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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第20話:中休み(虚無の日で息抜き?)

 
前書き
毎日バリバリお仕事モードのアルバート君です。
たまの休みもなかなか気疲れがあって、休みになりませんね。 

 
 おはようございます。アルバートです。

 今日も良い天気ですね。
 『改革推進部』では昨日から新しく雇用した局員の教育が始まっています。今日は2日目です。
 『保健衛生局』と『事務局』に分かれて別々に教育を行っていますが、皆さん覚えが良いようで順調に進んでいます。

 朝食を取ってから、時間を見計らって『改革推進部』の『部長室』に行きます。
部屋に入ると、先にアニーが来ていました。早いですね。僕が来てからすぐにウイリアムさんとキスリングさんも来ましたから、簡単にミーティングをして今日の予定を確認した後、それぞれの局の部屋に移動しました。

 『事務局』の方は昨日と同じように朝礼をして、今日の予定を伝えると、そのまま午前中はアニーに任せて僕は仕事場の方に入ります。

 ゴムを加硫する為の炉が欲しかったので、元々この部屋の壁に作り付けになっていた暖炉を練金で改造しました。もう暖房用にはなりませんが、オーブンのように内部をムラ無く一定の温度(約140℃)で加熱できるようにしました。ゴムを加硫する為には、5時間位加熱処理しないといけませんから、温度が安定するように、細かい熱の調整が出来るようにしておきます。元が暖炉なので燃料は薪になるのですが、結構良い感じに出来ました。

 その作業を終えると、昨日ウイリアムさん達が作っていた大きな寸胴をレビテーションで浮かべ、外に運びます。適当な場所に設置して、動かないようにしっかりと固定しました。それから一旦仕事場に戻り、大きな瓶と昨日ウイリアムさん達が作った炭素の粉、硫黄の粉を持ってきます。よほど念入りに作ったようで、どちらの粉も驚くほど細かくなっています。

 次に身長2メールのゴーレムを練金して、近くの森から適当な長さの木を取ってこさせます。その木を練金で大きなしゃもじ状に整形し、準備完了です。

 万一のためにゴムの樹液はディテクトマジックを改良した魔法で組成を分析して有りますから、やろうと思えば練金で作る事も出来るようになりました。しかし、結構複雑な組成なので、練金では少量ずつしか出来ませんから、持っている分を大事に使って慎重に作業を行いましょう。

 持ってきた大きな瓶の蓋を開けます。
中には南方の森で集めたゴムの樹液がたっぷり入っていますが、採取してから大分時間がたったので、真っ白だった樹液は瓶の中で固まって少し黄色くなっています。
これを1/3ほど切り出して寸胴の中に移し、ゴーレムにしゃもじで良く練らせます。素練りですね。充分樹液の分子が細かくなるまで早めに一定の速度でじっくりと練らなければなりません。
 分子が細かくなって良い具合に練り上がった所で、計量カップで分量を量りながら炭素を加え、ゴーレムにかき混ぜさせます。混練りです。
人間がやろうと思うとかなりの力がいるので、こんなに早い速度で一定に練るのは無理がありますが、ゴーレムにやらせると上手くコントロールすれば、下手な機械より上手く練る事が出来ます。目測になりますが、良さそうなところで炭素を加えるのを止めます。入れた炭素の量は記録しておきましょう。
 さらに少量の硫黄の粉を入れて練り上げます。これで混練りも完了です。

 ゴーレムの仕事は終わったので土に返して、レビテーションで寸胴を浮かべ、仕事場に運びます。残った材料も仕事場に運んでから、昨日作った長靴の芯を出して台の上に逆さまに立てました。
 今度はへらを使って出来たゴムを長靴の芯に均一になるように注意して塗っていきます。一度塗って練金で乾かし、もう一度重ね塗りして適当な厚さに調整します。大体0.1サント位の厚さになりましたから、試作品としてはこれで良いでしょうか。
 それから、長靴の底に合わせて作った、靴底の型に残ったゴムを流し込み、先に出来た長靴のパーツと一緒に炉に入れて加熱します。目視でしか確認できませんが、うまくに加熱できているようですね。加熱温度と加熱時間を記録しながら様子を見ます。

 加硫には5時間位掛かるので、残ったゴムに固定化の魔法を掛けて一旦しまっておきます。
 次に作るのは手袋ですが、どうやって作ったらいいでしょうね?長靴と同じように自分の手に手袋を付けて型を取る方法が簡単かな?一回やってみましょうか。
 その為には、まず手袋を手に入れないといけませんから、また後でアニーに頼みましょう。

 しばらくすると午前中の講義が終わり、部長室にアニーが戻ってきたので、手袋が欲しい事を伝えました。明日までに探して持ってきてくれるそうです。ウイリアムさん達も午前中の教育を終えて戻ってきたので昼休みにする事にしました。

 昼食後、一旦仕事場に行って炉の様子を確認し、それから午後の講義に行きました。
 午後の講義は昨日の続きで、絵本を教科書に、単語の読み書きをして文字を覚える事に終始しました。ゾフィーさんが頑張ってくれるので助かります。
 4時に一度講義から抜け出して仕事場に行き、炉から長靴を出しました。
そのまま自然に冷めるのを待って、出来具合を確認しましたが、ちょっと柔らか過ぎですね。記憶にある前世の長靴に比べると、フニャフニャです。
ゴムが薄すぎるのか、途中の練りや炭素の配合が悪かったのか、どちらにしろ成功とはいえません。靴底の方もぜんぜんダメです。やっぱり見よう見まねでは最初からうまくいく訳がありませんね。
 試作第1号として飾っておきましょう。

 時計を見ると丁度終了ミーティングの時間なので『事務局』の部屋に戻り、みんなで今日の進み具合や反省点などを話し合って、5時に解散しました。

 こんな調子で今週は毎日、午前中は仕事場で作業用の防具や道具の試作品を試行錯誤しながら作り、午後は『事務局』のみんなの教育をして過ぎました。
 長靴は、ゴムに入れる炭素や硫黄の配合を変えてみたり、練りの速度や時間を変えてみたりして、ようやく使える物が出来るようになりました。ただ、ゴムの樹液が無くなってしまいましたから、近いうちに取りに行かないといけません。それでも、僕のサイズだけですが、長靴と手袋、それから前掛けもできたので、ウイリアムさん達にも見て貰い、今後の参考にすることが出来たようです。

 この週の途中、ラーグの曜日に土メイジのヴィルムさんから、頼んでおいた建物類が出来上がったと連絡があり確認に行きました。屋敷のすぐ外ですが見事な配置で綺麗な建物が達ち並んでいます。建物の周りも芝生に変わっていました。
 中に入ってインテリアも確認しましたが、これなら誰にも文句は言わせません。一通りの家具も揃っているし、壁紙も明るくて落ち着いた色だし、ヴィルムさん達は良い仕事をしてくれました。

 公衆浴場なんか、僕が設計図に書いた、凝りまくった指示の通りに出来上がって、すっかり銭湯になっています。床も壁もタイル張りで、ちゃんと木の桶や椅子もあります。一列に6人座れる洗い場は、それぞれ二つ並んだ蛇口から水とお湯が出るようになっているし、鏡も1枚ずつあります。座る人は居ませんが脱衣場にはちゃんと番台もありますよ。男なら一度は座ってみたいと思いませんか?

 食堂も素晴らしい出来ですが、コックが居ないと運用できないので、何時から使えるか解りません。もったいないので早くコックが見つかると良いのですが。
 屋敷に行ってヴィルムさん達にお礼を言って来ました。すぐにみんなにも知らせて、その日の内に宿屋から寮の方に引っ越しです。食事だけはもう少しの間、宿屋の方を使う事になりますが。家族も呼んで一緒に暮らせるので家族持ちの人たちは喜んでいました。もちろん、家族の旅費も出してあげましたし、宿屋での食事代も出します。

 そして今日は虚無の日で休日です。今週はめいっぱい働いたので、休みがとても嬉しく感じます。
 今日くらいのんびりしたいのですが、皇帝にも進捗状況を説明しないといけませんから、今日は久しぶりに『ヴァルファーレ』を呼びましょう。
 朝食の後、お茶を飲みながら父上と母上にそのことを話すと、聞いていたメアリーがふくれました。せっかくのお休みだから遊んで欲しかったようです。今週はあまり相手が出来ませんでしたからね。

 それでは、一緒に皇城に連れて行きましょう。『ヴァルファーレ』に二人乗り用の座席を付けて、皇城まで飛んであげれば喜ぶでしょう。『ヴィンドボナ』に出て買い物も良いかもしれません。
 母上にメアリーを連れて行く許可を貰いましたが、母上も『ヴァルファーレ』に乗りたそうなのには困りました。三人用の座席は作っていませんからいっしょに乗るのは無理です。じと目で見られるのを振り切ってメアリーを連れていそいで外に逃げました。いつもの訓練場まで行って『ヴァルファーレ』を呼びます。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 空が裂けて『ヴァルファーレ』が飛び出してきます。心なしか咆哮が嬉しそうに聞こえます。一週間ほったらかしでしたからね。

「『ヴァルファーレ』。おはよう。調子はどうですか?」

[我の調子は万全じゃ。しばらく呼ばれなかったので退屈しておった所じゃ。もっとちょくちょく呼ばぬか!!]

 やっぱり、退屈していたんですね。怒られてしまいました。

「済みませんでした。私も仕事が忙しかったので呼ぶ暇がありませんでした。これからは気を付けますね。」

[解ればよいのじゃ。それで今日は皇城か?]

「はい。メアリーと二人乗りでお願いします。」

[ふむ、今日は妹孝行か。兄という者も大変じゃの。まあ、たまにはそれも良いじゃろう。乗るが良い。]

 相変わらず、偉そうですね。さっそく座席を取付けて、メアリーを前の席に乗せしっかりとベルトで固定してあげます。それから僕も後の席に乗りベルトを締めました。

「準備完了です。それではお願いしますね。」

[了解じゃ。それでは行くぞ。]

 翼を広げてゆっくりと上昇を始めます。今日はメアリーが乗っているので、いつもの急上昇は無しですね。『ヴァルファーレ』も結構気を使っているようです。
 綺麗な青空の中を、雲を下に見ながら飛んでいくのはいつもながら気持ちが良いことです。メアリーも大喜びで、あっちこっちを指さしては、あれは何と僕に聞きます。メアリーは何度か『ヴァルファーレ』に乗せて貰った事がありますが、屋敷の上空を旋回するだけでしたから、こんなに遠くまで飛ぶ事はなかったので初めての景色なのです。
 1時間程度の飛行ですが、ここ1週間、講義と試作品作りばかりやっていて溜まった鬱憤が、すっかり晴れるような感じです。やっぱり空を飛ぶのって良いですね。

 皇城の上まで来ましたが、侍従の方や女官の方達にしてみれば、いつもの事なので突然飛んできても驚く人はもういません。
 今日の警備担当はマンティコア隊のようですが、近くまで上がってきても、誰何もせずに軽く手を振って離れていきました。『ヴァルファーレ』に対しては警備行動もすっかり形式化してしまっていますね。
 皇城の庭に着陸すると、女官のスピネルさんが待っていました。メアリーのベルトを外して、『ヴァルファーレ』から降ろしてあげます。

「スピネルさん、こんにちは。今日はメアリーも連れてきましたのでよろしくお願いします。」

「いらっしゃいませ、アルバート様。メアリー様もお久しぶりです。良くいらっしゃいました。それではこちらにどうぞ。」

「はい。それじゃあ、私は皇帝閣下とお話ししてきますので、『ヴァルファーレ』は自由にしていて下さい。」

 そう『ヴァルファーレ』に言って、スピネルさんの案内で謁見の間に行きます。控え室で入室の許可を待つ間に、スピネルさんにメアリーの事を頼んでおいて、僕一人で謁見の間に入りました。
 謁見の間には、いつもと違って皇帝の他に母上の妹姫のクリスティーネ様とエーデルトルート様がいました。ここにいるのは珍しい事ですね。

「皇帝閣下。早速お目通りをお許し頂き有難うございます。クリスティーネ様もエーデルトルート様もお会いできて光栄です。」

 僕が礼を取って挨拶すると、皇帝が笑って言いました。

「アルバート。いつも言っているがそんなに畏まって話さなくとも良いのだぞ。おまえは我が孫で皇子のようなものなのだから、もっと気楽にしないか。」

 いつの間にか皇子なってしまいました。僕は認めていないのですが、皇帝と両親の間でどんな話が行なわれているのか非常に心配になります。

「そうですよ。アルバート。あなたは私達の弟のような者です。もっと普通にしていなさい。」

 クリスティーネ様にも言われてしまいました。こちらは弟ですか?確かに兄や姉がいたら良いだろうなとは思った事もありますが、姫様達が姉になると別の気苦労が出来そうなので、ここはスルーしたほうが良いでしょうね。

「有難うございます。早速ですが、ボンバード家の領内改革の進捗状況についてご報告したいと思います。」

 それから、ここ1週間の状況を報告して、これからの予定を説明しました。さすがに一度に19人も雇用したと聞いて、皇帝も驚いたようです。

「一度に19人も雇用するとは、思い切った事をしたな。それに雇った者を住まわせるために新しく家を造ったというのも、珍しい考えだ。食堂に公衆浴場というのも面白い。儂も一度見に行くとしようか?公衆浴場という物はもう入れるのか?」

「お父様。行かれるときは私達も是非連れて行ってください。まだ一度もお姉様のお屋敷に伺った事が無いのです。久しぶりにゆっくりお話しもしたいし、アルバートの行なっている事もとても面白そうですもの。実際に見てみたいですわ。」

 皇帝と姫様達の領地行幸ですか?そんなイベントは御免被りたいのですが。
ぞろぞろ王家の紋章の入った馬車を押し並べて、街道を行列造って領地まで来るなんて目立って仕方ありませんよ。その上、公衆浴場に入る?皇帝や姫様達の入った公衆浴場ってなんですか?そんな事が他の貴族達に聞かれたらボンバード伯爵領のツアーが出来ますよ。こぞって貴族達が公衆浴場に入る様が目に見えるようです。あくまでも公衆浴場は局員とその家族のために作った物で、広げたとしても近くの領民が入りに来る位しか考えていません。「皇帝閣下御入浴の湯」なんて事になったら、領民などは入れなくなってしまいます。
 父上と母上ならそんな事になっても気にしないで単純に喜んでいるのでしょうが、僕としてはこれ以上目立ちたくありませんし、改革中に他の貴族達に領内に来て欲しくもありません。
 そうかといって、僕には皇帝や姫様達のやる事を止める事など出来ませんから、考えていると胃が痛くなりそうです。何とか誤魔化して、無かった事に出来たらいいのですが。

「そういえば、食堂のコックが見つからないと言っていたな。」

「はい。食堂は完成したのですが、未だにコックが見つからないので運用が出来ない状況です。しかし、当家のコックに心当たりを探して貰っていますので、もうすぐ見つかるものと思います。」

「そうか。もし見つからないようであれば、此処のコックを一人回そうかと思ったのだが。」

 皇城のコックなんて連れて帰ったら、どんな料理を出されるか解りません。領民の食べる料理なんて作った事もないでしょうから、5スーの料金で皇帝が食べるような料理が出てくるなんて、冗談みたいな事が起きるかもしれないのが怖いところです。これは何が何でも家のコックに見つけて貰わないといけません。

「ええっと、御報告致します事は以上となります。今日は妹を連れてきて待たせておりますので、失礼いたします。この後は『ヴィンドボナ』に出て買い物を付き合う予定になっておりますから、また近いうちに報告に参りますのでよろしくお願い致します。」

 さっさと撤退するに限りますから、ご挨拶をして急いで退室しようとしたのですが、姫様に掴まりました。

「メアリーも来ているのですか?早く言ってくれればいいのに。せっかく来てくれたのだから、お昼を一緒に食べましょう。」

 と、クリスティーネ様が言えば、エーデルトルート様は

「まあ、今どこにいるの?まだお昼には時間もあるからあちらでお話でもしましょうよ。」

 と言い出して、あっという間に二人そろって謁見の間から出て行きました。こうなってしまっては、もう逃げられません。まさか妹を置いていく訳にも行きませんから、昼食に付き合わないといけない訳です。皇帝がニヤニヤしているのが凄く気に障るのですが、何とかならないでしょうか。
 やむを得ず皇帝ともうしばらく話をして、昼食の時間にいっしょに食堂に移動しました。すでにメアリーと姫様達は来ていて、3人で話の花が咲いています。
 結局、昼食をご馳走になって、しばらく食後のティータイムを楽しんだ(?)後、やっと開放されたのは3時近くなってからでした。女の子達って、これだけの時間、いったい何を話していたのでしょうね。

 その後は『ヴィンドボナ』に出ました。あちこちの店を見て回って、メアリーが欲しいというものを買い、5時前にやっと皇城の庭に戻ってきました。
 『ヴァルファーレ』は、女官の方達や竜騎士隊の方達を乗せてあげていたようですね。相変わらずの人気者です。

「『ヴァルファーレ』。お待ちどうさまでした。用事も終わりましたから帰りましょう。」

 また、前の座席にメアリーを乗せてベルトで固定し、僕も後ろの席に座ってベルトを締めます。
 見送りに来ていたスピネルさんに手を振って、『ヴァルファーレ』に出発の合図をしました。『ヴァルファーレ』は大きく翼を広げて飛び上がります。
 綺麗な夕焼けを見ながら帰りの飛行も何事もなく、小1時間で屋敷に帰り着きました。着陸して『ヴァルファーレ』にお礼を言うと、『ヴァルファーレ』も異界に帰って行きました。『ヴァルファーレ』も今日は楽しかったようですね。

 何か疲れた虚無の日でしたが、メアリーは喜んでくれたので良しとしましょう。
 夕食を食べて、両親に今日の事を話しました。皇子や弟と言われた事も話しましたが、見事にスルーされてしまいました。仕方ないのでさっさとお風呂に入って、ベットに潜り込んで、もう寝ます。

 休みのはずなのに疲れたな~………。おやすみなさい。 
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