ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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提案-プロポサル-
気が付けば、薄暗い密林の中にいた。
森の中をただひたすら進み、その果てに彼は夕日に照らされた石造りの遺跡にたどり着く。
遺跡には、不思議なことに見覚えがあった。でもいつあの遺跡を見たのか、それがわからない。
何かに引き寄せられるように、その遺跡へと足を踏み入れた。
石造りの建物の中は、壁にかけられた松明の炎で照らされていた。それは奥の方まで深々と続いていた。見えない何かに導かれるまま、その奥へと進んでいく。
遺跡の奥へとたどり着くと、奇妙な石像がそこに安置されていた。何を象っているものなのかはわからないが、その石像が自分を吸い寄せているような気がした。
手を伸ばし、その石像に触れてみる。すると、石像は青白く輝き、全てを光に包み込む。
景色は一瞬にして変わった。青い波紋が流れる黒い空間の中を漂っていた。
周囲を見渡していると、目の前にうっすらと、光を帯びた巨人が姿を現した。
お前が呼んだのか?そう言おうとしたときだった。
一瞬だけ光の巨人の姿が、別の何かに見えた。その姿はどこか見覚えがあって、それでいて恐ろしい…
それはまるで…
「今度こそ決着をつけさせてもらうわ!」
「望むところよ!」
突然耳に入ってきた怒号が耳に入り、シュウは目を覚ました。
「な、なんだ?」
「あ、シュウ起きた?」
目を覚ましたシュウに気が付いて、愛梨や憐が顔を覗き込んでくる。
人がせっかく気持ちよく寝ているときに…大声で起こされた苛立ちを募らせながらも、目に入った連中に注目する。
「…またあいつらか」
見ると、二人の女子生徒が、シュウたちのいる屋上にかけ上がってきた。なにやら険悪な雰囲気で、二人とも相手に対して激しい敵意を見せている。ルイズとキュルケの二人だ。
「にしても、あの二人これで何度目?あのルイズって子が転校してからここしばらく、いつもあんな風に喧嘩してるよな」
ここしばらくの間、二人が幾度も喧嘩を繰り返していることに憐はやや呆れ気味だ。
「…ここしばらく?」
「どったの?」
シュウは、憐の言った『ここしばらく』という表現に違和感を覚えた。
「いや…昨日会ったばかりだった気がするんだけど」
自分の記憶が正しければ、あの歩道橋でサイトと激突した日、つまりルイズが転校してきたのは…昨日だった気がする。
「そう?もう何日か経ってるぜ」
だが、シュウの口にした疑問に対して尾白がそう答える。彼の口から出た日数に、そんなに時間が経ってたのかとシュウは内心驚いた。
「おい、やめろよ二人とも!!」
すると、ルイズとキュルケに続いてもう一人の来訪者が屋上に駆けあがってきた。これまたこの前の朝に見た顔、サイトだった。
「サイト、ちょうどいいわ。この女をとっちめるの手伝いなさいよ!」
「ダーリンなら、あたしの味方をしてくれるわよね?あたしの方がダーリンのこと愛してるんだもの」
「とっちめるって、お前らな…」
どうもキュルケとルイズの二人は、喧嘩状態にあるようだ。それをサイトが仲裁しようとしているようだが、全く効果が見受けられない。
「何があったの?二人とも、目が完全にやる気満々なんだけど」
憐がサイトのもとに駆けつけると、サイトは蓮を見て、まるで救世主が現れたように感動しきったような眼差しと共に助けを求めてきた。
「ちょうどよかった!先輩、こいつらになんとか言ってやってください!やめるように言っても、全然話聞かないんですよ!しかも『決闘』とか言い出してきて…」
「決闘!?」
いつの時代の作法だ。憐たちは面食らう。
「と、とりあえず、何が原因で喧嘩になったのか教えてくれない?」
愛梨が穏便に済ませようと、まずは事情を聴くことにした。そうしたら、なんともまぁ呆れてものも言えなくなりそうな、実に下らない理由だった。
「簡単な話ですわ、先輩。今日転校してきたヴァリエールに、席を代わるように言ったら断られたんですの。でも、あたしは一度ほしいと思ったものは絶対にあきらめない。ましてやダーリンの隣の席だもの。愛に連なることなら妥協はしませんわ」
「ツェルプストーにやるものなんかなにもないわよ!大体あんた勝手すぎよ!コルベール先生はサイトに、隣の私を助けるように言ったのよ!あんたの勝手な意見なんか聞き入られるものですか!」
つまり、サイトの隣の席を巡って二人が対立してしまったというのだ。
サイトは元々、この日転校したばかりのルイズの力になるよう、担任のコルベールから頼まれている。だからルイズは、先生の言うことに従うべしということ、昔からキュルケから下らないことからマジになることまで何度もぶつかり合った因縁故に、キュルケの「席を代われ」という勝手な言い分を聞き入れられない。そしてキュルケは「愛している人の隣に立つのは当然」という、個人の愛情優先思想と、ルイズとの因縁で全く引き下がろうとしない。
それが平行線となって、最終的に決闘という決着方法を思いついたのだとか。
「…めんどくさいなこいつら」
シュウが率直な意見を口にする。サイトの立場にならなくて心底よかったと思っていた。
「何がめんどくさいだ!男にとってこんなおいしいシチュはないだろ!」
「その通り!二人の美女が自分を巡って相対する!男としてこれほど夢のようなことがあるだろうか!!」
「…なんでお前がいるんだよ、ギーシュ」
しかし尾白は寧ろ煽ってきた。…なぜかいつの間にか着いて来ていたギーシュまで尾白に同調し、そんな彼にサイトは目を細める。
「と、とにかく、決闘なんて馬鹿な真似はやめて…」
「先輩方もサイトと一緒に下がっててください。これは誇りの問題なんです」
ルイズは先輩にあたる愛梨がやめるように言うのに、全く聞き入れようとしなかった。
「思えば最初からこうするべきだったわね。そう思わない?ルイズ」
「ええ、あんたと私のことを考えれば、これが最善というものよ」
「ふ、聡い子は嫌いじゃないわ。ま、あんたは嫌いだけど」
「奇遇ね。私も昔からあんたことは大嫌いだったのよ」
また二人は一触即発な状態になり、いつの間にかそのてに杖を握っていた。
(杖…?)
なぜ彼女らが杖を握っているのか、シュウは一瞬疑問を感じたが、それを遮るようにサイトが割って入った。
「頼むから二人とも止めてくれよ!
そ、そうだ!トランプでもやろうぜ?みんなで一緒に楽しめれば…」
「は?トランプですって?」
「ダーリンとならともかく、この子と一緒になんて楽しめるわけないじゃない」
「ぐ…」
トランプで仲良くさせる作戦失敗。自分でも安直だと分かっていたが、サイトは怯んだように声を漏らす。
「ダーリンあたしとルイズを仲良くさせるつもりでしょうけど、無駄よ」
「ええ、その通りよ。こいつと私の実家は不倶戴天の敵。分かり合うことなんてないの」
「そ、そんな!でも、何か一つくらいは…」
「「ないわ」」
二人同時の即答。なぜそんな要らないところで気が合うのだ。
「そこで待ってて。この子に、あたしのダーリンへの愛が無敵なものであることを証明するから」
「何が愛よ。昔から男を取っ替え引っ替えしてばかりのあんたが言っても、説得力を感じないわ」
「言ってくれるじゃない。恋も愛もろくに感じたことがないくせに」
やって来たサイトに対して、いかにも惚れてることを主張してることから予想はしていたが、やはり気に入った男をすぐに捨てる、熱しやすく冷めやすいタイプらしい。改めて付き合わなくて正解だったとシュウは思った。
そこからはもはや言葉は無用、二人は互いに睨み合いながら、相手に向けて杖を構えた。だがサイトは最後まで止めようと、二人の正面に立ち続けた。
「退きなさいよサイト!怪我するわよ!」
「いいや、下がらねぇ。二人がそのつもりだってなら、俺もそうさせてもらうぜ」
「平賀君の言う通りです。二人とも、そこまでになさい」
そこへ、サイトに続く新たな来場者が来た。
「あ、アンリエッタ会長!」
「シエスタ!それにハルナも!?」
やって来たのは、生徒会長であるアンリエッタと、ハルナとシエスタだった。
「大丈夫平賀君?怪我してない?」
「サイトさんがそちらの二人の喧嘩に巻き込まれたと聞いてたんですが…」
すぐに二人が駆けつけ、サイトに怪我がないことを確認して安心した。
「で、でも先輩!先に吹っ掛けてきたのはキュルケで…」
「言い訳は見苦しいですわよルイズ。神聖な学び舎で騒ぎを起こすとは、この学園の生徒である自覚が足りていない証拠。すぐにムキになりすぎるのは、あなたの昔からの悪い癖ですよ」
「うぅ…」
その悪いところに関しては確かな自覚があるため、ルイズは押し黙る。キュルケは痛いところを突かれたルイズを見てふふん、と勝ち誇ったように笑みを見せたが、すかさず彼女にもアンリエッタからのキツイ言葉が向けられた。
「キュルケさん、あなたも同じです。私も意中の男性へ甘えたいという気持ちは理解できますが、だからと言って回りに迷惑をかけることが正しいと思いますか?何より、あなたたち両者の身を案じてくれていた平賀君が怪我をしたら、どう責任をとるつもりだったのですか?」
「「…」」
そこまで言われてしまえば、もはや二人に反論することはできなかった。これといって大した仲裁ができなかったとしても、サイトの平和的解決を望む心を無視し、周りの迷惑を顧みなかった愚かさを二人は理解した。
アンリエッタの切り札級の説得の元、二人は大人しくこの場から退いた。せっかくの昼休みが、とんだ想定外の騒ぎで散々なことになった。
「やれやれ、今日も騒がしかったなぁ。あの二人、カッカしすぎじゃん」
「折角ゆっくりシュウの寝顔を堪能してたのに、…あの二人、あとでどうしてくれようかしら」
「あ、愛梨ちゃん…なんか怖い声出てるけど?」
ルイズたちの喧嘩に対して憐は変にいがみ合わずに仲良くすればいいのにとぼやき、愛梨はどこか殺気めいた黒いオーラを放ち、そんな彼女に尾白は戦慄する。
シュウも騒ぐくらいなら互いに不干渉を貫けばいいものをと思っていると、
「黒崎先輩」
ルイズたちがとぼとぼと屋上から去った後で、アンリエッタから耳打ちされた。
「後程、生徒会長室までご足労いただけませんか?お話したいことがあります。
…先日の件で」
その後、ルイズとキュルケは職員室に呼び出されてキツイお叱りを受けることになった。
「二人共、いったい何度言えば気がすむの?あなたたちの下らない意地の張り合いがみんなの迷惑になること、自覚してるの?それとも自分以外の人たちのことなんてどうでもいいのかしら?」
「そ、そんなことは…」
「じゃあ何でまた言い争ったの?あなたたちのせいで、特に一番迷惑をかけてるのは誰?」
「ダーリ…平賀君ですわ」
さすがのキュルケとルイズも、西条先生の前でいつものような態度は全く示せなかった。同席中のアンリエッタも心配そうな視線しか送れない。
「次また同じようなことがあったら…わかるわね?」
わかるわね、がやたら怖い。ルイズたちはまだ納得できない様子こそあるが、先生たちの手前で口答えせず、職員室を後にした。
一方でサイトは、アンリエッタとコルベールから話があるとのことで、生徒会室を訪れていた。
「苦情…っすか?」
「ええ。ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプストーがしょっちゅう喧嘩をすることで、生徒たちから何度も苦情が来てるのです」
ひどく困った様子でコルベールが言った。続いてアンリエッタも説明に加わってくる。まぁ、あれだけ西条先生から怒られるほどだ。苦情が来ない方が不思議だ。
「私もルイズとは幼馴染ですから、昔からキュルケさんと不仲であることは知っています。あの子は元々気性が激しい性格ですから、一度衝突するとなかなか…」
「あぁ、確かに…それにキュルケとはお互いの実家の仲の悪さもあるし、二人とも昔から会うたびに喧嘩ばかりだったらしいですし。因縁…って奴ですね」
「ええ、それだけに困っているの。でも、教員も生徒会長も、生徒全員のことを考えるべき立場である以上、何度もあの子達の間に私が介入し続けるわけにいきません。それに、私が言ってもあの子達は何度もいがみ合うことが、今回の騒ぎで実証されましたから…」
アンリエッタもルイズとは幼馴染ということもあり、彼女の悪い部分もよく知っていたようだ。
続いてコルベールが心苦しげに口を開いた。
「我々教員が言っても、また同じことを行うこともあり得ます。次もまた喧嘩をして、これ以上ひどくなれば、二人に対して学校側から厳しい処分が下されるかもしれません」
「し、処分!?」
そこまでするか!?い、いや…何を言っても聞かないのだとしたら、学校側もルイズたちに対してそうせざるを得ないのかもしれない。
「そこでサイト君、あの二人と深く関係している君に、あの二人の仲を取り持ってほしいのです。せめて、喧嘩が再発しないように」
「お、俺がですか!?なんで俺が…」
「あなたならルイズのことを考えてくれると思いましたから」
「でも…うーん…」
アンリエッタは期待を寄せているようだが、突然の無茶ぶりのごとき注文。絵に描いたような犬猿の仲。前回だって自分の説得にもあの二人はまったく耳を貸さなかった。どうすればいいのかなんてすぐに思いつかない。
「戸惑うのも無理はありません。ですが、ルイズたちにも、ほかの生徒さんたちにも健やかな学園生活を送ってもらうため。
これは生徒会長としての命令です」
「め、命令ですか!?」
「命令です。方法はあなたに任せます」
サイトへの期待を抱いたにこやかの裏に、なぜか妙に逆らえないオーラを感じたサイトは断ることができなくなった。
(な、なんだろ…この有無を言わさない、まるで女王様似たいなプレッシャーは!?)
アンリエッタから浴びせられる覇気は、サイトの中によからぬ妄想を沸き立たせた。
『平賀君…いえ、犬さん。そこにお座りなさい。』
『わん!きゃわわん!!』
女王様の格好をしたアンリエッタによって鞭に打たれる、犬のコスプレをさせられ跪いた自分の光景…。
(…なんてことには…なるわけないか)
「平賀君、あの…妄想中すみませんが、お願いしますね」
「!?」(も、もしかして聞こえてた!?恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!!)
困惑しているアンリエッタの声を聞いて、サイトは我に帰った。かの学校内でも有名な美人生徒会長の前でみすみすくだらない醜態を晒したことを悟ったサイトは異常なほどに羞恥心が沸きあがった。
「もしうまくできなかったら、そうですね…平賀君が今奇妙な妄想を抱いたことを校内放送で…」
「それだけはやめてください!!」
「ふふ、もちろん冗談ですよ」
最後に言ったアンリエッタの冗談が、サイトには本気に聞こえていたのは別の話だ。
「で…何か考えあるか?お前ら」
早速だがサイトは図書室にて、近しい男子の友人たちに相談を持ちかける。
メンバーはギーシュ、マリコルヌ、レイナールの3人である。
「いや、サイトよ。前にも言ったはずだ。あの二人を止められないぞ」
前にルイズとキュルケのもめ事を止められない俺に対して、これだから女性への扱いになれてない男は困る、何て言ってた癖に…とサイトは毒つく。ぶっちゃけその言い分に対して、モンモランシーや他の女子との関係で問題を起こすギーシュも人の事も言えない。
まあ、そんなことは関係ない。まずは聞かないと。
「別にお前らに直接何をしてもらうとかなんて思ってねぇよ。俺だって無理なことくらいわかる。でも何か参考になるようなアイデアだけでもないか聞いてるんだ」
そういうことなら、そう思ってギーシュたちもサイトと共にアイデアを考え始めた。
「一緒にボランティア活動に参加させるとかどうだろう?」
最初にレイナールがそのようにアイデアを言ってみた。真面目な彼らしい意見だが、マリコルヌが即座に指摘を入れた。
「無理だと思うよ。あの二人めんどくさがって参加しないって」
「ならサイトも一緒に参加して…」
「むしろまたサイトを中心に喧嘩するぞ。最近の喧嘩の原因、あの二人がサイトを巡っているようなもんだし」
「むぅ…やはりだめか」
やはりって、駄目もとで考えてたのかよ、とサイトは内心突っ込む。これ以上あの二人の喧嘩が激化すると、あの二人もそうだが俺の安穏とした日常さえも危ういのだが。…といっても、自分も彼らの立場に立たされるとわからなくもない。
「…そうだ。こんなアイデアがあるぞ!」
「うわ!いきなりでかい声で立つなよ!」
「お、おおう…すまない。僕としたことが、つい興奮しすぎたようだ」
すると、突然ギーシュがガタッ!と席を立って声をあげた。即座にサイトから指摘を入れられ、周囲からうるさいと言っているような視線に晒され、彼はすぐに席に座る。
「君たち、もうじき学園祭が始まることは知っているだろう?」
「ああ…」
「でも、それが一体どうしたの?」
「ふっふっふ…聞いて驚くがいい。実はこの学校の学園祭には…」
「「「学園祭には…?」」」
不適に笑ってみせるギーシュに、妙にサイトたちは息を呑まされていた。そして、彼らにとって
「なんと!!ミスコンテストがあるという伝説があるのだ!!」
「「な、なんだってええーーーーー!!?」」
思わず叫んだのはマリコルヌとレイナールだった。サイトも驚いた。…主に二人の叫び声で。が、やはり大声過ぎて図書館にいた生徒たち全員が白い目でサイトたちを見ていた。
「図書室では静かに」
背後から突然、か細くも聞き覚えのある声に、思わずサイトは飛び上がった。
「うぉあ!?タバサ、いたのか!?」
「静かに」
「あ…悪い」
振り返った際に見たタバサの顔は、無表情に見えそうだったが、よく見ると目と眉が僅かに吊り上っている。読書が日課同前の彼女にとって騒がしいのは好ましいものではなかった。
『故に』、彼女は同時にサイトたちに話について興味も示した。
「さっきキュルケたちの名前が聞こえた。何を考えてるの?」
「あ、ああ…それなんだが…」
タバサに問われ、ギーシュは説明を始める。
「我が校のミスコンは、元々入学希望者を呼び寄せるためにオスマン学院長が計画していたものだ。しかし、数年前を最後に、新たな教員たちの入れ替えの影響で、学校の風紀を重視した先生たちの反対で行われなくなってしまったのだ…」
「もしかして、そのミスコンにあの二人を参加させるってこと?」
マリコルヌはオスマン校長の下心を感じる狙いについてはいちいち触れようとはしなかった。どんな人なのかは誰もが知っているし、この学校ではよく聞く話だ。
「そのとおり。あの二人は話に聞くと幼き日からのライバル同士。過去の禍根から決して互いに譲り合おうとしない。ならここは一度、お互いの実力を見せ合う場としてミスコンを復活させ、お互いの魅力を競わせるのだ!そうすれば、いくら互いを嫌い合っているあの二人でも、お互いの認めるべきところは認め、喧嘩することも少なくなるだろう!」
ライバルで力を競わせる。なんだか少年漫画の展開のような計画だった。
「どうだねサイト?君もよいアイデアだとは思わないかね!?」
「ま、まぁ…いつぞやみたいに決闘騒ぎ起こさないなら平和的解決だし…」
二人の喧嘩に振り回された身のサイトとしては、望ましい方法だと思う。…ただ、ギーシュがミスコンを押し出しているというこの状況に、どこか引っかかりがある気がした。
「で、ギーシュ。君がミスコンを復活させる真の目的は?」
「な…なんだね?その言い方だと、僕のこの崇高で素晴らしい計画に裏があるみたいじゃないか」
レイナールから疑いの眼差しを向けられ、ギーシュは思わずたじろぐ。あぁ、とサイトは納得した。紳士ぶってても、やはり女好きなギーシュのことだ。やはりそっち方面の野心があったからミスコン復活を謳ったのだ。
「まったく、そんな下心丸出しのアイデアが、先生たちに通してもらえるはずがないじゃないか。校長ならともかく、あの厳格な西条先生たちが認めるはずが…」
「レイナール、君は感じたくないのか!?美少女たちが己を美しく魅せる、華麗なる舞台とそこでしか得られない感動を!!あるからこそ、さっき僕と同じようにミスコンが存在していたことに歓喜したんじゃないのか!?」
「う…そ…それは……うぐ…」
マリコリヌから、まるで探偵から問い詰められた犯人のごとく言葉を詰まらせるレイナール。真面目に見えてその実結構むっつりスケベである。
(…って、言っても…そういう俺も…なんか興味があったりする…悔しいけど)
ミスコンと言えば、水着審査とか定番だ。ルイズとキュルケの水着姿を想像して、内心自分もまた下心が湧き上がるのを覚え、彼らを強く否定できなかった。
「ギーシュにしてはいい考え」
「…え?」
「タバサ…今なんと?」
一瞬、サイトたちは耳を疑った。タバサの口から、このタイミングで聞くとは思わなかった言葉が出たような…。マリコルヌも呆け、レイナールが思わず聞き返す。
「平凡な勝負ではどっちも納得しない。なら学校の皆に公平に評価してもらう。それならあの二人でも文句は言わないはず」
「た…タバサがギーシュを褒めた、だと…!?」
「聞いたか!あのギーシュのアイデアがタバサに太鼓判を押されたぞ!」
「き、君たちの中の僕はどんな男なんだい…」
聞き間違いではなかった。ある種の貴重な事態に、サイトたちは興奮した。当然ながら、自意識の高いギーシュは、信頼している友からの評価が高くないことを改めて思い知り、肩を落としていた。
「で、でも…先生たちを説得するのは骨が折れるぞ。オスマン学院長のスケベっぷりをまるで許さない人たちだし」
「ルイズとキュルケの喧嘩は、学校内でも問題視されつつある。だから二人に罰を下すことなく、円満解決するためなら先生たちも納得してくれる。私もあの二人のことが心配だから相談してみる」
先ほどのように不安を口にするレイナールだが、タバサが問題ないと諭し、自ら強力を申し出た。
「タバサの力もあるなら頼もしいな。頼むよ」
「…本当ならこうなる前に、二人の間にいるあなたがどうにかするべきだったとも思ってる」
「無茶言うな…」
「だと思った」
最後にサイトに向けてダメ出しを繰り出してきたタバサに、サイトはガクッとうなだれた。
その後、タバサも交えサイトたちは二人の喧嘩の収束に、後日行われる学園祭にミスコンを開催させ、そこに二人を参加させるという案を提示した。
ミスコンの復活について、教師陣は生徒たちの風紀を乱すのではという懸念は当然あった。しかし、二人の関係については、あまりにも改善の兆しがないこともあって教師たちの中でも問題視され、サイトたちの案は無事採用されることになった。
さて、サイトが図書室にてギーシュらに相談していた頃…シュウは、サイトとコルベールが去った後の生徒会室へ、アンリエッタの要望通りに来訪していた。
「こうして話すのははじめてですね。ご存知だと思いますが、生徒会長を務めるアンリエッタ・ド・トリステインと申します」
「…黒崎修平。3年だ」
とりあえず自己紹介するシュウは、さっきのアンリエッタの先ほどの言い回しとともに、記憶が飛ぶ直前までの出来事を思い出した。
「そうだ、あのナメクジのような化け物は?」
「安心してください。あなた方を襲った個体はすでに滅びました」
「滅んだ?」
「しかし、本当に危ないところでした。まさか、あれほど成長した個体が襲って来るなんて…先輩方がご無事で何よりでした」
ほっと一安心しながら、この場にいる全員にひとつずつお茶を入れたお椀を渡したアンリエッタは、改めてシュウに向き直った。
記憶がはっきりしてきた今、シュウは思い出した。思い出すだけで背筋が凍りつくような、あんなおぞましい化け物を、いったいどうやって倒したのだ?
…いや、過ぎたことよりも、もっと根本的なことが気になった。
「君は…君たちはあの化け物のことを知っているのか?」
襲われたあの時、タバサが自分と愛梨を守るために現れたため、知っているのはアンリエッタだけではないことを察した。あのような怪物、世間の目に触れれば間違いなく何かしらの話題で形に…いや、待てよ…。
噂という形でなら聞いたことがある。遊園地のバイト中、尾白が女の子たちに振った話の話題に、似たような内容だ。
「まさか…あれが、噂の怪物バンニップ?」
アンリエッタがその問いに対して頷いた。
「ええ、世間ではそのような都市伝説として語られていますね。奴らは宇宙から飛来した怪物…私たちは『スペースビースト』と呼んでいます」
「スペース、ビースト…?」
あんな怪物が宇宙から来たというのか?確かに地球上であんな生物がいるとはにわかに信じがたいが…。
「最近、夜間中の街にて何度か行方不明事件があったのをご存知ですか?」
「…まぁ」
「ニュースでは犯人が不明の未解決事件として扱われていますが、実際はあのような魔物が数多く現れ、夜の闇にまぎれて人を捕食しているのです。その数は私たちでも把握できていません」
「あの怪物が、まだ他にもいると?」
アンリエッタは頷いた。信じられないが、これが本当だということなら、あまりにも恐ろしいことだ。夜にも街に人々は存在している。夜という視界の悪い状況、ただでさえ不審者でも危険なのに、あんな人外が出ては災害クラスのパニックだ。
「これまで私たちは、あの怪物が世間に存在が明かされる前に、ごく小型のうちに何度も仕留めてきました。しかし、あそこまで成長した個体を見逃していたとは…私たちの目の届かない場所で、きっと予想以上の犠牲が出ていたことでしょう」
口惜しそうに、アンリエッタは俯いた。
「私の頼みを受け、タバサさんはビーストの処理を担ってくれました。ですが数が多くなりつつあり、このままではビーストの増殖を阻止できません。事態は…正直悪化の傾向にあると見るべきでしょう」
「なぜ君たちだけだ?ビーストの存在を警察や自衛隊に公表し対策を練らせるべきじゃないのか?」
シュウはおかしいと思った。あんな怪物をなぜ世間に知らしめないままなのだ。いや、世間を相手に隠すというのならまだわかるが、せめて政府や軍の関係者に存在を知らせるのが通ではないのか、とシュウは考えた。
「いえ、残念ですが…それはできません」
だがアンリエッタは首を横に振ってきた。
「なぜだ!?」
納得できない声を上げるシュウに、アンリエッタが理由を明かした。
「先輩、ビーストは恐怖のエネルギーを求め、それを捕食することで繁殖するのです。それも、高度な知性から発する恐怖は濃度も量も多い。人間を襲うのも…そのためです。そして人間のビーストへの恐怖が高まり秩序が乱れれば、人々は恐怖を高め、さらにそれがビーストを繁殖させるポテンシャルを高め、またビーストが増殖してしまう」
「じゃあ、誰かに教えて、万が一その人がバンニップ…ビーストのことを信じたら…寧ろかえって危険ってことか?」
「そういうことです。しかもやつらは学習能力も成長率も高い。現代の通常兵器でも傷を与えるのは難しいでしょう」
ぞっとした。ビーストに対抗しようとしたら、逆にあいつらを増やしてしまうと言うことになるのか?アンリエッタはさらに説明を続けた。
「ビーストは元々ごく小さな生命体です。その危険性をいち早く気づいたのが、数百年前、当時戦国時代の私の家系の者でした。代々私の家系はビースト退治の術を用いてビーストを処理していました。しかし、ある時期を境にそれが不可能なほどに追い込まれてしまった…」
「ある時期?」
急に戦国時代の話とか、ずいぶんと時代を飛ばしてきたものだ。何か関係でもあるのか?
「黒い巨人が出現し、ビーストに加担したのです」
「黒い巨人?」
「その巨人は狡猾にも、当時天下統一を目指していた一国の主に憑依し、他国との戦争の兵器としてビーストを利用したのです」
「戦争の、兵器…!?」
愛梨が目を見開く。あの時の化け物が戦争の兵器として利用される。どんな影響をもたらすかなんて想像に容易かった。
「戦国時代に兵器として使われ、戦争を利用して恐怖のエネルギーが高まってビーストはさらに大量発生し、日本を中心に世界は滅亡の危機に追いやられた。
ですが、そんなときでした」
シュウはまだアンリエッタが話を続けていること、バンニップ…もといビーストという驚異が本物であること、そしてそんな怪物がいながら世界がなぜ自分達の時代で無事なのかを考えた。恐らく次に、状況を好転させるようなことが起きたのだろうと予測した。
ただ、ビーストのこともそうだが、次に明かされたこともまた、創作としか思えないような展開だった。
「黒い巨人と対を成す…光の巨人が現れたのです。
その巨人は強大な力を用いてビーストを、そして黒い巨人を打ち倒し、世界を窮地から救ってくださいました。
その後、ビーストの勢力が一気に弱まったところで私の祖先たちはビーストを根絶しました。そして二度と人類がビーストの脅威にさらされる事がないよう、ビーストのまつわる情報を隠蔽し、代々ごくまれに出現する小型ビーストの処理を請け負うことにしたのです」
光の巨人…シュウはやはり創作の内容としか思えない、と思った。そう思って疑わない、はずだが…
(…なぜだ?聞いていて突拍子もないのに…?)
誰かに話せば、頭おかしいだろと笑われるような話のはずなのに、自分はアンリエッタの話に聞き入っていた。
それに、光の巨人という単語…
なぜかまるで、自分のことを言われたような感覚さえ覚えた。
「でも、またそのビーストが俺たちの前に…」
シュウが、先刻遭遇したあのビーストのおぞましい姿を思いだし、一抹の恐怖を感じながら呟く。それをアンリエッタは申し訳なさそうに感じながらも話を続けた。
「はい。現代となった今、またビーストによる驚異が大きくなりつつあります。ビーストとは先程も言いましたが、人の恐怖を食らう存在。根絶しきれなければ人目のつかない場所に隠れ、力を蓄えてしまいます。結果、お二人の前に現れた個体のように、長い時を経て復活してしまう。
この事態を乗りきるヒントがないか、我が家の秘術による未来予知で探ってみたところ…一つだけあったのです」
未来予知とは、またなんでもありなことができるのだなと思いつつもシュウは次のアンリエッタの話に耳を傾け続ける。
「かつて、私の祖先やこの世界を救った、光の巨人再びこの世界に現れる、と」
すると、アンリエッタはシュウに向けて強い視線を向けながら言った。
「黒崎先輩、願いしたいことがあります。私たちに、あなたの力をお貸しください」
「…は?」
シュウは耳を疑った。力を貸せ?彼女はそう言ったのか?
「先ほど申し上げたとおり、ビーストの数は日に日に増え、そして強大になっています。このままでは、この周辺…いえ、世界中がビーストの脅威にさらされ、犠牲がでてしまうかもしれません。それを防ぐためにもあなたの力をお借りしたいのです」
「何を言い出すかと思えば、俺に奴らに立ち向かう能力なんてないぞ」
「いえ、あるのです。昨日あなたの身に起きた出来事がその証明です」
「俺の身に起きた…?」
そう言われて、シュウの頭の中で一瞬……自分が銀色の巨人となった光景が蘇る。
「…まさかと思うが、その未来予知とやらにあった、光の巨人が俺だとでも言うのか?」
「はい」
そんな馬鹿な…俺自身がそんな大層な存在な訳がない。
だが、彼女の話にあった、光の巨人…目覚める直前の夢の中で見たことがあった。それに、タバサでも敵わなかった怪物から生き延びれたことにも説明がつく…
いやいや、とシュウは振り払うように否定した。そもそも常識を逸脱し過ぎているアンリエッタの話が信じられなかった。…信じたくなかった。
自分の中に、そんな化け物じみた力が眠っているなどと。
「…信じがたい現実に、ご自身の心が追いついていらっしゃらないようですね。無理もないことです。
でも、これ以上民から犠牲を出さないためにも、私たちにはあなたのお力が必要なんです。危険に巻き込むことは承知の上ですがどうか…どうか何卒」
無理を承知でと言いつつ、アンリエッタが深々と頭を下げる。
非現実的な光景から目をそらそうと無意識に逃避しようとしていたが、否応にも理解させられた。夢に過ぎない…と言うには、あまりにもリアルに記憶に、そして体に刻み込まれている。
さらにシュウにとって残酷に捉えられたのは、自分が戦うことを拒否し奴らを野放しにすれば…愛梨や憐をはじめとした、多くの人々が奴らの犠牲になるということ。
自分が戦わなければならない。
だが、その一方で……自分がその戦いに身を投じるだけの勇気が、正直持てなかった。
自分が化け物同然の異形となって、人々を食い荒らす怪物と殺し合う…ということに。
「…少し考えさせてくれ」
それがしばらく悩んだ末に、辛うじて出せた答えであった。
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