IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第67話「足止めの戦い4」
前書き
―――一歩、足りなかったのね……
足止めグループの中では直接戦闘力が高い方なのに、展開的にはあっさりと決着が着きます。
と言う事で、残り三組は一話で収められる程あっさり終わります。
=鈴side=
「ぜぁっ!」
「っ!」
少々鈍い音を出しながら、あたしの手によって相手の……トーレの攻撃を逸らす。
……まずい。
「遅い!」
「っ……!?ぐぅっ……!!」
ついに逸らしきれずに、直撃を喰らう。
辛うじて片腕を割り込ませたけど、その片腕はしばらく使えないだろう。
……最悪の場合、骨に罅がいってるかも。
「そらぁっ!!」
「(っ、でも、好機!!)」
戦闘の流れが変わった。確かにあたしは大ダメージを受けた。
でも、それによってトーレの動きも変わり……それが、あたしにとって有利に出た。
「っ、とぉおりゃぁあっ!!」
「なっ!?がっ……!?」
無事な方の手で間合いを詰めた攻撃を逸らす。
同時に、体を大きく動かし、回し蹴りを思いっきり叩き込む。
ガードはされたけど、あたしの渾身の一撃だからか、少し吹き飛ばされる。
「っつぅ~……!」
「ってて……」
どちらもダメージを受けた状態で、向かい合う。
……このままだと、あたしが押し負ける。
勝つためには、援軍か、搦め手を……。
「(……いえ、どちらもダメね)」
援軍は元より期待しない方が良い。
搦め手なんて、あたしには合わない。
……だから、正面からやるしかない。
「ぁあっ!!」
震脚からの活歩で一気に間合いを詰める。
既にあたしは片手を使えない。だから、この一瞬に賭ける!
「っ……!?」
一気に間合いを詰められた事に、トーレも驚く。
けど、すぐさま反撃の拳を繰り出してきた。
活歩で間合いを詰めているあたしには、それを回避する術はない。
……でも、逸らす事はできる。
「っ、ぐぅ……!」
「しまっ……!」
使えない片手を添え、弾かれる形で何とか軌道を逸らす。
体勢が崩れて痛みが走るけど、これで懐に入った!
「せりゃあっ!!」
「が、ぁっ!?」
川掌と言う、掌で打つ技を直撃させる。
さっき攻撃を逸らした際に体勢が崩れて威力が出なかったけど、むしろ好都合。
……本当なら、トーレの骨が何本も折れちゃうからね。
「ふ、ぅ……!」
「っ、っ……!」
「ったく……大した体力ね……!」
だけど、川掌を当てても、トーレは倒れなかった。
何歩も後退ったけど、決して倒れる事はなかった。
「へっ……大して威力は出てなかったぞ……」
「……予想以上に威力が落ちてたのね」
やっぱり、直前で攻撃を逸らした事が悪かったらしい。
でも、ああしなければあたしは倒れていたのだから、仕方ない。
「(同じ手は通用しない。あれは、迎え撃てると思っていたから成功しただけ。反応速度で勝っているなら、今度は避けられる……!)」
活歩は不意を突いたり一気に間合いを詰めるのには役立つ。
けど、反応速度で上回れると、ただの愚直な一直線移動だ。
そんなの、トーレ相手には良い的でしかない。
「(でも、それでも……!)」
普通に間合いを詰めるよりは、よっぽど有効だ。
だから、あたしは再び活歩で間合いを詰めた。
「それは、見切った!」
「っ、ぁっ!」
やっぱり、間合いの外まで避けられる。
立ち止まり、深く踏み込んで……。
「っく……!」
纏で攻撃を逸らす。さっきまでと違って、片手だ。
手数の差で負けるとは思っていたけど……。
「っ……!」
……どうやら、トーレも無事とはいかないらしい。
さっきの一撃が響いていて、どうも拳のキレが悪い。
「(……なら…)」
それは、私にとって好機。
「っ!?しまっ!?」
攻撃を逸らした瞬間に、足払いを掛ける。
バランスを崩したトーレは、思わず飛び退く。
「(逃がさない!)」
それを追うように、あたしも活歩で迫る。
好機とは言ったけど、これは賭けだ。
飛び退かせたのを追う事によって、活歩への反応を遅らせる。
でも、それでも反応してきたらあたしの負け。
そうじゃなかったら、あたしの勝ちだ。
「(おまけ、よ!!)」
あたしが打てる手は、これが限界じゃない。
さらに、懐に入れていた投げナイフを二本、投擲する。
それらは、直接トーレを狙う訳ではなく、両サイドを狙う。
これは、横に避けるという選択肢を消すため。
どの道、活歩一回では届かない距離まで下がろうとしていたから、丁度いい。
「っ!!」
そして、決着の時。
あたしがもう一度活歩で間合いを詰め、トーレは……。
「はっ……!」
……あたしに、反応して見せた。
薄く笑うように拳を繰り出してくる。
「(今更、止まれる訳ないわ!)」
敗北は濃厚だろう。でも、もう止まらない。止まる訳にはいかない。
トーレの拳よりも先にあたしの拳を届ければいい事だ。
だから………!!
「ッ―――!?」
……“結論”から言えば、あたしとトーレでは体格の差が大きい。
同時に拳を繰り出せば、負けるのはあたしだ。
「そん、な……!?」
“信じられない”と言った声が、その場で響く。
……だけど、それを言ったのはあたしじゃない。トーレだ。
「は、はは……」
乾いた笑いが、あたしから漏れる。
正直、あたしも信じられなかった。
……シャル達からの流れ弾が、トーレの拳に当たるなんて。
「マジ、かよ……」
「偶然も、良い所ね……」
“結論”はあたしの負けでも、“結果”は逆だった。
トーレは手にグローブを付けていた。
そのグローブは、ここの人達が作った特別性だからか、相当丈夫だったようだ。
だから、流れ弾で傷は負っていない。
……負っていないけど、弾かれた。そして、あたしの拳が届いたのだ。
「くっ……」
「……あたしの勝ちよ。……尤も、マグレだけどね」
トーレは膝を付き、そのまま倒れ込んだ。
そして、起き上がる事はなかった。
「は、ぁ……」
本当に、末恐ろしいわね。
もしあたしが胡散臭い神父に八極拳を教わらなかったら、既に負けていた。
教えてくれた神父に感謝……したくないわね。あんな奴に。
=楯無side=
「はっ!」
「シッ……!」
振るった小太刀が、空ぶる。
そして、代わりに迫りくるブレードを、ギリギリで躱す。
「(っ、離れてはダメ!)」
追撃のブレードを躱すと、次に銃で狙われる。
でも、下がっていては絶対に勝てない。
だから、私は横に避け、スコールを中心に円を描くように銃弾を避けた。
「はっ!」
「甘いわ!」
下からの切り上げを、上体を逸らす事で避けられる。
すぐに斬り返しで横薙ぎに振るうも、ブレードで受け流される。
そこからさらに蹴りを放っても、手で受け止められた。
「(間に合わない!カウンターを封じるまでは行っても、当てられない!)」
さっきまでと違って、私はカウンターをされていない。
それは、私自身がカウンターを封じるように立ち回っているからだ。
……いや、正しくは、そう立ち回るのが限界だからだ。
「………」
「………」
……これでは、千日手。
いや、このままでは私の体力が先に尽きる。
「はぁっ!」
「馬鹿の一つ覚えのような攻撃ね」
「まだよ!」
確かに攻撃は通じない。
けど、同時に攻め続ければ何とか拮抗する。
後は……。
「(今!)」
チュン!
「っ!?」
スコールの背後を確認し、タイミングを何とか合わせる。
私が攻撃を繰り出し、それを受け流した直後に流れ弾が飛んでくる。
当たりはしなかったものの、それに一瞬だけ動きを硬直するスコール。
そこを逃さず、私は追撃の攻撃を繰り出した。
「くっ……!」
「(流れを崩した!このまま……!っ!?)」
「させないわ!」
追撃すら躱すスコール。だけど、体勢が崩れたのを私は見逃さない。
しかし、破れかぶれに放たれた銃弾に、私は飛び退くのを余儀なくされた。
「お、驚いたわ……。まさか、あんな方法で食い下がってくるなんて……」
「使えるものは使う。そうでないと勝てないからよ」
「だからと言って、流れ弾を利用するなんて正気の沙汰とは思えないわ。いつどこに飛んでくるか分からないというのに」
私だって、本当ならこんな方法は取りたくない。
けど、それほどまでに“水”の回避能力は高いのだ。
だから、意識外からの攻撃じゃないと、早々通じない。
「正気の沙汰で、彼らを止めれるとでも?」
「……それもそう……ね!!」
「っ!?」
不意を突くような銃撃。
まさか、ここでスコールから動くとは思わなかった。
とはいえ、少し間合いが離れた所からの発砲。射線を見て躱せる。
「くっ……!」
相手が銃なら、こちらも銃を使う。
銃弾なら、至近距離なら当てれるだろうと思うけど、そうはいかない。
既に試したけど、放つ前に確実に妨害が来る。
だから、離れた位置からでしか銃撃戦は出来ない。
「っ!」
銃弾を小太刀で弾き、肉迫する。
その瞬間にはスコールは銃撃をやめ、“水”を宿した動きをしてくる。
小太刀を振るい、躱され、反撃される。
それを防ぎ、再び攻撃、躱され、反撃。
……先程の流れ弾がなければずっとこうなる。
「ふっ!」
「くっ……!」
だけど、余程単純な思考をしていない限り、ずっと続くはずがない。
スコールの反撃が、ブレードではなく蹴りに変わる。
それを、私は腕で受け止める。
「はっ!」
「ふふっ」
「くぅっ……!?」
受け止めた所から小太刀を振るう。……が、躱される。
スコールは受け止められた体勢から捻るようにブレードを振るってくる。
鋭い反撃を受け止め切れず、私は後退させられる。
「っぁ!」
即座に横に飛ぶ。
寸前までいた場所を銃弾が通り過ぎる。
「シッ!」
すぐに間合いを詰めて小太刀を振るう。でも躱される。
……でも……!
「っ!」
「(ただ闇雲に攻撃していると思ったら、大間違いよ!)」
振るった小太刀はそのまま円を描くように方向を変える。
そして、二撃目としてスコールへと迫る。
「……!」
「……これでも、通じないのね……!」
でも、その一撃はスコールの顔すれすれを空ぶった。
「(まだ……!)」
何度も躱されているからか、動きに若干慣れてきた。
だからこそ、先程の一撃は当たりそうになった。
ギィイン!
「っ、しまっ!?」
「隙ありよ!」
だけど、その瞬間、流れ弾が小太刀に当たる。
当然、小太刀のような小さい対象に偶然当たる訳がなく、私が流れ弾を反射的に防ごうとした結果なんだけど……。
明確な隙を晒してしまった私は、スコールの攻撃を防げない。
「っ……!」
でも、その攻撃は、ギリギリで躱せた。
まるで、落ちる木葉を掴もうとして躱されるように。
「今のは……!」
「っ、はっ!!」
スコールが驚き、私自身も驚いていた。
だけど、一瞬早く私が動き、小太刀を振るう。
「っ……!」
「ようやく、ね……!」
ついに、こちらからの攻撃を躱される事なく、防がせる事に成功した。
動揺があったからこそだけど、先程のような動きにスコールは驚いていた。
「……これは……」
「………」
正直、さっきの回避はほぼ無意識だった。
その時脳裏にあったのは、簪ちゃんとの手合わせ。
……でも、あの動きに心当たりはある。と言うか、何度も目の前で見ている。
「(“水”……)」
あの動きは、まるで“水”を宿した時のようだった。
確かに、私は“水”に適性があると、秋十君やマドカちゃんに言われている。
でも、“水”は例え適性があっても一番最初に会得するのは難しいはずだ。
「(出来るかしら?……いえ、やるしかないわね)」
元より、“楯無”としては勝てない。
流れ弾を利用しようとしても、早々こちらへは飛んでこない。
……だったら、“水”を使うしかない。
「(使いこなすのは不可能。それは分かってる。……必要なのは、動きを知り、攻撃を当てる事!)」
いきなり使いこなすなんて、天才でもない限り不可能だ。
別に使いこなす必要もない。今必要なのは、攻撃を当てる事だからね。
「この土壇場で、こんな事……!」
「まだ、不安定だけどね……!」
“水”は、所謂武術の極致に通ずるものがある。
今まで習得しようとしていなかったとしても、私のように、武術を修める者は習得しやすいと秋十君とかに聞いている。
だから、私の場合土壇場で使えたのだろう。
……あっさり会得しちゃったら、また簪ちゃんが拗ねそうね。
「っ……!」
「くっ……!」
攻撃、回避、防御の応酬がまた繰り返される。
でも、違う所があった。それは、ちゃんと“攻防”として成り立っている事だ。
さっきまでは、私が攻撃し、それを全てカウンターで返されているという、完全な劣勢だった。けど、今は違った。
「はっ!」
「っ……!」
流水の如き一撃が、スコールに防御行動を取らせる。
この通り、スコールもカウンターに繋げられなくなっている。
私自身もスコールの動きに慣れ、さらには不定期に“水”を宿した動きをしている事で動きの乱れに拍車が掛かっている。
「厄介な……!」
「お互い様でしょ……!」
力の差が縮まった事で、互いに動きの読み合いになる。
……ここからは、純粋に戦闘技術の競い合いね……!
「っ!」
「っ!」
互いに攻撃が外れる。
僅かに掠ったり、防御行動を取ったりするけど、決定打には程遠い。
攻撃と回避と防御。それらを繰り返し……。
「くっ!」
ついに、“その時”が訪れた。
「それは、悪手よ!!」
「しまっ!?」
痺れを切らしたように、スコールは銃を至近距離で使う。
でも、それは不完全とはいえ“水”を扱えるようになった私には悪手すぎた。
「ぁあっ!!」
銃弾が放たれる前に、手で射線をずらす。
同時に、小太刀でブレードを防ぎ、その場で蹴り上げた。
狙いすましたその一撃は、綺麗にスコールへと決まった。
「っ、ぁ……」
「早々に私を倒さなかった。それが貴女の敗因よ」
受け身の戦法だったから仕方ないのだろうけど、時間をかけたのがいけなかった。
結果的に、私は“水”の動きを不完全とは言え使えるようになり、私が勝った。
「……一歩、足りなかったのね……」
「そう言う事、よ!」
トドメに、小太刀を振るい、それを鳩尾へと叩き込む。
当然だけど、峰打ちだから切れる事はない。でも、気絶させるには十分だ。
「……気絶させたとはいえ、全然傷を負っていないってどういう事よ……」
気絶させ、拘束したスコールには、傷一つなかった。
……大方、ナノマシンか何かで傷を治していたんでしょうけど……。
「(長期戦であればあるほど、私が不利。……だからカウンターのみの戦法で十分だと思っていたのね……)」
致命打を受けなかったものの、今の私は掠り傷でいっぱいだ。
戦闘は可能だけど、全力を出すには少し厳しい。
「(さすがに、生身での戦闘はもうないと信じたいけど……)」
秋十君達三人だけを行かせたという事は、あちら側も数を合わせているはず。
……後は、三人に託すべきかしらね。
=マドカside=
「ぉおおおおおおおお!!」
「はぁああああああ!!」
オータムのブレードと、私のブレードがぶつかり合う。
“土”の力で、私はすぐに押されるけど、即座に回り込むように動く。
「っ……!」
“ズキリ”と、頭が痛む。
土壇場で四属性を宿すという荒業をやっている反動だ。
……でも、それがどうしたと言うの?
「ぁああっ!!」
「っ!がぁっ!」
未だに“力”では“土”を極めたオータムには勝てない。
だから、私はスピードで翻弄する。
「っ、ぁあっ!」
「ぐっ……!らぁっ!!」
オータムの攻撃を躱し、反撃を叩き込む。
それをオータムはブレードで受け止め、弾く。
「っ!」
「まだまだぁ!!」
避ける。避ける。避ける。
“水”と“風”のおかげで、私の回避能力は非常に高い。
そこへ、他の二属性も宿す事で相乗効果が働き、さらに力が増す。
このおかげで、四属性を宿してからはオータムからダメージを受けていない。
「くっ……!」
……その代わり、負担によって痛みが蓄積していく。
私が倒れるのは時間の問題だろう。
……でも……!
「はぁぁあっ!!」
「なっ……!?がぁっ!」
ブレードを繰り出し、それをオータムが防ぐ。
ぶつけ合った反動を利用し、横に回り込む。
即座に脚を踏み込み、ブレードを振るう。
万全の体勢で防御出来なかったオータムは、防ぎきれずに後退する。
「まだっ!」
“土”の力で踏み込み、“風”の力で一気に間合いを詰める。
阻止に繰り出された攻撃を“水”の力で避け、“火”の力で攻撃する!
―――“羅刹”
「ぬ、ぐ、ぉおお!?」
「ぁあああああっ!!」
渾身の一撃が、オータムを防御の上から吹き飛ばす。
……後、少し……!
「っ、がっ……!?」
その瞬間、頭をトンカチで殴られたような痛みが走る。
まずい……!
「ぐ、ぅ、ぁっ……!」
四属性を一遍に宿した反動が、ここでくる。
宿していた力は全て掻き消え、私はその場で膝を付いてしまう。
「ぐ、ぅぅぅ……!」
頭だけじゃない。全身が痛い。
幸い、痛みを感じると同時にこの状態に陥ったから、痛みも一時的なものだろう。
後遺症として残る事はなさそうだけど……。
「っ、ぁ……!はぁ、はぁ、はぁ……!」
「オー、タム……!」
吹き飛ばされたオータムが、ブレードを支えに戻ってくる。
「……はっ、オレの、勝ちだな……!」
「ま、まだ……!」
このままだと負ける。そうなる訳にはいかない。
確かに、足止めの戦いでしかないこの勝負は、勝ち負けはあまり関係ない。
これは、単純な感情。
……ただ、“負けたくない”……!!
「ぁあっ!!」
ブレードを支えに、無理矢理立ち上がる。
体と頭が痛む。属性を宿す事は叶わないだろう。
……でも、それでも……!
「っ、ぁあ!っ、ぐ……!」
何とかブレードを構え、オータムの攻撃を防ぐ。
その瞬間、私は吹き飛ばされ、床を転がる。
「属性のないマドカなんて、今更敵じゃねぇな」
「ぐ……く……!」
オータムの言う通り、属性を宿していない私は大した事ない。
一般人と比べればそうでもないけど、属性が関係すればそうなる。
それこそ、オータムにとっては、亡国企業の時の私を相手にしているようなもの。
おまけに、今の私は手負いだ。勝てるはずもない。
「(普通なら……ね!!)」
勝てない。だからと言って諦める?冗談じゃない。
私はこれでも負けず嫌いなんだ。
勝ち筋が残っている限り、諦めるなんてしない!
「ぁ、ぁああああああああ!!!」
「ちっ、まだ動けるのか……っ!?」
力の限り吠え、突撃する。
体が痛い。頭が痛い。痛みで視界がぼやける。
……なら、それを利用する!
「ぁあっ!!」
オータムが驚いたのは、私が予想外の行動をしたからだ。
でも、私にとっては不覚を取って躓いただけ。
……それを、今回は利用させてもらった。
「ぐぅっ!?なんつー強引な……!」
躓き、体勢が崩れる。
その状態からの無理矢理な攻撃。
それは、オータムの想定を上回る動きで、そのおかげで攻撃が通じた。
「ぁああああああああああ!!」
「なっ……!?」
さらに、ブレードを支えに立ち上がると同時に、ブレードを投げ捨てる。
素手となり、さらに突っ込んできた私に、オータムは面食らう。
「っっ……!今のオレをそれで押し切れると思うなよ……!」
戦闘している内に、私達は壁際にいた。
だから、このまま壁に押し込んでどうにかしようと思っていた。
けど、オータムは“土”を宿している。
そんな相手を、押し込む事なんて属性なしでは出来ない。
「(だったら!)」
「んなっ!?」
押し込む必要なんてない。
懐に入り込む形で突っ込んだ私には、もう一つ手がある。
オータムのブレードを持つ腕を、抱え込むように持つ。
そして……!
「っ、らぁああああああ!!」
「っ―――――!?」
そして、そのまま、背負い投げ。
大地の如き力と防御力を持つ“土”の力でも、体重までは変わらない。
だから、この技は通じる!
「が、はっ!?」
「柔よく剛を制す。日本に伝わる言葉だよ、オータム!」
床に叩きつけられたオータムに、私は体重をかけて追撃する。
もしオータムが“水”も扱えたら、確実に勝てなかっただろう。
属性も完璧じゃない。相性や状況によってはこのように柔術であっさり勝てる。
「っ……あー、くそ。負けた、か……」
「……の、割には普通に喋るじゃんか……」
「バッカ。空元気だこんなもん」
正直、私も満身創痍だ。
ブレードの支えがなければ、今にも倒れてしまいそうなぐらいに。
「……とりあえず、拘束させてもらうよ」
「負けたんだ。文句は言わないさ」
痛い体に鞭を打ち、何とかオータムを拘束する。
すると、皆も勝ったのか集まってきていた。
「皆……」
「ちょっ、マドカ、ボロボロじゃんか!?」
駆け寄ってきたシャルに、体を心配される。
まぁ、一番ダメージが大きいのは私だしね。
「まぁね……。ちょっと、このまま追いかけるのは厳しいかな……」
「……そうみたいだね……」
見れば、楯無さんとかも小さい傷を負っている。
……まだ戦えるのは、シャルとセシリア……。
後は、少し休んで回復した簪とラウラぐらいか……。
「……少し、休みましょう」
「え、でも……!」
楯無さんの言葉に、鈴が反発する。
確かに、早く秋兄たちの助けになりたいのは分かる。
でも……。
「……今行った所で、邪魔になるだけだよ」
「っ……それも、そうね……」
多分、冬姉は両親と、箒は束さんと、そして、秋兄は桜さんと戦っている。
……その戦いを邪魔する事はできない。
「(……頑張って……)」
だから、私はまだ戦っているであろう皆に、そう祈るしかなかった。
後書き
胡散臭い神父…どこか愉悦を楽しんでそうな神父。八極拳が扱える。ちなみにこの世の物とは思えない程の辛さの麻婆豆腐を好んで食べていたりする。
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