エアツェルング・フォン・ザイン
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そのさんじゅう
地下室から出ると、パチュリーを見かけた。
「ようパチュリー」
さっき見たときと体勢が一切変わっていなかった。
「あら、ザ…イ…ン…?」
「なんだよ?そんな死者を見たような顔しやがって。
あ、あとフランの羽食ったけど何も起きなかったぞ!」
と若干の非難を込めてパチュリーに言ったが、当のパチュリーはそんな事は右から左と言わんばかりに、ポカンとした顔をしていた。
次の瞬間、パチュリーは椅子から立ち上がり、此方へ駆け寄って来た。
そして目の前でしゃがみ、俺の肩を揺さぶりながら言った。
「ザイン!貴方大丈夫なの!?意識はある!?
体は動く!?自我は!?」
いやいきなりなんだよ?
「いや、意識あるし、体も動くぞ」
「本当に?」
「お、おぅ…」
パチュリーに圧され、生返事で返した。
「そ、そう…なら良いのだけれど…」
ホッとした表情を浮かべた後、パチュリーの顔が憤怒に満ちた。
「フラン!」
「ひゃっ!?」
フランが、咲夜の後ろに隠れた。
「貴女自分が何をしたかわかってるの!?」
その後のパチュリーの話によると、吸血鬼が相手から直接血を吸うと、相手は眷属となってしまうらしい。
眷属となった者は、自我を失い、主に付き従う奴隷となるらしい。
パチュリーの説教が15分くらい続いて、フランは涙目になっていた。
「まぁまぁ、パチュリー。俺はなんともないんだし、な?」
「…………そうね、ここら辺にしときましょうか。
知りたい事もあるしね…」
あ、知りたい事といえば…
「パチュリー、どうしてフランが俺の血を飲んだとわかったんだ?」
パチュリーの説教が始まった時から思っていた事だ。
どうしてパチュリーは一目見ただけでわかったのだろうか?
「簡単よ。貴方とフランの間にパスが有ったからよ」
「パス?」
「ええ、貴方とフランの間で、力が行き来しているわ。
もちろん、今もそうよ」
へー…
「フラン、何か感じるか?」
フランはふるふると首を振った。
「感じない程微かな力よ。貴方達では知覚出来ない程のね」
「お前はわかるのか?」
「知覚魔法を常時展開しているもの」
「はー…パッシブか…」
知覚上昇魔法は…無いな。
それに態々心意の瞳を使うような事でもないだろう…
「咲夜」
「はい」
「食堂にはフランだけを連れて行きなさい。
ザインには少し用があるわ」
「かしこまりました」
フランは咲夜に連れられ、渋々食堂へ向かった。
「で、俺を残した理由は?」
「勿論、眷属化をレジストした理由を調べるのよ」
ほーん…
「少し待ってなさい」
するとパチュリーは図書館の床に、魔方陣を書き始めた。
「何書いてるんだ?」
「精密探査魔法用の陣よ」
五分程待っていたら、パチュリーに声をかけられた。
どうやら完成したようだ。
「ザイン、その陣の中心に立ちなさい」
「封印とかしねぇよな?」
「されたいなら言いなさい。一分で陣を書き変えるわよ?」
「おお、こわい」
大人しく陣の中心に立つ事にした。
「それで?」
パチュリーが一枚の紙を陣の外周に置いた。
「そのまま二十秒くらい動かないでいてくれるかしら」
するとパチュリーは呪文を唱え始めた。
全く聞き取れない…多分、この世界のどの国の言語でもないだろう…
そして、パチュリーが呪文を唱え終えると、陣が淡く輝いた。
その輝きは次第に激しくなり、やがて目を開けていられない程になった。
「うわっ!眩し!?」
「ザイン、もういいわよ」
光が収まり、うっすらと目を開けた。
目を開けると、パチュリーがさっきの紙を手に取って眺めていた。
「パチュリー?」
「もう陣から出ていいわ」
パチュリーは俺を放って紙を読んでいる。
途中で小悪魔が来て椅子を用意してくれた。
「ありがとな小悪魔」
「いえいえ」
小悪魔にグリモワールを持ってきてもらい、目を通している内に、パチュリーの調査が終わったようだ。
「パチュリー、何かわかったか?」
「ええ、なかなかに面白い結果が出たわ」
パチュリーにさっきの紙を手渡された。
「どう?」
そこに書いてあった、"知識にない"文字を読み、その意味と内容を知った。
「はは…ははっ…はははははっ!
成る程…そうか、そういう事か…」
その内容にあった事象を、俺は数度見ている。
「リムーブ・コア・プロテクション…」
核心防壁解除。
彼の王を以てして、自分以上の剣技を持つと言わしめ、その身を剣と化し、想い人と共に、彼の王に使えた青薔薇の騎士。
彼が肉の体を棄てた時。
それが一度目。
カルディナ統一後、彼の王が星王になった日。
俺は彼に忠誠を示した。
それが二度目。
神話級宇宙獣討伐の時、その身を武器と化し、刺し違えた部下。
彼女が覚悟を示した時。
それが三度目。
「そうか!はは!これは傑作だ!」
彼女亡き後、このたった3ワードの神聖術は禁術となった。
それを、再び目にするとは…
「貴方が食べたフランの羽の魔力が、貴方の完全な眷属化を防いでいるわ。
それどころか、今の貴方はその魔力を通してフランに対して同じ事ができるわ」
ふーん…
「それに、どうやら貴方はフランの能力を免れる事も出来そうよ」
「"ありとあらゆる物を破壊する程度の能力"をか?」
「ええ、フランの魔力が、その自殺とも取れるような事象を防ぐわ」
ふーん…としか言い様がない。
だからなんだ? という感じだ。
「練習すればフランの能力も使えるかもしれないわよ?」
「フランが拗ねそうだからやめとく」
「あの子の事だからむしろ喜ぶと思うわ」
そんな物かねぇ?
「あ、そうだわ。ザイン、貴方フランに血を吸われてオーガズムを感じたかしら?」
は?
「オーガズム…って要するに性的快楽か?」
「態々言葉を濁さなくてもいいわよ。
で?どうだったのかしら?」
仮にも女子なんだからもう少し恥じらいを持てよ…
「よく解らん、というのが答えだな。
確かに血を吸われている時に快楽を感じたが、それと同等以上の苦痛も感じた」
「成る程、眷族化を促す快楽と貴方自身がそれを拒む苦痛という所かしら…」
「あのさぁ、真面目に考察してる所悪いけど、少しは俺の男としてのプライドも考慮してくんない?」
「男?幼児の間違いでしょう」
いや、確かに俺の今の身長はパチュリーの半分くらいで、フランよりも低いけどもさぁ…
一応"星騎士"化すれば元の…前世の姿に限り無く近い体格身長になれるのは、ルーミアと会った時に確認している。
「私の用事は終わりよ。咲夜!」
「はい、パチュリー様」
音もなく咲夜が現れて、ちょっとビビった。
「私の用は終わったから、彼をレミィ達の所へ連れていってあげなさい」
「かしこまりました」
図書館を後にし、咲夜に連れられ、食堂へ向かうのだった。
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