ソードアート・オンライン 宙と虹
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「なんか……今更だけどさ。キリトは」
「しっ」
「なんだよ」
「あそこに」
切り出そうとした話題を打ち切られて、仕方なくキリトが指差した先を見る。そこには赤のカラーカーソルがあった。赤はモンスターだ。しかし、一向に攻撃してくる気配はない。
「ちょっと待ってろ」
そういって索敵スキルと、もう一つ遠視スキルを使用する。単に視力というか見える距離が伸びるスキルだが、併用するとかなり広範囲を索敵できる。ステータスの関係上、索敵に関連するスキルや、モンスターから逃げるスキルなどに振った結果だが、重宝している。
遠視が面白いのは、索敵スキルに関連したスキルであるというところで、遠視によって拡大する範囲の二百メートル先にまで索敵が及ぶという点。
索敵の結果、表示されたモンスター名は……ラグー・ラビット。
「ラグー・ラビットだぞ」
興奮を隠せない声色で告げると、キリトも目の色を変えた。奴は経験値が高い訳でも、大量の金を落とすわけでもないが、ドロップする食材アイテムが、とんでもないレア物でS級食材と呼ばれる代物なのだ。
食べることだけがSAO内の唯一といってもいい程の娯楽なので、そりゃもうとんでもない金額で売れるし、食べてももちろん言葉にならないくらいうまいはずだ。
「でも俺じゃだめだ。敏捷力クソステ過ぎて多分まともに当たらん。向こうじゃキャッチボールも下手だったし」
発見できたはいいが、あのウサギはS級の名を冠するだけあって、逃げ足は登場する数多くのモンスターでも最速。とてもではないが、ほぼ筋力にステータスポイントを振ったため敏捷力のない俺は倒せない。余談だがこのステータスではモンスターに囲まれたら間違いなく逃げられないと思っている。
「俺もそんなに自信ないけどなあ」
言いつつキリトは腰から投擲用のピックを取り出した。慎重に狙いを定めて、ダーツでインナーブルを狙うような真剣さで、投擲した。
鋼色のピックは、ソードスキル特有のライトエフェクトとキィーン!というサウンドを伴って空を駆け抜け、ウサギに狂いなく直撃した。ガラス片と破砕音。
「行った!!」
キリトの目の前に戦闘終了を告げるウィンドウが表示された。戦闘といっても一方的な奇襲だったが。
「ドロップしたぞ!ラグー・ラビットの肉!!」
「マジか!!」
男二人でレアドロップに狂喜乱舞する様は、MMO特有の現象といっていいだろう。女性プレイヤーの方が圧倒的に少ない世界なのだ、必然的に男だらけのパーティやギルドにもなる。
この世界で、その女性が少ない理由は恐らくもう一つ。これが世界初のVRMMOだということ。間違いなく普通のゲーマーではない、筋金入りのゲーマーばかりが購入しただろうから、それには恐らく男が多いのだろう。購入できた人へのインタビューも見ていたらほとんど男だったし、実際俺が買いに行った時も圧倒的に男が多かった。
「で、どうしよう」
「え?」
キリトが彼にしては珍しい間抜けな声で、俺の言葉に返事をした。
「だから、ドロップしたのはキリトだけど、発見したのは俺だろ。どうすんのさ」
「うぐっ」
「その様子だと一人でネコババしようって魂胆だったな?それだけは許さんぞ。なんならオレンジになることも辞さん」
食い物の恨みというのは恐ろしいのだ。今まで二年、戦い続けてきてS級食材なんてみたこともない。ぜひとも食べたい。死ぬほど食べたい。
ここしばらく肉という物を口に出来ていないのだ、やっぱり食べたい。いや実際は二年以上何も食べていないことになるのだろうけれど。
「っていっても俺の料理スキル最近やっと800に乗ったとこだから、失敗の可能性もあるからな」
「じゃあ売るか。売って等分にするってのはどうだ?」
「そんなのもったいないよ。せっかくのS級だぞ」
「かといってシェフのアテはないんだろ?」
食いたいのなら、俺が調理すればいい話だ。だがそれで失敗してしまっては元も子もない。ならば売って金を山分けにする方が、よほどいいのではないだろうか。そう思えてきた。
「そう……だな。売るか、売っちまおう。エギルの奴にせいぜい高値でふっかけてやろう」
「それがいいな」
「出来た金で、ちょっといい値段の肉買って、料理してやるよ。それでいいだろ」
「ありがとう!!シェフ!!」
歓喜の声で俺に礼を言ってくるキリト。これには苦笑してしまうが、彼もしばらく肉という物をあまり食べていなかったのだろう。その反応は同意せざるを得ない。
ついでに俺が最近思っていることをキリトにも聞いてみることにする。
「最近さ、思い出したりしないか?はじまりの日のこと」
「ああ……奇遇だな。ちょうど迷宮区に居た時に、まだゲームだった頃を思い出してた」
このデスゲームが始まってからもうそろそろ二年が経過しようとしている。やはり思い出すこともあるのだろう。キリトも同じなのだから、他のプレイヤーの中にも少なからず同じように感じるプレイヤー達もいるだろう。
帰りは、俺たちの始まりの日談義になった。二人もいるんだから、結晶を使うのは勿体ない、という結論に至ったせいもあるが。
後書き
またしても書けなかった…すいません
次に続きます
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