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Fate/ONLINE

作者:遮那王
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第一話 悪夢の始まり

 
前書き
手にしたものの願いを叶えるという万能の願望機、

聖杯を巡り七人のマスターが七人のサーヴァントを用いて繰り広げる争奪戦。

それこそが聖杯戦争。

聖杯は自らを持つに相応しい人間を選び、競わせ、殺し合い、
ただ一人の持ち主を選定する。

サーヴァントとは、伝説の英雄が聖杯によって受肉化されたもの。
彼らは基本的に霊体としてマスターのそばにいる。
必要とあれば実体化させ、戦わせることが出来る。

これだけの奇跡を起こす聖杯ならば、持ち主に無限の力を、与えよう。
 

 
ソードアート・オンライン…。
それは世界で初めてVR技術を用いゲーム世界に直接入り込むことができる最新ゲーム機「ナーヴギア」を使ったVRMMORPGである。

このソフトが発表された時、数多くのゲーマー達を興奮と熱狂に包みこんだ。

俺、桐ケ谷和人もその一人である。

このゲームが発表されたと聞いた瞬間、体中に鳥肌が立ち、すぐに予約をした。
そして、わずか千人に限定して募集されたベータテストプレイヤー、つまり正式サービス開始前の稼働試験参加者。
ダメもとで応募したそれに幸運にも選ばれ、ベータテスト期間である二カ月の間、俺は夢中でプレイした。
食事も、学校も、眠ることさえ忘れるぐらいに。
そんな俺も二カ月では100層ある内の6層までしか到達することが出来なかった。

俺は名残惜しくもその世界から現実に戻ってきた。
まるで己の半身を奪われるような喪失感を覚えたものだ。

そしてついにソードアート・オンラインの正式サービスが始まった。
俺はサービス開始と同時にその世界に入り込むために、三十分も前からナーヴギアを頭に装着し、ベッドに寝転んでいた。

そしてサービス開始と同時に俺は呟く、

「リンクスタート」と。


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あらゆるノイズがシャットアウトされ、視界が暗闇に包まれる。
その中央から虹色のリングをくぐれば、そこはもう全てがデジタルデータで構築された世界。

「戻ってきた、俺の世界」

歓喜した。
遂に待ちに待ったこの世界に戻ってこれたのだ。
この瞬間を何度待ち望んだか。
俺は迷うことなく街中を走りだす。
そう、今度こそこのゲームをクリアするために。

懐かしい“はじまりの街”の石畳を踏みしめ、俺は入り組んだ裏道にあるお得な安売り武器やに賭けつけようとした。

その迷いないダッシュぶりから、こいつはベータ経験者だと見当をつけたのだろう。
走り出してしばらくすると、一人の男が俺に声をかけてきた。

クラインというその男は、初心者である自分にいろいろと教えてほしいと頼み込んできた。
俺は彼となし崩しにパーティを組み、とりあえずクラインにこのゲームの基本的な戦い方についていろいろとレクチャーしてやった。

正直俺はゲーム内でも現実世界と同じかそれ以上に人付き合いが得意ではない。
ベータテストの時は、知り合いは出来たが友達と呼べる相手は一人も作れなかった。
しかし、クラインは不思議に此方のふところに滑り込んできて俺にとってもそれは不快に感じることはなかった。

「ぬおっ……とりゃっ……うひぇぇっ!」

最初のうちは奇妙な掛け声をあげて剣を無茶苦茶に振り回すクラインであったが、

「りゃあ!」

レクチャーを続けて行く内にモーションにも慣れ、青イノシシに刃を当てることに成功した。
ぷぎーという哀れな断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散り、俺の前に紫色のフォントで経験値が浮かび上がっていた。

「うおっしゃあああ!」

クラインは派手なガッツポーズを決めると、満面の笑みを浮かべ、左手を高く掲げた。
ハイタッチをすると俺は笑いながら賞賛を送った。

「初勝利おめでとう。……でも、今のイノシシ、他のゲームだとスライム相当だけどな」
「えっ、マジかよ!おりゃてっきり中ボスかなんかだと」
「なわけあるか」

笑いを苦笑に変えながら、俺は剣を背中の鞘に収めた。
しかし、クラインの感動と喜びはよく解る。

これまでの戦闘では、経験・知識ともにクライン二カ月分の上回る俺だけがモンスターを倒してしまったので、彼はようやく自分の剣で敵を粉砕する爽快感を味わう事ができたのだ。
クラインはおさらいのつもりか、同じソードスキルを何度も繰り出して楽しげに気勢を上げている。

俺はぐるりと周囲の草原を見渡した。

巨大浮遊城“アインクラッド”第一層のスタート地点、“はじまりの街”の西側に広がるフィールドに俺達はいる。
周囲には、少なからずプレイヤーが同じ様にモンスターと戦っているはずだが、空間の恐るべき広さゆえか視界内に他人の姿はない。

満足したのか、クラインが剣を鞘に戻しながら近づいてきて同じように視界を巡らせた。

「しっかしよ……こうして何度見回しても信じられねぇな。ここがゲームの中だなんてよう」
「中ってゆうけど、別に魂がゲーム世界に吸い込まれたわけじゃないぜ。俺達の脳が、目や耳の代わりに直接見たり聞いたりしてるだけだ」
「そりゃ、おめぇはもう慣れてるんだろうけどよぉ。おりゃこれが初のフルダイブ体験なんだぜ!すっげぇよなあ、まったく……マジ、この時代に生きててよかったぜ!!」
「大げさなやつだなあ」

笑いながらも、内心では俺もまったく同感だった。

クラインが頼み込んできた時は、思わず身じろぎしてしまったが、子供のようにはしゃぐ様子を見ていると、俺も他人事とは思えず同意してしまう。

ことによると、こいつとなら長く付き合えるかもと思いながら俺は口を開いた。

「さてと……どうする?感がつかめるまで、もう少し狩り続けるか?」
「ったりめぇよ!……と言いてぇとこだけど……そろそろ一度落ちてメシ食わねぇとなんだよな。ピザの配達、五時半に指定してっからよ」

クラインは食事を取ると言い俺たちは一度別れることとなった。
クラインは一歩下がるとゲームの「メインメニュー・ウインドウ」を呼び出しログアウトボタンを探し始めた。

だが、
「あれっ?ログアウトボタンがねぇよ」
「ボタンがないって・・・そんなわけあるわけないだろ、よく見てみろ」

俺はそういうとクラインと同じようにウインドウを操作し始めた。
だが、ウインドウのどこを探してもログアウトボタンがない。
ベータテスト時には確かにあったはずのボタンが綺麗さっぱりと消滅していた。
その後数分間、俺とクラインはなんとかログアウトを試みようとするが、何をやってもうんともすんとも言わない。

「おかしいな、こんなバグ聞いたことないぞ」
「ま、今日はゲームの正式サービス初日だかんな。こんなバグも出るだろ、今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろなぁ」
「そんなこと言ってていいのか?お前がこうしてる間にもピザが刻一刻と冷めていきつつあるわけだし、現実世界での金銭的被害はかなりのもんだろ?」
「……冷めたピッツァなんてネバらない納豆以下だぜ…」

意味不明なことをぼやくクライン。彼の頭には頼んでおいたピザの事で一杯らしい。

だがこれは深刻な事態だ。
いくら今日が正式サービス初日だからといってこんなバグが発生するだろうか?
それに俺たちがバグに気付いてからもう十五分は経っている。
それなのに切断されるどころか運営のアナウンスもない。
これは明らかに異常だ。
そんなことを考えながら俺はクラインとその場で立ち竦んでいた。

と、その時だった。

リンゴーン……リンゴーン……リンゴーン

突然鐘が鳴り始めた。
大ボリュームのサウンドで。その音に俺は飛び上がった。

「んなっ」
「何だ!?」

俺とクラインは同時に叫び互いに目を合わせた。
すると次の瞬間…
俺の視点はさっきいた草原からゲームのスタート地点である中世風の街並みのとある広場へと変わっていた。

そして、ここから本当の意味での「ソードアート・オンライン」が始まった。

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広大な石畳、周囲を囲む街路樹、正面には黒光りする巨大な神殿。
俺はゲームのスタート地点である“はじまりの街”の中央広場に転移されていた。
俺は隣でポカンとしているクラインと顔を見合わせた。

そして、周囲にはぎっしりと幾重にもひしめく人波が目の前を遮っている。
恐らく、現在ログインしているプレイヤー全員がこの広場に強制テレポートさせられたのだろう。

「どうなってるの?」
「これでログアウトできるのか?」
「早くしてくれよ」

周囲からそのような言葉が切れぎれに届く。
と、不意に。

「あっ……上を見ろ!!」

誰かが叫んだ。
反射的に視線を上に向ける。
そこには【Warning】や【System Announcement】という二つの真紅の英文が交互にパターン表示され、第二層の底を埋め尽くしていくという異様な光景があった。

一瞬の驚愕に続いて、俺はようやく何かアナウンスがあるのかと肩の力を抜きかけた。
しかし、次は俺の予想を上回る現象が起きた。

空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部が血液のしずくのように、ゆっくり垂れてきて落下する前に空中で形を変えた。
出現したのは真紅のローブを纏った20mほどの巨人。

いや、正確にはローブのみ、と言ったほうが良いだろう。
ローブの中はまったくの空洞、薄暗い闇が広がるのみだ。

ローブは左右の袖をまるで腕を広げるかのように広げ、口を開けた――――気がした。
直後、低く落ち着いた声が頭上から降り注いだ。

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』

落ち着いた男の声が響き渡る。そして巨人はこう続けた

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「なっ……」

この場にいる人ならば、名前を知らない者はいないだろう。
彼こそナーヴギアとSAOを開発し、それを外部の技術だけで作り上げた若き天才。
しかしその多くは謎に包まれた人物。
その彼本人だと巨人は言ったのだ

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。 しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく“ソードアート・オンライン”本来の仕様である』
「し……、仕様、だと」

クラインが割れた声で囁いた。

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

城とはどういう意味だ、この街の何処に城があるというのだ?
俺は戸惑い、すぐには理解できなかった。

『……また、外部の人間の手による、停止あるいは解除もあり得ない。もしもそれが試みられた場合―』

わずかな間。

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

脳を破壊する?
それはつまり殺すということか?
あちこちがざわめく。

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊を試み―――以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制排除を試みた例が少なからずあり、その結果』

無感情な声は辺りに響き渡り、そこで一呼吸入れ、

『残念ながら、すでに213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

どこかで一つの悲鳴が上がった。
周囲のプレイヤー達は、信じられない、あるいは信じないというかのように、ぽかんと放心したり、薄い笑いを浮かべたままだった。

俺も、脳では受け入れようとはしていたが、不意に脚が震え始めた。

「信じねぇ……信じねぇぞオレは」

クラインは石畳に座り込み嗄れた声を放つ。
それでもなお、茅場明彦のチュートリアルは続く。

『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』

言われるがままに右手の指を2本揃えて真下に引き、アイテム欄を開いた。
他のプレイヤーも同じように開いてゆく。

アイテム名は―――“手鏡”。

恐る恐る手に取り、確認する。
覗きこんだ鏡に映るのは、俺の勇者顔のアバターだけだ。

隣にいるクラインへ顔を向ける。
彼もキョトンと鏡を見つめたまま変化がない。

―――と。

急にクラインの体が白く光り始める。
すぐに光が収まりもう一度鏡に目を向ける。

そこには現実世界の、生身の容姿があった。

「お前がクラインか!?」
「おめぇがキリトか!?」

お互い顔を見合わせる。
俺は遠目で見ると女性に間違われそうな女顔に。
クラインは無精ひげを生やした山賊顔になっていた。

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜSAO及びナーヴギアの開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?身代金目的の誘拐事件なのか?と』

今一度茅場の声が空から降り注ぐ。
そこで初めて茅場の声に色合いが帯びる。

『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

無機質さを取り戻した茅場の声が響いた。

『……以上で〈ソードアート・オンライン〉正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の健闘を祈る』

最後の一言がこの空間にわずかな残響を引いた。
真紅の巨人は溶けるように消え、空は真っ赤な市松模様の風景から元の風景へと戻った。

だが、自らの命がかかっていると知った一万人のプレイヤー集団は途端にしかるべき反応を見せた。

「嘘だろ・・・なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!だせ!ここから出せよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」

始まりの町の広場で阿鼻叫喚の叫び声が響く

つい先ほどこのゲームの開発者、茅場晶彦によってソードアート・オンラインは正真正銘のデスゲームと化してしまった

悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、咆哮

無数の叫び声が広場を飛び交う。
ある者はうずくまり、ある者は両手を突き上げ、ある者は抱き合い、ある者は罵り合っていた。

俺はそんな無数の叫び声を聞いてるうちに徐々に冷静さを取り戻していった。
この世界で死ねば現実の自分も死ぬ。
これは現実である。

俺はゆっくりと深呼吸をし

「クライン、ちょっと来い」

俺は隣で茫然としていたクラインの腕を掴むと街路の蔭へと入り込む。
そこで俺は彼に提案をした。
じきにこの周辺のフィールドは狩り尽くされる。
その前に急いで次の街へ進もう、と。

だがクラインは、

「…他のゲームでダチだった奴らはまださっきの広場にいるはずだ。置いて……いけねぇ」

面倒見のよさそうな彼らしいセリフだった。
正直彼以外に俺に付いてくるプレイヤーが増えることはあまり得策じゃない。
そんな俺の考えを読みとったのか、彼は無理矢理に笑みを浮かべ

「おめぇにこれ以上世話になるわけにゃいかねえよな。オレだって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。大丈夫、今まで教わったテクで何とかしてみせら。だからおめぇは気にしねぇで、次の村に行ってくれ」

そう言った。

「…そっか。ならここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。……じゃあ、またな、クライン」
「キリト!」

俺の背中に声が投げかけられる。

「おめぇ、本物は案外カワイイ顔してやがんな!けっこう好みだぜオレ!!」

俺は苦笑し、肩越しに叫んだ。

「お前もその野武士ヅラのほうが十倍にあってるよ!」

そして俺は、この世界で初めてできた友達に背を向けて走り出した。
一度振り向くがそこには誰もいない。歯を食いしばりながら再び駆け出す。
この果てなきサバイバルゲームをクリアするため、俺は必死に走り続けた。

-------------------------

あの地獄のデスゲーム開始宣言から三十分経ったころであろうか。
未だに“はじまりの街”の広場では複数のプレイヤーが残っていた。

ある者は他のプレイヤーと情報の交換をし、またあるプレイヤーは未だにその場に座り込んだまま。
またあるプレイヤー達は互いに罵り合っていた。

その広場の中央から少し離れた場所、路地裏の方で一人の男性が特に何をするのでもなく、ただ広場を見つめていた。
男はよく神父が着るカソックという服装をしており、一見聖職者にも見えなくもない。
だが、その男の顔には明らかに聖職者らしからぬ不気味な笑みが張り付いていた。
まるでこの状況を楽しむかのように、蛇のようなねっとりとした視線で広場を見まわし、そして、

「うまくやってくれたな茅場明彦。おかげで此度も楽しめそうだ」

そう呟いた。
辺りが落ち着き始め広場に静寂が戻り始めると、男はその不気味な笑みを浮かべたまま広場に背を向け闇に溶け込むように路地裏へと歩を進める。
路地裏を抜け、少し広くなった場所へと出ると男はふと足を止め

「さあ、此度の聖杯戦争を始めよう」

そう言うと男は再び闇の中へと姿を消した。


 
 

 
後書き
以前上げた短編小説を連載として上げてみました。

いかがでしたでしょうか?

感想はいつでもお待ちしています。


ただ誹謗中傷は止めてください。何分作者はガラスのハートですので・・・。


※3月14日に加筆修正しました。

 
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