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おぢばにおかえり

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20部分:第四話 大学の中でその三


第四話 大学の中でその三

 それで食堂の前に行くと。本当にいました。
「ねっ、いるじゃない」
「私達の言った通りに」
「別にいなくてもいいのに」
 心からそう思いました。
「それでもいるのね」
「まあ文句言わない」
「デートでしょ?笑って」
「だからデートじゃないし」
 それだけは否定します。何があっても。
「大体新一君って」
「阿波野君が何?」
「二つも下じゃない」
 それを言いました。
「二つもよ。弟みたいな相手なのよ」
「弟ねえ」
 !?何か失言だったでしょうか。腕を組んでムキになった顔で言ったんですがその顔を皆に見られています。さらにおかしな感じが。
「やっぱりそうなんだ」
「よっ、この年下殺し」
「なっ、なっ、なっ」
 自分でも顔がどんどん真っ赤になっていくのがわかります。年下殺しって。言っていいことと悪いことがあるっていうか。そもそも私は別にですね、変なことは。
「私の何処がなのよ。年下殺しって何か悪い女の人みたいに」
「それがわかったらちっちは一皮剥けてるってことなんだけれどね」
「全く」
「ほら」
 ここで一人が新一君を指差します。
「阿波野君こっちに気付いてるわよ」
「そうね。手を振ってきてるじゃない」
「気付いたの。向こうも」
「まあ今の話は聞かれてないから」
 また一人が私に言います。
「それは安心していいから」
「そうそう。どんと行けばいいから」
「何でこうなるのよ」
 むすっとした顔を作りました。とにかくすっごく面白くない気分です。そんな私に対して新一君は嫌になる位朗らかに手を振ってきているのでした。
 そんな彼の前に来ると。やっぱり心の底から楽しそうに私に言うのでした。
「先輩、待ってたよ」
「待ってなくてもよかったわよ」
 私はそう彼に言い返しました。
「別に。頼んでもいないし」
「まあまあ」
 むすっとする私を宥めてきました。そして。
「隠さなくてもいいから」
「あのね、別に隠してなんか」
「じゃあ阿波野君」
 ここで皆が私と阿波野君に言いました。
「この娘任せたから」
「好きにしていいから」
「わかりました」
 そして新一君も皆のその言葉に朗らかに応えます。それにしても今の言葉は。
「好きにしていいって何よ」
「だから男の子に任せなさいって」
「こういうことはね」
「いやあ、そういうわけにはいかないですよ」
 新一君が調子に乗って言います。声でそれがわかります。
「先輩ですし。やっぱりあれですよ」
「年上だから?」
「はい」 
 なーーーーーんか年上って言葉に嫌な響きを感じます。さっきから年下だの年上だのって。あのですね、私実は年上の人の方がいいかな、なんて思ってるんですよ。それで背が高くて涼しげな顔の人で。これは普通に私の好みなんですけれど。そりゃあれです、新一君だって顔は悪くないし背は高いし。けれど・・・・・・年下だし何か弟みたいだって・・・・・・うわ、弟って言葉はなしです。さっきも言ってしまいましたけれど別に弟だから親近感があるとかじゃないですから。手間がかかるってことですよ。誤解しないで下さいね。
「やっぱり立てたいですよね」
「立てたいんならそのまま帰って欲しいわ」
 はっきり言ってやりました。
「それが一番嬉しいから」
「じゃあ俺の家まで一緒に帰りましょう」
「何馬鹿なこと言ってるのよっ」
 ドサクサに紛れて。毎度のことですが。
「あんたの家に行っても何にもすることないでしょ!?」
「あるじゃない」
「ねえ」
 後ろから皆が言います。
「ちっち、教えてあげなさい」
「お姉さんでしょ」
「ちょっと、何をよ」
 また話がわからなくなりました。教えてあげるって何を。
「ああ、先輩そういうのは駄目なんですよ」
「って何で新一君が答えるのよ」
「だって。先輩あれでしょ?」
 ここでまた私に言うんです。
「まだキスも何も」
「ちょっと、それがどうしたのよ」
「自分で言う?」
「ほんっとうに嘘つけないわね、この娘」
 また後ろから皆が言います。今度は呆れた声で。
「だから。教えるも何も」
「えっ、ちょっとそれって」
 やっと話がわかりました。そのせいで顔がすぐに真っ赤になります。体温も急に暑くなってまるで真夏みたいに感じてしまいます。
「ひょっとして。だから」
「やあっっっとわかったみたいね」
「鈍感ねえ、相変わらず」
「まあそれはおいおい」
「おいおいじゃないわよっ」
 また新一君に言い返します。
「いい!?ちょっとでも変な動き見せたらひっぱたくからね」
「わかってるよ。それはそうとさ、先輩」
「ええ」
 話が少し穏やかになります。私は全然心中穏やかじゃないですけれど。
 
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