名探偵と料理人
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第四十九話 -悪意と聖者の行進、他-
前書き
このお話は第34~36巻が元になっています。
34,35巻の該当エピソードは事件後の話題のみです。
「蘭ちゃん、体調の方は大丈夫なの?神奈川で巻き込まれた事件現場で倒れたっていうから心配してたんだよ?」
「もう大丈夫だよ、龍斗君。倒れたのは過労による熱だっていうし、その熱ももう引いたしね。でも倒れたせいで日本史のテスト受けられなかったのは痛かったけどねー」
「もう!テストより蘭の体調でしょ!!部活のやりすぎも原因の1つって聞いたわよ?」
「そうやねえ。それでなくても蘭ちゃんは普段から一家の家事を一人で担っとるわけやし。無理はアカンよ?」
「しばらく俺が晩御飯作りに行こうか?」
「もう、みんな心配し過ぎ!もう大丈夫だから!!…それに悪い事だけじゃなかったのよ?」
「「「???」」」
蘭ちゃんの言葉に俺達三人は首を傾げる。その答えを待っていると、次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き続きはお昼へと持ち越しになった。しかし、熱出して倒れて良かった事ってなんだろうな?
――
「…それで?」
「??それでって?」
「さっき蘭が言いかけた、悪い事だけじゃないって話よ。もったいぶらずに教えなさいよ!」
「べっつにもったいぶってるわけじゃあ…」
「そらあんな言い方して授業を挟んだんやから、なんやもやもやしてしまう園子ちゃんの気持ちも分かるで?」
「わかった、分かった!話すから…ただ思い出したってだけよ」
「思い出したって何を?」
「ほら、私一年の時に新一とアメリカに遊びに行ったじゃない?」
「あ、ああ。LAに住んでる有希子さんに会いに行ったんだっけ?」
「うん。その、LAに着いた後すぐに新一のお母さんに連れられてNYに飛んだのよ」
「あー、なんかきいたことあるわね。その話」
「ウチは初めて聞いた話やわ」
「あ…行ったのは高校に上がる直前だったから紅葉は始めての話だね」
「あ、そっか。その時はね、NY観光を楽しんだって話したんだけど…実は色々、事件に巻き込まれてたのよ。すっかり忘れてたけど」
「じ、事件?」
「…蘭ちゃん、よくよく二年に上がってからよくよく事件に巻き込まれるようになったけど高校あがる前からやったんやねえ…」
「ち、違うわよ!一年の頃は数えるだけよ!…それで、NYの時も事件に巻き込まれた後に熱出して倒れちゃって…その事件の事をすっかり忘れてたってわけ」
「なるほどねえ。つまり、一昨日出した熱と同じシチュエーションやったから思い出したって感じなんかな?」
「多分紅葉ちゃんの言う通りだと思う」
「……」
俺はその話を弁当をつつきながら聞いていた。この話って確か一年前に新ちゃんに口止めされていた話だな。それに…確か、事件現場にいたのは。
「そーれーでー?なんで事件に巻き込まれたことがいい事だったのよ?」
「勿論事件に巻き込まれたのはいい事じゃないわよ?でも、その事件と一緒に大切なことも忘れてたから…それを思い出せたこといい事!」
「なーによそれー」
「えへへ、ひーみつ♪」
「えー、教えて―な。蘭ちゃん!」
なんだっけ。確か、新ちゃんに秘密にしておいてと学校で言われた後に事件内容を聞いた時は…ミュージカルでの殺人犯を犯行前に蘭ちゃんが助けて、お蔭で殺せたみたいなことを言われたとか言ってたよな。そんで、その後に通り魔にあって…何がいい事だったんだ?ちょっぴり顔が赤い蘭ちゃんの顔を見ながら俺はあーでもないこーでもないと思考を巡らせた。
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「ははははは!何それ!わざわざ沖縄まで行って大食い対決してきたって!?名探偵大食い対決?探偵関係ねえ!!はははっははははは…はあはあ、お腹いってえ!
…にしてもさあ。日程合わなかったから行けなかったけど、旅行先でまた事件に巻き込まれてるんだね」
「龍斗、笑いすぎだ…ま、俺もそう思うけどよ?しゃあねえじゃねえか。企画してた島で事件が起きて、それが企画の根本を解決する内容だったんだからな。後事件に関してはオレはもうなにもいえねえよ」
「だ、だからって大食いって…ふうふう。ふー、落ち着いた。それで?俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「ああ。服部が海で言ってたんだけどよ。ほら、ちょっと前にジョディ先生に会いに行ったじゃねえか?そん時に俺が離れている時に服部がサシで話したらしいんだけどよ…」
「ああ、俺が遠慮したヤツな」
「そん時ふとしたことで服部が龍斗の話題出したらしいんだけどよ…一瞬すげえおっかない顔をしたって言ってたぜ?親の仇を見る様な顔だったってよ」
「……なんでさ」
いやホントになんでだよ?
「心当たりないのか?」
「あったら相談してるよ。最近はきっつい視線くれるし、でも話しかけてもいつも通りだし。全くもってお手上げ状態さ」
「ふうん…あ、そうだ。オメー、クリスについては本当に何も知らねえのか?」
「へ?」
な、なんだ?俺新ちゃんに何か言ったっけか?
「ほら、博士に海外のサイト巡り頼んだだろ?そん時に博士が見つけたんだけどよ。シャロンの葬儀に参列したときにクリスと話したみてえじゃねえか。クリスが「母のお気に入りの子」っていうぐれーだし、シャロンからクリスの事本当に何も聞いてねえのか?」
「とはいってもねえ。俺も実際に会ったことは前も言ったと思うけど一回だけだしやり取りは手紙だったからね。その時の内容も近況とか、最近の俺の成長のこととかばっかりだったし」
「手紙って…メールとか、チャットとか色々あんだろうに珍しいな?」
「まあ、俺が子供だったからってのもあったけどクラッカーとかを警戒してたみたいだよ。前俺も同じことを聞いたら絶対に俺とのやりとりは見られたくないって返事があった」
「へえ…(本当に随分と龍斗に入れ込んでいたんだな)」
「あ」
「ん?なんか気になることでも思い出したか?」
んー。これは…どうなんだろうな。まあ言っても大丈夫か。普通に家族の話題になったから俺も聞いただけだし。
「前に一度だけシャロンさんにクリスさんの事を聞いたことあったんだけど。帰ってきた返事には「クリスは私の分身。私の光や闇をろ過していき、残った透明なavatar」ってさ」
「アバター…化身、または分身って意味か…」
シャロンさんは苦労の連続の女優人生だと言っていた。その反面、クリスさんはシャロンさんの娘として、女優としてのキャリアを積んでいる。自分が生きたかった人生をクリス・ヴィンヤードとして体験しているんじゃないかな?まあ、そう思うにしても判断材料が少なすぎるけどね。
「ちょっとー!コナン君、龍斗おにいさんとお喋りしているのはいいけどパレード見逃しちゃうよ!」
「あ、わりわり」
っと。確かに新ちゃんとのおしゃべりに興じているのもいいけれど、今日は東京スピリッツの優勝パレードを見に来ているんだった。子供たちがへそ曲げる前に話を切り上げて俺と新ちゃんもパレードを見ることにした。
「それにしてもスマンのう、龍斗君。そろそろ全国模試なんじゃろ?なのに突き合わせてしまって」
「いえいえ。東京スピリッツ優勝となるとかなりの混雑になると思ったので博士だけじゃ大変でしょう。それにコツコツやってますし今日一日くらい彼らの面倒を見ても、何の問題ありませんよ」
…と言っても、結構後ろの方についてしまったし、高身長な俺は余裕で見えているけれど子供たちは大人の陰に隠れて見えないか。折角来たのにこれじゃあ楽しめないだろうな。歩美ちゃんも見えないって言ってるし。ここは…
「歩美ちゃん、俺の肩に乗るかい?」
「え、いいの?」
「ああ。俺は余裕で見えているし、肩に乗れば歩美ちゃんでも見えるよ。哀ちゃんもどうだい?」
「わ、私はいいわよ」
「ええー!折角だし、お願いしようよ。ね?灰原さん!!」
「え、ええ…」
おお、哀ちゃんが押されて了承してしまった。
「それじゃあ、ついでにコナン君と光彦君も持ち上げてあげよう。元太君は博士にお願いするといいよ?」
「え、ワシ?」
「ボ、ボクもですか?」
「オレもかよ。けどどーやって乗せるの?肩じゃあいくら子供だからって2人分の幅は…」
「ふっふっふ。誰が肩と言ったかね?」
「へ?」
俺はしゃがみこみ、まず女の子二人を肩に乗せた。その状態で両の手をまっすぐにのばして男の子たちを手のひらに載せて立ち上がると同時に腕を90°曲げた。腕、肩、頭のラインで漢字の「山」になるような格好だ。
「わあ!すごいすごい!!たかーい!!」
「確かにこれならよく見えます!」
「…よくもまあこんな力が。それに全然揺れないし」
「確かにこれならよく見えるけどよ。オレと光彦は完全に他の人たちより抜けて見えるからパレードの車に乗った選手がオレ達に気付いてぎょっとしてるぞ…」
「いいないいな、四人だけずりいぞ!博士、俺も持ち上げてくれ!!」
「はいはい…」
その後しばらく子供たちを持ち上げていたが、博士の腰が限界を迎え元太君を下してしまった。その彼が、四人だけ見えている状態に満足するわけもなく台になりそうなものを探してパレードの人込みから離れてしまった。
「おい、元太!…しゃーねー。龍斗…にいちゃん。降ろしてくれる?」
「いいのかい?」
「うん。皆もいいよな?」
「ええ」
「ボク達だけ見ているのは不公平ですもんね」
「うん!」
俺は子供たちを下した。子供たちは離れた場所の…あれはゴミ箱か?に乗っている元太君の傍に走って行った。やれやれ。注意しなよ、博士。あ、倒れた。
言いそびれちゃったけど、新ちゃんと元太君が入れ替わって俺が持ち上げても良かったんだけどね。そうすればパレードから遠のくこともなかったし。彼の体重は恐らく40kg…だけどそれくらい俺にとってどうとでもない重さだ。
…あっれ?肩まわしたりしてたらいつの間にやら郵便ポストの上に光彦君と元太君の姿が。あれは流石にダメだろ…さっきのプランで行くかな。五人全員で、なら新ちゃんには博士の肩車で我慢してもらおう。
ポストにいる子供たちを降ろすためにポストに近づくと俺より先に注意する茶髪の女性がいた。
「ちょっとくらいいじゃんかよ、オバサン!」
元太君は言葉遣いをもうちょっと教えないとだめだな。いつか絶対トラブルになる。
「ちょっとー、オバサンはないでしょ?オバサンは!!いう事聞かないと…逮捕しちゃうわよ♡」
「さ、佐藤刑事…」
おやま。かつらを取ったその下からは黒髪のショートが出てきた。子供たちが言った通り、佐藤刑事の変装だったらしい。
「久しぶりですね、佐藤刑事」
「え?えっと君は…?」
「あれ?龍斗にいちゃんと初対面だっけ?…あ、そっか。米花サンプラザホテルの時は佐藤刑事意識がなかったから。龍斗にいちゃんは佐藤刑事を撃った犯人を拘束して、佐藤刑事の応急処置をしてくれたんだよ!」
「その、龍斗にいちゃんこと緋勇龍斗です…動きを見る限り、傷による身体可動性障害もないようですしよかったです」
「ああーー!君が私の事を治療してくれたの!?あとから聞いた話だと、君の応急処置のお蔭で失血性の臓器不全を起こさなくて済んだって。今度何か御礼したいわ!」
「あはは。あのときはあれがベストだと思って行動しただけなので。それより、子供たちが何か聞きたそうにしてますよ?」
「え?」
佐藤刑事が向けた視線の先には俺の言った通り何かを言いたそうな子供たちの姿が。まあ、彼らの聞きたいこととはなぜここにいるか?だったんだけど…一人がしゃべればもう一人がしゃべり、それに反応した別のもう一人がしゃべる…というどこかおばちゃんの会話のように話が流れて行って、佐藤刑事が仕事中に抜け出してパレードを見に来ていることになってしまった。
その後、彼女は否定したがさらに追い打ちをかけるようにミニパトに乗った婦警がデートだと言い、子供たちがそれに乗ってしまった…佐藤刑事、不憫な。
その話を終わらせたのは博士の後ろから来たもう一人の刑事さんだった。
「仕事ですよ、仕事!デートじゃありません…」
「白鳥警部!?」
「ども、ご無沙汰です」
「やあ、龍斗君。しかし君がこの少年探偵団と知り合いだったとはね」
「まあ、博士とはご近所ですから。コナン君つながりもあって…ね?」
「なるほど」
「それにしてもどうしてあんたまで変装を…」
そしてなぜこんなに警察の人がいるのかを教えてくれた。なんでも警視庁宛に犯行予告とも取れる謎のFAXが送られてきて、それの文面が未解決事件の物とよく似ているために刑事が導入されているそうだ。
「なーんだ、デートじゃないんだ」
「ああ。今日は仕事なんだよ。問題のデートは来週のはずですしね」
…ヲイ。白鳥任三郎さんよ。何故に同僚のデートの日なんかを把握しておるのじゃ。
ミニパトの婦警さんも把握しているし、白鳥警部の話だと割と大人数で監視体制が気づかれているみたいだし…さっきのパレードでデートよりやばいんじゃないか?いや、休暇届出してるみたいだし、いいのか?
――
ええ、ええ。分かっていましたとも。新ちゃんと出かける時は何か起きるかもという心構えで動かないといけないという事を。でもさ、まさかせっかくのおめでたいパレードに水を差すような輩が、しかも爆弾を使用する奴が出るとか思わんよ……
とりあえず、爆破地点にあった残り香から爆弾を仕掛けた奴らの動きは分かったから新ちゃんに言って俺だけ別行動して彼らを尾行しアジトを突き止めた。
その後、新ちゃんに連絡を入れると向こうでも動きがあったらしく通報は少し遅らせてからしてほしいとのことだったので、指定された時間に匿名の電話という事で奴らの住所を電話して俺のこの事件との関わりは終わった。しかし、新ちゃんもまあよく郵便局強盗なんてものに気付いたもんだよ。俺がすぐに匿名電話をしていたら強盗役が逃げていたかもしれないし、新ちゃんに電話したのはファインプレーだったな。そして…
「「「ごっはん、ごっはん。美味しいご飯!!!」」」
匿名で電話する以上、俺は途中で(博士と小さくなった組には話したとはいえ)抜け出してしまったわけで。一日面倒を見ると言う約束を破ってしまったので彼らに博士の家で夕飯を作ることにした…っと。
「よし、これで全部出来た。さあみんな手を洗ったかな?」
「「「はーい!」」」
「ええ」
「「もちろん(じゃよ)」」
それじゃあ……
「「「「「「「いっただきまーす!!!!!!!」」」」」」」
後書き
次回はあの事件…なんですがあっさり終わってしまいますね。だって龍斗、高校生ですもの。
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