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私自身が藍染惣右介になることだ

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全ては私の掌の上だ

 
前書き
一発ネタ('ω') 

 
 桐原静矢は窮地に陥っていた。
 今自身の目の前で完全に理解の範疇を越えた出来事が起きているのだ。

 何なのだ、こいつは
 この男は本当に抜刀者なのだろうか。
 
 それだけではない。
 格下と見下していたあの黒鉄一輝が自身の固有霊装である朧月(おぼろづき)のステルス能力を完璧に看破していたのだ。
 自身の能力に絶対の自信を有していた桐原静矢は驚愕を隠せなかった。

 故に決意した。
 後に学内で開かれる七星剣武祭への出場を決める学内トーナメントの場であの落第騎士を完膚なきまでに叩きのめすことを

 他の有象無象などもはやどうでもいい。
 初戦の相手が昨年協力関係であった藍染であろうとも容赦はしない。
 徹底的に自分の踏み台になってもらう。







 だが結果は―

「先程君が射抜き地に伏したのは僕ではなかったというわけだ」

 眼前には全身を射抜かれ、地に伏したはずの藍染惣右介が佇んでいた。
 その体を包み込んでいた多量の血液も、破損した眼鏡も嘘のように消えている。
 そう、まるで幻覚のように

「ど、どういう……?」
「なに、直ぐに分かる」

 藍染は刀身を闘技場の床へと向け、己の固有霊装を掲げた。

 そして唱える。
 彼の最強にして最凶である固有霊装の解号を―




「ほら、解くよ。砕けろ『鏡花水月』」




『!?』

 ただ一言
 その一言により全てが変わった。

 途端、周囲の光景が砕け散る。

 見れば桐原の伐刀絶技・狩人の森(エリア・インビジブル)により創り出されていた闘技場の樹海が全壊していた。
 闘技場の至る場所が何か鋭利なモノで斬られ、抉られている。
 散々たる有様だ。

「―」

何だ、これは?

自分は何と戦っているのだ?

 桐原静矢は眼前の理解を超えた現象を引き起こす男に対して何も言葉が出て来なかった。

「敵にこの世界のあらゆる事象を私の意のままに誤認させる。それが私の固有霊装『鏡花水月』の真の能力。その力を指して『完全催眠』と言う」

 そんな桐原の様子を気にすることなく藍染は流暢に自身の能力を説明する。

 桐原に嚙みしめさせる様に
 理解させる様に
 実に分かりやすく、子供をあやすかのように

「完全催眠……?」

 桐原は相手の言葉を反芻することしか出来ない。

「『完全催眠』は五感全てを支配することで1つの対象の姿・形・質量・感触・匂いに至る全てを敵に誤認させることができる。つまり蠅を竜に見せることも沼地を花畑に見せることも可能だ」

「そして『完全催眠』の発動条件は相手に一度でも鏡花水月の解放の瞬間を見せること―」

「一度でも鏡花水月の解放の瞬間を見た者はそれ以降も完全に完全催眠の支配下に置かれることになる」

 誰もが驚きを隠せない。
 つまりこれまで一度でも彼の霊装を目にしていれば勝算は限りなくゼロになってしまうということだ。

『ちょっと待ってください、藍染先輩!藍染先輩の固有霊装の能力は、霧と水流の乱反射により敵を撹乱させ同士討ちにさせる能力を持つものではなかったのですか!?』

 実況を行っていた月夜見半月は声高らかに闘技場の皆の思いを代弁する。
 声は驚きに震え、眼前に広がる惨状とも言うべき舞台から目を離せなかった。
 
 彼女にはあの憧れの藍染がこの瞬間別人に見えて仕方なかった。

「―」

 藍染は彼女の問いに何も応えない。
 ただ柔和な笑みを浮かべるだけだ。

『藍染先輩は我々全校生徒の前で実際に実演してくださったじゃないですか!?』
『な~るほど。それがその『完全催眠』の発動条件というわけか』

 西京寧音は納得がいったとばかりに藍染の言葉を代弁する。

「ご明察です。流石、西京寧音さん。」

 だが、藍染は依然としてその超然とした態度を崩すことなく、今なお動揺から抜け出すことが出来ない対戦相手を射抜いていた。

 その深き闇を内包した瞳からは何も読み取ることは出来ない。







▽△▽△







「ねえ、一輝。彼は一体何者なの?」

 ステラ・ヴァーミリオンは疑問の声を上げる。
 その端正な顔は崩れ、目の前の惨状から目を離せなかった。

「私も気になります、お兄様。彼は一体何者なのですか?」
「私も気になるわね。教えてくれるかしら、お兄さん?」

 続けて一輝に疑問の声を上げるは彼の最愛の妹である黒鉄珠雫と彼女のルームメイトである有栖院凪の2人

「そうだね。そろそろ皆に知っておいてもらおうかな。彼、藍染惣右介について……」

 今でも鮮明に思い出す。

 一年前の彼との出会いを

 一年前の自分は前理事長の影響により学園内で除け者であった。

 日に日に増す制裁という名の暴力
 授業もまともに受けることもできず、友達は一人もいなかった。
 誰もが自分に降りかかる暴力を見て見ぬふりをするばかり
 このままでは自身の心が決壊するのは時間の問題であった。

 そんな時である。
 彼、藍染惣右介に出会ったのは


やあ、君が黒鉄一輝くんだね

あ…貴方は?

君の噂はかねがね聞き及んでいるよ。何でも10年に一人の落第生だとか

ほっといてください。貴方も僕を除け者にしに来たんですか?

何か勘違いしているようだね。私は君に一つの提案をしに来たんだ

提案ですか?

そう。私はこれからこの学園の能力値選抜制を廃止させ、この学園の無能な学園長とその関係者共を一掃する

いっ…一掃?

努力をすることもなく、努力する人間の足しか引っ張れないような奴は足枷にしかなりはしない。そんな奴は目を瞑り、何処かの隅っこに挟まっていればいいのだ

先ずはこの学園の内部を一掃し、この腐った学園を革新させる。そして私が──、天に立つ

……

君にはその試みが完了するまでの間我慢しておいてほしいんだ。勿論、ただでとはいわない。君を取り巻く惨状を私の力である程度まで改善し、君に力を貸そう

どういう意味ですか?

もっと力が欲しいだろう?私ならばそれを与えることが出来る

……

より強い力を得れば君は自身の理想に限りなく近付くことが出来るはずだよ。自身の理想の姿を目にしたいと思わないか?

僕の……理想?

そうだ。私の手を取るといい。私が君を理想の元へと導こう

僕は……

もうこれ以上君が理不尽な思いを強いられる必要はない





一輝くんには僕の完全催眠の能力はかけないようにしておくよ

それは何故ですか?

君には期待しているからだ

期待ですか?

そうだ。いずれ私の元へと来るといい。その時は私の剣でお相手しよう





「……彼は昨年お世話になった人物だ」

「ただ一つ言えることは誰一人として彼の本当の姿を理解していなかっただけだよ。藍染惣右介という人物についてね」

「さて、事態が動くよ」

 さあ、見定めよう。藍染惣右介という抜刀者の真の姿を──







▽△▽△







「さて、すまない。君との話の続きだったね、桐原くん」

「──確かに君の固有霊装である朧月(おぼろづき)のステルス能力は厄介だ。だが君が固有霊装を使用する際最も頼っているのはどの器官だ?」

「どっ…どういう……?」

「なに、簡単なことだよ。君がいると思っていた私の位置は君の視覚によって判断されたものだ。──私の五感を遣った戦い方によってね」

「君の感覚を少しずらしてしまえば後は何のことはない。──君の力は五感全てを支配する私の力には程遠い。子供の遊びだよ、桐原くん」

「……ッ!」

 藍染は桐原への口撃の手を止めることはしない。
 そして、彼にとって余りにも衝撃的な事実を口にした。

「……本当によくここまで上手く踊ってくれたものだ。全て──








私の思い通りに」

「…な…にっ!?」

─そう、これまでの自身の行動は全てこの男の掌の上であったのだと



「君は前理事長の思惑により黒鉄一輝と出会い─」

「黒鉄一輝は君との出会いを経て自身の力の至らなさを痛感した」

「彼は君の伐刀絶技・狩人の森(エリア・インビジブル)に対抗すべく更なる力を求め─」

「度重なる君の襲撃で彼は完全掌握(パーフェクトビジョン)への足掛かりを掴み─」

「ステラ・ヴァーミリオンとの闘いで彼は更なる境地へと足を踏み出した」

「そして、模倣剣技(ブレイドスティール)を昇華することで彼は遂に完全掌握(パーフェクトビジョン)をマスターし、……ステラ・ヴァーミリオンとの出逢いはどうやらそれ以上の成長を彼に促した」










「──桐原静矢。君の今迄の行動は全て私の掌の上だ」

 藍染は実に緩慢な動きで右手を前へと差し出し、その色を映していない瞳で此方を見据えた。


「今までの僕の行動が…君の…掌の上……!?」

「何だよそれ…どういうことだよ……」

「どういうコトだって訊いているんだよ!」

「そう──








声を荒らげるな、桐原静矢」

 動揺し、声を荒げる桐原を落ち着かせるべく藍染は指先を上へと掲げる。

「そんなに驚くことは無いだろう?私はただ、君こそが主人公(黒鉄一輝)の成長に於ける最高の素材になる。そう確信してこれまで君の行動の手助けをしてきた。そう言っているだけだ」

「おかしいと思わなかったのか?前理事長の意向により黒鉄一輝の襲撃が表明されて以降何の障害に阻まれることもなく黒鉄一輝への制裁という名の奇行を継続できていたことに。私と出会うことでより一層黒鉄一輝への襲撃を容易に行うことができていたことに。そして──








途中から黒鉄一輝が全くの別人とすり替わっていたことに」

「…何…だと…?」

 今度こそ桐原は顔が崩壊した。
 だがそれでも藍染は口撃を止めるようなことなどしない。

「私と君との出会いは運命だと思ったか?」

「待て……」

「利害の一致は偶然だと思ったか?」

「待て……」

「黒鉄一輝の襲撃は君の努力の結果だと思ったか?」

「信じられないか私の言葉が」

「当たりまえじゃないか……!」

「だが"事実"だ」

「嘘だ!」

「今までの出来事が全てお前が裏で操っていたと!?全部お前がそう仕向けたというのか!?そんな戯言誰が信じるか!」

 桐原は遂に発狂する。
 信じられないと、嘘だと

「お前は前に言っていたじゃないか!?僕に協力するのは理事長の意向なのだと!それなのにそれも全てお前が仕組んだことだと言うのか!?それじゃ筋が通らないじゃないか!」

「…随分と面白い事を言うね。今君は自分で言っただろう?"嘘だ""そんな戯言信じない"と。君は今の私の言葉は嘘だというのに─」

「─その時の私の言葉は嘘ではないというのかい?」

「あ…あぁ…あぁ……」

 今度こそ桐原静矢の精神は崩壊した。

「無理も無い事だ。同情しよう」

「この世界には最初から真実も嘘も無い。あるのはただ厳然たる事実のみ。にも関わらずこの世界に存在する全ての者は自らに都合の良い"事実"だけを"真実"として誤認することで生きている。そうするより他に生きる術を持ち得ないからだ」

「─だが、世界の大半を占める力無き者にとって自らを肯定するに不都合な"事実"こそが悉く真実なのだ」

「君は事実の全てを知っているのかい?前理事長とその関係者を軒並み粛清し、この学園から追放したのは誰なのか。君たちが黒鉄一輝だと思い込んでいた人物が誰であったのかを。そして、本当に私が前理事長の手駒に過ぎなかったのか」

 今此処で全ての点が線へと繋がり、全ての謎が公の場で明らかになった。

「──そう、成長には壁が必要だ。常に自身の実力を遺憾なく発揮することができる相手が」

 実力が離れすぎていても、格下過ぎてもいけない。
 黒鉄一輝(主人公)の成長には実力が拮抗した相手が必要であった。

そう、桐原静矢。君のような相手がね。

 言外に藍染が述べているように桐原には聞こえた。

「……一つ訊きたい」

 顔を地に伏しながら桐原は弱々しく声を発する。

「お前はさっき言ったよな。……僕が黒鉄一輝の成長の最高の素材になると確信していたと。何でだ……?何を根拠にそう確信したんだ?」

「この一連の出来事が全てお前の掌の上だったのなら言ってみろ……一体いつそう確信したんだ……!?」

「最初からだ」

 背を向け、藍染は淡々とした様子で応える。

「適当なことを言っているんじゃ……」

 煮えくり返るような表情を浮かべる桐原

「解らないか?最初からだと言っているんだ」

 だが、真実とはどこまでも残酷で、桐原にとって救いようのないものだった。
 愛染はその誰も映していない真っ黒な瞳で振り向きざまに此方を射抜く。

「私は彼が生まれた時から彼のことを知っている」

「…な…に…!?」

 藍染はそんな桐原に動じることなく──

「彼は生まれた瞬間から特別な存在だった」

──余りにも残酷な一言を放った。

「─。」

 自分は黒鉄一輝の踏み台に過ぎなかったのだと
 藍染にとって自分は眼中にもなかったのだと


いやー、実に黒鉄くんは弄びがいがあるね。本当に良いおもちゃ(玩具)だよ。君もそう思うだろ、藍染?

……

今日も何度僕の矢の餌食になったと思う?本当にFランクだというのに無駄な努力をしちゃって

──そうだね。やはり君は私の思った通りの男だ(・・・・・・・・・・)


「……ッ!」

何だよ、何なんだよそれ

ふざけるな

ふざけるなよ!


「何故なら彼は──」

「ふざけるな──!驟雨烈光閃(ミリオンレイン)!!!」

 迫り来る幾百の矢の嵐

「やれやれ。傷つかないように言葉を選んだつもりだったんだが。どうやら私は君を買い被っていたようだね」

ここまで精神が弱く、脆いものとは

 別段彼に恨みはない。だが彼はやり過ぎた。
 もう彼は十分に黒鉄一輝の成長に一役買ってくれただろう。

だから、桐原静矢。君はもう用済みだ

「最後だ、私が教えよう。力の本質というものを──」

「いいかい、桐原くん。








──力とはこういうものを言うのだ」

 桐原が決死の思いで放った驟雨烈光閃(ミリオンレイン)が無抵抗の藍染に突き刺さる。
 藍染は防御することもなく驟雨烈光閃(ミリオンレイン)の威力をその身で受けたのだ。 

 その無数の攻撃の嵐が藍染の肉を抉り、血しぶきを周囲に飛び散らかせ、闘技場の床を赤く染め上げる。

 桐原は思わず笑みを浮かべる。
 自身の必殺とも言える一撃が藍染の身に直撃したのだから

 だが、藍染は変わらずその超然とした態度を崩さず、笑みを浮かべ此方を見据えているだけだ。










 気付けば自身の眼前に佇む藍染の姿が

馬鹿なっ……!?藍染は今自分の目の前で血だらけの状態で倒れてっ……!?

 途端、目の前の藍染の姿が幻影の様に虚空へと消え失せる。










「──破道の九十『黒棺』」

 藍染の右手の掌に迸る紫電

 同時に暴力的なまでに高まった魔力の嵐が周囲に吹き荒れた。

 途端、顕現するは漆黒の棺
 その棺は天にそびえ立つがごとく圧倒的な高さを誇っている。

 驚愕を禁じ得ない桐原をその黒き棺が瞬く間に包み込み、闘技場を静寂が支配した。


 やがて漆黒の棺を創り出していた魔力の檻が解かれ、桐原がその姿を現す。

 先程まで五体満足であった桐原が全身から血しぶきを上げ、その身を闘技場の地面へと倒れ伏した。

 幾ら藍染の抜刀絶技が桐原の抜刀絶技狩人の森(エリア・インビジブル)の能力をものともしないとはいえ、ここまで手も足も出ないものなのであろうか。

「あ…あぁぁ……」

 なけなしの攻撃も全て無駄に終わり、地をはいずることしかできない桐原

「鏡花水月の完全催眠は無欠。例え分かっていても逃れる術などありはしない」

 桐原は既に藍染の抜刀絶技『鏡花水月』の術中
 逃れる術などありはしないのだ。

「その様子だと『黒棺』がかなり効いたようだね。本来の10分の1の破壊力(・・・・・・・・)も出てはいないというのに……」
 
 今の出力で10分の1
 桐原は自身の身を為す術もなく蹂躙した藍染のことが恐くて仕方がなかった。

 だがそれよりも何故……

 何故…?

 一体いつ……?

「あぁ…あぁ…な…何故っ…?」

先程藍染は鏡花水月を解除していたはずなのに…?


「鏡花水月が今なお発動していることに驚きが隠せない表情だね、桐原君?」

「ならば今度は此方から問おう。……一体いつから──








鏡花水月を遣っていないと錯覚していた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

『…ッ!?』

 闘技場全体が再び驚愕に包まれる。

 一体いつ
 どのタイミングで
 全く分からなかった。

 気付けば自分達は鏡花水月の術中下にあったのだ。
 そして理解した。
 
 これこそが藍染惣右介
 『鏡花水月』の真の能力なのだと
 
 何という規格外
 何という魔力
 何という技巧

 正に前代未聞にして超越者と呼ぶに相応しい抜刀者だ。


「どうやらここまでのようだね」

「──最後に覚えておくといい」

 藍染は鞘から緩慢な動きで固有霊装を抜きだし──


「目に見える裏切りなどたかが知れている。本当に恐ろしいのは目に見えぬ裏切りだよ、桐原くん」

「さようなら。君は実に素晴らしい道化だった」

──天へと掲げ、地を這う桐原静矢へと無情にも振り下ろした。




『しょ…勝者、藍染惣右介』




 今此処に日本で2人目の学生のAランク騎士が誕生した。

 その名を藍染惣右介

 ()の抜刀者が有する固有霊装の名は『鏡花水月』

 その固有霊装が有する真の能力は『完全催眠』

 その者の真偽は誰にも分からない。
 
 

 
後書き
続かない


黒鉄一輝育成計画
主人公(黒鉄一輝)の成長に於ける最高の素材 → つまりかませ犬 
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