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ランス END ~繰り返しの第二次魔人戦争~

作者:笠福京世
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第一部
序章(CP0第一周、結末Cエンド)
  第02話 未来あるヘルマンの若者に幸あれ


LP7年5月後半 ヘルマン共和国 東部に位置する計画都市ゴーラク

 元第一軍に所属していたヘルマン騎士が、都市守備隊の再編に追われていた。
 各計画都市の治安を野盗や魔物から守るヘルマン警備隊の練度は正規軍より劣る。
 しかし正規軍の士官不足により警備隊から力量ある士官を騎士として正規軍に推薦。
 警備隊を統率する士官が抜けた代わりに、下士官から士官候補を抜擢することが決まっていた。
 現在は士官候補生の面接を行っていた。

 「それでは、ヘルマン革命時は何を?」

 「はい、革命当初はゴーラク警備隊の小隊長として通常の治安維持任務に当たっていました」

 「ふむ」

 「しかし、北西にある双子砦が陥落したことで東部ヘルマンの治安が悪化しました。
  その際に帝都からの叱責を恐れた警備隊の責任者が失踪」

 ゴーラク警備隊の前責任者は、何の能力もない貴族のドラ息子だ。
 腐敗していた当時の評議会に金を渡して、形だけの地位についていた。
 第四軍の前将軍ネロのように、ヘルマン帝国の末期では珍しい話ではない。

 「――副官だった現隊長が都市守備隊の責任者となり、主計長に任命されました」

 後を引き継いだ副官は優秀な人物だった。
 リーザスの第三軍と戦った精鋭遊撃隊である第五軍への補給任務は不備もなく完遂。
 表向きは帝都に対して従順を装いながらも、勢いを増す革命軍に通じた。

 ヘルマン東部の計画都市ゴーラクは、北にあるウラジオストックと南にあるアークグラードの間にある。
 アークグラードをさらに南下すれば、第四軍が本拠地とする城塞都市コサックがある。
 そして隣国のリーザスに侵攻する際には、後方支援の補給基地となる交通の要所だ。

 第四軍の大半と他の正規軍から呼応した将兵、そして賛同する国民たちが集まった革命軍の第二旗。
 彼らに対して東部ヘルマンの穀倉地帯を抑えるゴーラク守備隊は、都市の治安を維持しながら後方支援に徹した。
 革命の熱狂に巻き込まれながらも、冷静に自らの役割に全うするのは容易なことではない。
 
 新任の総参謀長の推薦もあり、現隊長は第四軍の参謀となることが決まった。
 ゆくゆくはコンドロチェンコ将軍の副将となるだろうと期待されている。

 守備隊を去り行く現隊長が、下士官の中から後釜として推薦した。それが目の前の主計長だ。
 主計は軍の兵科の一つだ。軍隊の庶務・会計・被服・糧食と補給全般を支える者たちをいう。
 表立って目立つ存在ではない。しかし彼らが居なければ、軍は行軍もままならず、戦地で飢えることになる。

 経歴が書かれた書類に目を通す。GI1003年の生まれということは……年齢は19歳か。
 基礎学校を卒業した後にゴーラクで、警備隊の見習いとして採用されている。
 後方は前線とは違い「学」が求められる。警備隊とはいえ応用学校も卒業せず主計業務に当たるのは珍しい。

 「基礎学校を卒業したとはいえ、応用学校に進学しなかったのは何故かい?」

 「母が幼いころに亡くなり、それから叔母に面倒を見て貰っていました。
  軍人だった父がパラパラ砦の攻防で戦死し、その年に叔母も病気で亡くなりました」

 「……そうか。他に身寄りは?」

 「冒険者となった姉がいましたが、風の便りで死亡したと聞いています」

 それこそヘルマンの田舎では、家業が無ければ、軍人になるか、冒険者になるくらいしか若者の道はない。
 姉は前者を選び、身寄りのない弟は食つなぐために後者を選んだ。

 パラパラ砦の攻防があったのは七年前か。私は当時は首都防衛の第三軍にいた。
 赤の将リック・アディスンが、リーザスの赤い死神の異名で恐れられるキッカケになった戦いだ。
 リーザス軍と戦ったのは、たしかヘルマン主力の第一軍だ。ということは、彼の父親は第一軍か。
 
 「正規軍に志願しなかったのは?」

 「私は見ての通り体格も細身ですし、正規軍に採用されるとは思えませんでした」

 なるほど。身長は170もないだろう。平均的なヘルマン男性からすれば随分と背が低い。
 痩せてるわけではないが、兵士として引き締まった体は細身といえるだろう。

 「それに……他国との馬鹿げた戦争で死にたくありませんでした」

 意思をもった瞳が正面を睨みながらハッキリと告げる。 
 宰相ステッセルの独裁による前帝政では、けして口に出せなかったであろう一言。
 いや現役の騎士でも愛国心があるものであれば、すぐに怒鳴ってもおかしくはない。

 しかし、担当した騎士は、彼の気持ちも分かる気がした。
 パラパラ砦の攻防、そして第七次HZ戦争は、政略から起こった戦いだった。
 魔軍や敵国から国を護るための戦いではなかった。侵攻の大義名分さえもない。
 ただ腐敗した政府上層の権力闘争の駒として、数多くの将兵の命が失われた。

 ヘルマンの都ラング・バウは、やや西より中央に位置する。
 だからだろうか都に近い西部ヘルマンの民は、愛国心が強く。
 そして東部ヘルマンの民は、郷土愛が強いと言われている。

 例えば第二軍の志願者は魔物界に隣接する西部ヘルマン出身者が多い。
 逆に東部ヘルマンから正規軍に志願する者は、田舎から中央での出世を望む者が多い。
 私もそうだったし、第三軍の前将軍ミネバ・マーガレットも東部の出身者だ。

 彼は中央政府の権力闘争に、ほとほと嫌気がさしているのだろう。
 第七次HZ戦争に敗れたヘルマンは、東部の治安が悪化。野盗や山賊が跋扈するようになった。
 この時期に、今まで見習いの扱いだった彼は、正規の警備隊員として採用されている。
 見習い扱いの期間が長かったのは、彼の能力の問題ではない。
 ヘルマンという国が貧しく、正規軍に比べても警備隊の予算が、ずっと少なかったためだ。

 そして二年後、帝国に名を変えたヘルマンで、大規模な黒死病が発生した。
 宰相のステッセルは独裁的な権力を確立する為、状況を政争に利用。対応は遅れに遅れた。
 総死者数などが国民に知らされることはなかったが、犠牲者は1200万は下らないだろう。
 そして中央に近い西部より、東部の方が死者は、ずっと多かった。
 彼が警備隊の下士官(小隊長)となったのは、国内が黒死病の対応に追われてた時期だ。

 その後、いくつかの質問を交わし、面接を終える。
 中央政府に対する反骨心は、それほど問題ではない。
 共和政となった新生ヘルマンは、帝政の旧ヘルマンとは違う。
 今後は政治の結果によって、それを証明していけば良い。

 戦死した父親に関する問題も憎しみが、リーザス王国に向いていないことが確認できた。
 かつてと違い隣国のリーザス王国とは、正式に国交が結ばれ、交流が進んでいる。
 リーザスに近い東部ヘルマンの都市守備隊の責任者が、反リーザスでは問題だろう。

 北方の大国ヘルマンを象徴する漆黒の鎧を身にまとった騎士は、窓から街の外を眺める。
 南東にはバラオ山脈の峰々が連なっている。ヘルマンとリーザスの国境にそびえる天然の要害だ。
 しかし騎士の心はその反対側の景色。北西にある双子砦に思いを馳せていた。

 「レリューコフ将軍、可能性を秘めたヘルマンの若者たちの未来に……」

 新しき国の為、双子砦で散った宿将。自らが一端の騎士と慣れたとのは将軍のお陰だ。
 都市守備隊の再編任務が終われば、第四軍の教練に加わることになっている。
 ヘルマンの南方には魔法大国のゼスがある。しかし間には、キナニ砂漠があり直に国境を接してはいない。
 現在ヘルマン軍は、新兵の大半を国境守備隊である第四軍に組み入れている。
 
 先日はゼス四天王の一人チョチョマン・パブリが帝都に訪れた。
 新生ヘルマンはリーザス、ゼスの両国とも友好関係を築こうとしており国境警備に不穏な動きはない。
 熟練兵は第二軍に配属され魔軍に睨みを利かせる。
 第四軍で新兵を鍛え、優秀なもの抜擢し、第一軍、第三軍を再建する。
 第五軍に関しては、以前からそうだが、これまで以上に少数精鋭の状態が続くだろう。

 しかし革命により、ヘルマンを覆っていた暗雲は取り払われた。
 シーラ大統領の下で、ようやくヘルマンは明るい未来を掴んでいけるのだ。

 それはヘルマン騎士だけではなく、ヘルマン国民大半の想いだった。


一方、その頃――

 「どうしたムシ爺?」

 「左側を進むとモンスターが棲みついとる部屋に出るぞ。ヌヌヌ」

 ホルスという異星からの移民者だという緑系昆虫風の人型の種族が遺跡を先導する。
 この巨大戦艦は彼ら棲みかだ。しかし長い歳月を経て大陸のモンスターも棲みつくようになった。

 「ランス様、無駄な殺生は控えましょう」

 優しい心の持ち主ランスの奴隷であるシィルが口を挟む。
 ランスの尽力により、魔王の氷塊から救出されて半年。
 自らが氷漬けの間に、色んなことがあり過ぎて、どこか達観した表情をするようになった。

 「ふん、ちなみにモンスターは女の子か?」

 「普通の男のモンスターじゃが? あとはハニーもチラホラと見かけるのぉ。ヌヌヌ」

 「なら用はない! 聖女の子モンスターを探すのが優先だ。
  ぜーったいに見つけて、ずばーっとセックスするのだ! がはははははは!」

 「人間って異種族性交に積極的ねぇ。ヌヌヌ」

 「それはランス君が特殊なだけよ」

 「えーい、俺様を特殊な性癖の持ち主のように言うな!」

 「そ、そうだすな。
  ランス様は、悪魔でも、使徒でも、魔人でもお構いなしですだ」

 「ちなみに聖女の子モンスターは、モンスターではなくて神に属す存在よ。
  命の生み出し手であり、第八級に位置するわ」

 「がはは、神様でも関係ない! むしろ、グッドだ。
  そういえば、エンジェルナイトともヤったことがあるぞ」

 「おいらにはとても、そんな勇気はないだ」

 「俺様は、特殊ではなく、単に特別なだけだ!」

 「悪魔に、使徒に、魔人に、この大陸を司る神々に、天使。
  どれも話には聞いてたことはあるけど……なんとも不思議な男ねェ。ヌヌヌ」

 「そういえばJAPANで、異星人の女の子を助けてヤったこともある」
 
 (こいつが、あの方のことを知れば、まずいかもしれん。ヌヌヌ)

 ホルスたちが「あの方」として尊敬する女王テラは、永い眠りについていた。
 遺跡の最深部に設置されたコールドスリープ装置の中で……。
 
*ゲームデータ*

時系列 ランスⅩ Trun0 巨大戦艦遺跡の冒険(時のセラクロラス発見前)
プレイヤー ランスX初プレイ(チュートリアル気分なので、面倒な戦闘は回避)

面接者の担当者  Lv30 ヘルマン騎士(氷属性/防御突撃)―モブキャラ
面接を受けた若者 Lv18 ヘルマンの若者(光属性/突撃(弱)/若者の可能性)―オリキャラ(主人公)

今回のワンポイント

ランス君が「雑魚は殺す、経験値!」と叫んでいますが、ランスⅩにおいて雑魚敵は、障害ではなく経験値です。
システム上、戦闘回数が限られているため、雑魚は出来る限り、殺して経験値および宝箱を入手した方が得です。
私は一週目を流してプレイするつもりだったので、雑魚との戦闘が面倒で、極力避けるようにしていました。
例えば自動戦闘と雑魚戦闘の選択肢であれば、ほぼ迷わず自動戦闘を選んでいました。
自動戦闘では経験値は手に入りますが、宝箱は入手できません(魔物ハンターがモンスターを捕獲することはある)
前回も言いましたが、宝箱(カード)=貴重な戦力です。自動戦闘ばかり行ったおかげで戦力不足に悩まされました。
CPを増やし周回プレイを重ねるほど、雑魚敵=宝箱に見えてきます。雑魚敵の回避は、宝箱の回避です。 
 

 
後書き
序章では*ゲームデータ*および今回のワンポイントを含めて一つの作品です。
ランスⅩの周回プレイヤーにとっては取るに足らない情報だと分かっています。
第一章、第二章と周回が進むにつれて、ゲームの展開から物語が大きく乖離します。
 
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