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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第256話 この場所から始めよう

 
前書き
~一言~

は、早めに投稿出来て良かったです! ………帰る場所ってほんとに必要ですからね。衣食住! は当然として、やっぱり ユウキ達には絶対必要ですよっ!! だからこそ、あの親族の皆さまは ちょ~~~っと腹が…… 苦笑 殆ど出てないのにも関わらず、です…… 苦笑


さてっ、山場を越えた先には 結城家のラストBOSSが待ち構えているんですよねぇ…… そこが最大の関門なので、何とかガンバリマス!


 最後に一言! この小説を読んでくださってありがとうございますー!!

                                じーくw 

 

 
 きっとこれは青天の霹靂、と言うのだろう。

 青天と言う割には辺りはもう夕闇が迫ってる時間帯だけど、そんな気持ちだった。
 そして 薄く残っている夕日の光に包まれた彼の姿。それはまさに後光が差している様にも見えた。

 因みに、そう感じたのは一瞬だった。

 何故なら その人物がいったい()なのか。その答えが判った瞬間、約2名程 顔を火で炙られた様な感覚に見舞われてしまったから。青天や後光などと言った単語は完全に頭の中から消去されてしまったから。
 だけど、それも仕方のない事だ。ついさっきまで話題に挙がっていた人だったのだから。その人は、本当に色んな意味で凄い人で、とても優しい人。以前までは他人との交流が殆どなく家族と2人だけだったと聞いていたけれど、今じゃ嘘だったのでは? と思うくらい彼の周りに輪が広がって広がって……沢山の人達が繋がった。とても優しくて、それに格好良くて、時折可愛い所もあって。
 そんな人だから 慕う人がとても多くなって……。

 うん。つまり何が言いたいかと言うと、とっても、とーーーってもモテる。とあるもう1人も加われば更に二乗するから凄いの一言だ。


『うぉぉぉぉ! なーーんでお前らばっかりーーー!!』


 と、言う(クライン)もいるけれど あそこまで言ったら正直 同情もしてしまうし、同意もしてしまう。頷いてしまう。男でも女でも。


 ちょっと話が脱線しそうなので元に戻そう。

 放心しかけてる明日奈や玲奈の2人にもう一度声をかけた。

「ん? どうした2人とも。……ああ、そうだった。今日は 2人(・・)じゃないな。4人(・・)だった」

 ゆっくりと近づいてくる人は、そう この型のプローブの調整にも付き合ってくれた。付き合った……と言うよりは監督してくれて、太鼓判を押してくれた。その道のプロフェッショナル。

 ここまで説明したら今更言うまでもないと思うが……、ナイスタイミングで、図ったかのように来たのは隼人だった。

「りゅ、リュウキくんっっ!?」
『リュウキさんっっ!?』

 玲奈とランは 弾かれた様に動き、背筋を思いっきり伸ばした(厳密には玲奈のみだが)。

「ん? あー、えっと 玲奈の方はランだったな。調子はどうだ? 違和感はないか?」

 2人の反応に少しばかり違和感を覚えた隼人だったが、特に気にする様子もなく 玲奈の肩のプローブに注目し、顔を近付かせて覗き込む。

『うひゃいっっ!? りゅ、りゅーきさんっ! ま、まって まってくださいっ! か、か、かおっ、近い、近い、ですっっ///』
「ああ、悪い悪い。そっちじゃ大画面で見てる様なものだからな。驚かせてしまったか」

 テンションが全く違う1人と2人を見て、声を殺しながら笑う明日奈とその肩のユウキ。いつまでも 笑って見ていたかったと言うのが本心だけど この辺りで助け船を出す事にした。

「リュウキくんこそどうしたの? こっちはリュウキ君の家とは正反対の筈だけど」
『あははは。ボク達の後を付けてきたのかなぁ~? リュウキってば、現実の隠蔽(ハイド)スキルも凄いんだねー』

 ただただ疑問に思った明日奈と悪戯っぽくいうユウキ。リュウキはそんな2人に苦笑いをしつつ、頭を掻いて答える。

「なんでだよ。そんなストーカーみたいな真似しないって。それにオレから声かけただろうに」
『あははははっ、じょーだんだよっ。でもさー ちょーーっとあまりにタイムリーだったからね?』
「ん? タイムリー??」

 ユウキの言葉に疑問符を浮かべていたリュウキだったが、直ぐに2人がそれの妨害に入った。

「わーーっ! リューキくんっ!! え、えと お姉ちゃんの言う通りだよっ! どーしたのっ!? こんなトコで!」
『そ、そうですよー! りゅ、リュウキさんはお仕事が忙しいと聞いてますっ! 大丈夫なのですかっ!!』

 息の合った掛け合いをする玲奈とラン。
 後ろで ふふふっ、ニシシ~ と笑う明日奈とユウキ。
 
 不思議な事に4人がこの場にいる様に見えてしまう。きっと、それは気のせいなんかじゃないんだろう。近い未来。こんな風に皆でここを歩いている。笑顔で話しをして、時には今みたいにリュウキにはよく判らない騒動を起こしていて、そんな未来が視えた気がした。

「……ちょっと用事があってな? んー。でも、もう此処には4人ともいるし……。別にもう……」
「ん?」
「なになに?」

 後半部分が声が小さくなっていくリュウキに少々気になった様で、明日奈も玲奈も首を少しだけ傾けていた。
 そんな時だ。声が聞こえてきたのは。

「隼人くーん。ごめんごめん。ちょっと遅れたよ……。ってあれ? 明日奈さんに玲奈さん?」

 早歩きで駆け寄ってくる人物が1人。いつもの白衣姿ではなく、今は紺色のスーツに身を包んでいて、一瞬誰だろう? と思ったのだが その顔を見たら直ぐに判った。

「「あ、倉橋先生?」」
『ほんとだー。せんせーまで。どうしてここに??』
『えと、確か先生のお家も反対方向だったと記憶してますが……(ひょっとして、私達のお家に用事が……? でも何かあった………かなぁ?)』

 主治医である倉橋だった。

 リュウキと倉橋の2人が一緒にいる事事態は別段珍しい事ではない。あの世界の医学界の権威たちが集った日から特に2人はよく話をしている事があるから。内容はとても難しく、判らない事をそれとなく調べる事でどうにかついて行けるレベルの話。主に医療関係の事が中心だった。 
 ランは倉橋が来た理由を少しだけ考えていた。家の事情はあの病院では誰よりも倉橋が一番知っている。親族たちが押し掛けてきた時、対応をしてくれたのもこの倉橋だったから。
 だから、また何かあったのでは―――? と少なからず不安がランの中にはあった。


 4人それぞれの疑問が頭の中を過ぎっていた時、リュウキは、ニコリと笑って倉橋の方を見た。


「少しばかり早くの公開になりそうですが……僕はもう良いと思います。……どうでしょうか? 倉橋先生」
「ふふふ。そうですね。ここには結城さん達だけじゃなく、紺野くん達も揃っています。流石隼人君です。本当に色々と持って(・・・)いますね? 今日の現場の確認はたまたま決まったと言うのに」
「ま、まぁ ただの偶然……だと思いますよ? 別に僕がどうこう言う話じゃないかと……」

 2人のやり取り。理解できたか……? と言われれば首を横に振る。まだ全然わからないから。
 リュウキは 偶然の出来事なのだけど倉橋に『流石』と言われて、少なからず恥ずかしそうに頭を掻いた後に、4人の方を見た。

「ちょっとしたサプライズのつもり、だったんだ。2人には確認を取らないといけない事だから、直ぐに話すつもりではあったけど」
「え? 2人って私とお姉ちゃん? それともユウキさんやランさんの事?」
「ああ、今のはユウキとランの2人だよ。勿論、玲奈や明日奈にも伝えるつもりだった。……色々と助けてもらう事が多いと思うから」

 沢山の疑問を頭に浮かべて、ユウキに至っては 何度も何度も首を傾げて、反対方向に傾げて、痛くなりそうな勢いだった。

 でも、ランは少しだけ、ほんの少しだけ この先に言う内容が頭の片隅に浮かんだんだ。

 浮かんだのだが、そんな都合の良い事を考えるべきじゃない、と強引に考えを省いていた。

 皆と出会えて、自分達の足跡、証を残す為のBOSS攻略が出来て、病気への光明が出来て、……そう、沢山の奇跡と幸福を貰って、これ以上何を望むのだろうか。これ以上の幸福は罰が当たってしまうとさえ思えてしまう程だった。

 そんな自分自身の中で葛藤を続けていた間に、リュウキは本題に入ったんだ。

「前に、ユウキやランは言ってた。『返したい。どんな形ででも良いからこの大恩を私達の手で』って」
『へ? あ、あーうん! それはとーぜんだよー! だって、ボク達リュウキには、……皆には沢山、たーーくさん貰ってばっかんだからさっ! アスナやレイナ、リュウキだって ボク達から教わった事があるよーって言ってくれてたけど…… ボク、全く自覚ないから』
『………』
『ね? 姉ちゃん。……あれ? おーい、姉ちゃん??』

 ユウキの声に無反応だったラン。だからユウキはもう一度呼びかけた

『……え!? ご、ごめんなさいユウ。なに?』
『もー、ちゃんと聞いててよー。ほら、ボク達に出来る事なら なんでもするからー! って言ったじゃん。……皆には沢山沢山貰ってるからさ』

 少し恥ずかしそうに言うユウキ。それを訊いてこの場の皆が微笑みを浮かべた。
 ユウキやランからも沢山皆は貰っている。諦めない事。そのひたむきさを沢山貰っている。目に見える形として、と言われれば確かに頷けないかもしれない。だけど、それだけじゃないんだ。
 
 その一瞬一瞬の感情は、とてつもなく膨大な情報量だ。
 これはまだ仮想世界には勿論、現実世界にだって表現しきれないかもしれない程のものをユウキとラン、スリーピングナイツの皆から教わったのだから。

『……勿論。勿論ですリュウキさん。アスナさん、レイナさん。……私達は沢山貰ってます。だから、出来る事は何でもしたい』

 ランははっきりとそう答えた。
 その答えを訊いたリュウキは、満足そうにうなずく。

「えっと、話が見えないよー。リュウキくん。なーに? なにかあったの??」
「そうそう。ちゃんと教えてよ。サプライズ……なんだよね?」

 まだ話が見えない明日奈と玲奈にもリュウキは微笑みを見せた後 数歩歩き出した。数秒後 ……とある家の門の前に止まる。

 そこは、ユウキとランの思い出が詰まった場所。家族が暮らしていた家。

「2人が元気になった後、手を貸してもらいたい事業が沢山あるんだ。主にVR世界ででの環境調査や体験しての評価、問題点の抽出……などなど、挙げ出したらキリがない。今VR世界は創世記。無限に広がっているから」

 リュウキはゆっくりと皆の方を振り向いた。

「仮想世界で、とは言っても 仕事にするとなると 色々と疲労は溜まる。それは他人には判りにくいし、無理をさせてしまう事だってある。オレも小さな頃から色々として来たけど、親が言うには やっぱり精神面では色々と大変だったらしいんだ。……そんな時に、支えてくれるのが周囲の環境なんだ。体験者は語る……だよ」


 そして、手を持ち上げ、家の方を差した。


「……まずは、進む一歩目。戦いに勝って 新たに別のステージに出発する為の門出。それをここから この場所から始めたい」


 リュウキは目を瞑り、そして一呼吸置いた後に目を見開いて言った。



「オレはこの家を……… 2人の将来の職場にしたいと考えているんだ。慣れ親しんだ場所。……心の安らぐ場所。それは 《自分達が帰るべき家》だって、オレは学んだから。最高のパフォーマンスが出来る場所は きっとここ以外にないと思ってな。倉橋先生にも相談して、太鼓判を貰ったよ」


 
 その言葉を理解できた者はいなかった。明日奈も玲奈も、そして ユウキとランも理解できなかった。突然の事に頭が追いつかないと言うのが本音だった。

「僕の方からも説明をしましょう。ユウキくん。ランくん」

 後ろで 2人のプローブを覗き込みながらそう言う倉橋。
 説明足らずだったかな? と苦笑いするリュウキを見て 倉橋はウインクをした。

「ふふ。十分過ぎると思います。隼人君は 出来る事をしただけ、と謙遜をするでしょう。でも、それが2人にとってどれ程大きい事か」

 倉橋の言葉を訊いて、再びリュウキは顔を赤くさせつつ頭を掻いた。

 軈て ユウキやランより早く明日奈や玲奈が理解する。

 
 玲奈がリュウキに。……隼人に抱き着いた。
 自分の事の様に身体全体で喜びを表現した。

 さっきまで、悲しい話を訊いていたから。

 この思い出の場所が、2人にとって帰るべき場所。自分達にとって言えば22層の家。それを失ってしまう話。明日奈は明るく振る舞いながら、《結婚》と言う道を示してはみたが、どうしても現実的ではなかった。

 とても大きな話だったから。子供の自分達が何を言っても変えられない現実だと思ってしまっていたから。




 そんな問題を……このひとは意図も容易く変えてしまったんだ。




 自分に できることを精一杯しているだけだと言っているけれど、それだけでどれだけの人達が救われている事だろうか。

 でも、そんな凄い彼でも。超人だって言ってもおかしくない彼だとしても。

「ふふ……。流石だねリュウキ君」

 決して特別な目で見たりはしない。普通に接する。普通にお礼を言って、普通に凄いと絶賛する。……何処までも普通に接する。
 親である綺堂が願った通りにする。全てを照らす光と言って良い彼に。強過ぎる光にちゃんと向き合う。竜崎隼人と言う1人の人間にしっかりと。
 そして何よりもおんぶに抱っこではなく、彼と一緒に自分達が出来る事を全力でする。ただただそれだけだった。対等でいられるように。ずっと、友達で、そして 明日奈や玲奈にとっては家族でいられるように。

「(ふふ。あ、でもキリト君さ。ずーっと言い続けてるけど、とっても、とーーっても大変だよ? リュウキ君に追いつくのはさ? 頑張ってね? 私も頑張るから)」

 背中を追いかけているキリト……和人の事を明日奈は想っていた。
 そして 明日奈は和人の事、玲奈は隼人の事、其々想い馳せていた間に とうとう 話の内容を全て理解したユウキが号泣した。


『う、う、う……うわぁぁぁんっっっ!! りゅ、りゅーき、どーしてっ!? どーして そこまで、そんなにボクたち……っ う、うあぁぁぁぁんっっ』


 明日奈の耳元での泣き声は、きーーんっ! と耳に響くのだが、それは明日奈にとってとても心地良くも聞こえた。混じりっ気なしの感謝を言葉にしたくて、でもどういえば良いかわからなくて、ただただ泣き声をあげる。それは本当に心地良いものだった。もし、ALO内にいたのなら、もし、病院にいたら、きっと隼人の事を思いっきり抱きしめるのに、とも思えた。
 あのBOSSを倒した時。証を残せた時と同じ様に。いや それ以上に……。


『う、ううっ、りゅ、りゅーき、りゅーき……。ぼ、ボク……っ』


 ぐすっ、ぐすっ、と何度も何度も今度は声にならない用で嗚咽を漏らしていた。
 そんなユウキの声を訊いて、隼人は笑顔のまま傍に寄った。今は何も答えず ただただ聞く事にまわる事が正解であると、判ったからただ黙って傍にいた。

『う、ううっ りゅ、りゅーき。あの、あのね……? そのっ……』
「大丈夫大丈夫。ゆっくりで良いから。オレたちは何処にも行かないから」

 隼人に、そして 傍らにいる明日奈に助けてもらって どうにか言葉を紡いだ。


『う、う、うん。え、えと…… 、こ、この後、うぅ え、えーえるおーの、あの はじめてであった場所に、きて……。ボク、たちがはじめてあった、あの場所にっ……』


 ユウキは、これ以上は無理だった。言葉でではこれ以上表現する事が出来なかったんだ。ただ言いたい事は1つだけ。『直ぐにででも会いたい』それだけだった。

 そして、それはランも同じだった。

『私からも……お願い、します。リュウキ、さん』

 声が掠れている様に聞こえるのは、ラン自身もユウキと同じだったから、に尽きるだろう。少しだけ頭の片隅に思い描いたとはいえ、ここまでしてくれるとは思ってなかったから。自分達の親族の人と交渉して……と最初は考えていた。でも 聞いてみて理解してみて、……判った。想像の範疇を超えていた事に。


『感謝を、直接……つたえたい。りゅうき、さん…… に……っ、直接、会いたい……っ。時間を、いただけない、でしょうか……っ?』


 ユウキとラン、2人の願い。

 それを拒む理由がある筈もない。
 隼人は頷き、そして倉橋の方を見た。
 倉橋は、ユウキやランの2人が笑顔になるのであれば、と倉橋自身も笑顔で頷いていた。

「ふふ。隼人君。今日の所は此処までで良いと思いますよ。職場にしていく為の立地条件は大体クリアをしていると思います。病院からもそこまで遠くありませんし、交通の便も問題ないレベルです。僕も全力で支援していきますから」
「あっ、私達も付き合いますよ!」
「自宅兼職場にするとなると……うん。身の回りの生活も自分達でしないと、だからね? 遠慮なく言ってよ! 2人ともっ!」

 明日奈も玲奈も俄然やる気になっていた。
 先程までは無理にでも明るい話題を。笑顔になれる様な話題を、と何処かでは考えて考えて、口をどんどん動かしていた筈だが、もうそんな事をする必要はない。話す事全てがユウキやランにとっては心地良いものになっているから。

『うわぁぁぁんっ!! みんな、みんな大好きだよぉぉ~~~!! だいすきっ、だいすきっっ!!』
『ふふ、ふふふふ。ゆう、お、落ち着いてってば。落ち着い……てっ。……ぅぅ。……あ、ありが…………ありが、とう…… ご、ございま……っ』

 これまでで、きっと見た事の無い景色。それが目の前に広がっているのに、はっきりと見る事が出来ない。ユウキとランは必死に目を擦る。よくよく考えてみれば、ピントが合わないなんてこと、ある筈無いのに。しっかりと調整してもらって、クリアにずっとなってたのに、今はどうしてもボヤけてしまっていた。

 それを察したのだろう。隼人は皆の前に出ると。

「判った。直ぐに向かう。会いに行くよ。……だから、ちょっと待っててくれるか?」
『も、もちろんだよっ!! 待ってる! ずーーーっとまってるからっっ!!』
『……私も、待っています』

 この瞬間、はっきりと見る事が出来た。
 隼人の顔が。全ての恩人で、大切な人。その顔がはっきりと……。




 そして、暫く時間がたち、ユウキもランも落ち着けた所を見計らって。 



「じゃ、今日はこの辺にしとこっか? 2人は大切な用事が出来たもんねっ?」

 玲奈は、両手をぽんっと顔の前で叩きながらそう言った。2人の希望を何でも聞いてあげたいとずっと思ってて、今の2人の一番の希望、望みは 早く隼人に会う事だから。

「そうだね。じゃあ、ユウキ、ラン。明日は遅れないでよ?」
「そうそう。もー早速2人とも大人気になっちゃったからねー。だから 休んじゃったら皆がっかりしちゃうからさ」

 明日奈と玲奈は促す様に言う。2人が予想したユウキとランの望み、願いは少しだけ違っていた。

『あ、あの。レイナ、アスナ』

 ユウキは少し落ち着けたのだろう。明日奈と玲奈の話を訊いて、言葉を遮るように言った。

『レイナとアスナにも 改めてお礼がいいたいから、来て欲しいんだ! 2人にも、2人とも……』
『はい。私も同じ気持ちです。……時間の許す様であれば、ですが』

 隼人だけじゃ…… リュウキだけじゃない。アスナとレイナにも直接会いたい。今日の事を。かけがえの無い一日をくれた事に感謝を伝えたい。
 厳密にはALO内だから直接会っている訳ではないけれど、それでも会いたい。触れたい。それが2人の願いだった。


「……うんっ」
「ふふ。了解」


 明日奈と玲奈も断る訳もなく頷いた。

「じゃあさ。皆で直ぐに入ろうよ! ほら、もうこの道の先、国道に出た所に、ネット喫茶があったから、そこならすぐに入れるよ?」
「あ、レイ良い考えだね! 実は それ私も思ってたんだ」
『ほ、ほんとっ!?』
『ありがとうございます!』

 明日奈と玲奈は直ぐにでも行くよ、と言う旨を伝える。

「……ん。(玲奈。時間は大丈夫なのか?)」
「……うんっ。今日はとことんまで付き合うって決めてるもんっ」

 あまり水差したくないが、一応小声で隼人は門限の事を訊く隼人。

 因みに玲奈は最初から門限の事など…… どーとでもなれ! と思ってたから二言目にはOKの構えだ。 明日奈も同じ気持ちだったらしく、ぐっ とサムズアップを見せた。携帯端末を暫くは見たくないと言う気持ちは強い様だが……。

「では 後は若者に任せて僕は退散するとするよ。……隼人君。また 後日宜しく頼みます」
「はい。倉橋先生も此処までありがとうございました」
「いえいえ。これからですよ。……すべてはこれからです」

 倉橋は 笑顔でそう答えると夕日の中を帰って行った。
 
 3人は倉橋を見送ると 足早に24時間営業のネット喫茶へ。
 










~新生アインクラッド 24層 パラネーゼ~



 最初は22層の森の家。
 青白い光に身を包まれて姿を現した音楽妖精族(プーカ)歌姫(ディーヴァ)水妖精族(ウンディーネ)超勇者(マスターブレイブ)。……二つ名で呼ぶとちょっと怒ってしまうから今は無しにしておこう。
 兎も角、2人はVR世界に感覚が馴致するのも待たずに家を飛び出した。
 翅を広げ、音を奏で、宙を滑り そのまま空高くへと羽ばたく。途中でアスナとも合流して3人で軌跡を空に描きながら 層の中央へと直ぐに到達した。転移門にて パラネーゼへと行き 今度は都市の北にある小島を目指す。

 そこがあの2人と初めて出会った場所だから。

「(今日くらいは……、今日くらいは…… だよね………。うん……。そ、それくらいでヤキモチなんて、妬かないもんねっ? 私! だ、だからいっつもリズさんとか、皆にもからかわれたりするんだよっ!?)」

 そして 空を飛んでいる間も、転移をしている間にも レイナは小さな声で唱える様に呟いていた。

 ランがリュウキと対面したら、きっと感情を爆発させると思う。淡い想いをその身に乗せて。確かに複雑である事は否定しない。でも、それ位は許されるって思う。……流石に《結婚システム》に同意する様な事はダメだけど。

「レイナ、大丈夫か?」
「ふえっ!?」
「いや、前危ないぞ」
「わぁっ!」

 空を飛んでいるとは言え障害物が全くない訳ではない。大き目の樹木もそれなりにオブジェクトとして備え付けられており、太い枝が網羅している場所ででの飛行は 初心者であれば恐怖を覚えたりするだろう。
 此処にいるもので初心者はいないのだが、流石に、文字通り見た通り、心上の空だったりしたら やっぱり危ない。それがレイナだった。

「あ、あう。ご、ごめんね? リュウキ君……」
「大丈夫大丈夫」
「レイ。前方不注意だよ? ちゃんと気を付けるの」
「う、うん」

 流行る気持ちを抑えきれないのだろう……程度にしかリュウキは考えてなかったのは いつも通りで悪しからず、である。




 そして――あの小島に到着した。

 思い起こせばあの日は本当に賑わっていた。

 《絶剣》と《剣聖》

 絶対無敵とあっという間に噂は駆け巡った辻デュエル。この場所で2人は連日連戦。無敗を誇っていたのだ。
 あの日は、戦いが起こる度に、剣と剣が交わる度に歓声が沸き観客(ギャラリー)が大いに盛り上がり、本当に賑やかだったのだが 今はひっそりと静まり返っていた。この場所はランダムに白い霧が濃密に立ち込める事があって視界が悪くなる事がある。

「……2人はもう来てるかな?」
「うーん…… やっぱり上からじゃ判んないかなぁ。この霧じゃ」

 地表の様子は空からではこの霧のおかげでよく見えない。だけど判る事はある。……この場所で間違いないと言う事。……間違えている筈はないと言う事だ。
 
「待っててくれるって言ったんだ。きっと来てると思う」
「だね。下に降りるよー」
「うん。OK」

 3人は、旋回していたが、翅を少し畳み高度を落した。
 地面に降り立ち、背中の翅を完全に消した所で 名前を呼ぼうとしたその時だった。



「うわぁぁぁぁんっっっ!!!」
「っっ……っと わぁっ!」
 


 いつの間に背後を取られたのだろうか? と思う間もなく、リュウキは強烈な衝撃を背中に感じた。
 正面からであれば、受け止めたり抱き留めたりできるものだが、如何せん背中は少々厳しいものがある。それも遠慮のない高レベルの持ち主の全力突進だ。踏ん張る事は異常に難しい。だから 珍しいが リュウキと言えどそのまま どさっ と倒れてしまったのも仕方がない。

 いや――むしろ最初から力を抜いていたかもしれない。その気持ちを 全面で受け止める為に。流石に背中から~は思ってなかったと思うが。

 当然ながら、飛びついたのは感慨極まった様子のユウキだった。


「ユウキ、落ち着いて……」
「うわぁぁぁんっっ、りゅーきー、りゅうきーーっっ! だいすき、だいすきだよぉぉ!! ぼ、ボクとねえちゃんの大切な場所、守ってくれてありがとうだよぉぉ」

 背中にぐりぐり~~と頬を摺り寄せる。
 腕を回し、離さない! と言わんばかりに身体を抱き寄せる。先程の会話で最後の方は落ち着けてきたと思っていたのだが、改めて再会するとまた感情が爆発してしまった様だ。

 腕の中で感涙する歳下の少女を抱き寄せ、落ち着くまで頭を撫でてやり……と言うのが王道だと思えるが、背中に抱き着かれているので、そう言う事は出来ず 満足するまで待つしか無かったのだった。

  
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