儚き想い、されど永遠の想い
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90部分:第八話 進むだけその七
第八話 進むだけその七
ではどういった森なのか。そのことも話された。
「独逸の森です」
「独逸のですか」
「そうです。独逸の深い森です」
義正は話していく。その森のことも。
「妖精や魔物がいて。人を寄せ付けないそうした森をです」
「そのショーペンハウアーの書を呼んで」
「思い浮かべてしまいました」
「不思議な話ですね」
それを聞いてだ。
真理もだ。首を傾げさせながら言うのだった。
「哲学書から森とは」
「独逸は森の国と言われていますが」
「森のですか」
「グリム童話がありますね」
話はそこに至った。これも森鴎外が関わっている。彼が翻訳して日本に紹介したのだ。少なくとも文学者としての彼の功績は大きい。
「あれですが」
「そういえばあの童話にも森が多いですね」
「非常によく出ますね」
「はい、森です」
また森を話に出す義正だった。
「独逸は森の国なのです」
「そうだったのですか。独逸といえば」
「どういったイメージがあったのですか?」
「奇麗な西洋のお城があり」
「そして美しい街並みが並びですね」
「そうしたイメージがありました」
そうだったというのである。
「それが違ったのですね」
「確かに城や街も独逸です」
それはまさにだ。その通りだというのだ。
しかしそれと共にだ。義正は言うのだった。
「ですが森もです」
「それもなのですね」
「はい、独逸なのです」
つまりだ。独逸は一つではないというのだ。
「その独逸の森を連想したのです」
「日本の森とはまた違うのですね」
「はい、違います」
「ではどういった森でしょうか」
「先程も申し上げましたが」
こう前置きしてだ。義正は真理に話す。
「妖精や魔物や狼がいて」
「恐ろしい場所なのでしょうか」
「恐ろしくはないです」
それは違うというのだ。恐ろしい場所ではないというのだ。
それはどうしてかもだ。彼は話した。
「深く」
「深いですか」
「はい、深いです」
そうだというのである。独逸の森はだ。
「深く。そこに入るとそこから出られないようなものがあります」
「そこまで深いのですか」
「そして人はその中に入り」
どうかというのだ。
「多くのものを見る。それが独逸の森なのです」
「独逸の森とは不思議なものなのですね」
「それを感じたのです。ショーペンハウアーを読んで」
そしてだ。義正はこうも言った。
「厭世哲学です」
「そうなのですか」
「そうです。そしてです」
「そして?」
「独逸の森と日本の森は全く違います」
今度はだ。この話になるのだった。日本と独逸の違いだ。
「日本の森はそうしたものはありませんね」
「魔物がいるという感じはありますね」
「妖怪ですね」
「山姥等ですね」
それである。正確に言えば山だ。しかし日本は山が多いせいでだ。森と山は一つのものになっている面があるからだ。それで山姥だった。
「ああしたものがいるのですね」
「そうした感じがしますね」
「そうですね。何か」
「森ですか」
義正は歩きながらだ。そちらに考えを向けた。
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