東方果実鎧『紅』
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1.夢と神様
『葛葉ぁぁぁぁぁ!!!!』
『戒斗ぉぉォォォ!!!!』
人の気配を感じさせないゴーストタウンと化した都市で彼らは互いの名を叫び合い、その身をぶつけ合う。
―――――一人はこの世界への希望を胸に秘め。
―――――一人はこの世界への怒りを拳に秘め。
一人は幾千もの戦いを極めた王のようで、神々しい光と共にその身に白銀の鎧を纏う。
対するは、赤と黄色のステンドガラスのような体と頭の左右からは角を生やした【魔王】が如き姿。
『これで…終わりだ』
『それでも…俺は!!』
決着の時は来た。
魔王は白銀の鎧武者が持っていた、橙色の太刀を己の所有する大剣で吹き飛ばし、鎧武者は地面に膝をつく。
『うぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
魔王が振り下ろした大剣は―――――。
「zzz……んが」
目を覚ますと周りは静謐に包まれ、自分自身は珍しくスーツに身を包んでいた。
前を見ると学長らしき人が学校の歴史や創設者の人格者云々を熱弁していた。
そうだ、今日は大学の入学式だ。じゃあ、式典で寝るなよ。ってのは勘弁してもらいたい。バイトの疲れがすごかったんだ。それにかったるいことは眠くなるだろ。
時計を見ると十一時五十分を指していた。あと十分だあとは学部ごとに分かれて学生証をもらうだけの作業となる。もう少しだけ頑張りますか。
一時間がたった午後一時には。ほとんどの学部の生徒が解散していた。
これで晴れて自由の身。この日はバイトが入ってないので残りは休暇として使えるのだが、ここで問題が発生した。
「……迷った」
サークルや部活の勧誘を避けながら歩いて行ったら迷っていた。もはや来た道もわからない。
適当に歩けばつくだろうと思いいたり歩き始めると、視界の端に小さな人だかりが確認できた。
「ねぇ、ちょっとどいてくんない?私たち、これから用事があるから早く帰りたいんだけど」
「ツレねぇこと言うなよ~。俺たちと遊ぼうぜ~」
真ん中にいたのは少女が二人、黒髪に中折れ帽を被った少女に、金髪にナイトキャップを被った少女がナンパにあっているようだ。しかも金髪の方が黒髪の後ろに隠れちまってるし。
「って、あそこが出口じゃん」
運のないことに人だかりができている場所はちょうど校門だった。スルーしたかったのに。あそこを素通りできるほど俺人間性死んでねぇよ。しかたない、あれやるか。仕掛けるポイントはこの先の五連続ヘアピンカーブだ(ありません)。
「なあ、みんなで遊べば楽しいぜ?」
「ハァ……あんたたち。そろそろいい加減に「よお。やっと見つけたぜこんなとこにいたのか」?」
仕方ないから正面突破だ。あのトゲトゲ頭さんのあれで切り抜けるしかない。失敗してたけど。
「探したぞ」
「(……ああ、そういうと)ええ待ったわよ」
「そういうことなんで連れが世話になりましたー。通しておくんなー」
そういって駆け足でその場を離れた俺らをナンパしてたモブどもは茫然と見ているだけだった。
「しかし、成功するもんだな」
「いや~。さっきはありがとね。助かったわ」
「ありがとうございました!」
「まあ、気をつけな」
さて、障害がなくなったところでやっと休暇がやって、
「あ、あの!何かお礼を」
「いやいいよ。勝手にやったことだし」
「じゃあ、お礼とか関係なくちょっと私たちに付き合いなさいよ」
「んだよ。今度は逆ナンか?」
ちょっと挑発するように言ってみた。この逆ナンということによって「こいつ何調子乗ってんの?」と思わせるところがポイントだ。
「それでいいわよ。それにあいつらにまたナンパされたらどうすんのよ?助けたなら最後まで責任を持ちなさい」
ぐ、こいつ。痛いところつきやがる。だが正論だからぐうの音も出ない。嗚呼、俺の休暇がぁ。
「へいへい。改めて、葛葉智幸だ」
「私は宇佐美蓮子」
「マエリベリー・ハーンです」
これが、このメビウスの輪の物語の始まりだった。
「って、何夢の中で寝てるんだよ。懐かしいなこん畜生」
本当に懐かしい夢だ。一体何年前の記憶だろうか。
改めて、俺は葛葉智幸。今は宇宙の神様だ。
しばらく地球を離れていたんだが、折り言った事情で帰ってきたはいいんだが、
「さて、どこで寝泊まりしようか」
現在、森の中で絶賛迷子になってる。たぶん『ここ』に寄生してるはずなんだよな。さっき「アタイったらサイキョ―ね!」と言いながら妖精に襲われたから間違いないと思うんだが。
そう思いながら森の中を突き進んでいると、そこには真っ赤な館が立っていた。
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