は丁奉や美奈を連れて来た事の意味を、理解したのか大はしゃぎで喜んだ。
丁奉は今まで村の人に迷惑をかけたので、深々と頭を下げた。

「本当に済まなかった。」

あれほどの巨体が頭を下げると、それはそれで圧倒される。
村人達はそれに戸惑いながらも笑顔で言う。

「何を言っているんだ。
 丁奉さんが居なかったら、俺達が飢え死にしていたんだ。」

「そうそう。
 感謝するのはこっちの方だよ。」

村の一人一人が感謝の言葉を口にする。
丁奉はその言葉を聞いて面を喰らったのか、眼を見開いている。
その後にもう一度、深々と頭を下げた。

「あのよろしいですか?」

頃合を見計らって、太史慈が手を挙げる。
俺達を含めた村にいる全員が太史慈に視線を向ける。

「私は貴方達にご報告したい事があってこの村に来ました。」

森であったときは友人に頼まれて、この村に来たと言っていたのを俺は思い出す。
何を言い出すのだろうか?

「この村の近くにある街に、貴方達村の人を移住させるように頼まれました。」

その言葉を聞いて、どよめきが広がる。
太史慈は言葉を続ける。

「この村は森の奥にありますので、兵を配備するのに時間がかかります。
 何より、ここまで孤立した村ですと、どうしても対処に遅れます。
 それは皆さまがよく分かっていると思います。」

確かにこの村がこれほど森の奥にある村じゃなければ、もっと簡単に助けを呼べたはずだ。
太史慈は彼らを街に移住させるよう、説得をしに来たのだろう。

「街には貴方達を迎え入れる準備は出来ています。
 生まれ育った村を捨てるのは未練が残るかもしれませんが、皆さんの安全や生活面は保障できます。
 どうでしょうか?」

皆の顔を見渡すように太史慈は言う。
村人は各々が俯いたり、顎に手を当てたりして考えている。
すると、その中の一人が手を挙げて言う。

「俺は移住するよ。
 今回みたいに娘が人質になるのは嫌だからな。」

その男の言葉を皮切りに、他の村人も移住するという声が出てきた。
結果、全員が街に移住する事になった。
それを聞いた太史慈は笑顔になって、頭を下げる。
村人達は移住する為に、それぞれの家に戻って準備を始めた。
地図を見ると、太史慈が指定した街のすぐ傍には荊州南陽があった。
星と一刀に確認を取って俺は太史慈に話をする。

「太史慈、彼らの護衛を手伝うよ。」

「ですが、そこまでして貰わなくても。」

「いいって。
 みんなも大丈夫だって言っているし、乗りかかった船だ。
 最後まで付き合うよ。」

「では、お言葉に甘えさせてもらいます。」

荷物を纏めた村人達が続々と集まってきた。
全員が集まると、俺と太史慈を先頭に、後ろには丁奉と星と一刀の位置で出発した。
森に待機させていた馬もしっかり回収して街に向かう。
あの村からそれほど離れていなかったので、夕方頃に街に着く事ができた。
太史慈は村の村長を連れて、その街を統治している人の元に向かった。
無事に手続きを終え、彼らはこの村で住む事になった。

「太史慈はこれからどうするんだ?」

この街で旅の準備を整えている時に俺は聞いた。

「無事に移住できたことを報告しなければなりません。」

「それってどこまで?」

「この近くの街。
 荊州南陽です。」

「それって俺達と目的地一緒じゃん。」

一刀が馬に荷物を乗せながら言う。

「なら、我らとその街までご一緒しませんか?」

対する星は街の中で美味しいメンマでも見つけたのか、酒とメンマを両手に言う。
俺はそんな星に軽くチョップを連続で頭を叩く。

「お前は準備もしないで何を食っているんだ。」

「いやぁ~、美味しいそうなメンマを見つけてしまいましてな。
 それに合わせて、飲んで欲しいと酒も進めてくれたのですよ。」

「完全に買わされているじゃねぇか。」

「しかし、絶品ですぞ。
 縁殿もいかがですか?」

「いらん!
 そんな事より、早く準備をしろ!」

俺達がこんな会話をしていると後ろから笑い声が聞こえた。

「すみません。
 少し可笑しかったので。」

少し笑いながらも太史慈は言う。

「それでは南陽までご一緒させてもらいます。」

「了解。
 夜には街に着く予定だ。
 それじゃあ行くぞ。」

と、俺達は出発しようと思った時だった。

「待ってくれ!!」

後ろから声をかけられたのは。
俺達は振りかえると、美奈を抱えて走る丁奉の姿が見えた。
ここまで走ってきたのだろう。
肩で息をしながら丁奉は言う。

「儂をお主達の旅について行かせてくれないか?」

「えっと・・・どうしてだ?」

一刀が丁奉に理由を聞いた。

「一言で言うなら関忠、お主の様な王に仕えてみたいと思ったからだ。」

どうして、丁奉が俺が王を目指す事を知っているんだ?
ちょっと考えて、思い出した。
あの時、森で一刀が話をしていたのはこの事だったのか。
俺は一刀に視線を向けると、明後日の方を向いていた。
あの野郎。

「丁奉、俺はまだ王でも何でもない。
 ただの旅人だ。
 それに娘さんもいる。」

「覚悟はできている。
 娘も承知の上だ。」

美奈の方に視線を向けると、笑顔を浮かべきた。
本当に承知しているのか疑問に思った。

「お主には恩がある。
 娘を救ってくれた恩が。
 何より話を聞いて、儂の中の血が騒いだのだ。
 かつて、一人の将としてこの国を救おうと思い、武将として活躍していたあの血が。
 お主の元でこの斧を振り、戦いたいと。」

決意の灯った眼で俺を見てくる。
見つめ合う事、数分。
はぁ~、と俺はため息を吐いた。

「美奈もついて来るなら俺も全力で守らないとな。」

「では・・・・」

「これからよろしく頼む、丁奉。
 いずれ、俺の国ができた時、その力と経験と知恵、存分に発揮してくれ。」

「忠義の証に儂の真名を預ける。
 儂の真名は豪鬼。」

「美奈は美奈って言うよ!」

豪鬼の紹介を聞いて、美奈も自分の名前を預けてくれる。
てか、真名だったのか。
豪鬼を見ると、気にはしていない、と言ってくれた。
太史慈を除いた俺達は真名を預け合った。
こうして、一刀に続く俺の臣下であり、仲間が増えた。

「では、改めて出発するか。」

豪鬼は美奈を馬に乗せ、俺達は街を出発した。 
 

 
後書き
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