提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・24
~由良:こんにゃくゼリー~
「それにしても……提督さんも色んな物が作れるんですね」
今回のチケット当選者は由良。リクエストはこんにゃくゼリーだった。只今由良は、その完成品のこんにゃくゼリーを摘まんでムニュムニュとその感触を楽しんでおります。
「まぁな。でもそれ作ってる時は料理っつーより化学の実験してる気分だったがな」
普通のゼリーはゼラチンで固めるのだが、こんにゃくゼリーはその名の通りこんにゃくの粉とアガーと呼ばれる植物性ゼラチンの凝固作用で固める。最初は煮詰めていくと粘りが出てきてまるでデンプン糊のようになるのだが、冷やしていくと時間と共にそれが透き通っていき、なおかつプルプルに固まっていく様は化学反応を見ているようで、元々理系の俺としては楽しい一時だった。
「あはは……それはご苦労様でした」
「あ~……解ってるとは思うが、よく噛んで食べろよ?喉に詰まって窒息、なんて笑えねぇ事故だからな?」
「大丈夫ですよぉ、私そんなにうっかりさんじゃないです」
しかし、過去に小さな子供や老人が喉にこんにゃくゼリーを詰まらせて窒息死してこんにゃくゼリーの代表格的な商品が販売中止になった事もある。気を付けるに越した事はない。美味しそうに食べる由良を眺めていたら食べたくなって来たので、俺も摘まむ。
「う~む……市販されてる奴より固いか?市販のこんにゃくゼリーももう少しこう、ムニュッとプルっとしてて、軟らかかったような」
「良いじゃないですか。私、このくらいの方が良いですよ?噛み応えもあって、手作り感満載で」
「そうか?まぁリクエストした本人が喜んでるならそれで良いが……」
「それに、どちらかというと私は固いこんにゃくゼリーの方が良いんです。よく噛んだ方が満腹感も出やすいですし、食べる量も減りますから」
「あん?由良お前そういうの気にしてたのか。ダイエットとかしてる訳でもねぇだろう?」
「まぁ、それはそうなんですけど……私だって、少しは体型を気にしてるんですよ?」
「か~っ、乙女だねぇ」
「むぅ、どういう意味ですかそれ?」
由良が途端に膨れっ面になる。
「いやなに、俺は軽巡の連中は華奢すぎると思ってるからな。も少し肉感的でもいいと思ってるぞ?」
「あ、ちょっと……!」
由良の右手を取り、グイっと傍らに引き寄せる。肩に腕を回し、逃げられなくする。
「それに……」
由良の左手に填められたグローブを外すと、その薬指には指輪がキラリと光る。
「俺の嫁なら、俺の好みに合わせてくれると嬉しいんだがなぁ?」
「もう、まだ馴れてないから恥ずかしいんですよ……?」
赤面しながら声も小さくなっていくが、好きな人に抱え込まれてるから『離れてください』とは言えない。可愛い奴め。
鬼怒と由良にケッコンの約束をさせられた日から、由良は出撃と演習に精を出し始めた。急に張り切り出したモンだから、俺への好意がモロバレだったのだが、それがどうしたと言わんばかりに頑張っていた。それでも半年近く掛かって漸く、先週ケッコンまでこぎ着けた。いわゆる新婚状態だったりする。
「だ、だって私……おっぱいも大きく無いし、ボディラインで勝負しないと」
「アホか、タダでさえお前ら細過ぎて心配してんだぞ?俺ぁ」
大体にして、俺は装備や制服に影響が出ない程度にムチムチの肉感的な方が好みだと公言している。華奢な身体付きだと触れ合う時にも折れてしまいそうで気を遣うからな。それに、細過ぎて骨張ってるより多少肉があった方が抱き心地が良いという理由もある。
「そ、それはそうかも知れませんけど……女は、好きな人の前では見栄を張りたがる物なんですよ?」
「見栄?」
「そうです。少しでも綺麗に見られたい、愛されたい。その為に少しでも努力して、美しくあろうとするんです」
戦いに明け暮れていても女は女、ってワケか。その努力には相応に報いるべきだよな、ウン。俺は由良の顎をクイッと持ち上げ、唇を重ねる。口内で舌が絡み合い、ヌチュ、グチュ、と艶かしい音を立てる。
「ぷはぁ……」
繋がっている間は息を止めていたのか、由良の顔が赤く上気している。ハァハァ息をしている所為もあるが、余計に艶っぽく見える。
「少しは満足したか?」
俺がそう尋ねると、ぽーっとした表情のまま、由良がコクコクと頷いた。
「こんにゃくゼリー、無くなっちまったな。お代わり取って来るわ」
そう言って立ち上がると、制服の裾をチョンと摘ままれる。離れたくない、という意思表示のつもりらしい。
「すぐ戻ってくるから、大人しく待ってな」
由良の頭をそう言いながら撫でてやると、ようやく名残惜しそうに離してくれた。それにお代わりのこんにゃくゼリーはスペシャルメニュー。酒をこんにゃくゼリーにした物だったりする。梅酒、シャンパン、ポートワインにと、甘口で飲みやすい酒をこんにゃくゼリーにしてみた。仕事中に酒は不味いんじゃないかって?その辺も気遣ってちゃんと勤務時間終了後に出している。もし万が一由良が酔っ払ってそういう雰囲気になっても問題はない。
「あ、美味しい。これ梅酒ですか?」
「お、良く解ったな。自家製の梅酒をこんにゃくゼリーにしてみたんだ」
由良は案外酒が強い。四水戦の旗艦を張っていただけあって、駆逐艦達からの人気も高い。よく飲み会をしているのを見かける。今も結構な数の酒ゼリーを食べてはいるが、頬がほんのり桜色に染まった程度でほぼ素面だ。
「私を酔わせて、エッチな事でもするつもりだったんですか?提督さん」
「バカ言え。俺は来る者拒まずだが、自分から迫った事は殆どねぇぞ?」
「でも、ゼロじゃないんですよね?」
「おいおい、そりゃ揚げ足取りって奴だぜ」
「知ってますよ、冗談です」
由良はクスクス笑いながら、また1つこんにゃくゼリーを頬張る。
「それに、こういうメニューは由良だからこそだしてるんだぞ?」
「私だから?」
「そうだ。ウチの飲兵衛の中でもばか騒ぎが好きな連中にこんなの出してみろ。エラい騒ぎになる」
「あ~……目に浮かんじゃいますねぇ」
「その点、由良は静かに堪能してくれるからな。俺としても安心して出せる」
「そっかぁ。私の為の特別メニュー、か……」
「ま、そういうこった」
と、隣でこんにゃくゼリーを堪能していた由良が頭を肩に預けてくる。
「どうした?」
「食べ過ぎちゃったみたいです……少し、酔っ払いました」
「そっか、ゆっくり休め」
「……襲ってもいいですよ?」
「襲って欲しい、の間違いじゃねぇのか?」
俺がそう尋ねると、由良はニコリと微笑み、
「大丈夫ですよ。私、提督さんのお嫁さんですから」
と言ってのけた。……その後どうなったかって?察してくれ。
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