豆狸
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第一章
豆狸
優しくそれでいて気遣いを常にしている様な心配さが顔に出ている楚々とした顔立ちで黒髪は少し波立ち後ろで束ねている、母のあやめと。
気の強そうな目鼻立ちに眼鏡、黒のロングヘアが独特の上の娘蒔絵。制服はいつも着こなしているが家ではいつもロリータな服を着ている。
肌は日焼けしていて黒く幼さの残る可愛らしい目と小柄で華奢な感じの身体に薄茶色の髪の毛を可愛くツインテールにして青いリングのアクセサリーで飾っている妹のちる。
大阪浪速区で父と二人で暮らしていたその三人が家に来てだった、打本三樹夫、八条大学で歴史を学んでいる彼はまず三人を見て言った。
「ええと、何か用ですか?」
「あの、私実はです」
あやめが三樹夫、背が高く細面で引き締まった顔をしている彼が言ってきた。
「もう少ししたらこの家に入らせてもらうことになります」
「というと」
そう聞いてだ、三樹夫は言った。引き締まって鋭い声はアスリートを思わせる空手で鍛えた身体に相応しい端正な声だ。
「うちのおとんと」
「はい、実は職場で知り合いまして」
三樹夫の父が務めている八条バスでというのだ、八条バスは全国に展開しているバス会社で大阪市でも全部の区に隈なく走っている。彼はそこの運転手なのだ。
「それで、です」
「結婚するんですか」
「そうです。その挨拶に来ました」
「宜しくお願いします」
今度は上の娘の蒔絵が言ってきた。
「これから妹になります」
「私もです」
下の娘のちるも明るく笑って言ってきた。
「こちらの家にお世話になりますね」
「そうか、また急な」
三樹夫は三人の話にまた急なと思った、それでもだった。
父を交えて三人と話してだ、そのうえで父とあやめの再婚の話を聞いた。それは彼の知らないところでほぼ決まっていた。
それであやめと蒔絵、ちるは家に入って母が死んでから二人になっていた家族が五人になった。だが。
彼は急に男二人が女三人が入って急にそちらが大きな勢力になったと考えてだ。自然と家にいるよりも大学や空手道場、アルバイトの方に行く様になっていた。しかしだった。
その三樹夫にだ、あやめは彼が家遅くに帰ってきた時に心配する顔で声をかけた。
「あの、ひょっとして家にいにくいのかしら」
「別に」
三樹夫はその義母に素っ気ない顔で返した。
「何もないです」
「本当?」
「はい」
引き締まった声での返事だった、だが素っ気ないのは確かだった。
「今日もアルバイト行ってただけです」
「最近行ってる時間多くない?」
家の時計を見れば十一時半を回っている、深夜と言っていい時間だ。
「身体の方大丈夫?」
「大丈夫です」
三樹夫の返事は素っ気ないままだった。
「あとシャワー浴びて」
「寝るの?」
「そうしますから」
「そうなの、あのね」
あやめは気遣う顔のままで三樹夫にさらに話した。
「私達家族だから」
「だからですか」
「何でも言ってね」
その素気ない三樹夫に言うのだった。
「本当に」
「わかりました」
三樹夫はこう返した、だが返事だけでやはり素気なくだ。それでシャワーを浴びてそうして寝るのだった。
その彼のことは蒔絵とちるも見てだ、それで二人で話していた。
「義兄さんだけれど」
「家族なのにね」
ジーンズの半ズボンに黒タイツ、それにシャツというラフな格好のちるは家でもロリータファッションの蒔絵に応えた。
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