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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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葛藤-コンフリクト-

 
前書き
3年ぶりの投稿で覚えてる奴がいるのかねぇ…(ニコニコ動画のとあるエシデ○シ様口調)

お久しぶりです。他に手掛けていた二次創作のため+以降のプロットの未完成ぶりと僕自身のセルフコントロールの皆無さのせいでかなり間が空きました。と言っても何もしてない訳でもなく、既存のエピソードにもところどころ修正と一部内容の書き直しを度々行っていました。拙いことに変わりなくても、少しでも整合性が保つことができていれば幸いです。
今後また投稿期間に長い空白期間が発生することもあるかと思いますが、皆さん記憶の片隅にこの二次創作があったな、と置いてもらえるだけでも幸いです。

こんな僕とこんな二次創作作品ですが、今後ともよろしくお願いいたします。 

 
シュウたちはその後の授業もいつものように受け、放課後を迎えた。
しかし、授業という落ち着いた空気の中で、彼は先日の出来事がどうしても頭から離れられなくて、集中しきれていなかった。
夜の闇に紛れ、人を食らう怪物。アンリエッタとタバサは奴等の暴威を防ぐべく人目を忍んで戦っている。だがもう彼女たちだけで対処できない状況にまで陥りつつあるという。そして信じられないことに自分には、奴等と戦える力があるらしい。
鞄に荷物を積めながら、深くため息を漏らした。
…情けないな、目の前のことに集中できないなんて。
「黒崎」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、学校に勤める教師の一人、和倉が教室へ入ってきた。なぜこの人を見ると、どこかで戦闘部隊の隊長でも勤めていたのではないかと錯覚することがある。
「…なんでしょうか、和倉先生」
「今日の授業だが、珍しく身が入っていなかったようだな」
どうやら今日のシュウの授業態度を見て何かあったのかを悟らったらしい。
「…いえ、昨晩よく眠れていなくて…すみません」
あまり眠れなかったのは事実だ。愛梨と共にビーストに襲われた時の光景が頭から離れないのだから。
「それはそうと、今日は授業以外にもやっていたことがあったのは気がついてたか?」
「え?」
「後日行われる文化祭についてだ。お前のクラスは西条先生が担任だが、どうやら菓子店を開くことに決まった。
ただ、いつも意見を言うお前が、珍しく最後まで意見を言うことがなかったのが気になったそうだが…やはり聞いていなかったみたいだな」
「すみません…」
話を聞く姿勢というものは大事なこと。それを怠ったことをシュウは詫びる。
「お前は常に真面目に授業を受けているし、試験においても優秀な成績を収め続けている。だがその分根を詰めていたのかもしれないな。何か悩みでも抱えているなら、聞いてやるぞ?」
「……いえ」
まさか、今でも存在が隠されている怪物と遭遇して殺されかけた、なんて言っても信じてもらえるはずがない。
「そうか。まぁ無理に話す必要もないだろう。お前の年のころだと、色々と疑問や矛盾と突き当たるものだからな」
和倉はシュウが何も言おうとしないことにも特に気にするようなそぶりは見せなかった。
適当に嘘をついて誤魔化そう…そのつもりだったのに。
「…和倉先生、少し浮世離れした話になりますが、構いませんか?」
「うん?」
「怪物バンニップの話を耳にして、実際にいたらどんなやつらだろう…って思ってて…」
結局正直に言っているも同然といえる疑問を口にしていた。笑われてもおかしくないのに、よほど堪えたのだろうか、あの時のことが。
「珍しいな。お前がそういうのに興味持つとは」
意外そうに和倉は言った。
そんなに珍しいのか?と思ったが、そうかもしれない。いるかもはっきりしない奴のことを考えても時間の無駄だなんて言ってしまうだろう。
「…かもしれません。でも、考えずにいられなくなってるんです。
その…もし、俺の知っている人たちが、そいつらの手にかかると思うと…ッ」
そういいかけたところで、シュウはとっさに自分の口を塞いだ。自分でも驚くほどにすばやく、自分の手がその先の言葉を言わせまいと勝手に動いて自分の口を覆っていた。なぜかそのとき、愛梨が自分の腕の中で……そうなったときの予想のヴィジョンがよぎっていた。
「都市伝説のバンニップが本当にいたら、か…」
和倉はシュウの近くの席に座り、天井を見上げながら言い始めた。
「もし、本当にそうだとして、それを知ってしまったとしたら、俺もきっとたくさんの疑問を抱えることになるだろうな。
奴等はどこからきたのか、なぜ人の目を偲んで人を襲うのか、どうして昼間から堂々と姿を見せようとしないで、都市伝説程度の存在に留まっていられるのか…考えれば考えるほど、疑問が増えていく。そしていつしか、疑問を抱くことにも疲弊するかもしれない」
和倉の言葉に、シュウはただ耳を傾け続けていた。妙な気もした。まるで実際にバンニップ…ビーストをその目で見たことがあるかのようにも聞こえた気がする。
「…だが、疑問を抱くことを捨てることは、その人間の成長を止めることと同じだ。人はあらゆる悩みや矛盾、疑問、苦悩…それらに遭遇する度に苦しみを感じて逃げ出したくなる臆病な生き物だが、同時にそれらを試練として乗り越える強さがある」
「…」
「すべては、お前次第だ。黒崎。何が信じるべき現実なのか、何をどうしたいのかは、それを最後に決めるのは自分自身だ」
和倉は席を立つと、シュウの方に手をぽんと置いた後、「じゃあな」と一言だけ声をかけて教室を後にした。
最後に決めるのは自分、か。確かにそのとおりだとは思う。でも…なぜかシュウの頭の中に、いやなイメージが浮かんでしまっていた。
愛梨が自分の腕の中で…息絶えるそのさまがなぜか鮮明に頭の中に浮かんでしまう。まるで、かつてそれを体験したことがあるかのようにリアルだった。
(ッ…)
胸が張り裂けそうになる。だから迷ってしまう。
もし、アンリエッタたちの言っていた『光の巨人の力』を使ってビーストと戦うことを決意したとしても、その先に望ましくない悲劇が訪れないとは限らない。そう思えてならなかった。自分が戦うことについては、愛梨も、『彼女』も納得はしないだろう。
(…彼女?)
俺は今、誰を浮かべた?愛梨以外に、誰かもう一人の後姿が頭の中をよぎったが…
「シューーウ!」
「冷!?」
右頬に冷たい感触を覚え。思わずシュウは反対方向へと飛びのいた。右頬を押さえながらそちらを見ると、愛梨が片手に自販機で買ってきたと思われるジュースの缶を持って笑っていた。
「なんだ、愛梨…お前か。脅かすな」
「だって、朝からずーっとボーっとしてばかりだもの。悪戯くらいしたくなっちゃうもん」
もん、って…。シュウははぁ、とため息を漏らす。
「ため息ばかり漏らしてると幸せ逃げちゃうよ?」
「余計なお世話だ。それにため息を漏らそうがもらすまいが、ここしばらくは妙に不幸に見舞われているだろ」
愛梨の一言に対し、シュウは皮肉交じりに言った。言うとおり、なぜか2年の平賀サイトとその一派の女子たちのおかげで変な不幸に見舞われている。
「まぁ、死ぬよりはマシか。俺の知る誰かがそうなるよりは…な」
自分はさらに深い不幸を知っている。ビーストという脅威にさらされるという恐怖を。そして誰がために力を振るっても結果が最悪な形となる………?
(…また妙なことを考えたな。まるで前にも体感したことがあったような…)
「シュウ?」
「…いや、なんでもない。それより、もう帰るぞ。今日は家まで送る」
「え!?」
急に家まで送ると言って来たシュウに、愛梨は目を見開いて驚いた。
「またあの化け物が現れないとも限らないだろ。いざというときは守れるようにはしておきたい」
「シュウ…えへへ」
想い人が自分を守ってくれる。その展開が嬉しかったのかすごく微笑んでいた。あのナメクジの怪物に教われてよかったかも…などと内心では思っていたほどだった。
荷物をまとめたのち、校門を出て、まず最初に愛梨の家まで彼女を送って行くことにした。
隣で帰路を歩く愛梨だが、歩いている最中ずっと笑みを浮かべ続けていた。
「ふふふ…」
「さっきから何ニヤニヤしているんだ。なんか気持ち悪いぞ?」
「むー、気持ち悪いって何?女の子に対して失礼ね。女の子にとって、気になる人から守ってもらうの、一番嬉しいことだもの」
気味が悪く感じたシュウが突っ込むと、愛梨はその言い方に機嫌を悪くする。そう言いながらも、彼女はシュウの腕に自分の手を回す。
「おい…!」
「こうして一緒にいるだけでも幸せなの。でも、次第にそれだけじゃなりなくなる。著との時間も離れたくないな。
いっそ…世界があたしとシュウだけになってしまえばいいのに」
(…?)
シュウは、彼女が最後の方の言い方に目を細めた。愛梨にしては、あまりにもらしくない言葉だ。愛梨は自分も他人も幸せであることを求める、今時珍しいタイプの、優しさの塊のような少女だったはずだ。だから、他人を頑なに蔑ろにするようなことは言わないはず。
(本当に…愛梨、なのか?)
一瞬彼女が本当に愛梨なのか疑った。
(そういえば、子供の頃のこいつとは、髪色も違うような…)
…いや、こいつがやたら俺にくっついて来るのは今に始まったことじゃないし、気のせいだろう。髪の色だって、この学校では金髪や赤髪、最近では鳶色の髪なんて現れ、花畑のようにカラフルだ。愛梨も彼らにあやかって今では紺色…ダークブルーの髪色に染めたのだろう。
「…俺としては少しは距離を置くことも覚えてほしいんだが」
腕を巻く力を強める愛梨に、シュウは視線を逸らしながら言った。
「何よ。あたしとこうしてるのが嫌なの?」
「別にそうまでは言わないさ。ただ…その………言わせるなよ。なんか言い辛い」
満足のいくコメントがもらえない愛梨は口をとがらせていたが、今のシュウの反応で一気に満面の笑みを見せてきた。
「なーんだ。照れてたんだ」
「照れてない!」
生暖かい目で見てくる愛梨の視線から、真っ赤になった自分の顔を必死にシュウは誤魔化していた。





愛梨を彼女の家まで送り届け、自分も遊園地の楽屋に戻ってきたシュウ。結局帰り道の途中、あの化け物は出てこなかった。ほっとしたものの、警戒するあまり拍子抜けしたところもある。
『明日の放課後も一緒に帰ろ?』
夕日が窓から差し込む楽屋に戻ると同時に、愛梨からの携帯メールにそのように文面があった。明日も、か。まぁ、別にいいか。ハリス園長から頼まれた買出しの予定もないし。
「ふぅ…」
携帯を傍らに置き、ベッドの上に腰掛け、鞄からあるものを取り出した。
アンリエッタの口から、自分には光の巨人の力があり、それで自分と愛梨を殺そうとしたビーストを倒したという話を聞いたその日に見つけた、奇妙な剣。ベッドの上に寝転がって天井を仰ぎながらそれを眺めた。
「光の巨人…ねぇ」
自分にはその巨人となったときの記憶がはっきりしなかった。でも…こうして、どこかで購入した覚えさえもなく、いつの間にか持っていたこの剣を握っていると、不思議な力を感じて、アンリエッタの話が本当だと認識させられる。
とはいえ、あんな化け物を倒せるということは、近いうちに戦うことを義務付けられたようなものでもあり、同時にそれが、自分が想像している以上に過酷なものであるということだろう。和倉先生は、『最後に決めるのは自分だ』と言った。あの人のことだから、後悔しない選択をしろということなのだろう。でも、あの言葉があっても不安と疑惑ばかりが募る。
(なんなんだ…どうしてこうも頭の中がもやもやする)
和倉の言葉に押されて、俺は戦う!な熱血少年王道漫画的な展開もあっただろう。でも、自分はそこまで単純になりきれないし、軽率にそんな選択をとるべきでもないと考えている。もし自分が巨人の力を行使してビーストと戦うことが『理屈として正しい』ことだとしても、それが自分にとって本当に望ましい未来が来るなんてありえない。寧ろ、地獄のような未来が来ると考えるべきだ。
(って、まるで昔に経験してきたような考えだな)
シュウは体を起こした。少なくとも自分は、心に強く刻みつけられるような悲劇に見舞われた覚えはない。その割には、かつて経験したことに対する恐れのようなものが自分の中にあった。
…やめよう。そろそろ違うことを考えた方がいい。どうせ答えなんて見つけられやしない。
首を振って頭の中の靄を振り払うシュウは、楽屋の玄関の方に目をやる。
(…にしても、憐の奴遅いな。買出しに出ていたのか?それとも勝手に遊具の点検でもしてるのか?)
憐とはここで一緒に暮らしている間柄だ。一緒の高校に通い合っている身でありながら、たまにこうして互いに別々の時間を過ごすこともある。
メールでも打って連絡を取ってみようと思った…そのときだった。
「ん?」
白い短剣『エボルトラスター』の、さっきまでまったく明滅していなかったランプが、点滅し始めていた。ドクン、ドクン、と心臓の鼓動音のような音も聞こえる。
それに伴って、シュウの頭の中に、とある光景が流れ込んできた。

ヴィジョンの中の景色は、夜。それも人通りの少ない裏道。
おぞましい怪物の鳴き声が聞こえる。嫌な鳴き声だ。獲物を見つけて歓喜にうち震えているのを感じる。そして楽しんでいる。その獲物の恐怖を、ひたすら煽り続けている。
地の底から生える触手、それに襲われているのは…数人単位の子供たちと…

先日出会った、一学年下の後輩に当たるティファニアだった。

「ッ!」
彼女の顔と子供たちをヴィジョンの中に見た瞬間、シュウは無意識のうちに体を起こして楽屋を飛び出していた。
無我夢中だった。自分でもどうして、ここまで衝動的になれたのか不思議だった。本能のように、彼はバイクにまたいで街の方へ繰り出した。
「ふぅ…買い出し終了!シュウ、晩飯買ってきたぞ…って、あれ?」
買い物袋を大量に持った憐が戻ってきたのは、シュウが楽屋を出てからしばらく時間が経ってからだった。





放課後、サイトは家に戻ってきた。彼の両親はハワイアンレストランを営んでいて、彼もたまに店の手伝いを任されることがある。家はその近くに建っている。
が、サイトは自分の家に対して違和感を覚えた。
(ここ…俺の家だよな?)
なんか違う気がした。もっと自分の家はこう…特に店とか小さな病院とか、そんな特別な感じはまったくないごく普通の家だったような…。
…いや、気のせいだよな。何を考えていたのだろう、自分に対して呆れ笑いを浮かべるサイトは玄関から家の中に入った。
「ふぅ…ただいま~」
「あら、お帰りサイト。今日は遅刻しないで済んだ?」
台所の方から母の声が聞こえてきた。
「…」
「今日もダメだったみたいね」
諸星アンヌ。実の両親が亡くなり、引き取り手もなかったサイトを、夫と共に養子として引き取ってくれた女性だ。
「疲れてるみたいね。例の転校生の子とまた揉めたのかしら?」
「今日はちょっと違うよ。実は…」
アンヌもサイトから、ルイズのことは聞いている。そのルイズが、サイトを巡ってキュルケと何度も喧嘩ばかりしていることもだ。
サイトはアンヌに、今日学校で決まったことを話した。
「なるほどねぇ。喧嘩ばかりで学校側も困ったから、学園祭のミスコンで平和的に決着付けろってこと」
「うん。けど…あの二人、本当にこれで喧嘩しなくなるかな…」
実家の事情や、子供のころからの因縁が深すぎるあの二人だ。自分たちが男子の中で特に気にしているサイトの説得にも耳を貸さず、かつヒートアップするあまり周りの迷惑を考えずに、自分たちが上と主張し続けようとしている。ここしばらくはサイトの存在を巡っての言い争いも多いが、それを抜きにしても別の要件で喧嘩を始める。アンリエッタの口からやめるように言っても、時間が少し経過しただけですぐにまたことを繰り返すことも判明した。もはやこの手しかないとしか思えないが、うまくいくかどうかの不安もある。ミスコンでの結果に納得せず、またお互いに対して挑戦的になって喧嘩を繰り返さないとも限らない。
「サイト、そこはあの二人の間にいられるあなたにかかっているわ。あの二人が不仲でもあなたはあの二人と仲は悪くないのでしょう?」
「それは、まぁ…」
「あなたももう少ししたら大人になる年齢よ。今のうちに、女の子への対応の仕方を身に着けておきなさい。シエスタちゃんをお嫁にもらうときに備えて、ね?」
「シエスタ?いやいやいや、俺とシエスタはそんな関係じゃないよ。それに、寝坊ばかりの俺みたいなのよりもっといい奴いるだろ」
確かにシエスタは彼女に迎えるには決して悪くない。愛嬌、スタイル、家事スキルの高さ。しかも加えてラクロス部のエースだ。クラスでも彼女にしたい女子ランキングでも上位に立っているらしい。それもあってシエスタと幼馴染みで昔から仲のいいサイトは、よく男子から羨ましいと嫉妬と羨望の目で見られる。
そんなシエスタが自分に好意を持っていることは、さすがにルイズと最悪な出会いを果たす直前で、彼女からキスをせがまれた時に気づいた。
が、サイトは自分でも最高の幼馴染を持っていると思ったのに、最近はその好意に対して、どうも奥手になりがちだった。親同士が深い縁のある者同士で、今まで家族のような付き合いだったからだろうか。
「…はぁ」
「な、なんだよそのため息」
我が子のその態度にアンヌは呆れたようにため息を漏らした。
「何でもないわ。
あ、そうそう。サイト、悪いけど今から買い出しに行ってくれないかしら?あの人に頼んでたんだけど、あの人ったら買い忘れてたみたいなのよ」
アンヌは話を切り替え、ふと思い出したことを頼んできた。
「父さんが?また農場の仕事で手一杯だったんじゃないの?」
サイトの義父は、このハワイアンレストランとは別に、小さな農場も経営している。シエスタの家族と共に運営していて、そこで作った食材をレストランで使っていたりする。思えば、結構自分の家はそれなりに富んでいるかもしれない。
「かもしれないわね。もう慣れたけど、若い頃からどこか抜けてるところあるのよね。特に女性絡みでね。あなたと同じね、変なところばかり似ちゃうのかしら」
「…」
言い返したい気持ちがあるのに反論できない。
父は確かに、若いころに悪い女に何度かそそのかされたことがあるとかいうが…養子とはいえ、親の変な部分が受け継がれてしまったことに、サイトはちょっと自分が情けなく、そして軽く父を恨みたくなった。
「町で知らない女性に話しかけられても騙されちゃダメよ?あんたも女の子に弱いんだから」
「へいへい」
アンヌのその言葉を背に受け、サイトは買い出しに向かった。



バイクで夜の街を走りながら、シュウはすぐにヴィジョンの中で見た場所へと向かう。
「くそ…ティファニアの奴、何度も襲われやがって………ッ?」
走っている時、不意にまた違和感のある言い方をした。何度も襲われた?また妙なことを口走ってしまった。ティファニアのことを知ったのはつい先日の事ではないか。まるで前から知っていたような自分の口ぶり。妄想癖でもあるのだろうかと、自分でも認めたくない何かがあるのかと疑惑してしまう。
こんなこと考えている場合じゃない。彼はとにかくバイクを走らせた。不思議なことに、かなり飛ばしていたはずなのに、あっという間にその場所へと彼はたどり着いた。
ヴィジョンで見たとおりだった。
人通りの少ない、建物も都市部の中で少なく小さいエリア。街頭も少ないため周囲は夜の闇が覆い始め、暗くなっていた。近くに公園があるが…事件はそこで起こっていた。




「さて、と…」
買出しも一通り終わったころには、もう太陽も沈みきった夜となっていた。暗い帰路をたどりながら、サイトは自宅へと戻っていく。その際、彼は歩道橋から、遠くに見える町の公園を見下ろした。幼いころ、シエスタと一緒になって遊んでいた公園だ。
「…うーん」
だが、その記憶にサイトは違和感があった。シエスタとは本当に幼馴染だっただろうか。最近になって疑問が湧いていた。彼女通さない頃から遊んだり世話してもらった記憶はあるのに、それが本当なのか疑惑している。
ま、深く考えても仕方ないよな。そんなことより
サイトは適当に、沸き上がった疑念を捨てて家へと向かう。

しかし、その時だった。公園の方から何かが爆発したような音が聞こえた。
「な、なんだ!!?」
突然の爆音にサイトは驚いた。今の音は一体?気になったサイトは衝動に駆られるように公園へと向かった。
向かう最中、サイトは公園の方角を見ながら考える。さっきの音はなんだろう。花火が爆破したなんてものでもない。一体何があった?警察にでも連絡を入れるべきか?そう思い、携帯を取り出そうとした。
その時だった。その携帯に着信が鳴った。
「も、もしもし!」
『サイトさん、今そちらの方でビーストが現れました!すぐに急行し対処をお願いします!』
「そ、その声って…姫様!?」
『姫?…あの、私はアンリエッタです。我が家代々の使命に従い、チーム「ナイトレイダー」のリーダーで、あなたはその一員…お忘れになったんですか?』
電話の相手はアンリエッタであった。そう言われて、サイトは思い出した。彼女は我が校の成績優秀且つ美人で人徳ありの生徒会長。しかしその裏では、スペースビーストによって苦しめられる多くの人々を秘密裏に巣食うべく活動するグループ「ナイトレイダー」のリーダーを務めている。そして自分は……
そんな彼女の正義感に共感して力を貸している者…その一人だ。
(そ、そうだった。俺何を言い出してんだ?姫様って…そりゃ、ちょっとどこかの国の王女様って感じだけど…)
どうして思い出せなかったのだろうか。もしかして父親が冷蔵庫に仕舞っていた酒をジュースと間違えて飲んでしまったのだろうか。などと、シャレにならないことを予想している間に、公園の方から見えた巨大な影が、公園にて何かを襲って暴れていた。



地面から金切声のような鳴き声が響き、気色の悪い触手がうねりながら生えていた。
その下では3人ほどの子供たち、そして…彼らを守るように、ティファニアが子供たちを強く抱きしめながら少しずつ後退していた。
「うあああん…」
「大丈夫、お姉ちゃんがいるから…」
泣き止ませようにも、子供たちは恐怖のあまりその場で膝を着いて泣きじゃくってしまい、ティファニアも子供たちを置いていくことなど到底できず、逃げることもままならなかった。そして彼女自身も猛烈な恐怖で心が支配されかけていた。子供たちがいなかったら、逆に毅然としなければという意識さえもなかったかもしれない。体がすごく震えている。
(な、なんなの…この化け物たち…!?)
地面から生えたこの妙な触手が襲ってきたのは、数分前。ティファニアが公園で遊んでいる子供たちのもとに歩み寄ってきた途端、地面を突き破って現れた。そしてすかさず自分たちに向けてその触手を叩きつけてきた。だが彼らに直撃はせず、すぐ近くの地面を狙って触手はその身を振り落していた。この触手は…ビーストは人の恐怖をあおり、それを捕食する。獲物を美味しく仕上げるために、彼女たちの恐怖を煽ろうと、わざと彼女たちをすぐに殺そうとしなかったのだ。こんな化け物と遭遇するとは夢にも思わなかったテファたちがそれに気づくはずもなかった。
「キュオオオオオオ!!!」
「ッ!」
地面から怪物の鳴き声が聞こえる。何とか子供たちを守るために心を強く持とうとしていたティファニアだが、その鳴き声を聞くたびに恐怖で心が折れそうになった。さっきから何度も触手から走って逃げた。だがこの触手はどれほど全力で走っても簡単に追いついて来る。そして…地面から再び這い出てきた触手は、偶然にもちょうど真上にいたティファニアを襲った。
「あぐ…!!」
跳ね上げられたティファニアは宙を舞い、草の上に落下した。
「お姉ちゃん!」「テファ姉ちゃん!!」
3人の子供たちは、さすがに姉と慕う少女の危機を目の当たりにして、その時だけ恐怖を忘れて彼女の元へ駆け寄った。
「うぅ…」
「お姉ちゃん、足が!!」
「だ、大丈夫…大丈夫だから」
触手の地面からの攻撃を受けた際は地面から押し上げられるだけだったが、攻撃と落下の拍子にティファニアは足に酷い傷を負ってしまい、血が彼女の白い足を赤く染め上げていた。
彼女自身、もう体力も限界で子供たちを少しでも安心させようと抱きしめるだけで精一杯だった。子供たちを先に逃がすことも考えたが、そんな隙もなかった。
(こういう時に、『あの人』が来てくれたら…『あの時』のように…)
無我夢中でティファニアは心の中で、とにかく助けを求めた。
来たところで助かるのかも、来るかどうかなんてわからない誰かの助けを。
(…え?…あの人?あの人って…誰?マチルダ姉さん、それともアス…)

その助けは、彼女の願いに応えるように現れた。

到着したバイクから降りたシュウは、ヘルメットを捨てて、ティファニアたちを食らおうとする触手を見上げた。
「バグバズンか………ッ、またか」
また同じようなことがその身に起きた。見たこともない怪物なのに、なぜかその名前が口から漏れ出た。さっき自分の頭の中に浮かんだ、今この場で命の危機にさらされているティファニアたちのヴィジョンのように、アンリエッタの言っていた巨人の力とやらが自分の身に宿っているからなのか?
考えている間に、触手はもう十分弄んだとばかりに、今度は絶対に外すまいとその身を振り下ろした。
死を覚悟してさらに力強く子供たちを抱きしめるティファニア。
「!」
させるか!!シュウはすぐに白い短剣、エボルトラスターを鞘から引き抜いた。
赤い光が刀身からあふれ出て、自分の身を包んだ。
この感覚だ…自分の中から無限とも感じられる力が溢れ出てくる。そうだ、愛梨と共に下校した際に初めてビーストに襲われた時…この感覚に身をゆだねると同時に、巨人に変身した。そして巨大になったその拳で、ペドレオンを地面に圧し潰した。
(そうか、あの会長たちの言っていた通りだったということか)
ようやくシュウは、初めて変身したときの記憶が戻った。
それは一瞬のことだった。巨人へ変身した彼は、ティファニアを襲おうとした触手を、彼女たちに届く前に引っ掴んだ。
「ギギギギギ!!」
地面の下に潜むビースト…『インセクトタイプビースト・バグバズン』の不快を露わにした鳴き声が聞こえてくる。大方食事の邪魔をされて怒っているのだろうが、そんな都合など知ったことではない。巨人となったシュウは必死にティファニアに伸びようとしている触手を、敢えて自分の腕に絡みつかせながら、彼女たちを守ろうとしていた。


「………え…?」
未だ自分たちに、化け物の攻撃が来ないことを不思議に思い、恐る恐る顔を上げるティファニアたち。当然のごとく、銀色の巨人の登場という、信じられない光景を目の当たりにしたこともあって驚愕を露わにした。
「なに?あの巨人…」
「でも、かっこいい…!!」
うろたえる子供たち。だが子供たちの中で、二人の少年たちはネクサスの雄姿に強く惹かれた。ただ、一方でティファニアは違う感覚で見ていた。
(銀色の、巨人…)
自らの青い瞳の中に、その銀色に輝く姿を焼き付ける。見たことなんてない。あんな存在が実在しているならTVでも話題になるに違いない存在だ。
それなのに…自分でもおかしいと思う感覚を覚えた。
見たことないはずなのに……強く見覚えを感じた。
「ウルトラマン…」
巨人の戦う姿を見て、そんな単語を無意識のうちに口にした。


「やべぇ!」
こうしちゃいられねぇと、サイトは懐から眼鏡型変身アイテム…『ウルトラゼロアイ』を取り出した。
するとその時、そのタイミングで夜空の彼方から何かが飛んできた。
(流れ星?)
思わずサイトは立ち止まり、その赤い光を見る。しかし、驚くのはその次からだった。赤い流星は、公園の真上へと飛来し、そのまま地上に向かって落下した。まばゆい光にサイトは目を伏せる。目深越しにもその光は強く輝いていた。
光が収まっていき、サイトも目を開く。
目を疑う光景だった。
赤い流星は、銀色の巨人となった。
「ね、ネクサス…」
巨人を見たとき、サイトは無意識のうちに名前を口にした。見たこともないはずの巨人に、以前から見たことのある感覚を覚えながら。



ウルトラマンネクサス・アンファンスは自分の右腕に、わざと地下から延びるバグバズンの触手を絡みつかせると、絡まった右腕と残された左腕の両方で触手を絶対に逃がすまいと掴み、ティファニアたちとは逆の方角へと引っ張り上げた。数メートル、10数メートル分と引っ張り続け、ネクサスは腕のアームドネクサスの輝きを放つと同時に、超パワーを込めてより一層力強く引っ張り上げた。
「ヌウウウウウウ…ディア!!」
すると、触手を限界まで引っ張り上げられたバグバズンは、ついに地上へ大きな地鳴りと共に、その巨大な姿を晒された、さらにネクサスは、自分の腕に絡みついていたバグバズンの触手を、アームドネクサスから生えた刃『エルボーカッター』で切り裂いた。
「ギイイイイオオオオオオ!!」
体の一部である触手を千切られたバグバズンは苦痛に悶えた。
すかさずネクサスはバグバズンに掴み掛り、力押しでバグバズンを押し出す。抵抗するバグバズンだが、ネクサスの強靭な力によってずるずる押し出されていく。十分に距離が開いたところで、彼はバグバズンの胸部を前蹴りで押しのける。押し出されていくバグバズンがまた前進してネクサスを襲う。それに対して彼は飛び掛かり、バグバズンの頭を脇腹に挟み込んでヘッドロックをかけた。数秒間、そのまま首を締め上げながらバグバズンが息を切らすまで続けたところで、いったん手を離したネクサスは顎を殴り上げ、手刀を脳天に叩きつけた。一度の攻撃すべてに、空間を切り裂いたような光のスパークが走る。その光の強さは、それだけネクサスとなったシュウの力強さを物語っていた。怯みを感じつつも、バグバズンは咆哮を轟かせながら、ネクサスに向けて両腕でジャブを連続して繰り出す。軽快に後退しながら避け、反撃に顔面にハイキックをお見舞いし、バグバズンの腕を掴んだ彼は遠くに向けて投げ倒した。
「ディアアアアア!!」
「ギイイオオオオオ!!?」
背中を打ち付け、地面の上でグロッキーになるバグバズン。
こいつは敵じゃない。今なら止めをさせる。そう思って倒れているバグバズンに近づくネクサス。
しかし、ここでネクサスの危機を呼び込む予想外の事態が起きた。
ネクサスとバグバズンが交戦している地点の後ろより、土飛沫が巻き起こり、大地を掘り進んできたであろう怪獣が新たに現れたのである。
「グルオオオオオ!」
『肉食地底怪獣ダイゲルン』。その名の通り肉食故に、ビーストと同様人間をも食す恐るべき凶暴な怪獣だ。
「!?」
もう一体だと!
バグバズンと組み合っているネクサスは動揺した。
それも見たことのない怪獣。こいつもアンリエッタの言っていたビーストの一体なのか?そんな素朴な疑問を抱く間もなく、ダイゲルンはネクサスに襲いかかってきた。
その身を挺してバグバズンを拘束している今のネクサスに、ダイゲルンの猛攻を飛べる術はなかった。両腕の乱打がネクサスに炸裂し、その拍子にネクサスはバグバズンを放してしまい、さらにはそのバグバズンから体当たりを受けて突き飛ばされてしまう。
吹っ飛んだネクサスに、今度はダイゲルンが交代して襲い掛かる。いや、交代と言うよりも…横取りというべきだろうか。ダイゲルンはその大きな口をおっぴろげてネクサスを食らわんと迫ってきていた。
ネクサスはそれに気づき、迫ってきたダイゲルンの上下の顎を同時に捕らえる。辛うじて食われずに済んだが、ダイゲルンは頭からネクサスをかじってやろうと顎をさらに押し付けてくる。
じりじりと、地面をえぐりながらもネクサスはダイゲルンの顎を捕まえたまま、押し出されまいと踏ん張り続ける。
でも、ダイゲルンに気を取られていたせいで、今度はバグバズンのことを失念していた彼は、バグバズンが伸ばしてきた触手に足を絡め取られ引っ張られた。その際に危うくダイゲルンの牙がネクサスの体をかすめたが、ダイゲルンの牙は空を切り、ネクサスはそのままバグバズンの方へ引き摺り寄せられていく。
バグバズンは彼の足が眼前まで来たこところで、彼の足にかみついた。
「グァ!!?」
鋭いかぎ爪が……ネクサスの太ももに突き刺さった。引き抜かれると同時に、彼の足から血のように光が噴出した。
「グウウアアアアア!!!」
しまった…!ネクサスは激痛に苦しみ、膝を着いて傷口を抑え込んだ。すかさず、バグバズンはネクサスに向けて跳躍を加えたタックルを叩き込んできた。上から押し潰されるようにのしかかられ、彼は体中に強い圧力を受ける。
身動きを封じきったバグバズンは、顔からネクサスを補食しようと、鋭い牙を剥き出した。四肢は封じられ、このまま食われるのを待つだけか…!



「くそ!」
このままではあの巨人がやられてしまう。見たところ、あの巨人も自分と同じ…人を守るために戦っているようだ。だったら、ここで自分がとるべき行動は一つ。
サイトは、ウルトラゼロアイを構える。
「———!!」
その時彼は思い出した。自分が何者なのかを。
なぜ忘れていたのだろう。こんな当たり前のことを。
「…!そうだ、俺は地球を守るためにこの星に来た、セブンの息子…
ウルトラマンゼロだ!
デュア!」
両目に装着した瞬間、鼠花火のように弾けた光がレンズの上で渦を巻き、たちまちサイトの全身を包み込んで、天に届くほどの柱となって肥大化していき、光は人魂のような球体に変化してバグバズンに突貫し突き飛ばした。
解放されたネクサスは、自分の窮地を救った光の球体に、吸い込まれるように目をやる。
光が消え去ったそこに立っていたのは、もう一体の…赤と青の体表を持つウルトラマン…
ウルトラマンゼロが立っていた。
「おい、大丈夫か?」
ゼロが肩を貸したことで、彼に肩を借りたネクサスは立ち上がる。
「お前は…平賀か?」
不意に、ネクサスはゼロの正体を言い当ててきて、ゼロは思わずドキリとする。
「どうして俺のことを?」
どうして自分の正体を的確に言い当ててきた?用心のため正体がばれないよう父から言いつけられてきて、当然口外してこなかったのに。同じウルトラマンだから、見破れたのだろうか?
「不思議だ。お前とは初めてじゃない気がする」
でも、そんな風でもなかった。なぜかこのとき二人の中に、お互いに共に肩を並べるのは初めてじゃない気がした。
「言われてみりゃ…俺もだ。そういえば、俺もあんたのウルトラマンとしての名前も知ってた」
「何?」
ゼロ…サイトも自分のことを知っていると聞かされ、ネクサスの中にも困惑が生じたが、ダイゲルンとバグバズンの唸り声が耳に入り、二人は我に返る。獲物を貪る邪魔をされたことで相当頭に来ているようだ
「いや、んなこと考えてる場合じゃなかったな!一緒にこいつらを倒そうぜ!」
「…あぁ、サポート感謝する!」
一緒に戦おうというゼロの誘いに、ネクサス…シュウは、自分が異能の力を持っていること、人を食らう怪物たちとの戦いへの不安が和らぐのを感じた。我ながら単純かもしれない。自分の同類が共にいる。それだけで頼もしくも思えるとは。よほど臆病だからそうなのか。でも今は、それでもいいだろう。この、人を食らうしかない怪物たちに自分達の日常を壊されるくらいなら、戦って取り戻すまでだ。



ダイゲルンが両腕を振り回してゼロを叩こうとする。ゼロはそれらを掻い潜り、タックルで押しのけると、数打ほど拳をダイゲルンの胸元に叩き入れ、ラストに蹴りをお見舞いしようとする。それを見越してか、ダイゲルンはゼロの放った蹴りを避け、後ろに回り込んでゼロの背中を思い切りはたく。上から平手を叩きつけられ、片膝をつくゼロに、ダイゲルンは左のアッパーで追撃する。
「ぐっ…!」
強引に仰け反られたゼロに、ダイゲルンはさらにもう一撃、尾を鞭のように振るってゼロを攻撃、彼のダウンを誘う。ゼロは地面に倒れ、そこを執拗に追い込もうとダイゲルンが飛び掛かった、その瞬間…
〈エメリウムスラッシュ〉!
「デュ!」
ゼロは額のビームランプから閃光を放ち、油断しきっていたダイゲルンはモロに喰らって怯んだ。その隙にゼロは立ち上がり、ダイゲルンの顔にハイキックを叩き入れようとした。しかし、ゼロの放った蹴りは、思わぬ形で受け止められた。なんとかダイゲルンは、自分の大きな口で、まるで野球のミットのようにゼロの蹴りをものの見事に受け止めてしまった。
ダイゲルンはゼロの足を加えたまま、顎を上下に振ることで、捕まえたゼロを叩きつけてしまう。
「ッガ!」
一度で終わらず、二度目、そして三度目と繰り返すダイゲルン。このままでは一方的にダメージを負わされやられてしまう。
「んのやろう!」
足を捕まえられたままゼロは、それを利用して横一文字を描くように中空でバランスを取ると、残った左足をダイゲルンの頭上に振り上げ、炎を纏わせる。そしてすかさずダイゲルンの頭上から炎を纏った左足をハンマーのように振り下ろした。
〈ウルトラゼロキック!〉
「ドリャア!」
「ガブ!?」
ゼロの右足を噛んで捕まえていたダイゲルンは避けることができず、その拍子にゼロの右足を放してしまう。脳天に強烈な一撃をもらったこともあり、激しい脳震盪を起こしてふらついた。
今こそフィニッシュタイム。ゼロはL字型に両腕を組み上げ、必殺光線を放った。
〈ワイドゼロショット!〉
「デュ!」
金色の光線はダイゲルンに直撃、たちまちダイゲルンは木っ端微塵に砕け散っていった。


ゼロに窮地を救われ、反撃に転じたネクサスはジュネッスブラッドにチェンジ、相手の顔面に向けて光刃を飛ばした。
〈パーティクルフェザー!〉
「シュッ!!」
バグバズンの顔に直撃し、相手がもだえたところで体を起こしたネクサスは、今度は拳を繰り出した。ようやくのしかかりから開放されたネクサスはすぐに立ち上がろうとするも、太ももに入った傷の痛みですぐに膝を着いてしまった。
「グゥ、オォ…」
優勢だったのに、とんだドジで苦境に立たされるとは。やはりこの手の化け物との戦いは楽ではないということか。
すると、バグバズンは背中に隠していた翼を広げだし、宙に浮いた。空から奇襲をかけるつもりか?膝を着いたまま、身構えるネクサスだが、その予想は外れた。
バグバズンは宙に浮いて、彼に向けて背を向けたのだ。
(逃げるつもりか!?)
もはや自分に勝てないと思って怖気ついたのか。だが…
ネクサスは背後を振り返ってティファニアたちを見る。遠くから出少し見えにくいが、酷くおびえきっている筈だ。もしここでこいつを逃したら愛梨やティファニア、憐たちにも…学校や町の皆にも危害が及んでしまう。自分の見えないところで誰かが傷つけられるのだ。
そんなこと許しておけないし、それを防ぐだけの力がある以上…
ここで仕留めるだけだ!
「ウウウゥ……」
上空に向けて飛び逃げようとするバグバズンに狙いを定めたネクサスは、L字型に両腕を組み上げる。組み上げられた右手から、青白く光る光線が、バグバズンに向けて放たれた。
〈オーバーレイ・シュトローム!〉
「ジュア!!…ッ!」
光線は、バグバズンに直撃した。着弾と同時に全身が青白く発光、中空でバグバズンの全身は粉微塵に弾け飛んだ。
突如自分の足に痛みを覚え、彼は光線の放射を中断した。
(く…!!)
なんとか幸いにも倒せたようだ。バグバズンにやられた足の傷が堪え、ネクサスは傷口を押さえる。一度傷を治療しないといけない。それに、あいつに襲われていたティファニアたちのことも心配だ。
そんなネクサスの怪我の具合を見かねて、ゼロが左肩を貸してきた。
「無理すんなって。肩貸してやるよ」
「…済まないな。助かったぞ、平賀」
「いいってことよ。同じウルトラマン同士、助け合ってなんぼだろ」
気さくに礼を受け取るゼロを見てネクサスは、さっきまで熾烈な戦いを繰り広げていた分、張り詰めていた心が軽くなった気がした。
「それにほら」
ゼロは、残った右手で地上を指さすと、地上からは二人の巨人に向けて「ありがとーー!」と手を振る子供たちがいた。その傍らには、ティファニアもいる。胸に手を当てほっとしているためか、巨人たちが苦戦したこともあって、見ていて気が気でなかったに違いない。
(ティファニア、無事でよかった…)
それは、ネクサス…シュウも同じであった。だが、思い出すのはアンリエッタの言っていたビーストの生態。奴らは人の恐怖に付け込んで増殖する。それに加えて、あの怪獣。このような戦いは、恐らく今回限りではないだろう。
「なぁ平賀」
「うん?」
「俺は、この先も戦えると思うか?」
また戦いは続く予感がして、沸き上がった不安を質問として口にする。用心深い…いや、臆病だからだろう。どうしても最悪のパターンを思い浮かべてしまう癖が出てしまう。
「…俺たちはウルトラマンだからって未来が読めるわけじゃねぇぜ。わからねぇよ」
ネクサスの、シュウの心情を察しつつ、人間平賀才人として正直にわからないと答える。それもそうか、と自分でも何を尋ねているのだとネクサスが自嘲気味に思っていると、「でもさ…」とゼロは言葉を紡ぐ。
「俺は戦い続けるよ。奪われたくねぇからな。学校ですごす平凡な生活も、俺たちの日常で出会ってきた大切な人たちを。先輩だって、そうだろ?」
「…ああ」
この先も守ってあげたい、あの裏表のない笑顔。子供たちもそうだし、憐もテファも、最近違和感を覚えている愛梨に対してそう思う。
そう、俺はこんな笑顔を守りたかったのだ。人々の笑顔に溢れた未来。そこにあるのは誰にとってもだから、あの時も…
(…あの時?)
何か思い出しかけたネクサスだが、どうしてだろうか。なぜか、頭に靄がかかったように思い出せなかった。何を思い出しているのだろうか思考を巡ろうとしていると、また頭がぐらっと傾く。
(あれ…なんだ…眠…)
急激に押し寄せてきた睡魔。それに抗えず、シュウとサイトの意識は途切れてしまった。




目が覚めると、とある建物の客室だった。
「ようやく目が覚めましたかい、旦那。」
地下水の声で意識もはっきり戻ってきた。
「…あぁ」
またいつの間にか眠っていたらしい。…ムサシの言っていたとおり、連日の戦いで疲労が蓄積していたのだろうか。ストーンフリューゲルの加護も完全ではないということか?
「なぁ旦那~、たまには俺を使ってくだせぇよ。あんたの持ち物になったってのに、てんで役に立つ機会がねぇからよ。刺激が足りねぇんだよ刺激が」
「…」
「ちょっとちょっと旦那。聞いてんのか?おーい。って聞いてねぇし。
…ったく、北花壇騎士にいた頃の方がまだマシだったかもな」
相当退屈だったためか、子供みたいに地下水がごねている。シュウたちの手に鹵獲される以前の方が、彼?にとってはそれなりに刺激の多い日々であったが、今はシュウが戦いから退いていることもあってか至極退屈。だからせめて何らかの用途で使ってほしかったところだが、地下水の愚痴はシュウの耳には届いていなかった。聞いていたところで、シュウが身を削って戦うことをテファたちは許さないだろう。
(また、妙な夢を見ていた気がする)
だが、また妙な夢を見たものだ。どんなものだったのか、それは明確に思い出せなかったが、強く現実味のある夢を見た気がする。まるで、自分が別の世界に飛び込んだような感覚だった。
シュウはベッドから起き上がり、窓の外を見る。
そこから広がる光景は、まだ彼にとってまだ訪れて間もない場所であり、サイトやルイズにとってなじみ深い場所…トリステイン魔法学院の中庭だった。



「…いと!サイト!」
耳元で煩い声が聞こえてきた。なんだよ…と声を漏らしながら、サイトは起き上がった。開かれたその目に、見知った天井の光景が飛び込んだ。既に制服に着替えていたルイズが、腕を組んで朝からご立腹の様子だ。
「ふあぁ…朝か」
パーカーを脱いだ白いTシャツ姿のサイトは、大きなあくびをしながら背伸びした。反省しているようにも見えない彼に、ルイズは機嫌を損ねる。
「朝か…じゃないでしょ!前にも言ったわよね?あんたは使い魔なんだから、ご主人様である私よりも早く起きてなさいよ」
まだ目を覚ましきれていないせいか、ボーっとした眼差しのままサイトはルイズを見て、奇妙なことを尋ねた。
「…なぁルイズ。お前パンを咥えて学校に登校とかしてた?」
「…まだ寝ぼけてるの?貴族である私が、そんなはしたないことするわけないでしょ」
ルイズの、何言ってんだこいつ?みたいな言葉を聞き、次第に意識がはっきりしてきたサイトは、自分でも妙なことを尋ねてしまったと思った。
「あぁ、悪い…懐かしい夢を見たからかな。さっきから頭がなんかボーっとしてるんだ」
懐かしい景色にあふれた夢を見ていた気がする。
自分とハルナ、そして別次元だがシュウの故郷でもある星、地球。この異世界に来て何度も戦いに身を投じてきたこともあって、まだ1年も経っているわけではないのに、随分昔のことのように思えてきた。
どんな夢を見ていたのか、かすかに覚えている。自分やハルナが地球にいた頃と同じように高校に通っていたことまでは、かつての生活と同一だが、おかしな相違点があった。
(ルイズたちが、いたような…)
そう、違う世界の者であるルイズたちが同じ学校に通っていた。しかしそれだけじゃない。
(俺の家、料理屋なんて経営してなかったよな?)
夢の中だからだろうか。自分の家が本来の形と大きく異なっていた気もするが…。
「平賀君、ルイズさん。起きた?」
考えている間に、部屋の外からハルナの声が聞こえてきた。
「大丈夫よ。今バカ犬も起きたところだから、入ってきてちょうだい」
ルイズが入出許可を下すと、ハルナが「おはよう、二人とも」と、朝の挨拶と共にルイズの部屋に入ってきた。
「んじゃ、起きたところで相棒。飯でも食いながら、みんなに話すことをまとめたらどうだい?あのサムライの娘っ子のためにもよ」
壁に立てかけられたデルフがそう言った。
幸い今日は虚無の曜日…地球で言いうところの日曜日、休日だ。
朝食をとり、その後皆を集めてクリスを主役としたパーティについて話し合う。日程等が決まったら、せっかくなあのでその準備にシュウとテファも参加させる。シュウは時間をもて余しているだろうし、エルフだから外に迂闊に出られないテファにもよい刺激になるはず。そしてクリスも学院に馴染めるだろう。これまで戦ってばかりな分、楽しい時間が訪れるように頑張らないとな。そう期待を膨らませて。 
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