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塩賊

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第三章

「あれに及第すれば偉くなれるだろ」
「はい、誰でも士大夫になれますね」
「皇帝の前にも出られて」
「国だって動かせる」
「そうもなれますね」
「だから科挙を受けたんだよ」
 若き日の黄巣はというのだ。
「あの時の俺はな」
「偉くなれるからですね」
「誰でもそうですよね、科挙は」
「その為に受けますよね」
「自分も士大夫になって国を動かす為に」
「それで学問にも励んでな」
 そうしてというのだ。
「受けてな」
「落ちた」
「それで今に至りますね」
「そうさ、若い時の話でもう塩を売って贅沢していようと思ってたがな」
 それがというのだ。
「ここはいっそな」
「叛乱を起こしてですか」
「唐をぶっ潰してですね」
「お頭が皇帝になる」
「そうなってやりますか」
「御前等は士大夫だ」
 手下達はというのだ。
「科挙に受かっても士大夫止まりだ、しかし唐を潰したらな」
「皇帝ですね」
「士大夫どころか」
「天子様ですね」
「そうなってやるか、じゃあ武器も兵も兵糧も集めてだ」
 今以上にというのだ、蓄えた富を使って。
「そうして唐を潰してやるぜ」
「わかりやした、じゃあ早速です」
「兵を集めましょう」
「塩もありますし」
「これでも人を集められますからね」
 塩がまさに銭であり米になっていた、その為人も何もかもが面白い様に集まってだった。黄巣は王仙芝に呼応する形で兵を挙げた。
 江南から船を使って南下し広州で暴れ回った、この事態に朝廷は深刻な危機を感じて何度も兵を送り懐柔策も行ったが。
「駄目だ、勢いが止まらない」
「江南も広州も完全に賊の手に落ちた」
「連中は数が多い」
「塩で幾らでも富を手に入れる」
「懐柔策も黄巣には効かない」
「一体どうすればいいのだ」
 彼等は最早打つ手がなくなっていった、討伐軍を差し向けても相手にならない。そうこうしている間に黄巣率いる叛乱軍はどんどん膨れ上がって力が弱まっていて腐敗も進んでいた唐から離れていた民心も掴んでだった。
 広州から北上し都長安に迫った、そして遂にだった。
 長安を攻め落とした、朝廷は慌てふためいて蜀に逃げるのがやっとだった。黄巣は皇帝に即位し国の名を斉とした。
 皇帝の座に座り皇帝の黄衣を着てだ、黄巣は手下であった朝廷の臣達に言った。
「本当に出来たな」
「はい、唐を潰せましたね」
「俺達は出来ましたよ」
「何でも出来るって言いましたがその通りでしたね」
「俺達は国を潰せました」
「そして士大夫になれました」
「俺もこうしてだ」
 頭に被っている皇帝の冠を擦りつつ言う黄巣だった、そのみらびやかな宮殿の中で。
「皇帝になった、科挙に受かっていてもな」
「精々士大夫ですね」
「それで終わりでしたね」
「皇帝なんてとてもですね」
「無理でしたね」
「そうだ、しかし塩賊になってだ」
 科挙に落ちてそれに身を落としてというのだ。
「この通りだ」
「面白い位儲かって兵も集められてですね」
「叛乱も起こせて」
「そして唐も潰せて」
「皇帝にもなれましたね」
「本当に俺達に出来ないことはないな」
 塩賊、つまり自分達にはというのだ。 
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