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りゅうおうのおしごと(ピンク&スチール)

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三話~盤外戦あいVS銀子①始まり~

 
前書き
ボマー「ヤンデレに気を付けろ!」 

 
「君があい…………ちゃん?」

「はい!」

元気良く挨拶をする少女に、何かが脳裏をよぎる。

彼女の事は覚えている。

そりゃあ、竜王戦で戦った最終戦の会場の女将の一人娘だ。目にするチャンスはいくらでもあっただろう。

だが、脳裏によぎる記憶は…………

「んっ…………あいちゃん、もしかして俺達、何処かで会ってない?」

「はい!」

顔に手を当てながら、思い出そうとする八一に、あいは笑顔で同意した。

その笑顔に俺の脳裏で、あのときの記憶がフラッシュバックする。

ーーーーーーーーー

竜王戦、終盤。

十八手後の詰みを読みきった俺は、その手を指す前に、手洗いで息を整えていた。

洗面所前の大きな鏡の前で、その手に間違いはないのか、自分の手に希望的観測はないかをギリギリまで脳裏で繰り返す。

よし!間違いはない!

そう結論付けた俺は、盤上の戦いに戻るため、疲れた体を引摺りながら、体を会場に向ける。

やべえ…………頭が熱い。

予想以上に、脳を酷使した影響か、会場までの短い距離が無限に感じる。

その最中、見えたのは、自分に笑顔でコップを差し出す小さな影。

そうだ、俺はあの時君に…………

ーーーーーーーーー

「救われたんだ」

くれた冷たい水もそうだが、それ以上に、君の笑顔の『応援してます』という言葉に救われた。

あの日、自信を持って終局まで持っていけたのは、間違いなく、あの言葉も助けになった。

だから、八一は改めてあいにお礼を言う。

「ありがとう、君のおかげだ」

「っいえいえ、お師匠様は一人でも大丈夫でしたよ」

「いや、君の優しさは、確かに俺の助けになったよ。ありがとう」

顔を赤くして謙遜する彼女に、重ねて八一は言う。

無論、彼一人でも、なんとかあの竜王戦に勝てたかもしれない。

だが、その勝敗とは別に、あの日、あの時に、雛鶴あいという一人の少女に八一が救われた事は、間違いなく事実であった。

思い出したあの時の礼をのべると、尚更疑問が浮かぶ。

「えーと、あいちゃん、確か実家の旅館は、凄く遠く無かった?」

確か記憶通りなら、石川県辺りにある旅館だったはずなんだけど…………

「はい、でも一本で大阪に行ける電車ができたので、意外と早く着けました!」

「へぇ、そうなんだ…………じゃなくて!」

納得しそうになり、慌てて突っ込む。

いや、駄目でしょ。

「親御さんの許可は取ったの?ランドセルを持って来てるってことは、学校から直接来たんでしょ?」

そう伝えると、分かりやすくあいの目が動く。

はぁ、訳有りか。

心の中でため息をつくも、自分は歳上。

ここで、鋭く突っ込んでも、あいちゃんが頑なになるだけなのは、わかった。

俯く彼女の頭に、そっと手を置くと、サラサラの髪の上から頭を撫でて、優しく問いかける。

「事情、ゆっくりで良いから聞いても良い?」

「んー、んー…………はい」

暫く顔を赤くして口を開くのを我慢していたが、五分ほど撫でて返事を待つと、彼女は口を開いてくれた。

つまりは、こういう事らしい。

最近の俺の活躍?を見たあいちゃんが、最近の自分の仕事を見て心配になり(倒れた事かな)両親に弟子になりに行きたいと言った所、祖父が道楽で将棋をしていて苦労してきた母親が猛反対。

俺の事を今まで書いた手紙と共に説明しても駄目だの一点張りなので、喧嘩別れして、自分に甘い父親からお金を貰い、来たと。

一応、自分がこのマンションに着いたと同時に父親には連絡したらしい。

なんというか…………判断に困る。

ここまで一人で来る行動力は立派だが、明らかに弟子にする、しない以前の話である。

というか、これ現状ただの
家出じゃない?

まあ、常識的な大人なら、すぐに親に連絡して終わりである。

ただ、八一は残念ながら、まともな大人では無かった。

正直言って、嬉しかった。

話を聞けば、俺が旅館で指した日から俺を目標に詰将棋やネット将棋で腕を磨いてくれていたらしい。

そんなに慕ってくれているのに、ここで返すのは、正直、もったいなかった。

手招きして、荷物を置いて貰うと、長旅で疲れているあいちゃんのために風呂にお湯を入れる。

また、父親から説明はいっていると思うが、念を入れて一応師匠にはメールをいれた後、奥の和室に将棋盤と座布団を用意した。

さて、では折角来てくれた弟子を見てあげるとするか。

「あいちゃん、好きに打ちなさい」

そう言って先手を譲る。

二手、三手。

盤面に現れたのは…………

「あい掛かりか…………」

俺の十八番、得意とする戦術が現れていた。

まあ、良い。俺相手にその戦術を出す度胸は買おう。

だが、大切なのは、その中身だ。

互いに駒を動かす音が響く。

小一時間立つと、盤面は圧倒的に八一に有利な形で動いていた。

当然だ。タイトルにすら手が届いた自身の得意陣形である。指導のため、分かりやすい盤面を見せるために遠回しな打ち方をしたが、この状況にするのは容易であった。

(さて…………問題はここからだ)

将棋では、優勢な時よりも、むしろ劣勢の時にその打ち手の本質が出る。

詰将棋や手紙のやりとりでは見えないものを真剣勝負の中で見出だす。

彼女が俺の只のファンか、それとも弟子になるだけの才を持つものか。

(この一手で、見極めよう)

ある程度無理をしているが、捌けなければ詰みが見える一手。

それに対しあいは…………

「こう、こう、こう、こう、こう!こう!」

体を揺らして、一生懸命に盤面だけを見つめる。

その後、彼女が打った一手を見る。

一見、破れかぶれの逆王手。

しかし、八一には見えていた。

そこから繋がる、細い勝利の道が。

「面白い!」

気づけば、真剣勝負の時にかける眼鏡を無意識にかけていた。

「あいちゃん!」

「はい!」

「君の(将棋の)魅力にやられた。今夜は満足するまで、指し会おう」

「ふぁぁ、は、はい」

俺のあいちゃんの将棋を絶賛する言葉に、何故か真っ赤になって答えるあい。

んー、なんか間違ったかな。

まあ良い。別にやることは変わらない。

その日、言葉通り、八一はあいと、真夜中まで、将棋を指し続けた。

次の日、昼。

「ふぁあ、良く寝た」

張っていた気が緩み、『鋼』と呼ばれる強い八一ではなく、普通の八一が顔を出す。

まあ、自宅で固くなってもしょうがない。

そう思い、とりあえず顔を洗うため、洗面所まで向かっていると…………

「良い匂いだな…………」

別に妄想の類いではなく、キッチンから良い匂いが漂っていた。

手早く洗顔などをすませ、キッチンへ。

手慣れた様子で料理をよそうあいに声をかけた

「ご飯作ってくれたんだ、ありがとう」

「あ、お早うございます師匠」

割烹服を着たあいが、料理を運びながら返事をする。

そこからは穏やかな食事タイムだ。

おっと、そうだ、忘れてた。

「昨日お湯張った湯船、さっき追い焚きしておいたから入ってきなよ」

昨日、二人とも夢中になって指していたため、結局風呂に二人とも入っていない。

自分も途中で気づけばよかったんだが、小さいながらも女の子にそれは酷だろう。

そう提案すると、何故か強硬に俺が先に入るよう進めてきた。

?俺も詳しくは知らないが、普通、女の子が前に入るものではないのかと思ったが、薦められたならしょうがない。

とりあえず、朝風呂と洒落混むことにした。

彼は気づかなかった。

彼の見えない所で、師匠の香りがするお風呂とか最高じゃないですか…………と呟く幼女を。

少し時間が飛ぶ。

風呂に入り終わった八一は、嬉々として後の風呂に入ったあいと入れ替わりに、リビングで髪を乾かしていた。

ドライヤーをつけながら、片手で昨日棋戦前に充電していたスマホをいじる。

ん?着信20件?

確認すると、いくつかは違う番号が挟まっているものの、ほとんどは姉弟子の銀子のもの。

内容を確認すると、1コールで繋がった。

「姉弟子、どうしま……?」

「八一、今下にいるから、すぐいく」

???何故、急に?

「姉弟子、今日は何か用事ありましたっけ?」

「ついさっき出来た。直ぐに行く」

短く答えると、切られる電話。

それに不思議そうにする八一とは裏腹に、銀子の目は血走っていた。

「旅館の一人娘ぇ…………八一を慕ってアポなしで突撃ぃ…………ポッと出の女が忌ま忌ましぃ!」

激突はすぐそこに迫っていた。


 
 

 
後書き
あい・銀子「お師匠様(八一)捕まえた……」 
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