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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・23

~夕立:ドーナツ盛り合わせ(山盛り)~

「ドーナッツ!ドーナッツ!ドーナッツ!」

 ソファに腰かけた夕立が、待ちきれないと言わんばかりに両足をパタパタと振っている。こうやってはしゃいでると見た目通りの年相応の小娘にしか見えんが……戦場に立てば悪鬼羅刹の如き大暴れをするんだからな。女ってのはつくづくおっかねぇ。

「少しは落ち着けよ、ったく……しかし夕立、お前ホントドーナツ好きな?」

「うん!毎日3食ドーナツでも飽きないっぽい!」

「それは糖尿まっしぐらだからやめとけ」

 例え腕が取れようが内臓に損傷を受けていようが、入渠ドックに入って修復剤ぶっかけりゃあ大概の傷は治ってしまう化け物じみた艦娘の身体だが、病気の類は修復剤でも治せないのが現状だ。だから風邪もひくし、少ないながら花粉症になる奴までいる。当然食べ過ぎれば太るし、生活習慣病まっしぐらだ。……まぁ、日夜出撃して深海棲艦とハードなバトルをこなしている連中に運動不足もクソも無いんだが。そんなドーナツ大好きな夕立だから、リクエストも当然ドーナツ。

『最高に素敵なドーナツパーティするっぽい!』

 と、ミス〇ードーナツの商品を出来る限り再現して作って欲しいとお願いされた。

「ほらよ、ご注文の山盛りドーナツだ」

「うわぁ、ドーナツのピラミッド!夢の光景っぽい!」

 いただきまーす、と宣言しながらいそいそと1つ手に取って大きく口を開けてかぶりつく。

「ん~!甘くって、外はサクサクで、中はしっとり!色んな食感でもう最高!」

「ホントに好きなんだなぁ、ドーナツ」

「当然っぽい!甘くて美味しいから、何個でも食べられるっぽい。……てーとくさんはドーナツ嫌いっぽい?」

「いや、俺も好きだぜドーナツ。ミ〇ドだと特にコイツがな」

 そう言っておれは球状に丸められた生地がリングを作り出しているドーナツを手に取った。

「あ、ポン・〇・リング!」

「おいおい、商品名出すなっての。でもまぁこのモチモチとした食感がいいんだよな」

 本家はどうやって作ってるか知らんが、家で再現する時にはホットケーキミックスに白玉粉、それに絹ごし豆腐があれば意外と簡単に出来ちゃったりする。

「ふ~ん……てーとくさんは意外と地味なのが好きっぽい?」

「地味言うな、スタンダードと言え」

 そう言ってもポン・デ・〇ングには結構バリエーションがあるんだぞ?糖蜜を掛けたプレーンに、チョコやイチゴチョコを掛けた物、黒糖をまぶした物……家で作るなら抹茶味や黒蜜きな粉なんてアレンジも出来る。

「そんなに言うなら夕立はどれが好きなんだ?」

「ふっふっふ~……それはね、じゃじゃーん、円ゼルフレンチ~!」

「いや、言い方変えりゃあ良いってモンじゃねぇから」




「このシュークリームに近い生地、中のフワフワ生クリーム、そして周りにはチョコ!正に攻守最強っぽい!」

「……へん、お子ちゃまめ」

 俺のボソッと言った呟きを聴き逃さなかったらしく、夕立の眉間に皺が寄る。

「提督さん、今なんか言った?」

「あぁ言ったぞ?確かに円ゼルフレンチは美味いさ。……だが、所詮それはシュー生地とクリーム、チョコの組み合わせによる美味さだ。シンプルに生地の美味さで勝負してるぽんデリングには及ばん」

 自分の好きなドーナツを『地味』と貶されたからな、俺も少しムキになっている。

「む~……提督さんに喧嘩を売られるとは思ってなかったっぽい」

「他人の好みを地味とか言うからだバカタレ」

 2人の間に散る火花。正に一触即発……かと思いきや、夕立が視線を外して傍らの牛乳を啜る。

「ん、どうした?喧嘩なら買うぞ?」

「やめとくっぽい。いつかはてーとくさんに勝ちたいけど、今じゃないっぽいもん。それに、今はドーナツを楽しむ方が有意義っぽい」

「……確かにな」

 実は、ちょっと夕立を試した部分もあった。改二に成り立ての頃は自分でも感情のコントロールが上手く出来ていなかったせいか、少しでも苛立つ事があると何かに当たったりしていた……ある意味反抗期のような時期もあったりしたが、今は自分の感情にしっかりと折り合いを付けてコントロール出来ているようだ。

「そう言えばてーとくさん、夕立、最近海外ドラマにはまってるっぽい!」

「へぇ、そうなのか。『24』とか『プリズンブレイク』とかか?」

「う~ん、それも見たけど……一番面白かったのは『コールドケース』かな?」

「へぇ、そりゃ意外だな」

 コールドケースと言えば、日本で言う『迷宮入り』した事件を専門に扱う刑事の活躍を描いた海外ドラマだ。なんと言うか、夕立がアクション物じゃなくてミステリーにハマったのが意外に感じた。

「むぅ、それはどういう意味っぽい?失礼しちゃうっぽい!」

「いや、すまんすまん。で、ドーナツ食べながら何でいきなり海外ドラマの話になるんだ?」

「あのね、アメリカのお巡りさん達ってみんなドーナツ食べてるっぽい。あれは何で?」





 確かに、アメリカのドラマや映画を見ていると、アメリカの警官が休憩時間や朝飯の代わりにドーナツを買い求めたり食べているシーンをよく見かける。それはアメリカの人達にとって『警官がドーナツを食べている』又は『ドーナツショップに制服でいる』というのが日常の光景だからだ。それは何故か?

「あぁ、それな?昔俺も気になって、調べた事があるんだ。実はな、アメリカの大手ドーナツチェーンの『ダンキンドーナツ』がとあるキャンペーンをやってるからなんだ」

「キャンペーン?」

「あぁ。『制服を来て、パトカーで来店した警察官にはドーナツを値引き、又は無料でプレゼント』ってな」

「えぇ~!?そんなのずるいっぽい!」

「まぁ待て、これにはドーナツ屋にも狙いがあるのさ」

 アメリカは犯罪大国だ。日本に比べるまでもなく、犯罪の起きる頻度、銃社会故の凶悪さ、犠牲者の数は圧倒的に多い。中でも、強盗は群を抜いて数が多く、店の入り口がガラス張りで入ってすぐにレジがあるようなドーナツショップ等は強盗犯から見れば美味しい獲物、という訳だ。だからこそダンキンドーナツのオーナーは考えた。『警察官が入り浸るような場所であれば、強盗犯から狙われにくくなるんじゃないか?』と。そこで、強盗犯の目にも付くように、わざと制服とパトカーで来店してくれた警察官にはサービスするようになったらしい。店を改装したりする金額を考えれば、安上がりで効果的な防犯対策って訳だ。

「決めた!夕立も、艦娘を辞めたらアメリカに行って、お巡りさんになるっぽい!そして、毎日タダでドーナツ食べるっぽい!」

「おいおい、警官になる動機がドーナツって……」

 ある意味、食欲に勝る物は無いのかも知れん。











 
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