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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第68話「上級者向け親子喧嘩」

 
前書き
―――親だろうと誰だろうと関係ない。馬鹿な事をする馬鹿を止めるだけだ。


銃や剣が使われる親子喧嘩()。なお、タイトルはネタ。
と言う訳で、千冬VS織斑夫婦です。
決して二人を両親として呼ばない千冬。割と放置されていた事に対する恨みは強いです。
 

 





       =千冬side=







     チュン!

「っ……!」

 銃弾が壁に弾かれる音を聞きながら、駆ける。
 決して、銃弾に当たらないように、床を、壁を、天井すらも。

「はぁっ!」

「っ!!」

     ギィイイン!!

 そこへ追いつくように、ブレードが私に迫る。
 だが、当然の事ながら黙って喰らう訳がない。
 私も持つブレードでそれを受け止める。

「ちっ……!」

 だが、そのままブレードによる攻防は繰り広げられる事はない。
 すぐさまそこから離脱しなければ、銃弾が私に当たってしまうからだ。

「……さすがは……と言うべきか?」

「俺達の攻撃を凌いでいながらよく言うぜ」

「ほざけ、本気など出していないだろう」

 会話のドッチボールと言わんばかりの鋭い言葉を投げつける。
 ……この二人には、これぐらいがちょうどいい。

「それはお互い様だ。……なぁ?」

「っ、ちっ……」

 確かに、私もまだ本気を出していない。

「……いいだろう。そういうのなら、本気で倒そう」

「そうこなくちゃ」

 途端に、相手が動く。
 ブレードを手に、間合いを詰め、もう一人が後ろから銃弾を放つ。
 狙いがずれれば、同士討ちがありえる位置だというのに、それは起こらない。
 ……それは、偏に彼らのコンビネーションが人一倍優れているからだろう。

「ふっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 そしてそれは、私がブレードを受け止め、位置をずらそうとしても変わらない。
 まるでどう位置をずらされるかもわかっているかのような動きだ。

「(……それも当然……か)」

 認めたくはないが、相手は私の両親だ。
 私の事は人一倍理解しているだろう。おまけに、動きに関しては束や桜から聞いていてもおかしくはない。
 ……動きがわかっていれば、どう動かされるかも大体わかる訳だ。

「ちぃ……!!」

 本当に歯痒い。ここまで劣勢を強いられるなど。

「(……思えば、苦戦した事などなかったな)」

 束や桜とは、幼い頃に何度か手合わせをした事がある。
 だが、こと戦闘において私は二人すらも上回っていた。
 今でこそ男である桜の方が優れている部分はあるだろうがな。
 そして、ISでも同じだ。私は苦戦した事などほとんどなかった。
 傍目から見れば劣勢であるような状況でも、私はそうは思っていなかったな。
 ……だから、“苦戦”はこれが初めてだ。

「くっ……!」

 飛んでくる銃弾を避けたり弾いたりしつつ、ブレードの攻撃を対処する。
 実力による拮抗は、桜や束で経験している。
 だが、連携による拮抗は初めてだ。だからこそ、苦戦しているのだろう。

「ふっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン! ギギィイン! ギィイン!

 瞬間的な力も、速さも、連撃の数も、私が上回っている。
 だが、それを補うように銃弾が飛んでくる。
 それを回避するために、どうしても押し切る事が出来ない。

「厄介な……!」

 これは、普通であれば絶対に勝てないだろう。
 ……普通であれば、だが。

「………!」

「むっ……!」

 私の動きが、途端に滑らかになる。
 先ほどまでは、“風”と“土”だけで戦っていた。
 そこに、さらに“水”を付け加える事で、回避力が増す。
 そのおかげで、弾丸はほとんど気にせずに躱せ、近接戦に集中できる。

「なら、こっちも力を上げるぞ!」

「っ!?まだ上がるか!」

 途端に、二人の動きも俊敏になる。
 その結果、結局先程までと同じようなやり取りになる。

「ならば……!」

 目の前の攻撃を防ぎ、即座に間合いを離す。
 そして、壁と天井を使い、一気に後衛へと間合いを詰める。

「先に、こちらを潰す!」

「っ……!」

「はぁっ!!」

 前衛と後衛に分かれているなら、どちらかを先に倒すか決める必要がある。
 後衛が支援などをしてくるなら、前衛を一気に押し切るのもありだ。
 しかし、妨害であれば前衛を振り切ってまで後衛を先に沈めるべきだろう。

「くっ……!」

「逃がさん!」

「連携を乱しにかかったか……!」

 振るった一撃は避けられたが、そのまま追撃する。
 しかし、応戦する事なく逃げ続けるせいで、なかなか捉えられない。

「だが!」

「それも想定済みよ!」

「っ……!」

 前衛に追いつかれた所で、動きが変わる。
 先ほどまではきっちりと分かれていた前衛後衛だったが、今度は違った。
 言い表すとすれば、“臨機応変”。
 二人共動きを大きくし、狙いを絞らせないようにしてきた。
 おまけに、動き回るせいで全方位から攻撃が来るようになる。

「ちぃ……!」

 歯痒い。ここまで読まれていたとは。
 私の動きを知られているとはいえ、ここまでやられると腹が立つ。

「っ……!」

「させないよ!」

 相手が動き回るのなら、私も動くまで。
 そう考え、私も大きく動くが、そこでも立ち回りで上回られる。
 ブレードの攻撃を凌ぎつつ、銃弾を避ける。
 そのまま後衛へと攻撃しようにも、上手く近づけない。

「くっ……!」

 銃弾が飛び交う中、私は動き続ける。
 ここまで銃弾が何度も飛べば、誤射もあるはずだ。
 それがないのは、やはりコンビネーションだろう。
 ……厄介すぎるな。

「(……やるしかないか。秋十と違って、私はやりなれていないのだがな)」

 “風”と“水”の動きで避け、“土”で攻撃を防ぎながらそう考える。
 私はまだ四属性全てを使っている訳ではない。
 だから、それを使う。しかし、それはこの状況では困難な事だ。

「(まぁ、多少の代償や困難は承知だ。後は、実行するだけだ)」

 あいつらを止めるのに、それらもなしに出来るとは思えない。
 使う場面が少々予想外だが、やってやるか。

「……行くぞ」

「っ……!」

 ……技に“火”を宿す。
 体の芯から燃え上がるような、そんな感覚に見舞われる。
 そして、その感覚が風のように吹く感覚、水面のように落ち着いた感覚、大いなる大地のようにずっしりとした感覚と混じり合う。
 四属性、その全てをこの身に宿した証だ。

「ふぅぅ……!」

「っ……!」

 息を吐き、呼吸を整える。
 少しでも油断すれば、宿した四属性は消えてしまう。
 そうでなくとも、負担が掛かって頭が痛くなる。
 既に何度かやった事があるため、負担はだいぶ軽くなっているが、それでも徐々に痛くなってくる。……早期決着を目指さないとな。

「っぁ!!」

「なっ……!?」

 私へ飛んでくる銃弾を躱しながら間合いを詰める。
 真正面から来る弾はブレードで弾き、肉迫する。
 コンビネーションで近づきにくいなら、それ以上の力で叩き潰せばいい。

「ふっ!」

「ぐぅっ!」

「っ……!」

 一撃、二撃と与え、三撃目で防御の上から後退させる。
 その隙を庇うように銃弾が飛んでくるが、今の私には無意味だ。

「嘘!?」

 左右にぶれるように動く。たったそれだけで避けられる。
 正しくは、射線からずれるように動いているだけなのだが。
 よくバトルアニメであるような、弾が当たらない動きを、今の私は行ったのだ。

「はっ!」

「っ……!」

     ギィイイイイン!!

 さらに追い打ちをかけるようにブレードを振るう。
 それを防いだ所で無意味。その上から吹き飛ばして壁に叩きつける。

「まずは貴様だ!」

「っ!!」

     ギィイイイイン!!!

 銃弾を全て弾いた所で、トドメの一撃を振るう。
 だが、それはブレードに阻まれる。

「ッ……!壁を使えば、これ以上は押し込まれないだろう……!」

「ちぃっ……!」

 即座に上体を反らし、横からの弾丸を避ける。

「そして!」

「ッ!?」

     ギィイイイイン!!

 そこへブレードが叩き込まれる。
 咄嗟に防いだものの、私は若干後退する。

「……属性を宿せるのは、お前だけじゃない」

「この力……!“土”と“火”か!」

「四季ばっかり見てていいのかしら?」

「っ!?」

 鍔迫り合いをしている場合ではなかった。
 無理矢理ブレードを避け、そのまま飛んできた弾丸を斬る。
 床に倒れ込むと共に足払いを放ち、ブレードの追撃を阻止する。
 そのまま飛び上がるように床を離れ、壁を蹴ってその場から離れる。

「はぁっ!」

「邪魔だ!」

 二つの属性を宿した所で、私には敵わない。
 ブレードを受け流すように逸らし、同時に蹴る。
 その勢いのまま、まずは後衛を潰す!

「は……っ!?」

「危ないわ……ねっ!」

 だが、振るったブレードは躱され、カウンターの蹴りが返ってくる。
 手で防いだが、今の動きに若干驚いていてしまった。

「“水”と“風”か……!」

「ご明察♪」

 その速さと動きは、明らかに普通ではなかった。
 私でも、その動きを即座に捉える事は難しい。
 そして、すぐに捉えられなければ、妨害が入る事も当然だった。

「くっ……!」

「ほらほら!」

「春華ばかり見てるなよ!」

 回避しながら至近距離で弾を撃ってくる。
 攻撃を中々当てれず、僅かに焦った所で、ブレードも迫ってきた。
 劣勢を覆して、また劣勢になってしまう。
 不幸中の幸いと言えるのは、これで相手が一か所に集まった事。
 そのおかげで、間合いを取る事で息をつく暇を手に入れられた。

「(どちらも、二つに限って言えば私と同等の属性を扱える。……そして、そこへこの連携か……。なるほど、忌々しいが、文字通り二人で一人、もしくは比翼連理とでも言おうか)」

 二属性ずつ扱い、連携を取る。
 それによって、四属性を扱う私と渡り合っているのだ。
 いや、連携の分私の方が劣っているか。

「手数、単純な力、戦術、それら全てを二人で行う事で渡り合う……なるほどな」

「ま、一人では敵わないからな」

「千冬は天才の領域なんだから、これぐらいはしないとね」

「ほざけ、それほどの連携を見せておきながら、まるで自分達は天才でもないかのような言いぶりだな。笑わせてくれる」

 あのような連携など、並の人間が取れるはずがない。
 互いの動きがまるでわかり切っているかのような動き、そんなの、互いの心や動きが読めていない限り、並大抵の事では出来るはずがない。

「……秋十やマドカと違って、千冬は私達を恨んでいるのね」

「当たり前だ。どのような理由であれ、黙って子供の前から消えた親を、憎まないはずがない。秋十やマドカがそう考えていないのは、親の顔を覚えていなかったからだ」

 一夏の場合は、親が生きているのを知らないから論外だ。

「なら、これは復讐か?俺達に対する」

「……違うな」

 その言葉を、私は否定する。
 復讐など、実際に行った所で虚しいだけだ。
 秋十もそうだったからな。

「……親だろうと誰だろうと関係ない。馬鹿な事をする馬鹿を止めるだけだ」

 そうだ。こいつらは馬鹿だ。
 ……束と桜を含め、こんな方法で世界を戻そうとする、大馬鹿者だ。

「……易々と私を倒せると思うな」

 そして、天才どもが失望する程、この世界はつまらなくない。
 ……いや、その点においては、あいつらも分かっているか。

「ふっ!!」

「はぁっ!!」

「っ……!」

 手数は、“風”と“水”の分、こちらが早く、多い。
 だが、それを補うように銃弾は飛んでくる。
 今の状況は、戦闘開始時の状況とよく似ている。
 ……違うのは、その激しさだ。

「ぉおおおおっ!!」

「はぁああああっ!!」

 ブレード同士がぶつかり合い、火花が散る。
 その火花を目暗ましに使うかのように、弾丸が迫る。
 それを、体を僅かにずらす事で回避する。

「四季!」

「っとぉ!!」

 ブレードをぶつけ、その直後に蹴りを繰り出す。
 それを受け止めさせ、突きを繰り出す。
 だが、それは上体逸らしで避けられた。

「ちぃっ!」

     ギィイン!

 突いた体勢から、飛んできた銃弾を無理矢理逸らす。
 追撃の銃弾は体を捻って避ける。

「はっ!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 回避で僅かな隙が出来る。そこを突いたブレードが迫る。
 咄嗟にブレードで防御し、一歩下がる。
 銃弾が迫る。回避し、切り裂き、次に迫るブレードを斬り返しで防ぐ。

「っ……!」

 鍔迫り合いを妨害するように銃弾が迫る。
 それを跳躍して躱す。地上からのブレードを防ぎつつ、着地。
 追い打ちの銃弾を回避と防御で防ぎ、しゃがんでブレードを躱す。

「ふっ!」

「くっ……!春華!」

「ええ!」

 足払いをかけ、僅かに隙を作る。
 その間に駆け出し、銃弾を切り裂きつつ肉迫。

「ちぃっ……!」

「させん!」

 だが、やはり一撃、二撃程度では当てれない。
 その間に妨害が入る。そして、つい先ほどまでの状況と同じになる。
 ……仕切り直しか。

「(いや……)」

 先ほどまでとは少し違う。
 さっきはこの広間の中心辺りだったが、今いる場所は壁際だ。

「(動きが読まれるのなら……)」

 床を蹴り、壁を蹴る。
 跳躍し、連続でブレードを振るう。

     ギギギギィイイン!

「……よし」

「っ……」

 ブレードの威力で宙にいる私は弾かれる。
 すぐに体勢を立て直し、銃弾を弾きつつ着地する。
 そして、納得する私に対し、向こう側は苦い顔をしていた。

「(つまり、だ。私らしからぬ動きであれば、向こうも読みづらいだろう)」

 付け焼刃な動き方では、いつもの動きよりも早くやられてしまうだろう。
 だが、それも承知で今は違う戦い方をする。

「ふっ……!」

「くっ……!」

 銃弾を凌ぎつつ、間合いを詰める。
 ブレードの間合いに入る直前で方向転換、横から回り込むように動く。
 そのまま体を捻り、ブレードを叩きつける。

     ギィイン!

「ちっ……!」

「はぁっ!」

 だが、そのブレードに銃弾が叩き込まれ、軌道がずれる。
 そのせいでブレードは防がれてしまう。

「はぁあっ!!」

「っ……!」

 すぐさま私は後ろへと下がる。
 いつもなら、そのまま突破口を開く所だが、それは通じないだろうからな。
 だから、私らしくないように、回り込むような戦法で行く。

「くっ……!」

「こちらの攻撃が当たり辛いのと同じように、私もそう簡単には当たらん!」

「くそっ……!」

 先ほどまでと違い、私は逃げ回るように動き回っている。
 その上、四属性を宿しているため、銃弾は決して当たらない。

「はぁっ!」

「ちぃっ!!」

 広間を駆け回り、ブレードを振るう。
 ……押し切れないか。

「(不利ではないが、押し切れないな。それに……)」

 “ズキリ”と、頭に痛みを感じる。
 四属性を宿し続ける事による負担が、現れてきたようだ。

「(無理矢理にでも、片方を落とすか……!)」

 避けながらも属性を宿した技の用意は出来る。
 ……防御の上から、落としてやろう!

「はぁっ!」

「っ、それは読めていた!!」

   ―――“羅刹”
   ―――“羅刹”

     ギギギギギギギギギィイイン!!

「ッ……!」

 私が技を繰り出すと同時に、同じ技が繰り出される。
 結果、技同士で相殺する事になり、互いに後退するように弾かれる。
 すぐさま私は横に転がり、追撃の銃弾を躱す。

「(ダメか。技ありきだと、さすがに動きが読まれるか)」

 動きを変えているとはいえ、所詮は付け焼刃。
 肝心な所で普段の癖が出ているようだ。完全に発動を読まれていた。

「(……だが、まぁ……)」

「っ……!」

   ―――“羅刹”
   ―――“羅刹”

     ギギギギギギギギギィイイン!!

 床を蹴って跳躍、加速する。
 そして、銃弾を避けつつ再び技を放つ。
 当然、動きは読まれて同じ技で相殺される。

「(……やはり、な)」

 そこで、私は確信を得た。
 ……これなら、勝てる。

「ふっ!」

「くっ!」

     ギィイイン!!

「はぁっ!」

「なんの!」

     ギィイイン!!

 銃弾を回避しつつ、ヒット&アウェイで攻撃する。
 いくら動きを変えているとはいえ、そんな攻め方では全て防がれる。
 だが、それでいい。突破口は既に見えた。

「っ、ちぃ……!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 やはり、援護があるかないかでは、厄介さが違う。
 正直言えば、援護さえなければこのままでも押し切れる。
 決定打を作り出すのに、援護は途轍もなく厄介だ。

「(まぁ、一対一なら私が勝つのは既に分かっている事か)」

 元々、二人は個人では私には絶対に勝てない。
 だからこうして連携を取って相手取っている。

「ぉおっ!!」

「っ……!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 何度も、何度も、馬鹿の一つ覚えのようにブレードをぶつける。
 ……そろそろ、いや、もう気づいているだろう。
 “なぜ、こうも同じ事を繰り返すのか?”と。

「(頃合いか……!)」

 息を吐き、神経を研ぎ澄ませる。
 四つの属性を意識し、一気に踏み込んだ。

「っぁあああっ!!」

「これは……!!?」

   ―――“四気一閃”

 銃弾が当たるよりも駆け、一気に間合いを詰める。
 そして、渾身の一閃を放った。

「ぐ、ぉおおっ!!」

   ―――“剛毅一閃”

 相手も対抗して、“火”と“土”を宿した強力な一撃を放つ。
 ……だが、無意味だ……!

     ガ、ギィイイイイン……!!

「ッ……!?なっ……!?」

「はぁっ!!」

「しま、がはっ!?」

 ブレードとブレードがぶつかり合った瞬間、相手のブレードが砕け散るように折れた。
 そして、間髪入れずに蹴り飛ばし、後衛諸共壁際まで追いやる。

「技そのものの威力、鋭さ、重さ。そしてブレードの耐久力。それらを見極めれば、この結末にする事ぐらい容易い」

 四属性を宿した究極の一閃。
 威力が高いのはもちろんの事だが、負担も大きい。
 現に、私の頭がズキズキと痛む。

「(……代わりに勝てたのだから、御の字だがな)」

 ブレードが折れたのは、ただ私の技が押し切った訳じゃない。
 何度もブレードを同じ箇所へぶつけ、さらに強力な斬撃で耐久力を減らす。
 そして、頃合いを見て先程のように全力をぶつけたのだ。

「(気づけたのは偶然だったが……上手く行って良かった)」

 気づいたのは、羅刹同士をぶつけ合った時。
 相殺されるとはいえ、あの時点で私の方が威力は勝っていた。
 そうなれば、相手のブレードへの負担は大きいと分かる。
 そこから、先程のような流れに持って行ったのだ。

「くっ……!」

「遅い」

 すぐに間合いを詰め、銃をブレードで弾き飛ばす。
 予備があろうと、すぐに弾いてやる。

「勝負あったな」

「………」

「そう、だな……」

 ブレードを突きつけ、そう宣言する。
 相手も素直に認め、動こうとするのをやめた。

「……計算なら、最低でも互角と思っていたんだがな……」

「私を侮ったな。何を基準に計算したのかは知らないが、人は成長するものだ。今日の私が昨日までの私と強さが同じだと思ったか?」

「成長込みでの計算だったが……はは、さすがは千冬だ」

 思わず舌打ちしたくなる。
 正直、私はこの二人とあまり会話したくはない。
 ……何とも言えないどす黒い感情が湧いてくるからだ。

「……なぜだ」

「ん?」

 ……ふと、勝手に口が開いていた。

「……なぜ、幼い私達を置いてどこかへ行った」

「なぜ……か」

 そして、無意識のうちにそう尋ねていた。
 だが、確かに気になる事でもある。
 普通……ではない二人だが、それでも理由もなしに子供を置いて行方を晦ますなんてありえない。

「……理由なんざ、考えるだけ出てくるが、どれも“言い訳”の域を出ない」

「そうね。強いて言うなら……“勘”ね」

「っ、言う事に欠いて、それか……!」

 ただ“勘”でそう思ったから、私達は置いて行かれたというのか……!
 その応答は、私を怒らせるのにあまりにも十分すぎた。

「そうだな。普段から俺達は感覚で動いていた。……だが、よく考えろ千冬」

「もし、私達があの選択をしなかったら、今はないのよ?」

「……はっ」

 その言葉に、怒りを通り越して呆れが来た。
 あの選択がなければ?笑わせる。

「詭弁にすらならんな。と、言うより、逆の状況も考えられるはずだ。あの選択をしなければ、今よりも良い状況になっている可能性もな」

「……そうだな」

「言い訳もないわ」

 そういって、お手上げだと両手を上げる二人。

「なぁ、千冬。“世界の修正力”って知っているか?」

「何……?」

「言い換えれば“運命”や“宿命”とも言えるわね。……桜君と束ちゃんが言っていたわ。もしかすれば、どうあっても私達はあの時期に千冬達の前から姿を消していたと」

「は……?」

 “世界の修正力”というワードだけでも意味が分からない。
 一体、何を……。

「“平行世界”……ありとあらゆる“IF”が存在する似て非なる世界。でも、お互いに影響し合うらしいわ。その結果が、私達の失踪。他には……マドカが亡国企業に入るとか、かしらね」

「……どう言う事だ」

「詳しく話す暇があればいいんだがな……」

 突拍子もない事を言われ、思わず説明を求める。
 そして、軽くだが説明してもらった。

 ……なんでも、桜は眠りから醒める前、“神”なる存在と会ったらしい。
 その際に貰った知識が、とあるライトノベルの物語だった。
 その物語の世界と、この世界は非常に似通っているらしい。
 そして、先程言っていた“修正力”。
 それはつまり、その物語の流れにある程度沿うように、運命が決められているのだろう。

「………」

 ……当然だが、信じられない。
 だが、こんな事で嘘を言っても意味がない。
 非常に信じ難いが、事実なのだろう。

「……だが、例えそうだとしても……」

「ああ。俺達が失踪した事実はそのままだ」

「っ……!」

 つい拳が出そうになる。
 だが、今はそんな場合ではない。

「……自分達がした事、ちゃんと償うんだな」

「分かっているさ」

「先に進みなさい。千冬」

 二人の横を通り、私は先へ進む。
 ……先に進んだ二人がどこにいるのかは分からない。
 だが、相手が相手だ。もし負けたなら……私がやるしかあるまい。

「(あいつらがISに乗るのなら……)」

 首に掛かるペンダントに手を当てる。
 そのペンダントは私の新しいIS、想起の待機形態だ。
 ……ISには、ISでしか対抗できないだろう。

「(束は分からんが、桜は二次移行している。……普通にやりあうのでは私が不利……いや、そもそもISが応えてくれるか分からないな)」

 ISは所謂“拒否権”を得た。
 もし、担い手が意思に反する思想でISに乗るならば、動かせないように。
 それは私でも例外ではない。

「(幼馴染として、あの馬鹿どもを止めるんだ。……応えてくれるか?)」

 私とて、あいつらの本来の願いは叶えてやりたいし、私自身も叶えたい。
 そう思って、想起に声を掛ける。









   ―――“チカリ”と、応えるように想起が光った気がした。















 
 

 
後書き
本命の戦いの前に、それ以外のキャラが各々の相手と決着を着ける……王道物のRPGでありそうな展開になっています。まぁ、桜や束がそう言うのを望んだんですけど。 
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