エアツェルング・フォン・ザイン
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そのさんじゅういち
咲夜に連れられて向かった先は、紅魔館の食堂だ。
ぎぃぃぃ…と音を発て、ドアが開く。
中を見ると、レミィ、フランに加え、少しげっそりした玉藻が食事を取っていた。
「どうしたんだ玉藻?」
「レミィにしっぽぐちゃぐちゃにされました…」
「主人を置いて逃げるからだこのアホ」
「ご主人は何してたの?ナニしてたの?」
「シてねーよ。ちょっとパチュリーと調べ事をな」
「ご主人が半吸血鬼になったこと?」
「ん、まぁ、そんな所」
半…いや、せいぜい十分の一くらいだ。
カラン…と銀食器が床に落ちた。
「半吸血鬼!?ちょっとザインどういう事!?」
レミィが立ち、血相を変えて俺に尋ねた。
「ん…んー…?詳しい事は後で話すさ。
咲夜、俺の分も貰えるか?」
「かしこまりました」
咲夜に用意してもらったディナー(?)を食べ終え、レミィに説明をする。
「まぁ、事の発端はフランの羽の魔力結晶と、フランが俺の血を飲んだ事だ」
「勿論グラスに移して、よね?」
とレミィが確認を取ってくる。
「そこら辺は追々。
で、先ずはパチュリーに言われた通り、魔力結晶を食べてみた。
が、何も変化は無かったので諦めた」
「それで?」
「フランが直に血を飲んだ事無いって言うからさー…
俺の首を差し出した訳よ」
「待ちなさい!その話が本当なら貴方はフランの…」
「まぁまぁ、落ち着け。
でだ、フランが俺の血を吸う時、俺を眷属化しようとするフランの吸血鬼のスキルが発動した。
だが、結局それは俺の中のフランの力によって防がれた」
「例の結晶ね?」
「ああ、その結果として、眷属化はしなかったものの、俺は少しだけフラン…吸血鬼に近付いたって訳らしい」
「ふーん…」
するとレミィはフランを見て…
「色々言いたい事はあるけれど、まぁ、既にパチェに言われたみたいだし、私からは何も言わないわ。
だけれど、今回は運が良かっただけ。
だけれど、吸血鬼の能力について、貴方に教えなかった私にも非があるわ。
そこら辺も教えなきゃね…」
「はい、お姉様…」
シュンとしてるフランの側に行き、ナイトキャップの上から頭を撫でてやる。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。
お揃いだぜ?」
「うん!」
するとレミィが何かを考える素振りの後、良いことを思い付いたと言わんばかりの声色で言った。
「ねぇ、ザイン。
フランの羽の結晶を食べても何も起きなかったのよね?」
「ん?そうだけど」
「今日は満月なのだけれど、少し外に出てみない?」
「あぁ、わかった」
今日は満月。
多分今頃慧音は歴史を編纂しているだろう。
そう言えば慧音の尻尾をモフモフした事は無かったな…
次の満月あたり頼んでみよう。
「さ、いくわよ」
何故かテンションの高いレミィに連れられ、俺達は紅魔館のバルコニーへ向かった。
長い長い紅魔館の廊下。
その窓から見えるのは、淡く照らす月。
「月…か」
「どうしたのお兄様?」
「ん?いや、今日は良く飛べそうだなと思ってな」
ALO古参プレイヤーと神聖術者の性で、晴れと月夜はテンションが上がる。
「ご主人、まだそんな事言ってるの?」
「いや、こういうのはそう簡単に変わる物じゃねーんだよ」
旧ALO時代では陽光と月光は飛行に密接に関わり、UWでの光はそのまま空間リソースに関わる。
咲夜がバルコニーのドアを開けると同時に…
「じゃぁ、お待ちかねの月と対面よ」
バルコニーの、ガラス張りの扉が開かれ、月光が降り注ぐ。
「うを!?眩しぃっ!?」
余りの眩しさで、咄嗟に目を瞑った。
「ザイン。目を開けなさい。
そして、その目に焼き付けるの。
私達、夜の眷属の光を」
うっすらと目を開けると、月の光がより鮮明に感じる。
「ようこそ夜の世界へ。
私達は、新たなる同胞を、歓迎するわ」
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