おぢばにおかえり
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29部分:第五話 彩華ラーメンその六
第五話 彩華ラーメンその六
「大蒜の匂い詰所であんまりさせても」
「それは皆じゃない」
ああ言えばこう言うで全く。
「皆ここのラーメン食べてるんだし」
「それはそうだけれど」
彩華はチェーン店なんです。ですからおぢばのあちこちにお店があります。屋台でやっていたりもするんですよ。昔は天理高校の近くにもありました。
「けれど。やっぱり」
「それに皆わかってるし」
「わかってるって何がよ」
突っ込まずにはいられませんでした。
「また随分と引っ掛かる物言いね」
「だから俺と先輩のこと」
変なことを言い出しました。
「私と新一君?」
「だからさ、こうして一緒にラーメン食べる位の仲だって」
「そんなの普通じゃない」
そうですよね。それを何でやたらと強調するのか。
「何かおかしい?」
「いや、それって」
新一君の態度が急におかしくなりだしました。今までとは違った意味で。
「あの、つまりさ」
「だってラーメン位誰だって」
私はまた新一君に言いました。
「一緒に食べるんじゃないの?」
「それはそうだけれどさ」
「新一君どうしたのよ」
あんまり様子がおかしいんで言いました。
「急に慌てだしたっていうか何ていうか」
「いや、別にさ」
やっぱりおかしいです。その態度が。
「別に何もないけれど」
「じゃあいいじゃない」
それでも焦ったままです。
「それで。そうでしょ?」
「ま、まあね」
焦った声のまま私に答えます。
「じゃあまたね」
「時間があればまたね」
ラーメン位なら。別にデートじゃなければ。
「いいわよ」
「うん、それじゃあ」
私がこう言うとまた態度が変わりました。今度は急に機嫌がよくなった感じです。
「また一緒にね」
「ええ。じゃあ次は」
話の本題です。何かそこに行くまでに随分時間がかかった感じですけれど。
「ミスタードーナツよね」
「うん。そういえば先輩ってさ」
「何?」
「ドーナツとラーメン好きだよね」
こう言ってきました。
「よく食べてるけれど」
「おぢばっていえば彩華だし」
それこそ子供の頃から食べてます。何かと言うとよく連れてもらっていました。
「駅前のミスタードーナツも昔からあったし」
「ああ、昔からあったんだ」
「知らなかったの?」
「だって俺ここに帰ったのって中学生の時がはじめてだったし」
「そういえばそうだったわね」
そうなんです。新一君はそれまでおぢばに帰って来たことは一度もなかったそうなんです。こんな騒がしい子がいればすぐにわかりますけれど。
「ミスタードーナツは何回もあるけれどね」
「チェーン店だしね」
これは言うまでもありません。私の実家の近くにもあります。
「それにしても。早いわね」
「急にどうしたの?」
「もう食べ終えたの」
見たら。丼には麺も具も全くありません。奇麗に食べちゃっています。
「ラーメンの特大を」
「これ位普通でしょ」
「そうかしら」
新一君の返事に首を傾げます。
「そうは思わないけれど」
「先輩が遅いんじゃ?」
そのうえで逆にこう言い返してきました。
「まだ大分残ってるじゃない」
「遅いかしら」
言われるとそうかも、なんて考えます。
「まあいいかな。そこは人それぞれ」
新一君は急にリベラルになりました。
「僕は待つからさ。ゆっくりと食べてよ」
「悪いわね」
そう新一君に謝ってから食べるのを再開します。その間に新一君は漫画を持って来て読みだしました。見れば何かや九万がみたいです。
「野球?」
「うん、最近この漫画読んでるんだ」
何か表紙を見たら随分派手なユニフォームです。何処かで見たような。
「バファローズをメインにした漫画でさ」
「またそこなのね」
本当に近鉄が好きなんだなあ、って思います。今あのチームは親会社は違うのに。
「やっぱりあの豪快な野球がいいんだよ」
「巨人だって豪快よ」
「あそこは問題外だよ」
新一君は急に不機嫌な顔になりました。
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