ハルケギニアの電気工事
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第19話:領内改革!(その2-5)
前書き
アルバート君、大忙しの毎日が始まります。
うまくいくのでしょうか?
お早うございます。アルバートです。
面接が終わり『保健衛生局』の他に『事務局』まで作ってしまいました。雇用した人数も予定を大幅に超えて一度に19人です。
予算オーバーかなと思いましたが、何とかなりそうです。
そして今日は、雇用した人たちの初出勤日。出勤時間は9時となっています。
僕は、朝早くから作っていた『事務局』のプレートともう1枚のプレートを持って、『改革推進部』の建物に来ました。まず、1階の『事務局』に使う部屋の扉にプレートを貼り付けます。
もう1枚のプレートは、1階奥にある一番小さい部屋のドアに貼り付けます。書いてある文字は『改革推進部・部長室』です。つまり僕の部屋になります。屋敷に自分の部屋がありますが、やっぱり仕事用の部屋が欲しいですよね。
2階の大きな部屋を占有している『保健衛生局』は3つの課に分かれているので、『施設課』はウイリアムさん、『管理課』はキスリングさんに課長として管理して貰います。もう一つの『清掃課』は後で火メイジを課長にして管理して貰いましょう。
それぞれの『課』はパーテーションで部屋を大まかに分けて使ってもらいます。
『事務局』は暫定ですがゾフィーさんをチーフにして管理して貰いましょう。
そして、僕は全体の管理をするので部長としました。『保健衛生局』の局長を兼務する形になります。他に出来る局の局長も全部兼ねる事になりますが、各課はそれぞれの課長がしっかりと管理してくれれば、それほど僕の負担は大きくならないと思います。
この部屋は5メール四方の大きさで、少し大きめの机と椅子がセットされています。椅子の背中側に大きな窓があって日当たりも良い感じです。ちゃんとカーテンも掛けて貰いましたから、眩しすぎる事もありません。応接セットも入れておいて貰ったので来客があった時にも使えますね。
その内、もっと忙しくなったら秘書が必要になるのでしょうか。
その後、一旦屋敷に戻って家族と一緒に朝食を食べました。食後は今日の予定とか、昨日の懇親会の事とか話して、お茶を飲み終えてからまた『改革推進部』の建物に行きます。
9時前にはみんなそれぞれの部屋に集まりました。アニーも昨日の内に講師の事を話しておいたので部長室の方に来ています。
ウイリアムさん達とは、昨日のうちに今日やる事の打ち合わせをしておきましたから、今日も『保健衛生局』の方は任せて、僕は『事務局』の方にアニーと一緒に行きます。
「皆さん、お早うございます。」
「「「「「お早うございます!!」」」」」
良い返事ですね。やる気満々と行った所でしょうか。
「皆さん揃っていますね。それでは朝礼を始めます。
今日の予定ですが、午前中、こちらのアニーを講師に当伯爵家の屋敷内における決まり事を教育します。この教育には屋敷内での行動に関する実習もありますから、アニーの指示に従って、しっかりと覚えて下さい。
昼食を挟んで午後は読み書きと算術の教育です。こちらの講師はゾフィーさんと私になります。途中休憩を取りながら午後一杯行います。
何か質問はありますか?無ければ私の方からは以上です。それではこの後はアニーに任せますので、皆さんはしっかりと教わって下さい。」
こちらはアニーに任せておいて大丈夫でしょう。僕は急いでメイジが集まっている屋敷の部屋に向かいます。
「お早うございます。こちらに土メイジの方はいますか?」
そう聞くと、5人のメイジが集まってくれました。父上の言っていたとおりですね。
「いらっしゃいませ、アルバート様。お待ちしておりました。私はヴィルムと申します。土のメイジでトライアングルです。」
「ヴィルムさん、よろしくお願いします。すでに父上から連絡があったと思いますが、新しく雇った人たちの家を作らなければならないので協力をお願いします。皆さんも忙しい事と思いますが、よろしくお願いします。」
「はい、伯爵様から伺っております。それで、どのような家を作るのでしょうか?」
「この設計図を見て下さい。全部で5枚の図面がありますが、この通りの建物を作って欲しいんです。独身者用の寮は2棟で女性用と男性用になります。家族用の家は一軒やで、10棟お願いします。それから少し大きくなりますが、食堂1棟と公衆浴場1棟です。材料は出来るだけ良いものを使って、丈夫な建物を作って下さい。
建設する場所は、屋敷の敷地の南側にある平地が良いでしょう。5枚目の図面に建物の配置が書いてありますので、それを参考に配置して下さい。
この建物の数で、どれくらいで出来ますか?」
ヴィルムさんが設計図を確認しています。
「これ位なら、3日もあれば出来るでしょう。内装もこの図面の通りで良いんですね。」
「ええ、図面の通りでお願いします。住んでみれば足らないような物も出てくるかもしれませんが、その時は後から作りますから大丈夫です。」
「解りました。すぐに掛かります。」
これで寮の方も良いでしょう。それぞれの寮に10人位入れるお風呂も作るので毎日汗を流す事が出来ます。一軒家の風呂は3人位入れる大きさですが、十分でしょう。
公衆浴場が出来たらお風呂の壁に日本の銭湯のような富士山でも書きたい気分です。
食堂の方は専門のコックを雇わないといけません。屋敷のコックではこっちまで面倒を見られないでしょうから、どこかに良いコックはいないでしょうか。トリステインの魔法学校にいるマルトーさんが来てくれたら良いのですが、ちょっと無理でしょうね。
食堂が運用されるようになったら、是非とも味噌としょうゆが欲しいです。米も探したい所ですが、今のところ麦しか見つけていません。一度タルブ村に行ってみたいものですね。そのうち適当な口実を考えて行ってきたいと思います。
ちょっと厨房に行ってコック長に知り合いがいないか聞いてみましょう。
「コック長いますか?」
「はい。これはアルバート様。このような場所に何かご用ですか?」
「ええ。実は今度新しく雇った人達の為に食堂を作る事にしたのですが、そこで働いてくれるコックを探しているのです。誰か良い人知りませんか?」
「それは何人位入る食堂ですか?」
「今のところ1回の食事に20人弱ですが、最終的に1回で70人前後は入ると思います。4人掛けのテーブル20個と椅子を80脚用意する事になっています。」
「結構多いですね。料金は取るのですか?」
「一日3食提供できるようにして、それぞれ5スーにしようと思っています。」
「3食とも出すんですか?町の宿屋より忙しくなるんじゃないですかね?味もそれなりの物を出すのなら、よほど腕の良いコックを雇わないとダメですよ。」
かなり厳しいようですね。やっぱりマルトーさんしか居ないかな?
「それで、どうでしょう。誰かあてはありますか?」
「ちょっと待って下さい。心当たりはありますから2、3人聞いてみます。いつまでに見つければいいですか?」
「食堂自体は3日位で出来ますが、運用開始はもっと遅くても良いです。そうですね、10日位で見つかればいいでしょうか。」
「判りました。探してみます。」
「お願いしますね。」
コックを見つけるのは大変そうです。見つかるまでは宿屋の食事とかで我慢して貰うしか有りません。時々は屋敷の方で食事を提供しても良いでしょう。代金は経費で持つとして、宿屋の方にも話をしておかないといけませんね。
それから、『改革推進部』の方に戻って、仕事場に使っている1室に入りました。ここには南方から持ってきたゴムの樹液や椰子の実が保管してあります。
屋敷から持ってきて貰った布を自分の足に巻いて、長靴の型を作ってみます。その結果、この方法では、どうしても足にぴったりとしすぎて、履いたり脱いだりする事が難しいと解りました。
一旦布をほどいて考えます。良い事を思いつきました。屋敷に行ってアニーに使い古した靴下を2足分貰います。
今度は使い古した厚めの靴下を片足毎に2枚づつ履いて、その上に薄い布を巻きます。さらにその上から石膏を塗りつけ、練金で乾燥してから布の部分を含めて真ん中から左右に割って足から外しました。
この石膏をもう一度一つに貼り合わせて、中に細かくした木くずをまんべんなく詰めます。この木くずを練金で一つの木に戻して、石膏を外せば足型の出来上がりです。
厚めの靴下を履く事で、実際に足より少し大きめの型が出来ました。この型に薄い布を巻いて長靴の芯にします。両足分を作った所でお昼になってしまいました。
部長室に戻ると、アニーが講義を終えて帰ってきました。
「アルバート様、午前中の講義が終わりました。」
「ご苦労様でした。講義の進み具合はどうですか?」
「概ね良い感じだと思います。あと4、5日続ければ十分でしょう。」
「そうですか。明日からもお願いしますね。」
「はい。それでは今日はこれで屋敷の方に戻ります。また明日来ますね。」
「有り難うございました。」
アニーの方は良いようですね。午後からの勉強はどうなるでしょうか。ゾフィーさんが頼みになりますが、やってみないと判りません。
その後、ウイリアムさん達も来ました。『保険衛生局』の方も導入教育は順調に進んでいるようです。
さっき作っていた長靴の芯を二人に見て貰いました。子供の足なので小さいものですが、作り方としてはわかりやすいと思います。
「これが長靴という物の内側になるのですか?」
「そうです。型にした木は、僕の足より靴下2枚分大きくしてあります。こうすれば、履いたり脱いだりするときに足との間に余裕が出来るので、やりやすくなると思います。
あとは、この布地の上にゴムを塗って防水します。ゴムの厚さは0.1から0.2サント位で良いと思いますが、その辺は作ってみて考えましょう。同じ要領で手袋も作ります。試作品なので僕の足型を作ってみましたが、大量に作る場合はやっぱり0.5サント刻みで大きさを決めて型を作っておいた方が早いでしょうね。
他には前掛けと防毒マスクですが、こちらも早く作らないと仕事になりませんから、今週中に試作品くらいまで進めたいと思います。」
「それでは空き時間にでもゴムの材料を作っておきましょう。炭素と硫黄を練金しておかないとなりませんでしたね。」
「ええ。ゴムの樹液に混ぜて練らなければなりませんから、両方とも必要です。活性炭の方は僕が時間を見て作ってみますので、ゴムの材料の方はお願いします。」
その後、屋敷で昼食を取って一休みしてから、午後の講義に向かいます。教材用に石版と石筆、それから小さい頃使っていた絵本を何冊か持ってきました。
『事務局』に行くと、みんなそろって待っています。
「それでは、午後の講義を始めます。文字の読み書きにはこの辺から始めた方が解りやすいと思いますから、教材に絵本を持ってきました。」
そう言って、みんなの前に絵本を並べます。
「1冊ずつしかありませんから、講義で使うときはみんなで集まって見てください。
今日はまず、文字を覚えて貰います。こちらの石板を一人1枚ずつ取ってください。石筆は一人3本です。この石筆で石版に文字を書いて覚えます。まず、ゾフィーさんにお手本を見せて貰います。ゾフィーさん、私が言ったとおりに石版に書いてください。」
ゾフィーさんが用意出来たのを確認して、ハルケギニアのアルファベットを順番に言います。ゾフィーさんは言われたとおりに石版に文字を書いていき、みんなはそれをじっと見つめていました。
「これが文字の基本になるアルファベットです。この文字を組み合わせて単語を作り、単語を組み合わせて文章を作ります。気を付けないといけないのは話す言葉と書く文字は微妙にニュアンスが異なる場合がある事で、その辺は講義の中で覚えて貰います。
それでは、文字を書く練習をしましょう。ゾフィーさんが書いた文字を自分の石版に書き写してみてください。」
みんながゾフィーさんの書いた石盤の文字を、自分の石版に書き写しています。僕とゾフィーさんはみんなの書いている所を回って、書き方のおかしな所などを注意していきます。
1時間続けて、だいぶ慣れてきたようなので休憩にしました。みんなは自分書いた石盤を持ち寄って、お互いに見せ合いながら感想を言い合っています。
こうして見ていると結構仲が良さそうなので安心できますね。
10分休憩した後、次の講義に入ります。
「文字にも慣れてきましたね。文字は読み書きするための基本ですから、出来るだけ時間を取って練習し、確実に覚えてください。
それでは、今度は単語に移ります。まず、絵本を一度読んでみましょう。ゾフィーさん、表紙の赤い本をゆっくりで良いので読んでください。」
ゾフィーさんに音読をお願いして、一度通しで読んで貰います。そんなに長い話ではないのでゆっくり読んでも大して時間は掛かりません。
「皆さんも聞いた事のあるお話しだと思います。このお話の中に出てくる単語を一つずつ覚えてみましょう。」
そう言って、絵本に出てくる単語を文章の最初から順番に抜き出して石版に書きます。1段落分を書き出すと、それをみんなに見せながら読み方と意味をゾフィーさんに言って貰います。
次に、みんなにその単語を石版に書かせ、読み方と意味を確認させていきます。この作業をまた1時間続けました。
「どうですか?最初の1段落分ですが、聞いた事のあるお話を絵本を見ながら書き写して行くと、覚えやすいでしょう。それでは10分間の休憩です。」
さっきの休み時間と同じように、みんなで石版を見せ合って話をしています。ゾフィーさんを中心にして、上手く纏まってきているようですね。
その後も、絵本を使って文字の勉強を続け、4時45分から終了ミーティングをして、5時になったので解散としました。どうしても人によって覚える時間が違うから、勉強の進み方も変わってきますが、今のところ特に問題のある人は居ないようです。
僕は仕事場に戻って、椰子の殻を使った活性炭作りを試してみました。
作ろうと思っている活性炭は、粒状活性炭といわれる物で、作り方はガス賦活法で行こうと思っています。
まず椰子の殻の一番内側にある「シェル」と呼ばれる部分を取り出し、練金で炭にして椰子殻炭を作ります。「シェル」は1個の椰子の殻から0.1リーブル位しか取れないので炭にすると更に半分位になってしまいますね。
使ったのは調査から戻って最初にウイリアムさん達に試食させてみた椰子の殻です。中身を取り出してから4日位放置したので、良い具合に乾燥しています。この殻から「シェル」を取り出し、練金で炭素にしていきます。イメージしやすかったのでそれほど苦労しないで炭素に出来ました。
ここまでは良かったのですが、問題になったのは加熱するために必要な炉です。
ガスとして使う水蒸気と椰子殻炭を一緒に密封して加熱するのですが、加熱温度が900度位になる事と、完全に密封しなければならいので、使えるような炉がハルケギニアにあるとは思えません。たしか炉の内側がセラミックで出来ていたように覚えているのですが、あれは電気炉だったかな?
炉を自作するとすればチート能力全開で練金して出来ない事はないと思いますが、加熱をどうやって行うかですね。エルフに頼んで火石を貰うしか無いかな?
これは時間が掛かりそうなので、じっくり考えましょう。
先に吸収缶の本体部分を作ってしまいます。小さめの缶詰をイメージして練金で作り出し、片側に面体に取り付けるためのねじを作ります。ねじの部分は中空にしてそこから活性炭が零れないように目の細かい網を取付けておきます。ここに活性炭を詰め込んで、さらに目の細かい網で蓋をしてから格子状の蓋をして出来上がりです。吸収缶の各パーツは出来ましたから、あとは活性炭を何とかすれば良いだけです。
この吸収缶でどれくらいの性能が出るか、試してみないと解りません。それに面体を作るためにはゴムが必要なので今日はここまでにしましょう。
僕が作業をしている間にウイリアムさん達も来て、ゴムの材料を作っていました。蝋燭を燃やして出てきた煤を集めて、さらに細かい炭素の粉に練金したり、硫黄の塊を細かい粉にしています。それから、ゴムの樹液と練り合わせる時に使う大きな鉄の寸胴を作り出しました。混練りを行うためのゴーレムは作業を行う時に作りますから、あっちも今日はこれ位で終わりのようです。
後は、今日行った事についての連絡会をして、僕たちも解散しました。
屋敷の方に戻るともう夕食の時間だったので、そのまま食堂に行きました。お腹一杯食べて、食後のティータイムの後はメアリーと少し遊んであげました。忙しくなるとなかなか遊んであげられないので寂しそうです。時間がある時は出来るだけ相手をしてあげようと思います。
それからお風呂に入って、寝るまでの間少し本を読みました。だんだん自由な時間が無くなってきます。
それでは、お休みなさい。
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