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豆狸

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第二章

「他人行儀っていうか」
「素っ気ないわよね」
「そうよね」
「ええ、私達が急にお家に入ったせいよね」
「絶対にそうね」
 その辺りの事情を察してだ、蒔絵は妹のちるに応えた。
「義兄さんは」
「お義兄ちゃん何ていうか」
 難しい顔になって言う彼だった。
「私達を家族と思ってないわね」
「何ていうか」
 また言う蒔絵だった。
「物凄くね」
「他人行儀で」
「私達も困るわ」
「そうよね」
「私別に義兄さん嫌いじゃないわ」
「私もよ」
「他人行儀なだけで」
 このことは二人共感じていた、それも確かにだ。
「けれどね」
「そうよね、意地悪でもケチでもないし」
「お小遣い多いし」
 父もあやめも二人に小遣いをあげているが三樹夫もなのだ、それも父に内緒で親達より多く小遣いをあげているのだ。
 そして意地悪でもなくだ、それでなのだ。
 二人も義兄は嫌いでなくそれで言うのだった。
「何とか仲良くなりたいわね」
「家族になりたいわよね」
「折角縁あって一緒になったし」
「それならね」
「義兄さん漢気あってね」
「空手してね」
 そこで得た心の強さも出てだ、三樹夫は漢気もあった。二人にとってはそれもいいことだった。しかし。
 その彼の態度にだ、どうにも困ったものを感じてだった。二人も自分達の母のあやめと同じく困っていたのだ。
 それで三人でもどうしたものかと相談に乗っていたがだ、その彼女達に夫であり義父である三樹夫の父が言ってきた。
「三樹夫なら一ついいやり方があるよ」
「いいやり方?」
「といいますと」
「あいつは酒好きなんだよ」
 三樹夫のこのことを話した。
「これがな」
「お酒ですか」
「義兄さんお酒好きなんですか」
「そうなんですか」
「そうだよ」
 三樹夫がそのまま歳を経た様な顔である、声も身体つきもそうした感じだ。背筋もぴんとしている。
「実はな」
「お家でお酒飲んでる時はなかったんですが」
 あやめは自分の夫に目を瞬かせて応えた。
「これまで」
「はい、本当に」
「一度もです」
 蒔絵とちるも言う。
「お義兄ちゃんがお酒を飲んでることなんか」
「一度も」
 それこそというのだ、だが。
 父は笑顔でだ、三人に言うのだった。
「それがなんだよ」
「そうですか」
「そうだよ、だから仲良くしたいと思うなら」
 こう妻、彼にとっては二番目の妻になるあやめに話した。
「お酒だよ」
「それを出してですか」
「お話するんだよ、あとお酒なら」
 これならとだ、さらに話した夫だった。
「近所の酒屋、看板は潰れかけだけれどな」
「ええと、ご近所の」
「狸堂な、あそこの店長実は狸なんだよ」
「狸ですか」
 まさにというのだ。 
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