蒼穹のカンヘル
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十一枚目
龍だ。目の前に龍がいる。
白銀の鱗に身を包み、ツメをもった白銀の翼をはためかせる西洋龍。
ここは…神器の中か?
「こうして顔を突き合わすのは初めてだな。
堕ちたる天使の血を引き先を知る者よ。
我が名はセルピヌス」
「ああ、はじめましてだ。
全ての天使を祝福せし祖なる龍よ。
俺の今生での名は姫島篝だ」
「何故ここに呼ばれたのか、分かるか?」
「こっちが聞きたいんだが」
能力とか能力とか能力とか。
「その説明のために呼んだのだ」
そいつぁ親切な事で。
「なら、教えてくれよセルピヌス。
カンヘルの力を、俺に何が出来るのかを」
それで、母さん達を護れるなら、そして…
「ふむ、いいだろう、我らが杖を出せ」
カンヘルを?まぁ、出すか。
シャラララン…
俺はカンヘルを召喚し、翼を展開した。
「面倒だ、実演するぞ」
え?
「実演?俺は何をすればいいんだ?」
「そこに立っていろ」
と、セルピヌスは言って…
グパァ!と口を開けた、口の中には光の球があり…
チュイン!と音を発ててビームが撃たれた
「え!?」
ヤバいヤバいヤバい!ガードしないと死ぬ!
俺は翼で自らを包み込みカンヘルを構え先生に習った防御魔方陣を展開する。
しかしパリンと音を発てて防御魔方陣は一瞬で破られた。
あ、死んだな。
【ウォール】
死を覚悟して目を瞑るが何も起きなかった。
恐る恐る目を開けると壁があった。
あらゆる光を飲み込む漆黒の壁が。
「それが力の一つ【ウォール】。
あらゆる物に対する防壁だ」
「し、死ぬかとおもった…」
いや、マジで、いきなり撃って来るなんて。
「くくっお前は死なんよ」
いや、確かに今のは手加減されてたと思うよ?
最上位の天使の一撃なんて本当に星を砕くぐらい有るだろうし。
「わかってるよ。手加減してくれたんだろう?」
「フフフ、そういう事ではないのだが…
まぁ、その、何だ、なるべく痛くないようにはしてやろう」
え?まだやるの?
「で、次は何すんの?痛いの?」
痛いのはやだなぁ…
「まぁ、頑張れと言っておこう。
それと、避けるなよ」
ヒュゥン!
と風切り音が聞こえ、俺の首は飛んだ。
【リバース】
俺は慌てて自分の首を触る。
「えっ、あっ、なっ、お、おれ、っい、今、し、死んっで!?」
そうだ、今の感覚は、七年前のと同じ。
『命が尽きる』感覚…あれは忘れられる筈がない。
「安心しろ篝、確かにお前の首は飛んだが死んではいない。
いや少し違うな、今のお前には生と死は同価値にして同じもの。
今のお前に生と死の境界は存在しない」
「不死……身?」
生と死の境界がない、生きてもいない、死んでもいない、つまり。
「顕界かつ冥界たる世界。
ネクロファンタジア…」
「くく、ネクロファンタジアか。
なかなか面白い事を言うじゃないか」
「笑い事じゃねーよぉ…」
「あといくつか力がある。
一次元に潜り込み瞬間転移する【ロスト】
生物以外のいかなるものも引き寄せる【アポート】。
この二つは既に体感したはずだ。
そしてあらゆる力を概念的に強化する【アクセル】。
体感時間を引き伸ばす【ブレイン】。
有りとあらゆる物を喰らい自らの糧にする【同化】。
有りとあらゆる物を閉じ込め空間をねじ曲げる【ワーム】」
「【ウォール】【リバース】【ロスト】
【アポート】【アクセル】【ブレイン】
【同化】【ワーム】…八つもあるのか…」
ロンギヌスの槍には届かないが…すごいな。
「何でこんなにあるんだ?」
「【同化】【アポート】以外は我が偉大なる同族の力だ。その杖に通してあるリングが我が偉大なる同族達の一部だ」
なるほど、実質的に五体の龍の、それも最上位の天使でもある存在の力か…ちょっと待てよ?
「なぁ…それって大丈夫なのか?」
「何がだ?」
「代償とかないのか?それだけの力をノーリスクで使えるとは思えない」
「確かに我らが力を使うには莫大な代償を必要とする。
ただの人間では宿っても発現すらしない。
ただの人間ではなしかしお前は堕天使の血を引いている。
普通に使うにはほぼノーリスクで扱えるだろう。
ただし、どれ程の力が使えるかはお前の力量次第。
コレは他の神器と同じだ」
俺の力量ね…
「なぁ、所で【同化】と【ワーム】ってどうやるの?」
「【同化】は意識して触れた物を侵食し同化する
【ワーム】は念じた物をねじ曲げる」
怖っ!え?なに?俺って物触っちゃまずい?
「それって日常生活大丈夫なのか?」
「お前が念じない限りな」
そか…気を付けよう
「ふむ、そろそろ潮時か」
え?
「なんの事だ?」
「起きろ寝坊助という事だ」
「は?」
そこで俺の意識はプツンと途切れた。
篝!かーがーりー!起きて!はーやーくー!
「うぅん…」
うるさいなぁ…
「おきろー!」
ばっ!
と布団を剥ぎ取られた。
「うぅん…もちっと寝かせてくれぇ…」
「今日はグリゴリ本部に行くんでしょ!」
………………
「そうだった!」
ガバッと起き上がり急いで居間に向かう。
俺とヴァーリ以外は全員そろっている。
「あらあら、ヴァーリちゃんの旦那さんはお寝坊ですね」
と、姉さんに言われて俺とヴァーリは真っ赤になった。
「だ、旦那って何言ってんのさ姉さん。
な、なぁヴァーリ?」
とヴァーリに振ると顔を真っ赤にして頭から湯気が出てた。
「あ、あぅあぅ…」
「あらあら、うふふ…」
「……………」
母さんも笑ってるし、父さんの口元も弛んでる…味方は!味方はいないのか!?
そうだ!セルピヌス!おい!セルピヌス!
『…………………』
ちくせう!味方がいねぇ!
「え、えっとぉ…ヴァーリ?」
「あぅあぅ…」
「おーい」
あ、ダメだこれ。どうしよう…頬っぺたつついてみようか?
ぷにぷにふにふに、あーやわらけぇ…
「に…」
あ、気が付いたかな?
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
スタタタタタタタタタタタタ、バタン!
「あらあら、うふふ…」
はぁ…、とため息をついて
「ヴァーリ呼んでくる」
「私がいってきますわ」
と姉さんが立ち上がりヴァーリの後を追う。
「先に食べましょう」
「はーい」
あ、そういえば…
「何時頃出るの?」
「9時だ」
「わかったー、母さんも来るんだよね?」
と聞くと
「いえ、私は行きませんわ」
なに?
「な、何で?」
「用事が有りませんもの」
そうか…なら
「母さんも来て、母さんが来ないなら俺は行かない」
行ける訳がない、誰も居ない家に母さんを独りにするなんて。
「えっと…篝?」
「既にアザゼルに話を通した。
準備がされている」
「母さんが来ればいいだけの話だ」
「え、えっとぉ…」
「どうして朱璃を連れて行く必要がある?
あそこはただの人間が居るには危険な場所だ」
だろうな、だが…
「母さんを独りにする訳にはいかない」
「ならば朱乃とヴァーリを…」
違う!そうじゃない!
「そうじゃないだろ?
父さんと俺は母さんから離れちゃ駄目だろう」
「篝、何が言いたいんだ?」
「だから!姫島本家が攻めて来たらどうするんだよ」
原作ではまだ先の話?そんな保証は何処にもない。
ヴァーリは女の子だし既に姉さんがグリゴリ幹部と面識がある、そして俺というイレギュラー。
「あなた…?」
「う、むぅ…」
父さんがいったんだろ!
俺達は母さんと姉さんとヴァーリを…守らなきゃいけないって!
男は女を守る為にあるって!
「父さんが、いったんだろ、なら」
「……わかった。朱璃、お前も来い」
わかってくれたかな。
「ええ、後でじっくりと聞かせて貰いますよ、アナタ?」
「あ、ああ」
あ、あれ?母さんが怒ってる…なんでだ?
「え、えっと…どうしたの?三人共」
ヴァーリの声だ、姉さんとヴァーリが戻って来た。
「篝、部屋まで聞こえてましたわ。
いったいどうしたのですか?」
「なんでもないよ」
「ですが…」
と姉さんが尋ねてくるが…
「はいはい!ご飯にしましょう?」
母さんが止めてくれて朝食だ。
父さんが居て姉さんが居てヴァーリが居て母さんが居る。
もしも姫島本家が攻めて来たら俺は戦わなければいけない。
ガキの思い上がり、そう言われるかも知れないけど、俺には力がある。
力は使う為にあるのだから、そして力ある者は相応の責任があるのだから。
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