レーヴァティン
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第四十六話 忍の者その四
「確かに隙はないが」
「それでもでござるな」
「悪い印象はなかった」
剣呑なもの、邪なものは感じなかったというのだ。
「至って穏やかだったな」
「おそらく忍術は身に着けているでござるが」
「その行いはか」
「普通なのでしょう」
里の者のそれであろうとだ、智は英雄に話した。
「きっと」
「それでか」
「はい、身のこなしや雰囲気は隙がないでござるが」
「その他は普通の百姓か」
「そうでござろう、忍といえど」
例えこの立場の者でもというのだ。
「普段は至って平和なものでござる」
「誰かに雇われて働くなりしないとか」
「その働きも暗殺等剣呑なものでなければ」
そうした殺るか殺られるかのものでないならというのだ。
「ああした風でござろう」
「そうなのだな」
「はい、見れば里の殆どの者が」
やはり隙がないが、だ。
「穏やかでござる」
「平和の中にいるか」
「そうでござろう、忍者も人でござる」
「邪ではないな」
「善か悪かはまた別の問題でござる」
忍者であるかどうかではなく、というのだ。
「人としてどうか」
「確かに。山伏であろうとも」
峰夫は智のその言葉に応えて述べた。
「左道に進みそれに溺れたならば」
「邪な者になるでござるな」
「はい、まことに」
「それは武士もでござる、人斬りに嵌った輩に会ったことがあるでござるが」
「人斬り侍でござるか」
「まことにでざる」
その者はというのだ。
「邪な輩でござった」
「侍は心の鍛錬も欠かせぬでありますが」
「されど人斬りなぞという外道に堕ちれば」
そうなってしまえばというのだ。
「例え侍といえど」
「邪になる」
「外道にでござる」
「それは忍者も同じでありますな」
「正しい道を歩んでいれば」
それでというのだ。
「邪にならぬものでござる」
「そして暗殺等を多く経ていないと」
「剣呑なものにもなり申さぬ」
「そうだな、暗殺なぞそうはない」
ここで英雄はまた言った。
「俺はどうも忍の者は暗殺が多いと思っていたが」
「むしろそれよりもでござる」
「情報を集めることだな」
「そればかりでござる」
忍んでだ、だからこそ各地で忍の者は存在し使われているのだ。この島でもそれは同じであるのだ。
「暗殺など稀でござる」
「この島でもだな」
「左様でござる、そもそもこの島では」
「命を奪ってもな」
「魂があれば蘇るでござる」
それこそその者の寿命までだ。
「だからでござる」
「暗殺はか」
「拙者達の世界の戦国の時よりも」
「少ないか」
「左様でござる」
「そういうものか、俺も偏見があった」
英雄は自分でこのことを自覚した。
「迂闊だった、しかしな」
「これからは」
「それをあらためよう」
自分で言ってそうしてだった、英雄は仲間達と共にその里の外れにさらに向かった。家々も外れの方は少ない。
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