お花畑
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第五章
衛二はこの同期、村本満については距離を置いていた。見るからにおかしな目をして眼鏡をかけている彼からは。
だがその彼がだ、ある日だった。
会社でいつもの様に己の持論を展開している時は流石に言った。
「自衛隊もなくせばいいんだよ」
「なくしてどうするんだ」
村本に反射神経的に聞いた。
「国防とかどうするんだ」
「平和憲法があるだろ」
そのおかしな目でだ、村本は返した。
「平和憲法があるとな」
「外国は攻めて来ないのか」
「そうだ、国防の心配はないんだよ」
平和憲法があればというのだ。
「そして災害が起こってもな」
「どうだっていうんだ?」
「ちゃんとボランティアの人達とか地元の公務員がいるだろ、警察や消防署の人達だっているだろう」
「その人達の力でか」
「災害救助もやれるんだ」
こう言うのだった。
「だったらな」
「自衛隊もいらないか」
「あんなの全部なくしてな」
自衛隊、陸空海のそれを全てというのだ。
「ボランティアや公務員の人達に任せるべきだ」
「御前それ世の中見て言ってるか?」
衛二は村本に真顔で聞き返した。
「地震が起こった時とかな」
「ああ、そうだよ」
村本は衛二に平然とした顔で答えた。
「自衛隊なくてもな」
「災害救助出来てか」
「沢山の人が助かるんだよ」
「そうか、御前はそう言うんだな」
衛二の村本への返事は冷たかった、その目も。
「そうなんだな」
「それがどうかしたのか?」
「御前の考えはわかった」
それはというのだった。
「よくな、しかしな」
「しかし、何だ」
「御前がどんな人間もわかった」
前からわかっていたがこれまで以上にというのだ。
「そして御前と話すこともないとわかった」
「そりゃどういうことだ」
「言っただけだ、じゃあな」
ここまで言ってだ、衛二は村本に背を向けた。そして以後彼と話すことは実際に何一つとしてなかった。
衛二は仕事を真面目にしていった、だが村本は。
仕事を覚えることよりも活動に熱心でそればかりしてだ、挙句は。
北朝鮮や過激派との関り、攻撃隊での活動の中で暴力行為を繰り返していたことが明らかになって警察に捕まり会社から姿を消した、その顛末を見てだった。衛二は一言言った。
「お花畑ってのはああいう奴を言うんだな」
「そうだな」
「ああいう奴こそな」
彼の同期の面々も両親もだ、彼を見て衛二の話を聞いて応えた。まさにその通りであると。
お花畑 完
2018・1・20
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