りゅうおうのおしごと(ピンク&スチール)
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二話~竜王VS聖騎士+幼女~
前書き
一部設定が、原作と異なる部分は、小説内で表現させて頂きます。
棋士と言うのは実力社会であり、究極的に言うならば、人格や経験、それら社会人として必要なファクターより何よりも、『実力』が重視される。
だからなのか、このような十代同士の戦いも、実力が伴うならば大きく取り上げられる。
「さあ、戦い(デュエル)も終局に近い。我が桂馬(ペガサス)の嘶きに頭を垂れるが良い」
神鍋 歩夢(かんなべ あゆむ)、自身と同様、十代でプロ棋士になり、関西と関東という違いはあれど、互いに切磋琢磨する仲の男である。
正直、自分と同年齢なので話しやすく、盤面を離れれば、気安い仲ではある。
離れれば、ではあるが。
「面白い!」
盤面を眺める目に、熱が籠る。
真剣勝負のみ身につける眼鏡を弄りながら、その目は盤面から一時も離さない。
魂に宿る熱気を、冷徹な頭で捌きながら、目の前の盤面と同時に、脳内に互いの指し手を予測して作る、未来の盤面を呼び出す。
4手先…………12手先……………………36手先!
現実の盤面の駒を進めながら、駒を指し、指され、取り、取られ、その互いの命(王将)を取るためにしのぎを削る。
そのギリギリの感覚が、八一は何より好きだった。
「持ち時間を全て使われましたので、今から一分将棋でお願い致します」
審判の声を耳だけで受け止めながら、しかし、目と頭は、盤面に集中する。
打って、打たれて、取って、取られて、目まぐるしく変わる戦局は最後に…………。
「…………ふう」
もう、すっかり暗くなった夜の町を歩きながら家に向かう。
あまりに白熱した勝負を勝った代償か、体の火照りが取れず、つい一駅分歩いて帰ってしまった。
まぁいいか、将棋のため進学を止めた身である、明日も用事がある訳ではない。
欲を言うならば、明日も誰かと打ちたいので将棋会館で約束したかったが、流石に仲が良くても、今日負かした歩夢にそれを要求するほど考え無しでは無かったし、今日の試合の記事を書いてくれた女流棋士の鵠さんは、何故か友人の月夜見坂さんと銀子と一緒に何処かに行ってしまった。
かと言って師匠や桂香さんにそういう連絡するのも気が引けるしなあ…………
そう呟きながら坂を上がると、足を止める。
1ヶ月前に引っ越した、新居である3LDKマンションである。
正直、独り者の自分には広いなんて話ではないのだが、これには事情があった。
将棋指しとして、多くの人間と指したい俺は、将棋会館で知り合った同じ指し手を、奨励会もプロも、男女の区別なく、うちで指せるように当初2DKの部屋を借りていた。
だが、何故か2ヶ月前に名人に挑んだ俺が倒れてしまった後、事情がかわってしまう。
試合を終えてから、マスコミ関係が異常なまでに俺の家まで押し寄せてしまったのだ。
これでは集中して、将棋が指せないと落ち込む俺。
だが救いの手は、幸運にも同じマスコミ関係から出された。
今回の騒動で有名になった俺は、棋界を通してテレビ関係のCMやドキュメンタリーの仕事を依頼されるようになった。
当然の如く、若輩の俺の手に分不相応とも言える金額がもたらされる。
結果、俺はセキュリティの硬いマンションを買い上げるほどの金を手にし、今に至る。
まあ、守衛さんには知り合いは将棋会館発行の身分証提示したら通すように言ってあるし、家の鍵も俺はかけてないから言うほどガードが硬い訳じゃないが…………
とりあえず、ゴシップ紙に好き勝手張り込みされるようにならなくなったのは素直に喜ばしいことであった。
そう考え何時も通り守衛の前を通ると、何故か手招きされた。
「どうしました?」
「あんなあ、実はボンが来る前にな…………」
守衛さんの話によると、自分が来る前に、自分の手紙を持った小学生の女の子が訪ねて来たらしい。
「どっちの子かな?」
自分が竜王を取り、また名人との死闘を演じたこの3ヶ月で手紙を送った相手で、小学生の女の子となると相手は二人。
夜叉神天衣(あい)と雛鶴あいである。
二人は3ヶ月前の竜王戦から自分に師事を乞いたいと熱心に手紙を送ってくれており、自分は名人戦の研究の合間に、彼女達に昔使っていた詰将棋の本を送ったり、彼女達の将棋の相談に乗っていた。
たかが小学生と侮るなかれ。
彼女達の質問は鋭く、その着眼点は自分もはっとさせられた。
ただ、そりゃあ、住所を書いてるのだから来ることは出来るだろうが…………
自分もまだ若輩の身、弟子を取るのはまだ早いし、難しいと手紙でも送った筈なんだが。
「なんで直接来たのだろうか?」
前に倒れてしまったのは確かだが、その後に無事を知らせる手紙も送ったのに。
「なんや、ボンを悪い女から守る言うてたで。ワイも娘がいるさかい、つい甘くなってしもうてな。それにまだ肌寒い中、小さい子立たせたままっちゅうのは酷やろ?」
「確かに、ですね」
別に取られるモノもないし、小学生の女の子の泥棒というのは考えにくい。
その守衛さんの判断は、全く間違ってなかった。
礼をのべて、オートロックのホールを抜けると、階段を上がって二階へ。
上がってすぐの扉を開けると…………
「お帰りなさいませ、お師匠様!」
三つ指をついた、小学生が、出迎えてくれた。
「…………ん?」
それが、自分、九頭竜八一と、雛鶴あいの、最初の出会い。
後書き
原作でもヤンデレベル高い幼女、イン。
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